8.恐ろしい罠
◆
「朱花! いるんでしょう?」
隠れ家に入るなり、瑠璃は怒鳴るように旧友の名を呼んだ。
この時期は花の精霊たちが警戒して身を隠す。胡蝶があまりいない地域であっても、恋の季節の胡蝶の恐ろしさはいつの間にか広がるためだ。
万が一、瑠璃以外の流れ者が来たらどうなるか。その胡蝶がもしも、花の命を大事にしないような輩だったら。そんな恐怖が伝わり、身を隠している花は多かった。
瑠璃は苛立っていた。蜜の当てにしている花の中でも特にお気に入りなのが朱花だ。一日に一度、彼女の蜜を吸わねば気が収まらない。それなのに、彼女は誰よりも警戒心が強いときた。
自分から求めているくせに、瑠璃が来たと分かっていても尚、見つかるまで隠れていることもあった。場合によっては諦めて帰ることもあったが、それはそれで次の機会にとことん探さなかったことを不満がられるので面倒くさいものだった。
だが、いずれにせよ、今日ばかりは帰るわけにはいかない。蜜が足りないのだ。刺激的で親しみ深い朱花の蜜はどうしても必要だった。
このまま帰れば、白珠を傷つけてしまう。だから、朱花を引きずり出してでも襲わなければならなかった。
「入るわよ」
感情が高ぶるままにそう言って、周囲を見渡す。
朱花の住まいはさほど広くない。しかし、蔦や倒木、土壁などで細かく区切られているため隠れる部屋は煩わしくなるほど多かった。怪しい場所を一つ一つ念入りに探しながら、瑠璃は昨日の事を思い出していた。
恋の季節を自覚して以降、白珠とは最低限しか関わっていない。溢れんばかりの食欲をぶつけるわけにはいかないため、存分に愛せないのだ。彼女の反応を間近に感じるのが恐ろしい。少しでも色気を感じてしまうと、自分を止められなくなってしまうかもしれない。
だから、眠っているときに軽く口をつけ、それ以上はあまり手を出さなかった。
その分だけ、割を食うのが外で瑠璃を待つ知り合いたちであった。中でも朱花の負担は大きい。無理をさせていることは自覚していたし、その結果、朱花が嫌になって逃げようとする可能性だって気づいていた。
ひょっとすれば、知らないうちに遠くへ逃げられているかもしれない。どんなに探しても見つからないかもしれない。
だが、簡単には諦めなかった。白珠を除いて誰よりもおいしい蜜を持っているのが彼女である。その事実が変わらない限り、本当に居ないと分かるまでは探さなくてはいけなかったのだ。
それに、諦めきれない理由もちゃんとあった。
「何処にいるの、出ておいで」
不在という可能性が低い事を瑠璃は知っていた。
その姿は見えずとも花の蜜の香りは隠せない。ここに居るというだけの濃厚な匂いは、今も部屋に充満していた。香りはするのに触れられない。季節柄、食欲の増している瑠璃には非常に腹立たしい状況だった。
見つけたらどうしてやろうか。いつも以上に配慮なんて出来そうにない。待たされた分だけ、昨日よりもさらに乱暴な食事となるだろう。死なない程度に弄り、吸い尽くそう。
その光景を想像しただけで瑠璃の気持ちは高ぶった。早く、朱花に会いたかった。
「隠れても無駄よ。怖がらないで、優しくしてあげるから」
隠れ家を彷徨いながら、瑠璃は噓八百の甘い言葉で呼びかけた。
昨日は確かに吸いすぎたが、今やこんなにも甘い香りが充満しているのだ。向こうだって本当は吸われたくてたまらないはず。胡蝶とは違って花の精霊たちには季節など関係ない。いつだって蜜食精霊の訪れは悦ばしいはず。
「素直になって。ほら、吸われたいのでしょう?」
それなのに、朱花はなかなか見つからなかった。
――変ね。
