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ゲームの前に1

受験まであと一ヶ月弱…。

美風のようにしっかり受かって早く好きなことに没頭したいです…


『アレキタス・オンライン』というゲームを買ってきた。

数日前に発売された新作で、世界で数個目になるVRゲームのソフトだ。

私がついに発売された新作のVRゲームのハードを、貯めに貯めたお小遣いで購入し、しかし、やりたかったゲームのソフトがまだ発売されていなかったことを知って撃沈したのが二週間前。

そのソフトというのが、この『アレキタス・オンライン』だ。

時間とお金の関係で発売日当日とはいかなかったが、ついに今日!手に入れることができたのだ。

お店から出てルンルンとした気分で歩道を歩く。勿論、落とさないようにゲームは抱きしめて。

私、佐倉美風(みかぜ)15歳。この春、地元の中学を卒業した、これから高校生になる予定の女の子だ。

「…ん」

私は、視界にタバコの吸い殻を収めて立ち止まる。

昔っから(多分おばあちゃんの性格のせい)私はゴミを見るとついつい拾いたくなってしまうのだ。

しかし、今拾い出すとゲームが…

思いとどまって目を背けるも、結局家に着くまでに(カバンの中に)常備していたゴミ袋はぱんぱんになっていた。


「よーしやるぞー!」

家に帰ってしっかり手を洗い、ゲーム機に向かう。

去年から続けている、高校受験へ向けての体調管理とインフルエンザ予防の習慣は、受験が終わってからもいい感じに続いていた。


説明書をみながらゲーム機を立ち上げ、ソフトを差し込む。

と、そこで部屋の扉がこんこんと叩かれた。

「はい?」

父か母だろうか。

意味もない予測を立てているうちに、扉が開く。

覗いたのは、薄墨色の髪を丁寧に切り揃えた、とても容姿の良い青年だった。

……おぉう。

「美風、帰ったぞー」

イケメンはそう言って歯を見せて笑った。

私は一瞬、ゲームのことを忘れて彼に飛びつく。

「お兄ちゃんだー!」

佐倉風雅。私の実の兄。

「おー大きくなったなぁ。お前も高校生だっけか?」

「春からね!」

兄は家から遠く、寮制の高校に通っていたので、今まで滅多に会うことはなかったのだ。

今年は大学受験もあったので、特に。

しかし今年からその高校も卒業し、この春休みには家に戻ってくる。そう聞いていた。

「もう帰ってきたんだね」

「ああ、荷物は後から届く。…ところで、それは?」

「え?」

そこで、私はやっとゲームを始めるところだったことを思い出す。

そのことを話すと、兄は少し意外そうな顔をして、

「そうか、邪魔をして悪かったな。夜ご飯まで遊んでおいで。」

と言って部屋を出て行った。

「……別に邪魔じゃないけど」

私は小さな声で呟くと、気を取り直してゲーム機に向き直った。

本体は頭に被って、コントローラーは両手で握る。

「おおお…」

白い空間に、従来のゲーム機と同じようにゲームソフトの四角いアイコンが並ぶ。(と言っても私のは今日買った『アレキタス・オンライン』だけだ。)

この時点でもう私はその没入感の虜になってしまった。

コントローラーを操ってアイコンをクリックすると、早速起動するかと思いきや、ゲーム機によって予想もしなかった音声が流れた。

『このゲームをプレイするには、VRマイクを本体に取り付ける必要があります。』

「VRマイク?」

慌ててゲーム機を頭から外してゲーム機とソフトのパッケージを探るがそんなものはない。

代わりに、「VRマイク別売り」という文字を見つけて私は撃沈した。

しかしそれも一瞬。

私は猛ダッシュで店に舞い戻った。


そして、フラフラとした足取りで再び家に帰宅する。

「あら、どうしたの美風。」

「えー、ちょっとねー」

母の声を聞き流して私は自室にもどる。

「VRマイクたっか!」

ゲームのためにお金を貯めていたのでなんとか足りたが、もう今月のお小遣いはない。

ジュース一個買うほどもない。

「これで面白くなかったら許さないわ…」

私はそうこぼしながらゲーム機にVRマイクを取り付ける。

しかし、間違いなく面白いのは口コミサイトで確認済みだ。

もちろん普通のゲームとしても、自由度が高く満足な面白さ、だが、もっと面白いと思ったことがある。

なんでもこのゲームは通常のゲームとは違い、一番最初に一人一人に、一つだけ、プレイする上での条件を提示されるらしい。

これがぶっ飛んでいて、『モンスターを倒してはいけない』だの、『アイテムを拾ってはいけない』だのと、どうやってプレイするんだよ!というものから、『一日に5時間以上プレイしてはいけない』や『髪型を変えてはいけない』などのなんの意味があるのはわからないものまで色々らしい。

まだよくわからないことも多いが、だからこそ、私は既にわくわくが止まらなかった。

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