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62.戦いの前に

 10月も残りわずか……。あと一か月もすれば、テスラでは雪が降り始める。

 私は毎日の訓練のおかげで……ほぼ、当時の勘を取り戻せたと思う。

 ユウも、殆ど闘うことがなかったので十分身体を休められたようだ。

 暁は……最初は私や夜斗が防御(ガード)をしたときに真似してするだけだったけど、繰り返しているうちに、私の指の合図でできるようになった。

 女王の完全防御(クイヴェリュン)はかなり揺らいでいる。

 そろそろ……決着の時だ。



「……では、会議を始めますか」


 大広間には女王が玉座に腰かけていた。

 その前には……夜斗と理央、ユウと私。そして……暁。

 あとはエルトラ軍の最高指揮官と各隊長が顔を揃えていた。


「少なくとも……三手に分かれる必要がありますね。完全防御(クイヴェリュン)を攻撃している本隊と対峙する部隊。南のフィラの民を開放する部隊。そして奥の……キエラの要塞を攻める部隊」


 最高指揮官のアリエルさんが地図を広げながら話を進める。


「アリエル、北東の遺跡はどうするんだ?」


 夜斗が聞く。

 アリエルさんは、たくわえた髭をいじりながら


「……カンゼルを要塞に引き付けておいて……その間に探りに行くしかないでしょうね。やはり、放っておく訳にはいきません」


と、じっくりと考え込みながら言った。


「じゃあ……俺は要塞だな、やっぱり」


 ユウが腕組みをしながら言うと、アリエルさんは深く頷いた。


「そうですね。……何があっても対応できるでしょうし……」

完全防御(クイヴェリュン)を攻撃している本隊に大半を割いて、しっかり引き付けておく必要があるな。ここにはディゲの大半がいる」

完全防御(クイヴェリュン)を攻撃しているってどういう感じで攻撃しているの?」


 私が聞くと、夜斗は


「兵士は開発した銃器や剣などの物理攻撃。ディゲがフェルティガで攻撃している。どちらでもいいから破れれば、と考えてるんだと思う」


と答えた。


「ねぇ、前に普通の兵士の不満が結構溜まってるって言ってなかった……? それって使えないかな」

「うーん……」


 ふと、理央が何か思いついたように私と夜斗の方を見た。


「ヤト、あなたが本隊の指示と陽動をしたらどうかしら」

「えっ、俺?」

「あなたなら……幻覚で相手の兵士になり済ますことができる。陽動して、隙ができたら幻惑をかければ……部隊は混乱するわ。それに乗じてエルトラ軍がディゲをとりおさえる。ディゲの方はまだ子供が多い……体術まで万能とは思えないわ」

「なるほど……。リオネール殿の言うことも一理ありますな」


 夜斗は唸りながらポリポリと頭をかいた。


「俺は、陽動はともかく……指示は自信ねぇな。……そっちはアリエルに任せた方がいいんじゃねぇか?」

「そうですな……。本隊の指示ともなりますと、経験がないと難しいかもしれません。……わたしが参りましょう」

「そうね……。ヤトはあまり前線には慣れていないものね……。その場で自由に動けた方がいいかしらね」


 理央は納得したようだった。

 そして地図の南を指差すと、周りをぐるりと見渡した。


「私は……飛龍で南の開放を目指す、という方法を考えているの。本隊を引き付けてもらって……その間に南を取り返す。キエラの本隊がやられたときに……南のフェルティガエを兵力に連れて行こうとする可能性もあると思うの。だから、その前に南は押さえておきたい」

「なるほど……」


 アリエルさんが唸る。


「南って……どういう人たちがいるの?」


 確か……フィラの人達が捉えられている場所。どんな人が守ってるんだろう。

 私が聞くと、理央は少し難しそうな表情になった。


「残った人質……老人と子供以外のフェルティガエよ。管理している兵士は幻惑防止をかけた、普通の兵士たち。体力的に屈強な人材が揃っているわね。……武闘隊と呼ばれる部隊が詰めている場所でもあるわ」

「幻惑、きかないんだ……」

「幻惑だけがきかないの。隠蔽(カバー)は見抜けない」


 理央は少し笑った。


「だから普段はディゲもいるんだけど……今は、いない可能性が高いわね。いても、実戦部隊じゃない子たちだわ。多分……朝日が遭遇したぐらいの……」

「ふうん……」


 理央は私にそう説明すると、女王の方に向き直った。


「フレイヤ様。目立たないように少数で山越えをしようと思っています。隠蔽(カバー)を使い、細心の注意を払います。飛龍の使用許可をいただけないでしょうか?」

「……」


 女王は少し考え込んでから、口を開いた。


「南には……治療師と……それからリオネール以外のフェルティガエも連れて行け。攻撃系、防御系、それぞれじゃ。この作戦は、素早さが大事。なるべく迅速に制圧しろ」

「……了解しました」

「じゃあ私はね……」


 私が言いかけると理央がぎょっとしたような顔をした。


「……ちょっと待って。朝日も戦場に行く気なの?」

「勿論よ。暁も行くもんねー」

「あー」


 暁は元気よく声を出した。


「……!」


 理央は呆気にとられたような顔をしている。


「私はユウと共に……要塞に行く。フェルの攻撃はすべて私がカバーする。ユウには敵を蹴散らしてもらって……カンゼルを潰してもらう」

「ちょっと……ユウ!」


 ユウは私を見ると


「置いていくと言ったって聞きはしないし、何をしでかすかわからないから……。いっそ、俺の目の届くところにいてくれた方がいい。実際、フェルティガの攻撃をすべて吸収してくれるのは、助かるし」


