魔法を使おうとする。
窓から見える外の景色をただただ眺める。
魔法を使える人はいるとリシェは言ったが、窓の外から見ても全然異世界とは思えない
ヨーロッパにある中世に取り残されたのどかな村という印象だ。
日本ではまず見ることのできない光景だ。
いや、ドイツ村なら見ることができる光景かもしれないが、どう考えてもドイツ村ではない。
ドイツ村なら、○○にあるドイツ村と答えるはずだし、そもそもこのような小部屋に連れていかれるのではなく事務所の医務室に連れていかれるはずだ。
もしくは病院だ。
ここはアルタマエ王国という、まるでお昼休みはウキウキウォッチングしそうな王国のモトイイ村というとにかくよくわからない場所だ。
私は日本からこの異世界へ召喚された、と考えるのが妥当か?
だとすれは、幻覚熊とかいう熊が出没する森に私を召還させるのではなく、もっと安全な場所に召喚させろと、召喚者に対して文句を言ってやりたい。
「あぁ、なんであんな場所に召喚されたんだ。召喚されるならもっと安全な場所に召喚察せてほしかったよ。ある種の殺人未遂だよあれは」
そんなことをぼやく。
「なんだか色々とお疲れのようですが、お水でも飲みますか?」
私のボヤキを聞いてリシェは尋ねる。
水を飲んだところで何も変わらないけど、まずは落ち着きたい。
それにしてもどうして私はリシェと日本語で会話できているのだろうか。
疑問ではあるが、この疑問はあまり重要ではない。
今は元の世界に戻るほうが重要だ。
「お言葉に甘えます」
「では、ずっとここにいるのもあれですし、部屋を出ましょうか」
こうしてリシェと私は部屋から出た。
部屋から出て短い廊下を渡って土間へと出る。
土間には台所とテーブル、イスに棚しかなく、殺風景な土間だった。
そんな殺風景な土間に少女が一人、イスに腰掛けていた。
幼い銀髪の少女、おそらくリシェの妹だろう。
彼女魔法が使えるらしい。
しかしその姿からは魔法が使えるとはあまり思えない。
魔法使いといえばローブをまとっている印象があるが、彼女はローブをまとっておらず、リシェと何ら変わらない服装でいすに腰掛けている。
そのリシェの妹は薄い何かを手に持ち、不思議そうにそれを眺めていた。
薄い何か、よくよく見るとそれは見覚えのあるものだった。
そう、私のスマホだ。なくしてしまったのではないかと思っていたスマホを彼女は持っていたのだ。
「あ、スマホ」
私の声に反応したのかリシェの妹はこちらを振り向く。
「あ、お姉ちゃんが運んできた人、目が覚めたの?」
「えぇ。ええと、ユラさんでしたっけ。いすに座って待っててください。今からお水を用意しますから」
リシェはそう言って水の用意を始めた。
私はリシェの妹と向かい合わせに座った。
近くでリシェの妹を見ると背丈は異なるがリシェと瓜二つだ。
さすがは姉妹といったところか。
私とリシェの妹は軽く自己紹介をした。
リシェの妹はカタリナというらしい。
「ところでユラさん、幻覚熊が出没する場所で寝てたみたいですけど、勇気があるというか命知らずというかバカというか」
自己紹介を終えたカタリナは言う。
もうこれ以上、そのことは言わないでくれ。
なんだか恥ずかしくなる。
「そんなことより、カタリナさん」
「カタリナでいいですよ」
と、カタリナはつまらなそうに言う。
このままでは本題に入れそうにないので、彼女にこれ以上幻覚熊関係の話を言わせないために本題に入る。
「……カタリナ、君は魔法が使えるというのは本当かい?」
私の問いかけに対し、カタリナは目を輝かせながら答えた。
「えぇ、使えますよ。この村一番の魔法使いだっていう自信がありますから。もしかしてユラさんはそんな私のうわさを聞きつけてこちらに来たとか」
「それはない」
「なんですと!?」
カタリナはショックを隠せないようだが、正直幼くみえるし全然魔法を使うような恰好をしていないため彼女の言ったことが私には信じられない。
「そもそも君かなり幼いし、全然魔法使いっぽくないけど、本当に魔法使いなのか」
「ええ、魔法使いですとも。まだ年は十二ですけど、色々な魔法が使えますよ」
私の問いかけにカタリナは自信満々に答える。
彼女の自信満々に満ちた顔を見ると、これはもしかしたら本当に凄腕の魔法使いなのではないかと思えてしまう。
「たとえば?」
とりあえず聞いてみる。
非常にものすごい魔法を出すに違いないと信じて、いや、出してくれ。
「例えば風の力を利用してあそこにいるお姉ちゃんのスカートをめくるなんてこともできます。こんな風に!」
カタリナはそう豪語すると、早速カタリナの姉であるリシェのスカートをめくろうと、すごいのかすごくないのかよくわからない魔法を使おうとしたが、彼女の試みは不発に終わった。
リシェがカタリナに対してコップを投げ、それが見事にカタリナのおでこに命中、そのままイスごと後ろに倒れてダウンしたからだ。
私に対してバカといった年齢十二歳の自称この村一番の魔法少女は、彼女が私をバカにした以上にバカだった。