5.小鳥の囀り
◇
白珠は今日も退屈だった。
会話の相手がいないということは、これほどまでにつまらないものなのかとつくづく思い知らされた。
大人になるまでの間、白珠はひとりぼっちという経験があまりなかった。多産な月花だからこそ、話し相手に困ることはなかったのだ。上の兄姉が巣立ったとしても、同じ年の兄弟姉妹や弟妹たちが控えている。だから、寂しさを感じる暇なんてなかった。むしろ、母親の愛を取り合うのに必死なくらいだった。
だが、今となっては彼らとの喧嘩さえ白珠には懐かしかった。
日光浴に飲み水作り、柔らかな土との交流といった生きるための営みを済ませてしまうと、あとは服作りくらいしかやることがない。
白珠が母より教わった服作りは人間のものに比べてとても簡易なものだ。材料は瑠璃が毎日拾ってきてくれるが、一日中そればかりやっているとあっという間になくなってしまう。
それに、厄介な問題もあった。自分のものであれ、瑠璃のものであれ、出来上がった時の達成感は大きい。それだけに、ひとりで待っていることが苦痛になってしまうのだ。
とくに瑠璃の服が出来たときは、白珠の寂しさも大きくなる。早く帰って来て欲しいという気持ちが大きくなり、それだけ寂しさも倍増するのだ。新しい衣服が似合うかどうか、そして感想を聞きたくなってしまう。
上達すればするほど、退屈な時間は増えていった。一着ごとに要する時間は減っていき、それでいてより複雑な衣服をつくるだけの材料はない。
今日も新たな衣服を二人分作ってしまうと、あとは待つばかりだった。
――着替えてみようかな。
白珠はぼんやりとそう思い、新しい服を試した。瑠璃の持ち帰った素材で出来た服だ。その事実だけで着心地は悪くない。だが、似合っているかどうかは別の問題である。着替え終わるとすぐに白珠は部屋を出た。向かうのは地下室。そこにはここで亡くなった人間の私物が宝の山のように積まれている。その中に、手鏡があったのだ。
精霊の世界において、鏡はとても珍しい。水面などを利用して自分の姿を確認するしかない。だから、一生、鏡を見ない精霊もいるくらいだ。
白珠はここに来てから、手鏡という便利なものの存在を知った。それが、今ではすっかり必需品となっていた。失くしてしまわないように、普段は地下で大切に保管しているが、こうして一日に何度も足を運ぶこともざらだった。
「あった」
手に取ると、白珠は地上へと上がり、そのまま花畑へと向かった。
花畑に差し込む光はまだまだ明るく、瑠璃の帰る時間まで長くかかることを思い知らせようとしてくる。だが、白珠はあまり気にすることなく手鏡に映る自分の姿を見た。
それなりに似合っているような気がする。おかしなところはない。あとは、これを瑠璃が気に入るかどうかだ。白珠にとって重要なのはむしろそちらであった。
花の精霊たちの容姿はすべて蜜食精霊たちの為に磨かれる。中には自分自身のために綺麗であろうとする者もいるが、そういった性格は野生ではなく人間たちの手で管理された愛玩精霊に多い。白珠は生粋の野生種だ。その例にもれず、自分の容姿の是非はすべて瑠璃が気に入るかどうかにかかっていた。
「――似合っているかな」
思わず漏れ出した自分の言葉に静寂を打ち破られ、白珠はびくりと体を震わせた。すぐに周囲の気配を探り、ため息を吐く。
この生活が始まってしばらく、瑠璃には毎日のように忠告されていた。
見知らぬ精霊を信用してはならない。彼女によれば、月花の蜜が呼び寄せる精霊たちは善人ばかりではないのだと。月花の事を少しも気遣わない者もいて、蜜だけでなく命すら奪っていく者もいる。その恐ろしさを何度も語り聞かせてくる。