と言って、私に微笑みかけた。


「俺が……守るよ」

「……フレイヤ様!」


 理央が堪らないというように叫び、女王の顔を見た。

 フレイヤ女王は私たちを見比べると


「……アサヒの言う通りでいいのではないか?」


と言った。


「本気ですか!?」


 理解できない、というように理央が詰め寄る。


「託宣の神子が時を動かすのであれば……その場に行くべきだろう。しかし……いかんせん幼すぎる。そうなれば、通じ合っている母も行動を共にしなければならない。そして行くのであれば、敵の中枢……カンゼルの元であろうな」


 女王は私の顔を見ると……ふっと微笑んだ。

 私も、女王に微笑み返した。

 ユウが地図で軌道を指し示す。


「とりあえずサンに乗って……上空から要塞を偵察する。侵入できそうならそのまま行く」

「二人で行く気なの!?」

「だから、三人だって」

「無謀よ!」


 理央は今度はアリエルさんの方に向き直った。


「ちょっと、アリエル。あなたはどう思うの?」

「……」


 アリエルさんは考え込むと


「危険ですが……勝率は一番高い方法でしょうな」


と答えた。


「……!」

「エルトラ軍のほぼすべてで正面を引き付けた方が……南も要塞も、制圧しやすいでしょう。問題は……北東の遺跡ですな」

「……わかった、俺が何とかする」


 ずっと黙っていた夜斗が口を挟んだ。


「陽動がうまく行けば……あとはアリエルに任せて大丈夫だよな?」

「はい」

「あの距離なら……俺が瞬間移動で要塞まで跳べる。そして補佐に入れば……ある程度の事態には対応できるんじゃねぇかな」


 夜斗が地図を差しながら説明する。


「ただ……朝日はフェルティガを受け止めることはできても、大軍と闘うことはできないだろう。一対一ならともかく。……どうするんだ?」

「だから、要塞の内部に侵入するのよ。内部なら……そんなに大勢はいないはずだし。それに……その隙にユウが叩くわ、必ず」


 私はユウに微笑みかけた。


「二、三人の雑魚なら私でも叩けると思う。あと……私ならユウを癒せるし」


 そして私は女王に向き直った。


「……よろしいでしょうか?」

「そうじゃな」


 女王は少し頷いた。


「……ヤトゥーイ、お前の責任は重いぞ。橋からこぼれた兵が要塞や南へ行かぬよう、うまく陽動するのじゃ。……そしてアリエル。お前は兵を指揮してキエラ軍を包囲し、しっかり足止めするのじゃ。それがなければ、この作戦はうまくいかん」

「……はい」

「御意」


 夜斗とアリエルさんが力強く頷き……女王は満足そうに微笑んだ。


「……では、皆さん。よろしいですかな」


 アリエルが理央の顔を見て……それから私たちの顔を一通り見回した。


「エルトラ軍の兵士は全軍、橋の正面へ。攻撃・防御(ガード)・治癒・隠蔽(カバー)のフェルティガエはリオネール殿の指示のもと、飛龍と共に南へ。ヤトゥーイ殿はエルトラ軍とともに橋へ赴き……陽動が成功し次第、キエラ要塞へ。ユウディエン殿とアサヒ殿は飛龍でキエラ要塞へ」


 私たち皆が頷く。


「……女王、これでよろしいでしょうか?」


 私たちは一斉に女王の顔を見た。


「……よい」


 女王はすっと立ち上がり……扇で私たちの方を差した。


「決行は……明日、空が白く輝いたときじゃ!」




 その日の夜。藍色の空がエルトラ王宮を包んでいた。

 私とユウは、窓からその景色を眺めていた。暁はもう……ベッドで寝ていた。


「……いよいよだね」


 私がポツリと言うと、ユウが私に微笑みかけた。


「そうだね。やっと……だね」

「絶対、成功させようね、ユウ。……よし、頑張る!」


 右手を上げてガッツポーズをする。


「朝日のそのポーズ、何回見たかな……。初めて会った時も、ジャンプしてたよね」

「そうだっけ?」


 ユウはちょっと笑うと私を抱え上げた。


「きゃっ……何?」

「朝日が……いつも俺に元気をくれる。明日、すべてが終わったら……ずっと俺の傍にいてね」


 ユウ……。

 それは、私もだよ。

 ユウに出会えて……本当によかった。


 本当にそう思えた。

 だけど……私は泣いてしまって、言葉にできなかった。


「朝日……順番が何か違っちゃったけど……これ、一応プロポーズだよ。返事は?」

「……」


 私は黙ってユウの首に抱きついた。

 ユウの左手の小指のアレクサンドライトが……淡く輝いていた。

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