やっぱり超能力は大事な件について。
意外と続きそうです!ブックマークお一人つきましたとても嬉しい!
「うわぁーーーーーー!!」
横に立つ茶髪少年が叫んだ。
「ヤッハーーーーーー!!」
もう反対側に立つくせっ毛少女も叫んだ。
「すっげえ…」
ハイテンションの二人を見てちょっと引いた僕は控えめに呟き、サングラスを頭上まで上げる。
目の前に広がるのは巨大な都市。まるでRPGの世界にいるようだった。西洋の木造建築が並び、中心に向かって数々の通路が伸びている。その先にはひときわ大きな城。真っ白い壁面の、童話にでも出てきそうな立派な城だった。
僕たちが立っているのは先程召喚された丘の上。坂道を登ると、突然この景色が目下に広がっていたのだ。そりゃビビる。それと同時に、今僕たちが立っている場所は丘ではないということにも気がついた。たしかに斜面にはなっているが、その先がない。断崖絶壁。
少し身を乗り出して下の方を覗き込んでみると、はるか下、メートルはよくわかんないけど、展望台から見たときぐらいに小さな人間が、慌ただしく働いているのがわかる。崖の根元の部分は川に沈んでいて、その川は巨大都市を包み込むように流れていた。
「商業都市シャギーンです」
シスターさんの声が聞こえた。
「なんだその商業、しょうぎょう、しょーぎょー、しょぎょー、しょあぎぃよん、しゃぎーんみたいに無理やり言い換えた感満載のネーミングは」
目の前の景色に圧倒されてはいたが、しっかりツッコミは入れる。
「覚えやすいじゃないですか」
まじか。
呆れる僕はそっちのけで、シスターさんは誇らしそうに続ける。
「この街はヒューマン国家の中心都市なのです!ほら、見えるでしょう?あれが偉大なるヒューマンの王様がお住まいになっているお城です!」
なるほど、道理で人口が多いと思った。一介の都市にしては、繁盛しすぎている。
「今ヒューマンとおっしゃいましたな⁈ということは、当然人外の異種族も存在することになりますな!」
くせっ毛少女がキラキラお目目をシスターさんに向ける。彼女は瑠璃川光と名乗った。かなりのゲーマーらしく、重そうなリュックの中身は全てゲームなのだそうだ。彼女だけは転生先の希望が通ったらしい。可愛い。
「その通り!みんな揃ってますよ、エルフに猫妖精にゴブリンにドラゴンに河童に」
河童?
「そうだ!大切なことを言い忘れていました!皆さんは元々ヒューマンなのですが、ここに転生した人たちにはそれぞれに妖精の特徴を差し上げることになっているのです!ワクワクするでしょう?」
「あの、私あまり妖精の種類知らないんですけど…」
黒髪の少女が恐る恐る声をかける。彼女の名前は天野黒星。変な名前だなと思ったけれど、言わずにおいた。綺麗な真っ黒のストレートヘアだったけれど、日本人らしくない大きな瞳を持っていた。可愛い。
「大丈夫ですよ!妖精は本人の性格に応じて勝手に決定されますからね!各自ぴったりの妖精になれるというわけです!」
そう言ってシスターさんはこちら側に向き直った。金色の瞳がいたずらっぽく笑う。自分に合った妖精とは。ゴブリンは嫌だな。
「それじゃあ早速始めちゃいますよ!動かないでくださいねー。痛くないよー」
どこかで聞いたセリフ。
シスターさんが目をつむり、さっきもやったように指を組んで呪文を唱え始めた。
すると僕たちの立つ地面が金色に輝き始めた。光は僕たちの体を包み込む。眩しくて僕は目をつぶった。足元から少し風が起こり、シスターさんの「いいですよ」という声が聞こえたとき、僕は驚いた。もう終わったのか?
