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北東アジアの国際心理学(連鎖式の活用)

作者: 板堂研究所(Bando Research Corporation)

 21世紀に入り、北東アジアや米国では長期政権が成立するケースが多く、また政治経済の重要な問題をめぐり、首脳外交が中心となりがちなので、最近の国際関係力学を論じる新たな手法として、下記の様な「連鎖式」を活用できないだろうか。



 I. 連鎖式の特徴 (例)



 歴史を遡れば1939年9月、独のポーランド侵攻をきっかけに英仏両国が独に宣戦布告し、第2次世界大戦が始まった。それ以降、日本と英国、米国との関係は、日独両国が接近すればするほど悪化する構図となり、1940年9月に日独伊三国同盟締結の後、決定的に困難となった。

 この様な国際関係の相互関連性に関し、長い文章を省き、簡潔明瞭に、視覚に訴える数式の応用で表現する為、次の様な連鎖式を用いるものとする。


 日伊関係(t) ∝  日独関係(t-1) 

 (日独関係が発展すれば、日伊関係も増進されよう)


 日英関係(t) ∝ 1 /  日独関係(t-1)

 (日独関係が発展すれば、英国は独の敵国なので、日英関係にはマイナスに働く)


 日米関係(t) ∝ 1 /  日独関係(t-1)

 [日独関係が発展する場合(独は英国の敵国であり、英国は米国と親密なので)日米関係にマイナスに働くだろう]



 1.「∝」の記号を挟み、右辺から左辺へと影響力が及ぶ。(t,t-1,t-2は時間的ずれを表す)


 2.X ∝ Y ならばXは、Yと同じ方向に変化し、X ∝1 / YならばXは、Yと逆方向に変化する。扱う内容は国際関係であるが、論理の連鎖なので、数式の様に連ねて演算可能と考えられる。


 3.場合に寄り数学に言う「交換法則」に類するものが適合し、右辺と左辺を入れ替えても式が成立するだろう。但しこの様な「系」の適合性に関しては、その都度、是々非々で検討を加えるべきだろう。上記の式に則して考えれば次の通り。


 日独関係(t) ∝  日伊関係(t-1) 

 (日本とイタリアが接近するのは、日独両国関係の促進に繋がるだろう)


 日独関係(t) ∝ 1 /  日英関係(t-1) 

 (日英両国が関係改善した場合、日独関係は白けるだろう)


 日独関係(t) ∝ 1 /  日米関係(t-1)

 (日米両国が関係改善する場合、日独関係は抑制されよう)




 II. 北東アジア情勢への応用



 最近の北東アジア情勢に関し、次の通りの前提で連鎖式を用いるものとする。


 A. 首脳:安倍総理(日)、トランプ大統領(米)、文在寅大統領(韓)、金正恩最高指導者(朝)、習近平主席(中)、プーチン大統領 (ロ)。


 B. 中ロ接近時代。

 C. 中ロ両国は、北朝鮮の支援国。


 D. 韓国は、北朝鮮に対して宥和政策を執り、米朝関係改善を図る方針。

 E. 日本は、米国の政策に追随する傾向。


 F. 特に2018年夏以降、米中「貿易戦争」が顕在化。

 G. 2020年11月に米大統領選挙。



 1.  日米関係(t) ∝ 中ロ関係(t-1)/ 米朝関係(t-1)


(1)海洋国の日米両国は、大陸国の中ロ両国が連携する動きに対応して連携を強化する。


(2)北朝鮮の大量破壊兵器を巡るDecouplingにより、非核化が進まないまま米朝関係が進展すると、日米関係は複雑化。


(3)その系は一応、 中ロ関係(t)/ 米朝関係(t) ∝ 日米関係(t-1)

 であるが、部分的にしか適合しない。

 日米両国が近づけば「米国をライバル視する中ロ両国も近づく」かも知れない。しかし日本の対朝政策は、米国よりも強硬に見えて、拉致問題もあり、米国に対し総じてハト派的に働き、米朝関係の安定に寄与しただろう。「decoupling」と対話路線の定着した昨今、日米関係の米朝関係への影響は、未知数か。