世間知らずの白珠には、想像しがたい話だった。だが、なにはともあれ瑠璃が他の精霊との接触をよく思っていないことはよく伝わった。もしも他の誰かに蜜を吸われたとなれば、瑠璃の寵愛を失ってしまう可能性だってある。それは、白珠にとって命を失うよりも恐ろしいことに違いなかった。
「誰も……いないよね……」
当てもなく呟きながら、白珠は頭上を見つめる。天窓から入り込んでくるのは、鳥や虫、小さな精霊といった無害な者たちばかりだ。だが、世の中には空を飛べる精霊も存在する。そんな彼らなら、あの窓から入り込んでくることだって可能だろう。
外をよく知る大人の胡蝶であるからこそ、瑠璃はよく警戒していた。天窓自体は明り取りに不可欠だが、誰かが覗けるというのは怖い事なのだと。
警戒する彼女の横顔を思い出し、白珠は不気味さを感じながら俯いた。誰もいないならば、安心だ。孤独を寂しがるなんて贅沢なことはせずに、残りの時間は息を潜めて過ごさねば。だが、そう思ったのも束の間、突如、頭上から無邪気な笑い声が聞こえてきた。
心臓が跳ね上がりそうな思いで再び顔をあげ、白珠はそのまま目を奪われた。先ほどはいなかったはずの者が、天窓の一つから顔を出していたのだ。間違いなく精霊である。それも、言葉が喋れるような種族の者。見た目は可愛い少年のように見えるが、白珠は警戒した。どうやら月花でも胡蝶でもない。
「やあ、月花のお嬢さん。一人ぼっちで寂しそうだね」
少年は笑いながら口を開いた。その動きに警戒しながら、白珠は必死に考えた。相手の出方次第では逃げた方がいい。隠れるならばどの部屋がいいだろう。
「驚かしちゃったかな? 安心してよ。ボクはこれでも紳士的な小鳥なんだ。花に乱暴なんてしたことはない。独り立ちしてからはずっと平和的に蜜を貰ってきたんだ」
自慢げに彼はそう言った。
――蜜が狙いね。
白珠は理解し、いつでも逃げられるように身構えた。小鳥と呼ばれる精霊はよく知っている。だがその大雑把な括りでは、相手の事が何も分からない。一口に小鳥と言っても、肉食や雑食の場合もあるし、蜜食の場合もあるためだ。さらには、蜜食の場合であってもその種族ごとに生まれ持つ性質も違う。
彼がどんな精霊なのか、白珠には少しも分からないままだ。
分かっているのは一つ。蜜を欲しがっているということ。それだけで十分だった。白珠にとって彼は望まざる客に違いない。
「悪いけれど、蜜はあげられないわ」
警戒しつつ白珠が早めに断ると、小鳥は面白がるように眉をひそめ、訊ねてきた。
「どうして?」
「約束しているから。わたしの蜜はね、誰にでもあげられるようなものじゃないの。たった一人の愛する人の為だけのものなのよ」
突き放すように言ってそっぽを向くも、小鳥はますます興味深そうな表情を浮かべる。
「へえ。それじゃあ、もしかして君、大人になって以来、その愛する人にしか身体を許したことはないの?」
「そうよ」
白珠は躊躇いもなく返答する。
「だから、あなたはお呼びじゃないの。言っておくけれど、どんな説得にも応じないわ。さっさと次を探してちょうだい」
はっきりと断れば、諦めてくれると思ったのだ。
しかし、小鳥の反応は白珠にとって予想外のものだった。表情を崩さずに、彼は身を乗り出すと、そのまま恐れもせずに天窓から飛び降りた。立ち上がって逃げる暇もなかった。相当な高さだったが、風に乗ってふわりと降りてくる。そして、綺麗に着地すると、小鳥はゆっくりと白珠へと近づいてきたのだ。
