転生がどうやら間違いらしい件について。
まだまだ慣れません。
四話まで続くか?いや続くか。続くといいな。
「違う…というと?」
シスターさんは動揺した様子で言った。
でも僕らの方がずっと動揺してた。
僕はギャンブルワールドとやらに転生する予定だったはずだ。なのにここはどこだろう。爽やかな草原に青い空。小鳥の鳴き声まで聞こえてくる。到底騙し合いすかし合いの世界には思えなかった。
しかもこのシスターさん、なんて言った?
私たちの世界、ルクスフィア?
僕らが、魔王を倒す伝説の勇者?
違うとしかいいようがない。
どうやら僕は、転生先を間違えたようだ。
周りの少年少女も同じような状況だったらしい。想像していた世界とのギャップが応えているようだ。一言も喋れない人だっている。
でも逆に、やたら喋る人がいた。
「そんなことないですよー!ワタシはハッピーでーす!」
僕の背後に座る、くせっ毛の女の子だ。下の方で短い髪を2つにまとめているが、毛先はぴょんぴょん跳ねている。輝く大きな瞳には、期待の色がありありと見て取れた。
「夢にまで見たリアルRPG!VRMMOの完全普及まで待っていられないのです!転生グッジョブ!」
彼女は何やらアルファベットの羅列をまくし立てると、重そうな荷物をものともせずにぴょこんと立ち上がり、シスターさんの立つ丘の上までかけていった。
一方、僕を含む残された人々は、唖然としたまま座り込んでいる。
「えーっと、僕は戦国RPGでお願いしたはずだったんだけどな…?」
茶髪の少年が言う。何故2人はゲーム目安で注文してるんだ。
「私は平和な街での料理店経営をしたかったんですが…」
少し離れたところに座る黒髪の少女が遠慮がちに声を上げた。なんか地味にリアルで素朴だな。
「住むところがある異世界ならどこでもいいって言ったけど、魔王退治は義務なの?」
茶髪の少女が言う。
「ギャンブルワールドって空気でもないよな」
これは僕の言葉。
4人分の瞳に見つめられ、シスターさんはうっと言葉に詰まった。
「ちょ、ちょっと待っててください!今、確認しますから…」
そう言って彼女は指を組み、祈りを捧げるように目をつぶった。ブツブツと何かを呟いているが、なんと言っているのかはわからない。異国語のようだった。
「あぁ!繋がりました!神様!突然の呼び出し誠に申し訳ございません!ですが今回転生していらした勇者の方々、何か手違いがあったようで…はい……………えっ?!人違い?!転生先が入れ替わってしまったということですか?…えぇ!じゃ、どうするんですか?………はい………へぇぇぇぇ…」
彼女は慌てた様子で先程の神様らしき存在と交信していたらしいが、その顔が不安そうにかげっていくのを見て、僕は再転生の余地は無さそうだと悟った。
「分かりました…でも!転生に選ばれたということはそれ相応の能力者ということですものね!大丈夫です!何とかしてみせます!」
シスターさんは元気に宣誓したあと、別れの挨拶を告げて神様との交信を終了した。向き直った彼女の顔が空元気の笑顔に染められているのを見て、僕は少し心が痛む。彼女も大変そうだ。
「申し訳ございません皆様!どうやら転生の手続きの途中で問題が発生したらしく、最初この世界に転生するはずだった方々と皆様が入れ替わってしまったようです!今からの再転生も難しいらしく、転生はここで承諾して頂けるでしょうか…?」
暗い顔でそう告げるシスターさんに対して、最初に返事をしたのは黒髪の少女だった。
「あの…わたし、別に料理が出来れば全く問題ないので、そんなに、気にしなくていいですよ…?」
「まあ僕も、強いひとがいればいいし、ここでも大丈夫そうだよ」
「魔王退治の話は別として、多分問題ない」
「問題がある訳ありませーん!ヒャッハー!」
次々と承諾の声が上がった。僕も腹を決めて、口に出す。
「まあ、ここもそれなりに楽しそうだしね」
シスターさんは満面の笑みになり、感極まった様子で頭を下げた。
「ありがとうございます皆さん!お詫びとして精一杯ナビゲーションを務めさせていただきます!」
異世界転生にはちょっとした手違いが付いてきたけれど、なかなかに楽しめそうだなとは思った。
それでも僕たちのことを、もっと大きな問題が待っていたのである。
四話まで続くか?いや続くか。続くといいな。