予想は証明される。
「……あの、大丈夫ですか?」
リシェは申し訳なさそうに聞く。
痛い、あそこまで強く頬をつねらなくていいだろうに。
加減というものを知らないのだろうか。
「大丈夫です、一応……。あと、遅くなりましたが助けてくれてありがとうございます」
私はそう答えながら、そういえばまだお礼を言っていないことに気付き、リシェにお礼を言った。
「どういたしまして」
リシェがそっけなく返す中、私はスマホを探す。
もう、電波の届く場所にいるだろう。
まずは会社に連絡だな。
そう思いながらあたりを見回したてスマホを探したが、スマホは見つからない。
確かずっと手に森の中を歩いていたから、スマホをしまったりはしてないはずだ。
「あの、僕のスマホ知りませんか?」
私はそう尋ねると、リシェはしばらく沈黙したのち、首をかしげながら聞いてきた。
「……スマホ……ですか?それっていったい何でしょうか」
……スマホを知らない?
おかしくないか?
何かがおかしい、変だ。
妙な胸騒ぎがした。
自分は今、ありえない事態に遭遇しているのではないだろうか。
でも、そんなことはあり得るのだろうか。
本当にこれは現実なのか、実は夢ではないのではないか。
色々な考えが巡る中、リシェは聞く。
「あの、本当に大丈夫ですか?顔色が悪くなっているように見えるんですが」
正直な話、全然大丈夫ではない。
頭がおかしくなりそうだ。
いや、もう頭がおかしくなっているのではないだろうか。
ある予想に思い至ってしまい、そしてその予想があながち間違ってないんじゃないかと思っている時点でもう頭がおかしい。
「……色々と聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「えぇ、いいですよ?あまり変なことは聞かないでくださいね」
私のお願いにリシェは少々戸惑いながらも了承したので、私はリシェに遠慮なく質問をした。
「ありがとうございます。ではまず、一体今西暦何年の何月何日ですか」
「西暦……聞いたことない暦を使われているみたいですけど、今は王国歴733年、11月11日ですね」
「ここはどこです?」
「ここはアルタマエ王国のモトイイ村です」
「日本、アメリカ、ロシア、イングランド、フランス、中国、エジプト、イラク、ローマ、トルコ。この中で聞いたことのある国、もしくは土地はありますか」
「ないです。どれも初めて聞く地名です。」
私の問いにリシェが答える、それがしばらくの間続いた。
リシェが答えるたびに私の予想が確実に正しいと証明されていく。
本来、ある予想が証明されていくことは非常に喜ばしいことだ。
フェルマーの最終予想しかり、ポアンカレ予想しかり、ケプラー予想にしかり。
しかし今回の場合、それは非常に喜ばしくない。
そして私はありえないことをリシェに聞いた。
「あの、非常に変なことを聞きますが、魔法は、使える人はいますか」
「はい、使える人はいます。私は使えないですけど、妹は使えます。そもそも魔法が使える人がいるなんて、当り前じゃないですか」
あぁ、なんということだ。
リシェが嘘を言っていない限り、あり得なことのようだが、どうやら本当のことかもしれない。
異世界に来てしまったようだ。
あまりにも突飛な予想が証明されてしまった。
本当はもっとリシェに様々な質問をして自分が異世界に来てしまったことを確かめるべきだが、現状、何を聞けばいいか思い浮かばない。
私は頭を抱えながらさっきまで寝ていたベッドから出る。
そのままふらふらと歩きながら窓の外眺める。
「あぁ、……のどかな風景だなぁ」
今、自分にできること、それは窓から見える外の景色を見ながら現実逃避をするくらいだった。