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57.このテスラのどこかに -ユウside-

 フレイヤ女王との謁見後、東の塔の俺の部屋で待機しているように言われた。

 俺の様子を心配したのか、夜斗も一緒にいた。


「失礼します」


 誰かが部屋をノックする。

 開けると、控えていた神官の一人だった。


夢鏡(ミラー)によるミュービュリの探索を終えましたが……どこにも見つからないそうです」

「……!」


 俺が思わず掴みかかりそうになるのを、夜斗が抑えた。


「わかった。……他の神官はテスラを探しているのか?」

「はい。もうしばらくかかるかと思いますが……」

「……わかった」


 神官は申し訳なさそうにしながら去っていった。


「……神官に当たっても仕方がないぞ」

「……わかってる」


 朝日……いったいどこにいるんだ。

 突発的に出る強制執行(カンイグジェ)といい、朝日は完全に力を使いこなせている訳ではない。

 身を守るために無意識に隠蔽(カバー)などしていたら、絶対に神官では見つけられない。

 それに……朝日はゲートを開くことができても、繋いだ場所までは自分では決められなかったはずだ。

 やっぱり……フェルティガではなく、ちゃんと自分の目で探しに行くべきじゃないだろうか。


 

 そのあと、辛抱強く待ったが……夜になっても、テスラを探している神官からの報告はなかった。


「……やっぱり俺が……行く」


 俺は立ち上がった。

 この世界のどこかに、朝日が来ている。

 きっと……自力でここまで来れない場所にいるに違いない。

 俺が……迎えに行かなくては。


「待てって」


 夜斗が俺の腕を掴んだ。


「離せ!」

「今、神官たちが探している。それを待て」

「何も連絡が来ないじゃないか」

「……まあ、遠視はなかなか持続性が難しい力だ。手間取っているのかもしれない」


 夜斗のエルトラの神官を庇うような発言に、かなりイらついてしまい


「神官が探せるのは……エルトラ領土内とフィラだけだろう!」


と、怒鳴った。

 夜斗はちょっと驚いて、俺の腕を離した。


「確かに……。降りた先がキエラの可能性もある……よな」

「……だから、俺が行くんだ。サンのところに行ってくる」

「ちょっと待てって」


 夜斗が再び俺の腕を掴んだ。


「まず、エルトラかフィラにいることがわかればすぐ迎えに行ける。それまで待とう」

「でも……」


 俺たちがミュービュリを離れてから……もう丸二日近く経っている。

 朝に目覚めてすぐ真相を知り、こちらに来たとしたら……。

 エルトラ領土内なら、何らかの報告があっていいはずだ。

 きっと、かなり遠くか……分かりにくい場所に着いてしまったのかもしれない。

 そして、着いたのがもしキエラだとしたら……カンゼルに捕まっている可能性だってある……!


「やっぱり駄目だ。一刻も早く迎えに行く」


 俺は夜斗を振り切って部屋を出た。

 廊下を飛ぶように走り、王宮の外に出る。藍色の空が押し寄せるように俺を出迎えた。

 サンはダイダル岬にいるはずだ。ここからじゃ口笛は届かないから……とりあえずフィラまでは自力で行かなければ。

 しかしここからフィラまで行くには飛龍を使うしか……。


「……待てって!」


 瞬間移動で夜斗が現れた。


「どこに行くんだ」

「エルトラの飛龍を借りに行く」

「無茶言うなよ……。飛龍は貴重なんだ。女王の許可が絶対に必要だ」

「緊急事態だ」


 俺はそう言い捨てると再び走り始めた。

 すると……。


「キュウゥー!」


 聞き覚えのある鳴き声が聞こえてくる。

 見ると、藍色の空の下、飛龍が飛んでいるのが見えた。妙に落ち着きのない様子でバタバタしている。

 あれは……サンだ!


「サン!」


 俺は叫ぶと、口笛を吹いた。


「キュウ、キュウゥー!」


 俺に気づいたサンが夜の(とばり)を縫って真っ直ぐ俺のところに降りてきた。


「サン、久し振りだな」

「キュゥ、キュゥ、キュゥ」


 妙に慌てている。

 サンに触れると、横たわる朝日の姿が俺の脳裏に浮かび上がった。


「……!」


 俺はすぐにサンの背中に飛び乗った。

 追いかけてきた夜斗に振り返る。


「朝日の居場所、サンが知っているみたいだ!」

「何だって?」

「どこかは分からないが……倒れている。とにかく、俺が迎えに行ってくる。みんなにはそう伝えてくれ。必ず……俺が連れて帰るから!」


 そう夜斗に言うと、「サン、頼む!」とサンに声をかけた。

 サンは瞬く間に上空に上がると、ものすごいスピードで飛んで行った。

 真っ直ぐ南に向かっている。……ダイダル岬だろうか。

 だとすると、エルトラの神官には絶対に見つけられない。

 ……大丈夫だろうか。やっぱり、俺の目の届くところに置いておかないと……朝日は何をするかわからないから……。


「ったく……馬鹿……!」


 俺は思わず呻いた。

 