手を差し伸べられて、白珠は我に返った。逃げなくては。そう思うのに、足に力が入らない。ここにきて白珠は初めて、蜜食精霊に対する明確な恐怖を感じていた。
「こ……来ないで」
力なく拒絶するしかない彼女の様子に、小鳥は妖しい笑みを浮かべる。
「大丈夫。怖くないよ」
そう言うと、今度はしゃがみ込んで視線を合わせてくる。
優しく触れられると、身体はますます強張ってしまった。あれほど逃げられるように準備をしていたはずなのに、頭ではしっかりと分かっていたはずなのに、あっさりと捕まってしまったのだ。
それは、白珠にとって驚くべきことだった。
「愛を貫くのは素晴らしい。でも、あまり月花らしくはないよ。月花っていう人たちはね、もっと自由な精霊たちでいるべきなんだ。たった一人のためだけに蜜を貯める必要なんてない。君のご先祖様たちだって、そうやって君まで血を繋いでいったはずさ。君だってご先祖様を冒涜するつもりはないのでしょう? だからさ、ボクとの食事もお試ししてみない? 愛する人には内緒でさ」
歌うかのような美しい声で小鳥は誘う。それこそが蜜を吸う小鳥の精霊の妙技であった。
白珠もこの声に親しみを感じたことはある。まだ幼く、蜜による欲情とも無縁だった頃の話だ。今、久しぶりに間近でその声を聞いた白珠は、愕然とした。こんなにも小鳥の声とは甘美なものだったのか。
愛らしいだけの容姿は嫌いではないが、胡蝶である瑠璃ほどの魅力は感じない。彼女の鱗粉の力の方が上だ。だが、白珠はここにきて知ったのだ。月花の心はあまりにか弱いということを。小鳥の武器はその魔性の声。言葉や声色といったものにすら、花は負けてしまうのだという事実を思い知らされたのだ。
「さあ、ボクに身を任せて」
あっさりと手を握られ、白珠は蒼ざめた顔で呟いた。
「だ……駄目」
瑠璃のために大事に取っておいた蜜だ。白珠にとって貞操は愛の証明でもあった。それなのに、月花に生まれたその体は悲しいほどに正直だった。隠しきれないほどの甘い香りが漂い、望んでもいないのに体のあちこちから蜜が溢れだしそうになっていた。
白珠は絶望を感じていた。自分は蜜を吸われたがっている。自覚すればするほど、欲望は深まり、蜜の流れを強く感じた。これでは隠し通すことは出来ないだろう。
――月の女神さま、わたしはどうしたらいいの。
思考は虚しくぐるぐると巡るだけだった。
葛藤の中で彷徨う白珠の心を見抜いているのか、小鳥は意地悪く笑ってみせた。
「正直になりなよ。月花が強い子を産むには多くの蜜食精霊と関わった方がいい。ボクのことも試してみて。大丈夫。他の花たちからも評判はいいんだ。少なくとも、胡蝶よりは上手いはずさ」
「お願い……他をあたって」
白珠はぐっと堪えてそう言った。
「この蜜は駄目なの。瑠璃のものなんだってば」
熱った自分の身体に言い聞かせるかのような呟きだった。
そんな白珠の態度に、小鳥は呆れたように首を傾げた。
「おやおや、この期に及んでまだそんな事を言うの? 君って真面目なんだね。だからこんな生活に耐えられるんだ。他の月花たちは自由を謳歌しているというのに、君ときたら話相手はあの胡蝶だけ。後はずっと待ち続ける生活だなんて」
やや大げさに小鳥は白珠に同情してみせる。その言葉が少なからず白珠の心に刺さったことを見抜くと、さらに彼は畳みかけた。
「おまけにその瑠璃とかいう胡蝶は浮気し放題だ。外でどれだけの花たちが彼女と関わっていると思う? 君がひとりで寂しくお留守番している間に、彼女は雄花のみならず雌花の服もはぎ取っているんだ。前に見かけた時だって、ずいぶんと楽しそうだったよ」
「瑠璃のことを……知っているの?」
