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20.文化祭って大変だ

 体育祭後――ユウはちょっと変わった。

 前までは、私が夜斗やクラスの友達としゃべっているとき、ユウは隣でずっと本を読んだまま、全く入ろうとしなかった。

 だけど、今は私の隣で、ときには相槌を打ちながらじっと話を聞いている。

 積極的に輪に入ろうとはしないけど、私が何かしているときは一緒にやってみよう、という風にちょっと前向きになった。


「人と話すときは、仏頂面じゃなくて笑顔の方がいいよ。あのね、ユウが身構えると相手も身構えてしまうから、壁ができてしまうの。ユウに打ち解けようという気持ちがあったら、それは相手にも伝わるの」


 私がそう言うと、ユウは素直に実践した。

 ユウから話しかけることは殆どないけど、話しかけられたときの対応が格段に変わった。

 クラスの子も、今までは恐る恐るユウに話しかける感じだったんだけど、ユウが優しげに答えてくれるのでだいぶん印象が変わったみたいだ。

 逆にちょっと人気が出て「私は紙山さんと喋った」「いや私は話しかけられた」などと自慢の種になっていた。


 10月も半ばを過ぎた頃。学校では文化祭が1か月後に控えていた。

 海陽学園では中学部と高校部が一緒になって結構本格的な文化祭が開催されるみたい。

 3年に1回しかないから、クラスの人たちは「いよいよ私たちの番!」と力が入っていた。

 3年前に高校部の手伝いを主にしていたから、段取りにも慣れているみたいだ。

 放課後の教室で、その会議が行われていた。

 クラスの出し物は無難に喫茶店になったのだけど……。


「男子は主に教室のレイアウトや準備、女子はウェイトレスと調理担当ってことにしようか」

「ウェイターもいた方が客層が広がるんじゃない?」

「ウェイトレスはメイド服、ウェイターは執事みたいなのにしたらウケるんじゃないか?」

「料理得意なのって誰だっけ?」


 ……など、目の前で活発に意見交換されていた。

 ユウは当然知らないし、私も英凛では経験していなかったから、熱気に押されてただ茫然とやり取りを眺めていた。


「文化祭って何?」

「学校のクラスとか部活で催し物をして、外部の人とかも見に来るお祭り。楽しいと思うから、一緒に頑張ろうね」


 ユウとそんな話をしていると

「……というわけで、二人はメイド服で接客ね」

と、突然、文化祭実行委員の子に肩をぽんと叩かれた。


「……へっ?」


 思わず変な声が出る。

 ユウも隣でぽかんとしていた。


「他の子は部活の方との掛け持ちだから持ち場にずっといられないの。だけど、朝日と紙山さんは部活に入ってないでしょ? それに文化祭は初めてで下準備には慣れてないと思うから、当日現場で力を発揮して」

「えーっ!」


 思わず声を上げる。ユウが横で

「メイド服って何?」

と不思議そうな顔をした。


「可愛い服だよ。特に紙山さんならツンデレ系でイケると思う。しかもボクっ娘!」


 私にもわからない単語が連発される。

 多分、ユウにコスプレさせたくて私にも声をかけたんだな……。


「私、料理できるよ? 調理担当でいいんだけど……」

「駄目。朝日はちっちゃくて可愛いからロリ系で。ここは二人セットに意味があるの!」


 物凄い勢いで言い切られる。

 ちっちゃくて、悪かったな……。


 何とか断ろうと言いかけたけど、ユウが横から

「朝日、何だかよくわからないけどやってみようよ。一緒に楽しもうって僕に言ってたよ」

と言ってしまった。

 今、ここでその話を持ち出さなくても! そりゃ確かに言ったけど!


「う……」

「じゃあ、決まりね。準備の間、二人は他の班のお手伝いしてね。あ、服はこっちで用意するから心配しなくていいよ」


 逆に心配なんだけど! 頼むから普通のにしてね!


