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15.私だって、戦います

 足元に確かな感触がある。

 ハッとして周りを見ると、目の前に海が広がっていた。


『何なんだ、この女……おかげで……かなり手前……』

『何で、跳んだだけでこんなに疲れるんだ……』


 両隣の少年が息を激しく切らしながらしゃがみこんでいた。

 これはチャンス!


「はあっ! やあっ!」


 連続で前蹴りと後ろ蹴りを繰り出し、二人を吹き飛ばす。少年の一人は波打ち際に落ちて、そのまま動かなくなった。

 もう一人の少年は砂浜に倒れていた。ダメージはあるみたいだけど、ゆっくりと起き上がろうとしていた。


「……もうっ」


 やっぱり一撃でダウンという訳にはいかないみたい。

 私は砂浜の少年の方に駆け出した。


「……!」


 少年が苦し紛れに何かを放った。

 それは想像を遥かに超えるスピートで私の体の前面にぶち当たる。

 ヤバい……と思ったけど、どうしようもなかった。


「……ん?」


 が、しかし……私の体は何ともなかった。ただ、何かに押されたような気がしただけ。


『くそ……やっぱり……お前には……フェルティガ……』


 少年は苦しそうに呻くと、膝をつき、目を瞑って倒れた。

 多分、力を使い果たしたんだ。意識があるかどうかは分からないけど、ユウの言っていた通りなら回復するしかない状態になっているんだと思う。

 よく見ると、初めて会った二人組の、片割れの少年だった。


 ……本当ならトドメを刺すべきなんだろうけど、私には……人を殺すことなんてできない。

 それがたとえ……異世界の人でも。


 しばらく動けないことを祈りつつ、その場から逃げることにした。


 ……とは言っても、ここはどこ?

 一方は、海と砂浜。もう一方は小高い山になっている。そして、とにかく暑い。

 とりあえず山の方に行こう。どこかに隠れて、落ち着かなきゃ。


 山を登るには、ワンピースの裾が邪魔だった。持っていたナイフで裾をひざ上までカットする。

 ナイフは、剣術を習うようになってからユウに持っているように言われていた。

 長い剣は持ち歩けないし、小柄な私には向いてない。短剣ぐらいが空手の動きとも相まって一番使いやすかった。

 ナイフをホルダーにしまい、念のためワンピースのベルトに吊るした。


「……さて」


 ゴロゴロとした岩をつかみながら何とか這い上がる。

 サンダルにするか靴にするか迷ってたんだけど、靴にしておいて本当によかった。

 ところどころある平たい場所で休みながら、どうにか小高い山を登りきると、とりえず辺りを見渡してみた。


 ……何もない。

 海と砂浜……。見える範囲、すべて水平線だった。他に島らしきものもない。

 反対側の奥には森があって、何も見通せない。

 どれくらいの広さがあるのかわからないけど……無人島かな?

 それに、この風景……。絶対、本州じゃないよね。


 私はとりあえず身を隠すために森に入っていった。草木がたくさん生い茂っている場所に腰を下ろす。

 持っていたカバンを開けて、中身を確かめた。

 なくなったものは……ない。携帯は……駄目だ、圏外になっている。地図が見れたらどこにいるかわかったのに。

 とりあえず……休憩しよう。

 私は体育座りをして顔を伏せ、目をつむった。


 ユウ……今、どうしてるだろう? 私の場所、わかるかな?

 攻撃されてたけど、怪我してないかな?


『かなり手前……』


 さっき聞きかじった少年たちのテスラ語が蘇る。

 手前……っていうことは、着地する予定だったところまで着いてない、ってことだよね。

 ということは、本拠地はこの奥にあるんだ、きっと。


『お前には……フェルティガ……』


 最後の言葉、どういう意味だろう。

 そういえば、あの子の攻撃はどうして擦りぬけたのかな。


 ……ふと、同じ少年に攻撃されたときのことを思い出した。

 ユウを庇ったとき、あの少年の攻撃は私に当たった瞬間にかき消えた。

 今の攻撃はそのときより上だったと思う。すごく速かったし、避けられるようなものじゃなかった。

 咄嗟に繰り出したから、調節できなかったのかもしれない。

 ……でも、特に何もなかった。ただ……当たっただけ。

 ……ひょっとして。


「フェルティガが、効かない……? そう言ってたの……?」


 思わず呟く。

 何故かはわからないけど、そうだとすれば今までの謎がすべて解ける。

 初めての襲撃のとき、ユウのバリアが消えた……けど、あのとき、私はバリアを無効化したのだろうか。

 それ以降、ユウが私にバリアをかけられないのも……私がフェルティガを受け付けないから?