瑠璃は少しだけ冷静になった。甘い香りはこんなにも漂っているのに、気配すら感じないのは何故だろう。焦らしているだけならば、すぐに尻尾を出すのがいつもの彼女だ。仮に本気で怖がっていたとしても、何処かに隠れているのならばその気配だけでも掴めるはずだ。それなのに、何も感じられないとは。
その時、瑠璃の耳に微かな物音が届いた。衣擦れのような些細な音だった。耳をよく済ませば、吐息のような音も聞こえる。
――向こうかしら。
そこは、朱花が普段、あまり使っていない部屋だった。日当たりが悪いため、日光を避けたい物品を置くだけに留めているという。客人である瑠璃にとっては、いつも閉め切られているだけの部屋に過ぎない。
――なるほど、隠れるにはうってつけじゃない。
そう思いながら、瑠璃はその部屋を遮る蔦を潜った。だが、その途端、心臓が跳ね上がってしまうほどの驚きに見舞われた。
瑠璃の予想通り、そこには精霊がいた。ただし、朱花ではなかったのだ。
それは初めて見る女性の精霊だった。当然のようにその一角に立ち、赤い目で瑠璃をじっと見つめている。髪も肌も白く、身にまとう衣服もまた白い。白い髪に、赤い目というのは月花の特徴として有名だ。ならば、彼女もきっと月花なのだろう。
だが、瑠璃は圧倒されていた。家で大人しく待っているはずの白珠とは全く違う印象の女性だった。震えが起こるほどの美貌と威圧感。突然出会ったその魅惑に、瑠璃は我を忘れて見惚れてしまった。
「いらっしゃい、瑠璃だったかしら」
先に声をかけられて、瑠璃はさらに戸惑った。名前を知られていたからというだけではない。呆気にとられるくらい、妖艶な声をしていたのだ。
相手は花であるのに、何故だかすっかり圧倒されている。そのことを自覚し、何だか悔しくなった瑠璃はすぐさま咳払いで動揺を振り払い、彼女に訊ねた。
「あ……あなたは誰? ここは朱花の家のはずだけど」
すると、月花は目を細め、優雅に片手の甲で顎に触れてみせた。
「私の名は金剛というの。朱花とはお友達でね、お留守番を頼まれていたのよ。どうしても知り合いに会いに行かなくてはいけないのですって。ごめんなさいね、突然、知らない蜜食精霊さんが来てしまったものだから、出るべきか迷っていたのよ」
「出かけている? 朱花が?」
瑠璃は固唾を飲んで確認した。
強気の態度を保とうとしてはいるが、動揺は大きすぎて隠しきれない。強烈すぎる美貌のせいだろうか、はたまた嗅いだだけでくらりと来る濃厚な蜜の香りのせいだろうか。この金剛という月花に対して、瑠璃は圧倒的な強さを感じていた。
ただの月花にしてはおかしい。そう思いつつも、朱花の代わりにここに居るという言葉が頭にこびりついて離れなかった。つまり、人間たちの手で作られた彫刻のような彼女が本日この森で用意されたご馳走であるわけだ。どうして期待せずにいられよう。
瑠璃の内心を見抜いたのか、金剛はすっと手を伸ばした。
「そうよ」
その声と手つきに吸い寄せられるように、瑠璃は金剛の前まで近づいた。その柔らかな白い手が瑠璃の頬の感触を確かめる。そして、揶揄うように人差し指を伸ばし、瑠璃の唇に触れた。甘い味がじわりと染み込み、瑠璃の思考はますます翻弄された。
「お腹が空いてここに来たのでしょう? よかったら私が相手してあげましょうか。今すぐに欲しい? 何なら、ベッドでゆっくりとあげましょうか?」
どちらにしても、瑠璃には魅力的だった。
手を伸ばし、抱擁を求め、瑠璃は甘えるように金剛に答えた。
「ちょっとでいいから、味見をさせて?」
唇に沁み込んだ僅かな甘みがさっそく苦痛に変わっていたのだ。
欲しい。もっと満足したい。今すぐに濃厚な蜜を奪ってしまいたい。うずうずとしたその想いが増大し、恋の鬱憤のような欲求が瑠璃を支配し始めていた。
そんな瑠璃を優しく見守りながら、金剛はぎゅっと抱きしめた。花にしては力強いその抱擁が止めとなって、瑠璃はすっかり金剛に身を託してしまった。