 2.  日ロ関係(t)∝ 米ロ関係(t-2)


(1)米ロ関係改善は、中長期的に日ロ関係にプラス。悪化はマイナス。


(2)その系は、 米ロ関係(t)∝ 日ロ関係(t-2)

 ⇒ 日ロ両国が接近すれば、米ロ関係も接近する。解釈としては、日ロ関係の展開に米国が関心を持ち、これを注視し、場合により管理するため、ロシアと協議するとの構図か。



 3.  日ロ関係(t)∝ 1 / 日米関係(t-1)


(1)米ロ両国のライバル意識ゆえ、日米の緊密化は日ロ関係を複雑化させる。


(2)非核化の進まぬまま米朝関係が改善すると、連鎖式1.の通り、日米関係が複雑化し、他方、3.の通り、日ロ関係は、日米関係と逆に相関する。併せ考慮すれば、非核化の進まぬまま、米朝関係が改善する場合には、次の通り日ロ両国の接近が見込まれよう。


 日ロ関係(t)∝ 1 / 日米関係(t-1) ∝ 米朝関係(t-2)


(3)系として、日米関係(t)∝ 1 / 日ロ関係(t-1)

 ⇒ 日ロ両国が接近する場合、日米関係は複雑化するだろう。



 4.  日中関係(t)∝ 米朝関係(t-1)* 日ロ関係(t-1)


(1)中国は北朝鮮の支援国であり、日本は米国の政策に追随するので、米朝関係の改善は、日中関係にプラス。逆はマイナスに働くだろう。


(2)中ロ接近のため、日ロ関係の改善は、日中関係にプラス。逆はマイナスに働くだろう。


(3)系は一応、 米朝関係(t)* 日ロ関係(t) ∝ 日中関係(t-1)

 であるが、最近の公開情報をフォローする限りにおいて、日中関係は大幅に改善しているが、日ロ間の平和条約交渉は停滞気味であり、米朝の非核化交渉にも大きな進展が見られないので、今のところ、あまり適合しないと言えようか。



 5.  米朝関係(t)∝ 南北関係(t-1)


(1)南北関係が進展すれば、米朝関係も進展しやすい。


(2)系は、 南北関係(t)∝ 米朝関係(t-1)

 ⇒ 米朝関係が進展すれば、南北関係にも追い風。停滞すれば、南北関係も停滞するだろう。



 6.  日朝関係(t)∝ 米朝関係(t-2)


(1)米朝関係が進展すれば、日朝関係も進展しやすいが、Decouplingの問題、拉致問題、また将来的な経済協力を意識せざるを得ないので、かなり遅れるだろう。


(2)連鎖式5.と6.を合わせると、

 日朝関係(t)∝ 米朝関係(t-2)∝ 南北関係(t-3)


(3)系は、米朝関係(t)∝ 日朝関係(t-2)

 ⇒ 日朝関係が改善すれば、北朝鮮は「日本は米国の意向を踏まえているに違いない」と解釈し、特に日本が将来的には経済協力の提供国として期待されるので、米朝間の雰囲気を良好に保つ上で貢献しよう。



 7.  日韓関係(t)∝ 1/南北関係(t)


(1)非核化が進まぬまま南北関係が進展すれば、日韓関係が複雑化しよう。


(ア)北朝鮮の核保有以降、韓国はますます北朝鮮の影響下に晒されており、韓国と北朝鮮との関係が安定すればするほど、日韓関係は複雑化する可能性があろう。

 例えばGSOMIA破棄は、北朝鮮の意向にも沿うものと見られる。北朝鮮は、徴用工を含む歴史認識の問題をめぐり、日韓関係が一段と複雑化し、日米韓の連携に楔を打つ機会を常に探っていよう。


(イ)日本は、自ら核を持たない決断をしてNPT加盟国となったが、すぐ近隣の旧植民地たる朝鮮半島にて、核兵器保有に至った事態を重く受け止め、複雑な感情を抱き、強く反発する可能性があろう。