 高い崖をいくつも越えて……暗い海が見えてきた。

 そして、小さな砂浜……やはり、ダイダル岬だ。

 サンが急下降する。

 サンが砂浜に降り立つと、俺はすぐさま飛び降りた。

 目の前には……布にくるまって横たわる朝日がいた。


「――朝日……!」


 慌てて駆け寄って抱き起こす。ぐったりしている。

 暗くて顔色までは分からないが……身体がかなり冷え切っていた。

 ギクリとして心臓の音を確かめた……が、ちゃんと動いていた。気を失っているだけのようだ。

 早く温めないと……でもここじゃ駄目だ。

 サンに乗せてエルトラに運びたいが……その間に何かあったら怖い。

 ……そうだ。隠れ家に行こう。あそこならベッドもあるし、身体を休められるだろう。


「サン、森に運んでくれ。覚えているよな?」


 サンは「キュゥ」と小さく鳴いた。

 俺は布ごと朝日を抱きかかえると、サンの背中に乗った。


 俺とヒールがかつて暮らしていた隠れ家。1年前から変わらず……まだそのままの形で、残っている。

 灯りを灯して、朝日をベッドに横たわらせた。

 ……かなり顔色が悪い。前に倒れたときよりも……マズい状態なんじゃないだろうか。

 俺も横に寝て、そのまま朝日を抱きしめた。

 何とか……せめて体温が元に戻ればいいんだが……。



 やがて藍色の空から白色の空に変わった。

 朝日の顔色も、少し良くなったように……見えた。

 エルトラの神官は俺たちの居場所を掴んだのだろうか。

 もうすでにここには隠蔽(カバー)はされていないが、かなり見つかりにくい場所にあるから……。


「ん……」


 朝日がうっすらと目を開けた。


「ユ……ウ……」

「……! 大丈夫か?」

「あまり……大丈夫……じゃな……」


 俺はぎゅっと朝日を抱きしめた。

 しかし……まだ体にエネルギーが感じられない。

 もっとちゃんとした場所でゆっくりと休まないと、駄目そうだ。

 ――これは、エルトラに行って誰か呼んできた方がいいだろうか……?

 そう思ってベッドを出ようとすると……朝日に服を引っ張られた。


「駄……目……。ここに……いて……」

「……わかったよ」


 俺がそう言うと……朝日はちょっと微笑んで、また気を失ってしまった。

 こんなに意識が途切れるのは、只事じゃない。

 どうするか……。

 ふと、下の岩穴にあるヒールのガラスの棺を思い出した。

 あれに朝日を入れれば……今の状態のまま悪化させず、運べるかもしれない。

 俺は隠れ家を出ると、岩穴に向かった。


「キュィイ……」


 サンがすぐ近くに佇んでいた。……心配していたようだ。


「大丈夫だよ。もう少し……ここで待っててくれ」

「キュゥ……」


 岩穴の奥に入っていく。

 ガラスの棺は……まだそのまま残されていた。中のフェルティガも……少し薄くなっているが、まだ保たれてはいるようだ。

 持ち上げてみると、思ったより軽かった。これならサンでも運べそうだ。

 岩穴から出してサンの前に置く。


「今、朝日を連れてくる。サン、俺とこの棺をエルトラまで運んでほしい。大丈夫か?」

「キュゥ」


 サンが少し心配そうに頷いた。



 ガラスの棺に朝日を入れ、俺はそれを抱えてサンの背に乗った。

 朝日が気を失っているせいか……棺の中のフェルティガは吸収されていないようだ。

 崖を越え、野を越え、川を越え……エルトラ王宮が見える。

 サンは王宮の庭に下り立った。


「ユウ!」


 夜斗と理央が王宮から走ってきた。


「これ……」

「何があったかわからないんだが……かなり具合が悪そうだったから、ヒールの棺に入れてきた。……どこで休ませればいい?」

「それが……」


 夜斗が言いにくそうに言葉を濁らせる。


「女王が、まず会わせろと言っていて……」

「はあっ!?」

「大事なことらしいのよ……」


 さすがの理央も、ちょっと気まずそうだ。


「でも、逆に言えば……フレイヤ様なら、朝日の具合の悪い原因を見つけて治してくださると思うわ。ユウ……お願い。このままの状態で構わないと思うから……フレイヤ様と謁見して」


 俺は全然納得がいかなかったが……それで朝日の身体が治るというのなら、仕方ない。

 サンにはエルトラ付近にいるように言うと、俺と夜斗で朝日の棺を運んだ。

 大広間に入ると、女王はすでに玉座にいたが……棺を見てかなり驚いていた。


『何じゃ……これは』

『キエラの技術なのですが……ユウやヒールヴェン殿が使った、フェルティガを満たした箱です』 

『ああ、あの……時間の流れをゆっくりにする……というものじゃの。ただ……このままではよくわからぬ。……時間はとらせぬから、出してもらえぬか』


 女王も朝日の身体を気遣っていることがわかったので……俺は黙って棺を開けて、朝日を抱きかかえた。

 朝日はまだ気を失ったままだった。

 女王の前まで連れて行くと……女王の顔色がサッと変わった。


『おい! 治療師をすぐ呼べ!』


 女王は玉座から立ち上がると、傍の神官に命令した。


『それから……奥の部屋を開けるのじゃ。そこに運ばねばならん! これは……エルトラの一大事じゃ!』

『御意』


 何だ、何だ。

 ……何が起こっている?


『ユウディエン。すぐその箱に娘を戻せ。奥に運ばせる』

『あの……』

『早くせぬか!』


 女王の迫力に押されて、俺は慌てて棺に朝日を寝かせた。

 女王が朝日のために動いてくれていることはわかったから……とりあえず言う通りにする。

 神官二人が静かに奥の部屋へ朝日の棺を運んで行った。

 治療師らしい人間も後を追って三、四人消えて行った。


 女王も行こうとしたので

『……ちょっと待ってください!』

と多少強引に声をかけた。

 女王の足が、ぴたりと止まる。


『あの、いったい……』

『……』


 女王は俺の顔を見ると、深い溜息をついた。

 一瞬きゅっと口元を引き締めたあと、おもむろに口を開く。


『――神子じゃ』

『は?』


 俺は女王の言った言葉の意味がわからず……間抜けな声で聞き返してしまった。

 女王は少しイラっとしたように俺を睨みつけた。


『……腹に子がおる。このままでは、母体がもたん!』

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