「うん!皆さん良さそうですね」
シスターさんが胸を張って言うので、どうやら成功したらしいことがわかった。僕は自分の体を検分してみる。特に変わったところはないようだが。そこで、ほかのみんなが僕の頭上あたりを呆然と見ているのに気がついた。まさかと思って、慎重に頭に触れる。すると指先が何か硬い物に当たった。掴んで見ると、それは頭の両側から斜めに突き出しており、先端につれて細くなっていた。最後は鋭く尖っている。
「…角?」
「そのようですね!よく似合っていらっしゃいますよ?」
なんの妖精なのだろうか…。人格に応じて決定されると聞いたばかりなので、あまり考えたくなかった。
それにしても先っちょが尖りすぎではないか。少し怖い。
「ひゃぁぁああ!」
突然の叫び声に僕は角をいじっていた人差し指を突き刺してしまう。黒星がわたわたと走り回っていた。
彼女の黒髪の中に、二本の白いチューブのように垂れているものが見えていた。…蛇だ。
それはちょっと可哀想だな。黒星はしばらく逃げ惑っていたが、疲れたらしく、その場にへたり込んだ。
「これもしかして噛まないんですかね?」
問題はそこなのか?黒星は見た目の割に冷静な子らしく、はやくも頭部から生えた二匹の蛇に順応したらしい。恐ろしい子である。
「黒星さんはどうやらメデューサのようですね!この世界のメデューサは目を合わせただけで相手を石にしてしまうような能力はありませんし、能力を持つものも多くありません。蛇は黒星さんと栄養を共にしますが、特に危険はありませんよ?」
それを聞いて黒星は安心したようだった。安心できるのか?
「ねえねえ僕は何ですか?鱗があるんだけど」
そう言ったのは剣城佐久。先程からこの世界に住む怪物と戦ってみたいというような内容の言葉をずっと口にしている。平和そうな顔をしてかなりの戦闘狂のようだ。迂闊に近づきすぎないようにしようと思う。(ちなみに彼は相当天然のようで、ふつうに「黒星ちゃんって変な名前だねー」と言っていた)
彼の腕には鰐のような鱗がびっしりと生えていた。肩のあたりから手の甲にまで広がっているようだ。暗緑色のそれはとても硬そうだったけれど、佐久の腕の動きに沿って滑らかに動く。シスターさんはその鱗をじっくりと観察したあと、首を振っていった。
「鱗持ちの種族はたくさんいるのです…おそらく火龍か、蜥蜴男ってこともありそうですね。いずれも危険な種族ではありませんよ。サラマンダーが火を出すのは興奮したときぐらいですし、火力もそこまで強くありません」
そっか!と佐久は爽やかに言った。彼にとって付加的な能力はあまり興味の対象にはならないのかもしれない。
「ワタシはこれ、水妖精ではありませんか?呼吸はできるのでしょうか⁈」
今度は光がシスターさんに尋ねる。彼女は耳の後ろあたりから魚のヒレのようなものが生えているのが見えた。エラのようにピクピク動いており、薄い水色が日光を透かしていた。
「はい!それはまさにウンディーネですね。もちろんえら呼吸もできますよ、水を操るなどはできないのですが…」
「いいえ構いません!水属性は優秀ですよ!」
彼女はどうやら満足したらしい。水中での呼吸が可能とは、具体的で良い能力だと思う。それに比べて、僕は角か…。体当たりぐらいしか活用できなさそうだし、その場合僕も痛そうだ。
そこで僕は、賢そうな茶髪の少女がいないことに気がつく。不審に思って丘の下の方を見てみると、転生された時のそのままの状態で、彼女が座っているのが見えた。頭を抱えている。僕は降りていって声をかける。
「どした?変なもん生えてきたのか?」
彼女はこちらをチラッと見て、ゆっくりと手をどけた。
「猫耳やん」
僕にそういった(どういった?)趣味は決してないのだけれど、美少女のケモミミ、興奮しないなんてことがあるだろうか?いや、無い。
九条柊。少し波打った茶髪が優雅な、切れ長の瞳の彼女は、相当な無表情である。読心術を得意とする僕でもその本心を見抜くことは難しかった。彼女自身の茶髪と同化した猫の耳。内側はうっすらピンク色である。驚くことに、元々の人間の耳は未だ健在だった。今彼女には、耳が四つあるということになる…。
「これは珍しい!猫妖精ですね!結構優秀な種族でして、できることもたくさんありますよ!ラッキーですね」
いつのまにかシスターさんが後ろに立っており、柊の耳を見ながら説明した。「尻尾もあるんじゃないですか?」とシスターさんは言ったが、柊が身につけている制服のスカートに隠れて見えなかった。いつか拝ませていただきたい。耳とセットで。
そこで僕は気づいた。これで確認が終わったのは五人。転生したのは六人のはずだ。あと一人はどこへ?