(ウ)その帰結として日本は、米国との安保・防衛を含む友好協力関係を増々重視するだろうが、トランプ政権は、在留米軍経費の大幅負担や、兵器輸入による自己責任原則を重視するので、日米関係が複雑化しかねない。(連鎖式1.参照)


(2)系は一応、 1/南北関係(t)∝ 日韓関係(t)


(ア)他方、この夏の日本の貿易管理措置をきっかけに日韓関係は大変難しくなり、韓国はGSOMIA破棄まで決定。日米韓3か国の連携にはマイナスであり、北朝鮮の思う壺だろう。この結果、南北関係が促進されているかと言うと、むしろ北朝鮮から韓国への一層の圧力強化と南北関係停滞に繋がっており、この「系」は適合しない。


(イ)むしろ日米韓3か国の連携に問題が生じれば、米国の北朝鮮との交渉上の立場にマイナスに働くので、要注意。米国はこの様な事態を嫌い、日米韓の連携が回復するまで、北朝鮮との交渉は得策でないと判断する可能性があろう。従ってこの局面では、GSOMIA破棄に象徴される日韓関係の停滞は、米朝交渉の停滞に繋がりかねないので、

 米朝関係 ∝ 日韓関係 と表現すべきか。



 8.  中朝関係(t)∝ 1/米中関係(t-1)


(1)特に経済貿易関係を巡り、米中関係が困難になると、中国は米国から依頼されていた北朝鮮に対する圧力を弱めがちとなり、中朝関係が改善する。


(2)系は、1/米中関係(t-1) ∝ 中朝関係(t) 

 ⇒ 中朝両国が接近すれば、北朝鮮の孤立化が米朝交渉上、有利に働くと考えている米国の思惑に逆行し、米中関係にはマイナスに働くだろう。



 9. 米朝関係(t)∝ 米中関係(t-1)


(1)2018年夏以来の累次の対中関税上乗せにより、本格的な米中貿易戦争を招いている米国トランプ政権に対し、中国の指導部は大いに反発しており、その空気が(最近は中国の庇護国と目される)北朝鮮にも伝わり、米朝関係の改善や非核化交渉の抑制要因となり、歯止めをかけるだろう。


(2)系を作れば、 米中関係(t)∝ 米朝関係(t-1) 

 だが、通常、影響力の及ぶ方向では、米中関係が上流にあり、にわかに適合性があるとは見られない。



 10. 日米関係(t)∝ 米中関係(t-2)


(1)対中貿易赤字対策として、米国が中国産品に関税を課し、中国が報復措置を執る等の応酬による米中「貿易戦争」(冷戦?)は、日本の対中輸出への悪影響、また米国による対日貿易赤字対策の要求と相俟って、日米関係全般に悪影響を及ぼす可能性があろう。


(2)系は、 米中関係(t)∝ 日米関係(t-2)

 ⇒ 強いて言えば、日米の貿易協議がまとまれば、日本が米国からの輸入を増大させて米中貿易戦争の悪影響をそれなりに吸収し、マクロ的には米国の貿易赤字を減らす効果が期待されるので、中長期的には米中関係改善に寄与する事が期待されるだろう。



 11.  日中関係(t)∝ 1 / 米中関係(t-1)


(1)米国は、覇権争い相手と言われる中国と共に日本に対し、二国間の貿易赤字対策を強く要求し、特に中国に対して累次にわたり関税を付加している。この結果、日中両国は、米国に対する被害者意識を共有。

 問題解決が遅れる場合、日本の対中直接投資にも悪影響が及ぶだろうが、日中間では経済的な相互依存関係への理解と共に、親近感が増大するだろう。従って短期的には、貿易問題を巡り米中関係が悪化する局面では、日中両国は心情的に接近する可能性があろう。


(2)系は、 1 / 米中関係(t) ∝ 日中関係(t-1)

 であり、日中関係が改善すると米中関係にはマイナスとの構図となり、これは分かりにくい。



 12.  中ロ関係(t)∝ 1 / 米中関係(t-1)


(1)「貿易戦争」により米中関係が悪化すると、中国は、2014年のウクライナ危機発生以降、米主導の経済制裁を受けているロシアと被害者意識を共有するため、中ロ両国は更に接近するだろう。