その衝撃に、白珠は食いついてしまった。小鳥は目を細め、しっかりと頷く。
「ああ、知っているよ。よく見かけるからね。君の知らない彼女の姿をこの目で見てきた。外でどのように過ごしているか、ここで待っている君には到底知れないような姿をね」
外での瑠璃の姿。その情報は、孤独と不安に耐え続ける白珠にとって喉から手が出るほど欲しいものだった。
他の花たちとの情事を知ったところで嫉妬心が肥えるだけだと分かっている。だが、それと同時に付きまとう不安が解消されるのではないかと期待してしまうのだ。
瑠璃を取り巻く状況に、危険はないのかが知りたかった。そしてなにより、純粋な好奇心がくすぐられた。自分の知らない瑠璃の姿を見てみたい。
「ねえ、小鳥さん」
白珠はおずおずと彼を窺った。
「もしよかったら……外での瑠璃のお話をしてくれない?」
「そうだねえ……例えばどんなことが知りたい?」
訊ね返されて、白珠は迷いつつどうにか言葉にした。
「危険なことはしていない? たとえば……肉食精霊を揶揄ったり――」
「ああ、そのことね」
小鳥は納得した様子で白珠に言った。
「君は彼女の事が心配なんだね。彼女が間違って蜘蛛の巣に捕らわれてしまわないか恐れている。違うかい?」
「ええ、そうね」
白珠は素直に頷いた。
「とても怖いの。だから、知っていたら教えて」
ここ最近も、瑠璃は白珠によく外での出来事を語ってくれる。
その中で肉食精霊の話をするのはごく僅かだ。しかし、僅かであってもその衝撃はいつでも大きかった。ただ見かけただけならばまだしも、服の材料になりそうな魔法の糸も、蜘蛛から盗み取ってくることがあるというのだ。瑠璃は平然とそれを語り、間違っても捕まるわけがないと主張するが、白珠には恐ろしくて仕方なかった。
あんなことをいつもしているのか。隠しているだけで、もっと不味い事もしているのではないか。白珠はどうしても知りたかった。
小鳥は笑みを深め、白珠の両手を優しく握り締めた。
「いいよ。教えてあげる。でもね、条件があるんだ。ただではお話出来ないなあ」
「条件?」
訊ね返す白珠の耳元で、小鳥は囁いた。
「代わりに君の蜜をちょうだい。ちょっとでいいんだ。その蜜をくれたら、ボクの見たものをぜんぶ話してあげる。きっと君にとって興味深いお話ばかりだよ」
「蜜を……」
白珠は目眩を感じた。
瑠璃が教えてくれない外でのことも、目の前の小鳥は知っている。その情報は、もしかしたら心の負担をだいぶ軽くしてくれるものかもしれない。もしくは重たくするかもしれない。どちらかは分からないが、自分の知らない瑠璃の姿が隠されているのだと思うと、好奇心をくすぐられてしまう。
だが、その条件が蜜だなんて。
――いけないわ。この蜜は、瑠璃のものなのに。
「黙っているということは、応じてくれるということかな」
都合のいい解釈をして、小鳥は白珠の手を強く握る。
「それなら気が変わらないうちに、貰っちゃおうかな」
ぼんやりしているうちに、状況が流されていく。
白珠は慌てて抵抗した。どうにかその手から離れようともがき、必死になって訴える。
「待って! 違うの!」
「時間切れだよ」
強引に押されて、白珠はその場に倒れ込んだ。
瑠璃がどうしてあれほど他の蜜食精霊たちを警戒していたのか、今ほどに納得したことはない。月花である自分のか弱さも嫌というほど思い知らされた。
白珠は絶望した。
これが捕食関係というものなのだ。
その真実のみが心に突き刺さり、ろくに抵抗も出来ない。このまま強引に服を剥がれてしまうのか。最悪の形で瑠璃を裏切ることになるのか。
