48.その間のこと -理央から夜斗への通信-
《4月1日》
ヤト! やっとつながったわ。今までどうしてたのよ?
ミュービュリ……朝日の家ですって? 全く……。
あんたのしたことは十分裏切り行為よ。わかってるの?
強制執行? ……馬鹿ね。
朝日の力じゃ、そんなに長続きするはずないわ。それに、あんたなら防げたはずよ。
フレイヤ様には、あんたは強制執行で操られてしまった……って説明しておいたわよ。
ほんとにもう……本来なら処刑ものよ。私に感謝するのね。
……まあ、とにかく、こちらの状況を報告するわ。
あんた達がエルトラを出たあと……フィラの民が帰って来たわ。老人と子供のみだけどね……。
青い飛龍が飛んでいたのを、兵士たちが目撃していたわ。……あんたたちよね?
それに、あんな大技……ユウでなければ、無理だわ。
だから、あんたから報告は受けていなかったけど……おそらくそうだろうと思って、フレイヤ様にはそのように報告しておいたわ。
フレイヤ様はその功績を評価して、あんたの裏切り行為は不問に処す、とのことよ。
……ああ、私?
私は一週間前にやっと復帰したわ。ユウの力って……半端じゃないわね。悔しいけど、闘うなと言われた理由が、よくわかったわ。
今は、防衛の指揮を取っているわ。完全防御に入っていない村が、キエラ軍に襲われたら困るから……。
特に、東のサチュバの村に厳戒態勢が敷かれているの。
で、そっちはどうなの?
……ユウがそういう状態なのね。わかったわ。とりあえずそのまま身を隠していて。
その代わり、定期的にヤトから連絡をちょうだい。こちらからはあんたの障壁に阻まれてできないんだから。わかった?
《4月8日》
ああ、ヤト。そちらはどう?
ユウの誕生日……? 何の話よ。
……ああ、もう、そんな話はどうでもいいわよ。
6月1日? わかったわよ、何だか知らないけど覚えておくわ。
こちらは……そうね。各村で小競り合いが続いているわね。
向こうは主に普通の兵士よ。たまにフェルティガエが混じってるけど……。でも、例のクスリを使われた……もう使い捨ての人間ばかりだわ。様子を窺っている……というところね。
《4月15日》
ヤト。フレイヤ様がユウと朝日の話を聞きたがっているわ。
……そりゃそうでしょ。結局、敵か味方かわからないって……。
話すと長い……って、多少長くてもいいわよ。ちゃんと説明して。
――――――――――――――
……えっ! そういうことだったの!?
わかったわ。とりあえずフレイヤ様に報告しないといけないから……今日はこれで切るわ。
《4月25日》
ちょっと、ヤト……いったい、いつになったら帰ってくるの?
あんたがミュービュリに行って……もう1か月以上経ったわよ。
あんただけでも早く戻ってきてよ。
……ちょっと、聞いているの?
ユウが心配……って、あんたたち、いつの間にそんな仲良くなったのよ。
それで、ユウはどうなの?
……そう、だいぶんよくなったのね。それは……よかったわ。
気を失う限界まで擦り減らすなんて……自殺行為だもの。この機会にそんな闘い方は改めた方がいいわね。
それで……闘えるようになるまであとどのくらい?
……えっ、まだ1か月以上かかるのね……。
でも……仕方ないわね。
あ、そうそう。一応、ユウはエルトラの味方をしてくれる気でいるのよね。
だから、フレイヤ様はしばらくミュービュリで体を厭え、と仰ってたわ。
とりあえず、ユウの様子はフレイヤ様にも伝えておくわ。
《5月10日》
……ああ、久し振りね。ちょっとこちらはかなり揉めていて……。
フレイヤ様の完全防御が少し揺らいできているの。
冬まではもつと思うけど……。キエラの攻撃次第ではわからないわ。
それで、こちらから攻めに行くべきじゃないかって話も、出ているわ。
向こうはディゲが攻撃に参加するようになってきているの。
……そうね。ユウが一斉に駆逐してくれたはずなんだけど……新たなディゲが投入されているんだわ。
こうなると、低位のフェルティガエでは相手にならないの。
だから……今は村にバリアを張って対応しているような状態よ。
私を含め、エルトラの上級兵士があちこち飛び回って討伐しているわ。
でも、村の防衛が精いっぱいで、カンゼルには到底辿り着かないわね。
カンゼルを倒すためには、どうしたってユウの力が必要だわ。
だけど……フレイヤ様は今はまだそのときではない、と仰っているわ。
……託宣があったようなの。
内容までは伝えられていないけど……きっと黙って見守れ、みたいなことだと思うわ。
もちろん、私はフレイヤ様に忠誠を誓っているから、勝手なことはしないけど……。
厳しい状況なのは、確かよ。
心に留めておいて。連絡は忘れずにね。
《5月20日》
ちょっと、ヤト!
いつになったら戻ってくるのよ! ユウは元気になったんでしょ?
……6月になったら……? そうだったかしらね。
ああ、フレイヤ様は今はまだ……何も仰っていないわ。
ただ、必ず三人で戻ってくるようにと……だったらいいじゃん、じゃないのよ。
カンゼルを倒すためにはユウが絶対必要で……気を使っておられるのよ!
……心が大丈夫じゃないって何よ。
……朝日とユウの間が心配?
何を呑気なこと言っているのよ。こっちは戦争で緊迫状態だっていうのに……。
そりゃ、朝日は戦の終焉の鍵を握る娘、よ。無関係ではないけど……。
でもだからって、何で恋愛相談……。
というか、あんたはいったいどういう立場なのよ。何でそんなに入れ込んでいるの?
……まさか、朝日のこと……。
いい? ヤト。
……死んだ母様が言ってたわよ。フィラの三家間の婚姻は禁じられているって……。
理由? 知らないわよ。
ああ、もう、それは大丈夫なのね。本当に大丈夫なのね?
とにかく、ユウと朝日が気になるってことなのね?
あの二人もフィラの三家間ってことになるんだけど……いいのかしら?
……何でこんな話をしてるのかよくわからなくなってきたけど……。
私の意見?
そうね……朝日はフェルティガエだけど、ミュービュリの人間だわ。
テスラの民であるユウとは、うまくいく訳がないんじゃない?
だって……ゲートを越えるには、限界があるのよ。
最終的には……どちらかが自分の世界を捨てなければならないわ。




