追い討ちが凄まじい件。
説明が長くなってしまうのはどうにかしたいところであります…
気になったところ、アドバイスなど、ぜひぜひお願いします!
実に清々しい朝だった。
昨日はいっぱい歩き、いっぱい食べて、死んだように眠った。そのおかげですっかり、頭はすっきり!
ここは、どこだ?
とはならなかった。
朝だ!部屋だ!異世界だー!
頭の回転はバッチリである!
それでも過ごしなれない部屋だ。毎朝のルーティーンを実行するにもオタオタと歩き回る羽目になった。
そうだトイレ行こう、でもここにはトイレが無い。じゃあ顔を洗おう、でも洗面所も無い。なんならルームメイトたちを起こそう、でも居ない。もういいや首吊ろう、でもいい感じの紐状のものが無い。
ってか、
「佐久がいなあああああああい⁈」
異世界に僕が持ち込んだ新しい文化、ノリツッコミである。いやいや、それどころじゃ無い。佐久が居ない!
「おい伊織!起きろ!佐久はどこ行った⁈」
慌てて僕は気持ち良さそうに眠る黒髪の少年を叩き起こした。前髪が長い!バッサリいってやりたい!
「…あと5時間」
「ったくしょうがねぇなぁ…本当に五分だけだぞ…
っじゃねぇよ!どんだけ寝るつもりだお前!仲間が一人失踪してんですけど⁈」
「…朝のランニングにでも出掛けたんじゃないの」
…たしかに。
なんだか拍子抜けてしまった僕は、なんとなく伊織の布団を引き剥がす。伊織はうわーだかうにゃーだか悲鳴をあげて、小柄な体をさらに小さく丸めた。
「ほら!もう起きるぞ!」
僕は無理やり伊織を叩き起こす。佐久のことはもう心配ないだろう。相手がゴブリンじゃない限り、彼の腕っぷしは信用できるはずだ。焦りに焦ってしまった自分が少し恥ずかしい。これでも一応読心術使いなのにな…
着替えを持ってきていない僕たちは、山道を歩いたそのままの格好で寝た。よって、下にもこの服で降りていかなければならない。かといって女性陣の前にこんな薄汚い姿で出て行きたくはない。僕はとりあえず洗面所を探すことにした。
伊織は歩こうとしないので、僕が背負った。
肘と足を駆使して扉を開けると、ばったり黒星と会った。
「あぁ、おはよー…」
目をこすりながら挨拶した彼女の頭は、現代アート並みの造形を見せていた。まさに芸術は爆発である。
「って黒星ちゃん⁈大丈夫なのそんな格好で!」
年頃の娘がこんなあられもない姿を男に見せるとは…
黒星もなかなか朝に弱いらしいので、仕方なく彼女も引っ張って行くことにする。虚ろな視界で何かにぶつかってしまうのも怖いので、Tシャツの裾を掴むように言うと、あろうことか彼女は生えたばかりのツノを掴んできた。歩きづらい…
結局僕たちは、宿の裏にある井戸で顔を洗い、髪も軽く撫で付けた。伊織にぐちゅぐちゅぺーさせ、まだ放心状態の黒星の髪をすいてやり、また二人を宿まで連れて帰った。もう朝ごはん食べちゃうか?と子供に話しかけるように自然に口にした時僕は、理想的なクールマジシャンの像が崩れていくのを強く感じていた。こんなはずではなかったのに…現実は厳しい。
「おはようございます、皆さん!昨日はよく眠れましたか?」
「…⁈」
僕たちはしばらく言葉を発することができなかった。
すでに一人朝食を食べていた柊、宿を探検していたと言う光と合流し、共に食事をとっていた時だった。
(佐久は未だ行方不明)
クリスがやってきたのである。昨日と同じ、超キュートな修道服着て。
「…?どうしました?」
「いや、随分態度が普通だなと…」
「?どんな風が自然でしたか?」
そう言われると答えにくいのだが…
彼女の動作一つ一つを男の目で追ってしまう自分を、必死に理性で押しとどめる。
こいつは男…こいつは男…
「あ、そういうことですか。一つ言っておきたいのですが、昨日の私の事情に関しては秘密の方向でお願い致します。バレると色々面倒なので…」
声を潜めていう彼女。僕たちは戸惑いながらも頷くが、やはり気になる。
「教えていただくことは出来ないんですか?その、理由というか目的というか…」
すっかり目の覚めた黒星が尋ねる。その通り、クリスが女装をしている理由。やはり気になる…。昨日の夜はそのことばかりが頭をよぎった。異世界にまで来て妙なことに思い悩んでしまった…,まあすぐ寝落ちしたけど。
「あぁ、別に秘密にするつもりは無いですよ、でも、もうちょっと後で伝えるつもりではありましたがね。レオさんが、特殊な特技を。伊織さんが、不思議な能力をそれぞれお持ちでしたからね、思った以上に早くバレてしまいました」
そういって笑いかける彼女。いや、彼氏。彼氏?彼。
「いや〜、やっぱ職業病って言うのかな、ついつい読んじゃうというか」
まんざらでもなく僕は照れてみせた。
「褒めてねぇよ気持ち悪りぃな黙って話聞け」
…はい?