初めて知るその暴力に、白珠は怯え切っていた。
だが、その口が触れるかというまさにその時だった。
「あいたっ!」
小鳥の悲鳴が漏れ、がつん、という振動が白珠にも伝わった。小鳥はすばやく身を起こし、片手で後頭部を抑えた。ぽとりと落ちたのは石ころ。それも、それなりの大きさのものである。どうやらこれがぶつかったらしい。
「何これ、血? 血が出てる!」
抑えた自分の手のひらを見て、小鳥はひどく動揺した。
その隙をついて、白珠はすばやく逃れ、彼から距離をとった。我に返った小鳥が慌てて白珠を捕まえようと動いたその瞬間、場の空気を切り裂かんばかりの怒声は響き渡った。
「そこまでよ、瑪瑙!」
その声は二人の頭上から降り注いできた。
白珠は目に映ったその姿に安堵を覚えた。天窓の向こうに瑠璃がいたのだ。その手には人間の使うような木の槍が握られている。興奮気味の目を瑪瑙と呼んだ小鳥にのみ向け、そのまま流星のように飛び降りてきた。
人間がその姿を見たならば、名手に射られた矢に例えただろう。的の代わりに射抜くのは瑪瑙の胴体。殺意に満ちたその姿は、白珠が初めて目にする瑠璃の憤怒の姿でもあった。
「おっと!」
だが、瑠璃の渾身の一撃は、あっさりと瑪瑙に躱された。
地面にぶつかる前に瑠璃は受け身をとり、速やかに体制を整える。白珠と瑪瑙の間に立ちふさがると、再び槍を構えて獣のように唸った。
「次は外さないわ。私の花に手を出そうとしたその罪の重さ、壮絶な痛みと共に分からせてあげましょう」
冗談でも何でもなく、瑠璃は本気で脅していた。そんな彼女の様子に、瑪瑙はお茶を濁すように笑いつつ、少しずつ距離をとる。
「まあ、そうカッカしないで。ボクだって無理強いしたりはしないよ。ただその子が蜜を貯めすぎていたみたいだから、力を貸そうとしただけのことで――」
「余計なお世話よ、さっさと失せなさい」
容赦のない瑠璃の言葉に、瑪瑙はため息を吐く。
「酷いなあ。でも、嬉しいよ。ボクの名前、ちゃんと覚えてくれたんだね」
揶揄うように笑う彼に対し、瑠璃は無言で槍を振るった。
「おっと!」
瑪瑙は慌ててそれを躱し、さらに距離をとった。
「不快だったのなら謝るよ。だから、その槍をボクに向けないでくれるかな」
「私が武器を置くのは、あなたが死ぬか、逃げてからよ。そうね。もう二度と、ここには来ないと約束してくれるのなら、見逃してあげましょう」
「分かった。分かったよ」
両手を挙げて、瑪瑙は降参を示した。
「ボクの負け。これ以上、血を流すのは御免だ」
そう言って、瑪瑙はふわりと宙を舞った。
侵入してきた天窓まで一気に飛びあがると、白珠と瑠璃を見下ろした。
「約束する。君の花にはもう手を出したりしない。その蜜は君のものだと認めよう。これでいいでしょう?」
「いいわ。その代わり、約束を忘れてしまったようならば、速やかにあなたの命を貰いに行くからそのつもりでね。胡蝶の攻撃性を甘く見ない方がいいわ」
「おっかないなあ。うん、分かった。忘れないようにするよ」
無邪気な笑みを漏らし、瑪瑙はもう一度、白珠に視線を向けた。
「というわけで、君の蜜は諦めるよ。せいぜい、愛する人のために健やかに過ごすといい。じゃあね、お二人さん。誰にも邪魔されないこの要塞で存分に愛し合うといいよ」
揶揄い気味にそう言ってから、今度こそ瑪瑙はいなくなった。
白珠はその気配をしばらく見送り、そしてそっと瑠璃の様子を窺った。鋭い眼差しは変わることなく、いなくなった瑪瑙の気配を追い続けているようだ。
いつになく攻撃的なその表情は、白珠にとっても非常に恐ろしいものだった。