そんな魔法は今のところ存在しない。
さて、すごいのかすごくないのかよくわからない魔法をカタリナが披露したわけだが、披露した本人のカタリナは非常に不満な表情をしてた。
「今の、対象をユラさんだけに設定していたはずなのに、どうしてお姉ちゃん分かったの」
「勘よ。伊達に何年あなたの姉をやっていると思っているの?……全く、あなたがすごい魔法使いだというのはわかるけど、もう少しましに使うことはできないの」
どうやらカタリナが私に対して使った意思疎通の魔法はリシェに対して使われていなかったらしい。
カタリナが使った魔法より、リシェの勘のほうがよほどか魔法らしいのは気のせいだろうか。
「それにしてもすごいですね、まさかケータイやスマホを使わずに離れた場所でも連絡が取れるなんて。でも自分の思っていることがそっくりそのまま相手に伝わるのはあまりいい気はしませんが」
「えぇ、分かってくれましたか。特に今私の使った魔法は非常に高度な魔法スキルがないとできない代物なんですよ。ユラさんが言ったスマホやケータイがどういう魔道具なのか知りませんが、この魔法が使える人なんてこの国でもあまりいないみたいですし。まぁこの魔法を使う人がたくさんいたらそれはそれは恐ろしいことになりそうですけど」
さっきまでの不満はどこへ行ったのか、私の一部嘘の混じった感想を聞いた途端再び自信を取り戻したみたいだ。
ずいぶんと調子の良い魔法少女だ。
さて、カタリナが魔法を使えることが分かった今、本題に入るとしよう。
元の世界に戻る方法だ。
恐らく私は誰かによってこの世界に召喚をされたらしい。
誰に召喚されたのはわからいが、召喚されたということは戻ることも可能なはずだ。
召喚系の魔法はきっと非常に高度な魔法だから私をもとの世界に戻してくれる人はあまりいないかもしれないが、もしかしたら私の目の前に座っているカタリナはそれができるかもしれない。
「ところでカタリナさん、」
「あ、かたりなでいいですよ、ってさっきも言ったはずなんですけど。この村ではみんなさん付けで呼んでないですから」
カタリナは再び私に注意する。
何だか調子が狂う。
「ところでカタリナ、君は誰かを異世界に召喚された人をもとの世界に戻す、そんな魔法を使えますか」
望みは薄いが、当たって砕けろだ。
だが、この村随一の魔法使いというのなら、可能性はある。
私の質問に対してカタリナはしばらくの間、沈黙してそして答える。
しかしその答えは私の当初予想していたものより斜め上をいく回答だった。
「……使えない、いや現状誰も使えないはずです」
なんと、誰一人として使えないらしい。
カタリナが言うには、召喚魔法を使うには当初解決すべき様々な問題があるらしい。
その問題は長い時間をかけて残り一つというところまで解決していったが、その最後の1つが解決されずにかれこれ数百年以上経過しているとのことだ。
これまで数多くの魔法学者がその問題解決に生涯をかけて取り組んだが、解決どころか解決の糸口すら発見できておらず、ついに魔法学会はこの問題を解いたものには多額の報酬を約束するという、『解決すべき7つの魔法問題』の一つに指定されたのだという。
まるで数学のような話だが、ではいったい私はどのようにしてこの世界に来てしまったのか。
召喚魔法を誰一人として使えないとなると、一体どのようにしてこの世界に来たのか。
今この状況は現実と見せかけて、本当は夢だというのだろうか。
実は今まで自分がいた世界というのは夢の中で、今いる世界が現実だということだってあり得る。
何だか精神が病んでしまいそうだ。
そんなことを考えていると、カタリナは私に質問してきた。
「ところでユラさん、どうしてそんなことを聞くんですか」
「いや、だって私、別の世界からこの世界に召喚されたみたいで。元の世界に戻れないかなと思っていまして」
「……召喚されたって……マジっすか!すごい、すごいよお姉ちゃん、私たちは今歴史的瞬間に立ち会っているんだ!」
「知らないわよ、そんなこと」
私の回答に対し妹は興奮し、姉はまるで興味なさそうな表情をする。
というより、リシェは私の言ったことを信じてなさそうだ。
それもそうか、誰一人として召喚魔法を使えないのだ。
信じろと言って、素直に信じてもらえる人なんてあまりいないだろう。
でも、幸いにも私がこの世界に召喚されたという証明はできるはずだ。
私はそう思いながらどこから話そうかと考えた。