 そういう体質だった……ということなのかな。


『彼らはどうしたの! 何故ここに跳んでこないのよ!』


 遠くから女の子の声が聞こえてきて、肩が思わずビクッと震えた。

 間違いなく、テスラ語だ。仲間と私を探しに来たのかも知れない。

 私は咄嗟に草木の陰に身を潜めた。


 やがて二人の少女が現れた。一人は以前、さっきの少年と一緒に公園に現れて、ユウと闘った女の子だ。

 もう一人は右目を手で押さえ、考え込んでいる。


『……あっちよ。砂浜に姿が視えるわ。……二人とも倒れてる』

『スウェン、女は視える? どこにいるの?』


 ドキッとする。この女の子は、遠くを視ることができる能力なのかも。

 ……だとしたら、私が隠れてることなんて、すぐに……。


 スウェンと呼ばれた女の子は少し黙ると、くすりと笑った。


『ヴィリュ……そこに、いるわよ』

「!」


 スウェンが私のいる方を指差すと同時に、ヴィリュは物凄い勢いで駆け出した。背中から剣を取り出す。

 完全にバレてる。逃げるか、闘うか。


『ヴィリュ、殺しちゃ駄目よ!』

『そんなヘマはしない!』


 そう言うと、彼女は剣の向きを変えた。峰打ちするつもりらしい。

 かなり足が速い。どう考えても逃げるなんて、無理だ。

 ――闘うしかない!

 私は隠れていた草むらから立ち上がり、構えた。

 ヴィリュはニヤッと笑うと、走ってきた勢いのまま、剣を振り被った。


『はぁっ!』


 首を狙っていた。しかし隙がかなり多い。


「……っ」


 すかさずしゃがんで彼女の一太刀をかわすと、腹めがけて正拳突きを繰り出した。


「たぁ!」


 拳が何かに遮られる感触がしたが、踏み込んで構わず押し切る。


『ぐっ……!』


 ヴィリュが後ろによろける。

 私は素早く立ち上がり、反動を利用して後ろ回し蹴りを放った。ヴィリュの顎にヒットする。


『ぎゃっ!』


 ヴィリュが仰向けに倒れる。

 私はすぐに、彼女の後ろで立ち尽くしているスウェンに向かった。

 どんなに逃げても……彼女がいる限り、見つけられてしまう。早く、気絶させなくては。

 スウェンが咄嗟に私に向かって何かを放ったが、何も感じなかった。


『ヴィリュ……』


 スウェンがおろおろしている。


『……スウェン! そいつにフェルティガは効かないんだ! 無駄撃ちするな!』


 どうにか立ち上がったらしいヴィリュが叫んだ。

 次の瞬間、目の前でスウェンの姿が徐々に消えていく。

 ユウが前に言っていた……隠蔽(カバー)ってやつだ!


「待て……!」


 完全に消えてしまう前に首根っこを左手で掴むと、驚いた表情のスウェンが再び現れた。

 すかさず背後に回り手刀を入れる。


『うぐっ……』


 スウェンがその場に崩れ落ちた。

 全力で入れたからね。多分、立てないはず。


「……っ!」


 振り返ると、ヴィリュが私に切りかかっていた。

 私はナイフを取り出すと、辛うじて彼女の剣を受けた。キィンという、金属同士がぶつかる音が響いた。

 ヴィリュは目をガッと見開いて私を睨みつける。かなり息が切れていた。


『フザけるな……!』


 ジリジリと剣を押し付ける。

 この子はどうも激情家のようだ。体術も訓練したみたいだけど、ムラも隙も多い。体力も、私の方がある。

 スウェンも気絶させたし、彼女さえどうにかすれば、逃げ切れるはずだ。


 私は彼女の重心がかかっている方の足に思いきり蹴りを入れた。バランスを崩してよろめいたところをもう一度蹴り飛ばす。

 ヴィリュは後ろに転がった。その隙に、走って逃げる。


『待て!』


 とにかく走る。細い道らしきところを走り続ける。

 ふと、目の前の視界が開けた。

 ……崖だ!

 辺りを見回したけど、崖のすぐ下に山肌に沿った道があるだけだ。

 その道の奥は、再び森につながっている。

 どうやら、ここを走り抜けるしかないらしい。


 振り返ると、よろめきながらヴィリュが走ってくるのが見えた。

 私は覚悟を決めて崖沿いの道に降りた。

 細いといっても歩道ぐらいの幅はある。


『……食らえ!』


 ヴイリュが何かを放ったのが分かったけど、私には効かないはず。

 構わず走ろうとした瞬間、目の前の崖と道が見えない力で抉られた。足元が崩れ落ちる。


「きゃっ……」


 そうか、フェルを飛ばして崖を崩したのか……と気づいた時には遅く、私は崖から放り出されていた。

 下は砂浜……。両腕で頭を庇って空中で丸くなり、どうにか衝撃に耐えようと試みる。

 受け身さえうまくいけば……。でも……。


「……ユウ!」


 思わず叫んだ。


 ――お願い……助けて!


「――朝日!」


 不意に、耳元でユウの声が聞こえた。

 誰かが私を抱きかかえる感触。落ちるスピードが急に緩やかになり……周りの風の音が優しくなった。

 私はおそるおそる目を開けた。

 ユウが私を抱えたまま……ふわりと地面に降り立った。


「……ユウ!」


 私はユウの首にしがみついた。

 一番来て欲しいときに来てくれた。

 安心して、涙が出た。


「大丈夫か? 怖かったか?」

「……」


 私は泣きながら頷いた。

 やっと、肩の力が抜ける。

 ユウが私を砂浜に下ろしてくれたけど……足元がふらついてうまく立てなかった。

 ユウを見上げたけど、だんだんぼやけて……意識が遠のくのを感じた。


「……森の奥に……まだ……ごめ……」


 やっとそれだけ言うと、私の視界は真っ白に……なった。

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