あたりを見回すと、いた。地面に突っ伏している。
僕は近づいていき、頭のそばに座り込む。光まででは無いにしてもそれなりに小柄。長めの黒髪が顔にかかっている。
「おいあんた、大丈夫かよ?」
肩を叩きながら呼びかけると、そいつは小さく唸って起き上がった。顔を見るのは初めてだ。さっき全員で自己紹介をしていた時もぐっすり眠っており、起こすのも面倒だったのでそのまま放っておいたのだ。名前はもちろん知らない。そいつは眠そうに目をこすると、顔を上げた。一瞬女だと思った。だけど多分、男。全体的に細く、頼りない。まだ少し眠たそうな瞳は、閉じるか閉じないかの境界を行ったり来たりしている。また眠り込んでしまわないよう、僕は彼に話しかける。
「おい、ここがどこだか、分かるか?」
「ここどこ」
なんか微妙に噛み合っていないような返答だったけれど、僕は構わずまずはその質問に答えることにした。
「異世界だよ。転生したんだよ僕たち。お前も、神様にあったんじゃないの?」
彼は少し黙ったあと、黙ったあと…、黙って…?
「スー…」
寝た。
「おい!起きろ!」
今度は乱暴に揺さぶってみる。
「そんな気もする。よく覚えてない。」
気だるげにそういった。異世界転生という大イベントがあったというのに、それを覚えていないとは…。神様が言っていた、話の途中で寝た輩とは、こいつのことなのかもしれない。彼は眠ることを諦めたらしく、重く体を起こす。大きく深呼吸して、僕に向き合った。
「でもそこまで問題じゃない。大切なのはこれからだ」
「お、おぅ…?」
突然のかっこよさげな言葉に僕は動揺した。なんだこいつは?彼は再び地面に寝そべった。
「そう。大切なのはこれから。だから僕は、」
寝た。
「いい加減にしろ!」
僕は無理矢理に彼を起き上がらせる。今度こそ目を覚ましたその少年は、心なしかはっきりした声でいった。
「わかったもう起きるから。ごめん、スイッチ入るまで時間かかるから」
少年は、要伊織だと名乗った。睡眠時間が一般人より長く、深いらしい。それでもたしかに、起きてしばらくすると伊織の口調は流暢になっていったし、半開きの状態ではあるにしてもその目はしっかりと賢さをたたえていた。
「伊織さんはどうやら、吸血鬼らしいですね。相当なレアですよ…!高い能力の代わりに色々と制約がありますが、血液の摂取に関しては吸血鬼はそもそもそこまで血を必要とはしませんので、心配は要りませんよ!あ、でもニンニクは食べないでくださいね!」
「ニンニク食べたらどうなんの?」
気になった僕は聞いてみた。
「内側から死にます」
聞かなきゃよかった。
「それではみなさんの準備も完了しましたし、とりあえず街に降りてみましょう!これからのことはまたそこで!」
シスターさんは元気いっぱいに歩き出した。森を抜けて、この崖を右側から回っていくつもりらしい。僕たちもそれに続いた。ピクニック気分である。
シスターさんをはじめ、瑠璃川光、天野黒星、剣城佐久、九条柊、要伊織、そして僕、日比谷蓮緒。なかなか個性の強いメンバーではあるけれど皆良い人そうだった。僕は壮大な冒険の始まりを予感しワクワクしていたが、意外と最初のイベントはすぐに起こった。
ブックマークお一人つきましたとっても嬉しい!