朱花の友達にこんな精霊がいたなんて。驚きもすぐに有耶無耶になるほどの甘い香りに包まれて、恍惚としたものが瑠璃の思考を狂わせた。
そんな瑠璃の唇を、金剛はゆっくりと貪っていく。蜜を与えられているのは瑠璃の方であるはずなのに、金剛もまた何かを味わっているかのようだった。
だが、瑠璃にはどうでもよかった。どうでもよくなるほどの甘みが一気に口の中に広がっていった。
――ああ、美味しい。
夢中になって唇を求め、深く、もっと深く、瑠璃は蜜を追求した。
きっと恋の季節のせいだろう。いつもの瑠璃と比べれば、ずっと荒々しく、激しい求め方だった。だが、金剛はその全てを受け止めるだけの余裕があった。
暴れそうになる瑠璃の心身をうまく制御し、甘い香りで翻弄しながら床へと押さえつけていく。いつもとは逆の立場に追い込まれながらも、瑠璃にはそれを気にするだけの余裕がなかった。
――なんて……なんて美味しいの。
金剛の蜜の味。それは、一度吸ったら離れられなくなるほどの旨味を宿していた。
この辺りでは一風変わった朱花のものとも違い、自分のためだけに取っておいた白珠のものとも違う。全く違う風味のその蜜には、食の悦びよりもむしろ混乱をもたらすほどの魔性でもあった。
食の快楽にしては強すぎる。まるで恋が叶ったときのような快感が体に沁みわたり、痺れを感じるほどだった。
瑠璃が吸うのをやめると、金剛の手がするりと瑠璃の衣服の中へと入り込んでいった。触れられるたびに直接肌へ蜜の味が沁み込み、瑠璃は悶えた。
秘密の場所でいつもは自分が白珠にしているようなことを金剛にされている。月花にそんなことをされるのは、初めてのことだった。
我慢しきれず、言葉にならない声が漏れ出し始めると、金剛は低く笑みを漏らした。
「雄と出会えなくて悩んでいたようね。この辺りでは胡蝶が減ってしまったから仕方ないわ。でも、安心してちょうだい。私なら、あなたの悩みを解消させてあげられる。だから、もっと力を抜いて」
それは、瑠璃が想像もしていなかったような持て成しだった。
ただ蜜を貰うだけでもありがたいというのに、恋の季節のせいで高ぶった欲望が一気に紐解かれていった。
その解放感のあまり、瑠璃はすっかり金剛に身を委ねてしまった。
いつもは朱花をいただく寝室へと移動した後も、食卓に横たわるのはいつもとは違って瑠璃の方だった。恐るべきことに金剛の蜜は底なしで、瑠璃の食欲を満たしてもなお枯れそうにない。
ただの月花ではない。きっと鍛え抜かれた特別な花なのだ。だが、何故だろう。何故、こんな月花が存在しているのだろう。瑠璃は何度も疑問を覚えつつ、与えられる悦楽の奴隷となるしかなかった。
散々楽しんだ果てに気づけば、長い時間が過ぎていた。
朱花はまだ帰ってこない。金剛はまだまだ付き合えるようだが、あらゆる欲の満たされたところで瑠璃は少しだけ冷静さを取り戻した。このままでは日が沈む。白珠がきっと待っている。
「残念だけれど、もう行かなきゃ」
寝台で横たわりつつ、共に眠る金剛に告げる。
「雄花のところに寄らなきゃならないの。最低でもひとりは捕まえないと」
「蜜ならもう十分でしょう? どうして雄花が欲しいの?」
優しく問われ、瑠璃は困惑した。
白珠の事は秘密である。古い付き合いのある朱花にさえ教えていないようなことだ。
それでも、金剛に見つめられていると言わなくてはいけない気持ちになってしまう。引っ張り出すようなその眼差しを見ているうちに、瑠璃はとうとう口を滑らせた。
「私の花に子供を生ませるためよ」
興味ありげに金剛は目を細める。そっと手を伸ばして瑠璃の髪に触れながら、彼女は確認するように訊ねた。
「雌花を養っているのね?」
「ええ、そうなの」
