目が覚めるとそこは森の中だった。
さて、まず昨日のことを思い出そう。
私、20代男性の由良響は彼女いない歴=自分の年齢、職業は冴えないプログラマだ。
……自分で言うのも恥ずかしい。
そんなことはどうでもいい、昨日のことを思い出そう。
昨日は確かいやな上司が出張でいなかったから、気分良く仕事を行えた。
仕事も速く終わり珍しく定時に上がることができたので、帰りにゲーセンによってクレーンゲームをした。
相当な金額をかけてしまったが、好きなアニメのキャラクタのフィギュアとぬいぐるみをゲットすることができた。
そこまでは覚えている。
そこから先が思い出せない。
ゲーセンで遊んだあとの自分の行動を思い返してみるが、なぜ自分がこんな森の中にいるのかがわからない。
そもそもここはどこなんだ。何県のなんという町にいるんだ。
スマホに搭載されているGPSを起動しようとするが、電波がまったく届かない場所に来てしまったみたいで、圏外と表示されてしまう。これでは正確な場所がわからない。
そもそも今時電波の届かない場所があるのだろうか。
富士山の樹海でも電波は届くんだぞ。
……たぶんこのままこの場所にいても何にも変化はないだろう。
そう思った私はショルダーバッグを肩にかけて、片手にスマホ、片手にゲーセンの景品が入った袋を持ちこの森の中を歩いた。
どうやってこの森に来たかわからないけど、この森に入ったのなら確実に出ることは可能だ。
歩いていたらきっとスマホの電波が回復するはずだ。
そうすれば電話をかけて助けを呼ぶこともできるし、GPSを起動して正確な場所がわかるかもしれない。
多くの人に迷惑をかけてしまうけど、助かるかもしれない。
そんな期待を胸に抱いて、ただひたすらに歩いた。
あれからどれくらい時間がたっただろうか。
歩けども歩けども森から抜け出すこともできないし、スマホの電波も回復する気配を見せない。
おなかもすいた。そういえば今日は何も食べていない。
そもそも昨日の晩御飯すら食べたかどうかすら怪しい。
足が痛い、息が上がる、普段から運動しておけばよかったと後悔する。
休憩を挟みながら、森の外を目指し歩き続けたが結局森の外には出ることができず、気づけば周りが暗くなってきた。
夜になったらしい。
はて、そんなに歩いただろうか。
とにかく1日中歩きつづけたので、疲れた。横になりたい。
雑草が生い茂る地面だが、会社の床で寝るよりは気持ちいいだろう。
そう思った私は雑草が生い茂る地面に横たわった。
そして私は深い深い眠りについたのだった。