魔法を使う。
「……何もコップを投げなくてもいいじゃんかぁ」
カタリナは起き上がってコップを投げた姉のリシェに向かって不平を言った。
「…………」
リシェは無言で返す。
「いやぁ、だって、分かりやすい魔法だし、男受けがいいと思って。ユラさんだってそのほうがいいでしょ?」
「あの、他の魔法とかないですか」
「欲は、欲はないんですか!?」
魔法をそのように使うとは、……ずいぶんとませた魔法少女だ。
……とはいえスカートの中は見てみたかったかも。
「……わかったよ。別のにする」
「それでいいの。ただし危ないのは禁止」
リシェはカタリナに対してくぎを刺す。
危ないのは禁止といったが、相当ヤバい魔法も使えるということだろうか。
というか風を使った魔法を披露するよりもそのヤバい魔法を見せてもらったほうがよかったのではないのか。
いや、ヤバい魔法が何かわからない以上穏便な魔法を使うべきなのか。
「それでできる魔法は相当限られてくるけど、……例えばこれとか?」
リシェの注意にカタリナは不満げだったが、カタリナは真剣な表情に変わった。
-あーあー、聞こえますでしょうか。今私はあなたの頭の中に話しかけています。-
……腹話術ではないのか?
カタリナは話していないのにもかかわらず、話しかけてきた。
脳内に話しかけてきたと言ってきたが、非常に疑わしい。
腹話術としか思えない。
-腹話術なんてものを魔法と一緒にしてもらっては困ります。-
カタリナは私の脳内に語り掛けてくる。
どうやら私が彼女が使っている魔法は腹話術だと思っていることにご立腹だ。
私の思っていることがどうしてカタリナに分かるのか不思議に思えることだが、いわゆる読唇術の類だろう。
-なかなか信じてもらえないですね。ならこれとかどうですか-
カタリナは脳内に語り掛けるとそのまま家から出て行った。
それから約一分後再びカタリナは私の脳内に語り掛ける。
-これならどうです、家からそれなりに離れています。もう腹話術とか読唇術とか言わせないですよ!-
おぉ
私は席を立ち、家から出る。
家からそこそこ離れたところにカタリナはいる。
さすがにこれだけ離れていると、腹話術を使っているとは思えない。
-ようやく信じてもらえましたか、私が魔法を使えることに、この村随一の魔法使いであることに!―
確かにカタリナが魔法を使えることは本当らしい、この村随一かはわからないが。
だが、この魔法はそんなにすごいことなのか。
離れた相手と何も介さず会話できるのはすごいことだが、人の考えていることがわかるのは厄介だ。
使い方によっては非常に便利な魔法かもしれないが、少なくとも妄想することができないではないか。
そんなことを考えているとカタリナは自信満々に語り掛ける。
―そんなあなたにいいことを教えてあげましょう。私の姉のスカートの中……いや、ちょっと待ってよお姉ちゃん、冗談だってばぁ-
リシェはカタリナのもとに全速力で駆けて行った。
カタリナは急いで逃げたがすぐに捕まった。
それにしても余計な一言の多い魔法少女だ。
……スカートの中が気になるところではあるが。