またしても、瑠璃は素直に答えてしまった。まるで魔法にでもかかったかのように、金剛の問いに真面目に付き合ってしまうのだ。
だが、疑問に思う暇も与えずに、金剛はさらに質問をした。
「どこで飼っているの? 相手は月花?」
「月花よ。白珠っていうの。この間、大人になったばかりで……ここから少し離れた場所に隠してあるの」
そこまで言って、瑠璃は暗い気持ちを思い出して金剛の胸に縋った。
花の精霊らしく豊満で、甘い香りがする。蜜食精霊たちを虜にするためのその部位は、とても柔らかく、すでに瑠璃の癒しにもなっていた。
「恋の季節のせいで、最近は、彼女に優しくできないの。嫌われたらどうしようって思うと、とても辛い。きっと寂しがっているのに」
蛹化前の子供のように甘える瑠璃を、金剛は抱きしめながら慰めた。
「愛しているのなら、きっと分かってくれるはずよ。でも、そういう理由ならもう少しだけここに居た方がいいわ。彼女に子を産ませたいのなら、恋の季節が去るのを待ってからにしなさい。その方があなたも念入りに愛してあげられるでしょう?」
そして、金剛は瑠璃の耳元で囁いた。
「私と一緒にいれば、恋の季節なんてすぐに過ぎ去るわ。胡蝶の卵っていうのはね、雄との関わりがないと生まれないわけじゃない。要は刺激を与えればいいの。私がその刺激になってあげる。卵さえ産んでしまえば、しばらくは解放されるわ」
真っ赤になりながら、瑠璃は俯いた。
恋の季節で悩んでいる彼女には願ってもないことだ。どうせ異性は近くにいない。出会えるまではそうして貰った方がいいのではないだろうか。そんな思いに至り、瑠璃は控えめながらしっかりと肯いた。
すると、金剛は満足そうに微笑み、小声で告げた。
「その代わりと言っては何だけれど、頼みを聞いてくれる?」
「頼み?」
「ええ。とても簡単なお願いよ。ちょっと感想を聞きたいの」
「感想って?」
訊ね返す瑠璃を置いて、金剛は立ち上がった。
寝台の隅に置かれた壺へと向かうと、そこから木の実の殻で出来た杯に何かを注いで持ってきた。金剛の蜜よりもさらに甘い香りがする。酒だろうか。杯を握らされながら瑠璃は首を傾げていた。
「これはね、私の作ったお酒なの。少しでいいわ。ちょっと飲んでみてくれる? 正直な感想が聞きたいの」
「ええ」
色はとても美しい朱色だった。甘い香りは濃厚で、味もそうであるのだろうと警戒させるほどだ。
だが、胡蝶にとっては好ましいものであるのは間違いない。言われるままに、瑠璃は杯の酒を飲み干した。途端に、金剛の蜜と同じような狂おしい甘みが口いっぱいに広がっていった。
「どう? 感想は?」
訊ねられ、瑠璃はこくりと頷いた。
「とても、美味しい。まるで――」
そこで、瑠璃の視界は歪み始めた。
「まるで……花の蜜みたいで……」
おかしい。そう思いながら杯を落としかける。起き上がろうとしていたのに、再び瑠璃は寝かされた。世界がぐるりと回っている。段々と暗くなっていく。何が起こっているのか分からず、混乱の渦中へと引きずり込まれていった。
そんな瑠璃の身体を優しく撫でながら、金剛は囁いた。
「それはね、濃厚な花蜜で出来た魔法薬なの。花の精霊たちのもっとも魂に近い旨味が込められた薬酒。特別な力がなければ造られない貴重な嗜好品」
色気を含んだ声で、今にも眠りそうな瑠璃へと語る。冷や汗の浮かぶその体を何度もさすり、柔らかな感触を楽しみながら、金剛は嬉しそうに笑った。
「材料は……あなたのお友達よ」
「ともだち?」
意識を失いかけながら、瑠璃は訊ね返す。
そんな彼女の唇を再び奪ってから、金剛は冷たい声で答えた。
「ここに住んでいた物珍しい混血花。あなたが朱花と呼んでいた可愛らしい娘の血肉が使われているわ」
「え?」