 その意味では、米国の経済制裁を受けている全ての国と連帯意識が醸成されるので、左辺のロシアをイラン等と差し替えてもこの式は成立するだろう。


(2)系を作れば、 1 / 米中関係(t) ∝ 中ロ関係(t-1) 

 ⇒ 中ロ両国が接近すれば、米中関係は複雑化し、逆に離間すれば、米中両国は接近する、との構図であり、適合性がありそうである。



 13.  日ロ関係(t)∝ 1 / 米中関係(t-2)


(1)「貿易戦争」により米中関係が悪化した結果、中国は、北朝鮮に対する制裁緩和を呼びかける等、非核化への圧力を弱めており、米朝会談を中心とした非核化プロセスに遅れが生じ、先行き不透明である。

 この様な情勢を踏まえ、日本は、安全保障環境を改善する観点から、核大国ロシアを北朝鮮の背後に居る重要な勢力と認識し、日ロ関係を増々安定的に運営しようとするだろう。


(2)系は、  1 / 米中関係(t)∝ 日ロ関係(t-2)

 であるが、最近の米中関係は、多くが米中貿易協議の如何にかかっているだろうから、日ロ関係の影響力を論ずるのは、筋違いか。




 III.  問題点



 国際関係の相互作用、特に特定の二国間関係の推移が、近隣諸国を含む他の二国間関係に及ぼす影響に関し、連鎖式を用いて表現すると、普通の文章よりも短い表現で捉えやすい、理解しやすい、しかも一見してピンと来ない国際関係の連鎖(風が吹くと桶屋が儲かる)が時として浮上する等のメリットがあろう。

 しかし同時に次の問題点を指摘せざるを得ない。


 1.連鎖式は、特定時点で作成されており、短期的にはそれなりに的を得ていたとしても、中長期的に適用可能とは限らない。従って数学の場合と違って、一度作成した連鎖式を独り歩きさせるべきではなく、常に精査し、アップデートしていく必要があろう。

 要するに新聞記事の様に、国際情勢上の特定事件を解説する場合と違い、連鎖式とは、何回か同様のパターンで起きる連鎖現象を捉え、これを一般化する試みなので、その適合性は常に確認する必要があろう。


 2.各連鎖式に関し、左辺の二国間関係は、右辺以外の要因(自然災害を含む事件・事故、選挙、他の二国間関係等)により十分左右される可能性があるので、仮に特定の連鎖式が一時的に適合していたとしても、それは充分条件を表すものであり、必要条件では決してない。

 要するに連鎖式を用いると、国際関係が過度に単純化されるので、当たりはずれのある「天気予報」に類するものとして捉えるべきだろう。


 3.平和が続き、景気も良い等、物事がうまく展開している局面では、この様な連鎖式は大いに結構だろうが、物事が逆方向に展開している場合には、国際関係の力学を単純に捉えようとするだけに視野が狭くなり、無用の悲観論(ジリ貧論?)や運命論に結び付きかねない。

 むしろ「この連鎖式にある様な悪循環を断ち切り、好循環に転換させるには、如何したら良いのだろうか」との視点、そして困難な場合でも極論に走らず、忍耐強く時間経過による「時代の空気」の転換を待つ発想が必要だろう。


 4.ノストラダムスの予言に関して疑われる様に、精神的に暇を持て余し、あるいはストレス解消が必要な輩の間で「この際、一肌脱いで、予知内容を実現させよう(self-fulfilling prophecyにしよう)ではないか」との不健全な発想や行動に結び付きかねない。

 予言内容が楽観的なら別として、悲観的である場合(「景気は悪化するだろう」等)、愉快犯がそれを実現させようとして動く可能性もあり、場合により、社会的自殺行為を誘発しかねない。 


 5.特定の連鎖式の左辺と右辺を入れ替えて作った「系」の適合性については「場合による」としか言えず、その都度、落ち着いて考察する必要があろう。しかし「系」は、国際情勢を多面的に検討しようとする場合に、刺激やきっかけを提供するだろう。


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