今の、誰が言った言葉ですの?私にはさっぱり。
「誤解のないよう始めに言っておきますが、私は確かに神様公認の修道女です。こうして皆さんの対応をしているという意味では、私は公認修道女の中でも『転生修道女』という役職の人間です。文字通り、転生された方々のナビゲートを担当する修道女のことです。
うわぁ、みんな真剣なお顔。僕はまだついて行けそうにないや。まずは心の整理だ!
「あなたが男性であることは、教会の人たちは知っているの?」
覚めるどころか冷めきった目で柊が聞く。
「いいえ、誰も知りません。おそらく、皆さんを除けば神様ぐらいでしょう。私の秘密を知っているのは」
「それにしても、まだ信じられません。クリスさんがその…男性だったなんて」
「大丈夫ですよ黒星さん、敬語なんて使わなくても。ナビゲーターといってもこれからずっと皆さんに同行させて頂くわけですから。…まぁ、私は今15歳なのですが、7年はこの姿で生活していましたからね、女として磨かれた部分はありますね」
あれれ?ガールズには優しくないかね君?露骨だよ?
まぁそれはとりあえず置いといて、クリスの瞳に一瞬暗い影が横切ったように見えた。かの…彼にも、きっと嫌な過去があるのだろう。そこで、クリスは一度深呼吸をした。まるで何か重大な報告をするかのように。
「それでは思いっきり単刀で直入いたしますね。
私は、皆さんを誘拐しました」
思った以上に重大だった。今度は質問する暇を与えずに、クリスは話を続ける。
「基本的に、転生が起きた時、そこからの手順は決まっているのです。まず、教会から派遣される一人の転生修道女が転生された人、これから転生人と呼ばせていただきますね。を教会まで連れて行き、この世界の概要を簡単にお伝えした後、お好きな職業を選んでいただくことになっています」
香ばしい麦パンをよく噛み締めていると、徐々に思考が戻ってきた。つまり、僕たちは通常なら今頃教会とやらにいて、勇者になろうかな〜、それとも鍛冶屋かな〜、と検討していたはずなのだ。ということは、クリスはその規則から外れ、僕たちを正規のルートから外れた場所に持ってきたということになる。なるほど、誘拐だ。
「もちろん私は一介の修道女。転生人である皆さんに行動を強制することは出来ません。ですが、任意となれば話は変わります」
そこでまた柊が口を出した。
「あなたの目的を果たすためには私たちの力が必要だけれど、私たちを強制的に協力させることは出来ない。だからあなたは、私たちに大切な情報は与えずにこれからの行動の決定を誘導し、言質をとって自分の思い通りにしようと思ったのかな?」
どゆことだ!考えるのは嫌いな僕である!本能のままに生きて行きたい!
「うふふ、柊さんはやっぱり賢いですね、ほとんど何も言っていないのに。全くその通りです。私は皆さんを手に入れるために修道女になりました。この世界では転生人のナビゲートは美しく若い女性しか勤めることができません。私がこんな格好をしているのはそのためです」
その言葉を聞いて、光が反応した。
「分かりました!シスタークリスがやたらあざとかったのは、男性陣を攻略するためだったのですな!」
なんと!思いっきり引っかかった人がここにいます。
クリスは頷き、苦笑しながら伊織を見る。
「まぁ、効果が見えたのはレオさんぐらいで、伊織さんや佐久さんはからっきしだったんですけどね。ちょっとショックだったんですよ…?」
そう言ってほおを膨らます。なるほどあざとい!でもめちゃくちゃかわいい!
「でも、それはもうどうでもいいんです。私の目的その1は無事達成されましたから」
「あなたの最終的な目標は、モンスターの保護だったりするのかな?」
間髪いれずに柊の指摘。クリスはこれには少し驚いたようだった。
「その通りです!私には少しモンスターに対する並々ならぬ思いがありまして…。そのためには転生人の力が不可欠だったのです。さすがですね、本当に…」
「いいえ、上手く誘導された。ゴブリンに遭遇したのも計画通り?」
僕は耳を疑うが、クリスは当然のようにそれを認める。ということは…
「レオさんがゴブリンを傷つけずに帰したのも、昨日の夜の決断も、全部計算通りだったってことですか?」
恐る恐る黒星。
「そうだよ」
天然で純真無垢なシスターさんの面影はもうどこにもなかった。
私あざといのは好きですよ