すんなりと言葉の意味を理解するのは不可能だった。
じわじわと甘みが沁み込んでいき、思考までも蝕んでいく。その感覚に包まれながらも、瑠璃はゆっくりと時間をかけて、少しずつその意味を飲み込んでいった。
「そんな……」
理解できた途端、目眩は強くなった。強い吐き気が瑠璃を襲い、混乱をもたらした。
朱花の愛用していたベッドの上に腹ばいになって、強烈な不快感に耐えることしか出来ない。瑠璃は恐る恐る金剛の姿を見つめた。微笑みながら瑠璃を眺めている。
瑠璃はようやく気付いた。その目に異様なものが宿っている。月花によく似た赤い目ではあるが、特有の温かみに欠けている。
朱花の友人なわけがない。
そんな人物から受け取った得体の知れない薬酒を飲んでしまった。すぐに吐き出したが、もう遅い。瑠璃の視界はどんどん歪んでいき、喘鳴がひどくなっていった。
「……どうして」
どうにか動く口で訊ねると、金剛はその背を優しくさすった。そして、瑠璃の呼吸がやや落ち着くと身を起こさせ、息を荒げながら抱きしめた。笑みを漏らしながら金剛は囁く。
「怖がらないで。毒ではないわ」
月花にしては強すぎる抱擁を受け、すぐに瑠璃は苦しくなる。
吐き気は治まったが、今度は震えが止まらない。記憶が、魂が、この金剛という精霊に怯えていた。
朱花の友人なわけがない。いや、それだけじゃない。
――月花だなんて嘘だ。
震える体を抱きしめられ、瑠璃は確信していた。これは愛撫ではない。肌の滑り、肉の柔らかさと弾力、そういったものを好んで確かめているのだ。そして、瑠璃はもう一つ、大変なことに気づいていた。
金剛から漂う甘い香り。その体のあちこちからもたらされる甘い蜜の味。これらに覚えがあったのだ。蜜というものには個性が出る。同じ種族であっても、同じ血筋であっても、全く同じ蜜なんてあり得ない。
それなのに、金剛の身体から味わえる蜜には親しみがあったのだ。薬酒の味によく似ている。悲しいほどに、似ているのだ。
――この蜜は……全部、朱花のものだ。
絶望的な答えを見つけ、瑠璃は溢れるばかりに涙を流した。
「朱花……朱花は……どこ……」
聞いても良い事はない。そうは思っていたが、聞かずにはいられなかった。金剛は瑠璃を抱きしめ、その耳を軽く食んでから笑みを含ませた甘い声色で答えた。
「まだ、この家にいるわ。ただし、もうあなたとお喋りは出来ないけれどね」
「それって、どういう――」
「朱花は、お人形になったの。永遠に枯れない美しい花に」
興奮気味に金剛は語る。
「ガラス玉で出来た目をして、干からびず、腐らない体を手に入れて、私が死んだあとも美しいままこの世界に存在し続ける。臓器をすべて抜き取った後の空っぽの身体で創りあげた芸術の品。人間だって賛美するはずの素晴らしい亡骸。私の手で創りあげた愛しい宝物に生まれ変わった。ねえ、素晴らしいでしょう。あなたにも見せてあげるわ。生きていた頃よりもずっと美しくなったお友達の姿を。きっとあなたも感じるわ。全ての花たちも、いずれはこうなるべきだって」
瑠璃は絶句した。長年親しんだ友の顛末に。だが、深い悲しみにとらわれている暇はなかった。
「あなたは……何者なの?」
金剛は愛でるように瑠璃の首筋に口づけをすると、そのまま耳元で答えを囁いた。その答えを聞いた瞬間、瑠璃は呆然としてしまった。体がぞわぞわとする。無事ではいられないという予感に悲鳴があがりそうになる。だが、あまりの恐怖で固まってしまったのだ。
それはこれまで感じてきた恐怖すら生温い絶望感だった。目の前が真っ白になっていくのを感じながら、瑠璃はただただ嘆いた。
――ああ、白珠。
愛するその月花の姿を脳裏に思い浮かべながら、瑠璃は強く願ったのだった。
――今すぐ、あなたに会いたい。