「何か面白そうだね、朝日」


 ユウが呑気にそう言った。私はユウをジトッと見つめた。


「ユウ……絶対に後悔すると思うよ……」

「思い出にならない?」

「いや……」


 思わず頭を抱える。


「多分、一番強烈な思い出になると思う……」

 


 それから1か月の間、男子に頼まれて材料を買いに行ったり、女子に頼まれてレシピを考えたり、メニューなどを手作りしたり、と雑用をしていた。

 みんなかなり力を入れているみたいで、私にとっても初めての経験で楽しい。

 ……当日の服だけがちょっと心配だけど。

 ユウも、話しかけられる機会が増えてちょっと戸惑っていたけど、だいぶん慣れたみたいだ。



「朝日、紙山さん、服を持って来たよ」


 文化祭前日。ミキちゃんが大きめの荷物を抱えて現れた。

 ミキちゃんはお父さんが谷崎物産の社長で、経営しているお店の一つに貸衣装屋があるらしい。

 本格的に調理するので私たちのクラスは家庭科室をおさえていた。

 すでに明日のためのレイアウトになっていて三分の一ぐらいを厨房スペースに区切っている。


「おっ、待ってました!」

「わ、どんなの?」

「早く見たいー!」


 作業をしていた女子も男子もいったん中断して、みんな集まってきた。


「まあまあ。まず、これが……朝日のね」


 紙袋から取り出す。

 ピンクのフリフリとかだったらどうしよう……と思ったけど、それは黒の長袖ワンピースだった。

 猫耳のカチューシャと鈴がついたチョーカーもセットになっている。

 自分の体にあててみると、丈が結構短い……。


「試着してみよう! 試着!」

「えっ、今?」

「サイズとか丈が大丈夫か見ないと。はい、着替えてきて! あ、靴下と靴はこれね」


 荷物を押しつけられ、家庭科準備室にぐいぐいと押しやられた。

 ……仕方なく、とりあえず着てみる。


 サイズはちょっと大きいけど、こんなものかな。

 靴下は白い膝上までのもので、靴は黒色で踵が高めのものだった。

 袋に『ロリータリボンシューズ・黒』と書かれている。そのネーミングにちょっとクラッとしたけど、少し背が高くなっていいかも。

 うーん、背が小さいから丈は思ったより短くならなくてよかった。

 次に鈴のチョーカーと猫耳のカチューシャをつけてみた。

 鏡がないので戸棚のガラスを鏡代わりにする。

 一回りしてみると、思ったより悪くない。


「……ぶっ」


 振り返ると、同じく着替えて来いと言われたらしいユウが立っていた。

 口元を押さえている。……笑いをこらえているんだろうか。


「えっ、変だった?」

「いや……」


 逆光でユウの顔がよく見えない。近づいてみると、ユウはなぜか顔を真っ赤にしていた。


「え……そんなに恥ずかしい感じ?」

「いや……可愛い……と思うよ……」


 ユウが何か口の中でごにょごにょしている。

 そのとき、ドアがどんどんとノックされた。


「朝日―、着替え終わったー?」

「うん、一応……」

「早く見せて! 紙山さんも着替えてね」

「……うん」


 ユウが小さく返事をした。

 私はユウに「じゃあ」と手を振ると、準備室からぴょこんと顔だけ出した。だって、いきなり堂々と現れるのには勇気が……。


「朝日! 可愛い!」

「猫耳いいね~」

「そのキャラ最高!」


 いや、キャラ作りしたわけじゃないんだけどな……。

 おずおずと外に出て、ドアを閉めた。かなり恥ずかしいのでもじもじしてしまう。


「うわー、スゴクいい!」

「イメージ通り!」

「これは客来るよー!」

「明日が楽しみー!」


 まわりの女子が口々に言う。男子もちょっと遠巻きに私の方を見ていた。

 ちゃんと鏡を見てないから不安……。だけど、褒められて悪い気はしない。

 これならユウも……少しは可愛いと思ってくれるかな?


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かつての旅の陰にあった真実 少女の味方
其々の物語の主人公たちは今 異国六景
いよいよ世界が動き始める 還る、トコロ
其々の状況も想いも変化していく まくあいのこと。
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