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第1ステージ終了

「はい、お疲れさーん。」


 その声が聞こえたのはいつだろうか。いや、ついさっき。たった今ということは分かる。ただ、思考と身体の疎通が上手くできずに混乱しているのだ。身動ぎすらしたくない中でハルは近づいて来る者へナイフを振るいながら逃げるだけの機械のように霞んだ視界の中で足掻いていた。


「ありゃ、壊れたか……? いや、まだいけるな。うんうん。ヒロインも出てないのに主人公に死なれたら困るしよかったよかった。少し休ませてからまた話をするか。」


 ハルの前に現れ、空間を一瞬で入れ替えて白い世界の中に連れ込んだ妖しい人型はそう言ってハルの懐に入り身で入ると問答無用で物理的に寝かせる。


「はい、疲れの取れる薬っと……後精神安定剤出して……そうだなぁ。バグがあって少々ズルい感じもしないでもなかったが割と頑張ってたからボーナスポイントもあげるか……いや、その辺は彼が起きてからにしよう……先にやるべきことをやらないとな……」


 妖しい人型、グロムギリーはそう言って倒れ込んできたハルの頭に手を翳し、情報を探る。


「さぁ、ヒロインを探そうか……」










「……っ! こ、ここは……?」

「おはよう。良い一日になりそうだな。」


 ハルが目を覚まして周囲を警戒するように見渡すとそこには白いイスとテーブルのセットでお茶会を楽しんでいるグロムギリーと三角座りでこちら側に背を向けている艶やかな黒髪をした同世代程度の女性がいた。


「……えっと、あちらの方は……?」

「……君が好きな女性だ。この世界からの観測世界名は『俺の彼女は最強魔王系ヒロインでした』とか何とかいう感じのやつで、連れて来た奴はユーナ。」


 その言葉を聞いてハルは驚きのあまり動けなくなった。グロムギリーが連れて来たという少女は最強系ヒロインの更に上を行く理不尽系の師匠だ。あまりにチートすぎるので基本は物語に関与せず、彼女がもたらしたモノが主人公たちの混乱を招くという設定で出て来るくらいだが、僅かな見せ場でも最強と名高く、インフレが進む物語の中でも敗北を知らないまさに最強の美少女と言う設定になっている。


「え……ほ、ホントですか……? あの、そんな凄い方ここに連れて来て……」

「……アハハ……私、全然すごくないんだぁ……その辺にいる少しだけ可愛いくらいの小娘だよ……」


 それまでこちら側に背を向けていた少女が暗く乾いた笑みを浮かべながら三角座りで埋めていた顔を上げてこちらを見ていた。姫カットと膝で大部分は隠されているものの、その美貌は凄まじく、ハルが自らの語彙力の少なさを恨むくらいの美しさだった。

 しかし、今はそれだけに注目していてはいけない。ハルの知るユーナという理不尽キャラは大胆不敵で自信に溢れ、常に明るい存在だったはずだ。それが見る影もなく落ち込んでいる。どういうことかとグロムギリーを見ると彼も少し困ったようにして説明をしてくれた。






「……まいったな。こりゃ俺の手に余る……」


 ハルの嗜好を調べたグロムギリーだったが呼び出す存在が思いの外格上で自らだけで呼び出すと殺されかねない相手ということを知り、思わずそうぼやいた。


「まぁ……約束は約束だし、ウチのお頭に掛かればなんてことないからいっか……」


 しかし、すぐに切り替えて彼は宴会最中の現場に飛ぶ。そこでは加護を与えた人間が巨人ゾンビに殺されて賭けに負け、煽られているなどという些末な争いはあったが割と皆が元気で飲み会をしていた。


「お頭、ちょっと危険なのを呼びまーす。」

「あ? 何で?」


 上座でまさしく絶世の美少女に手酌をされていた黒というイメージと死の概念をまとったかのような男が微妙に嫌そうな顔をしてグロムギリーの宣言に応対するとグロムギリーは絶世の美少女からの威圧を感じつつなるべく軽く応えた。


「いや、余興くんのヒロインで必要になったんで……」

「ふーん……まぁいいんじゃね?」

「ってことでほい。」


 許しを得た瞬間、気が変わる前にとばかりにグロムギリーは黒髪の姫カットをした美少女……ユーナをこの場に呼び出した。彼女は周囲を見るや否やすぐに殺気と威圧をばら撒いて辺りを恫喝する。


「……私を呼び出したということは私が神殺しで、【世にある真は我のみアブソリュートゴッデス】の能力を持っていることを知った上で呼び出した。そういうつもりだと分かってるんだな?」

「おいグロムギリー、これちょっとバランス悪くね? 第3ステージの施設攻略より第4ステージ予定の化物討伐の方が難易度、下になるじゃん。」


 ユーナのおどろおどろしい名乗りを遮って黒ローブの男が呑気にグロムギリーにそう言うとユーナは無言で手を翳し、それを振った。


「何だ?」

「……へ?」


 ユーナのやろうとした所作は宴会の席にあるすべての物を薙ぎ払い、地面に陥没させるくらいの念動力を発動させる物だった。しかし、何も起きない。


「……まぁいいや。おいミカド、ちょっとこれが処女かどうか確認して来て。」

「ヤダよ……カミさんに怒られるだろ……あんた絶対に告げ口するし……」

「馬鹿野郎! 未成年主人公にとってヒロインが処女かどうかは物語でどれだけ重要だと思ってるんだ! お前の家庭の一つや二つくらい賭けろよ!」

「お父様お父様、私、処女です。安心してくださいね?」

「……アリア、そういうことは人前では言わない。」


 いきなり放置された挙句酷いことを言われたユーナは激昂して別のスキルを発動させる。そのつもりで動いたのだが何もできない。寧ろ自分が使えていたはずの能力の使い方が分からなくなり始めた。


「あ、あれ……?」

「仕方ない……俺が視るか……最悪処女膜付けないとなぁ……あ、こいつ処女だわ。云千年生きてるのにまだ処女なの? モテないんだねぇ……」

「こ、こんのっ……!」


 遠距離攻撃の術を全て失ったユーナは肉弾戦に移ろうとしてすぐさま手酌をしていた絶世の美少女に捕獲された。絶世の美を誇る彼女は嘆息しながらユーナのことなどまるで意に介していないようで黒ローブの男と会話を続ける。


「……お父様が手を出さないせいでどれだけの女性がどれだけの間純潔を守っているのか……はぁ……私だって千年単位じゃ……」

「……俺は嫌だって言ってるんだが? 誰かとヤりたいならどっか行けよ……まぁ、客人が来てる時にする話じゃねぇな。取り敢えずそこの女には忠告。お前は今から出会う主人公がゲームクリアするか死ぬまで能力は戻らない。そしてお前が意図的に主人公を殺した場合……徹底的に嬲る。後、監視下に置かれるから妙な真似はしないこと。以上だ。グロムギリー連れて行け。」


 黒い男の言葉でユーナは変な場所に連れて行かれることが分かったが動けない。近くにいる絶世の美少女に見惚れ、これまで感じたことのない劣情を催して頭が混乱しているのだ。そして女性として完敗した劣等感も意識の中に捻じ込まれ、混乱している間に彼女はこの場所へと連れて来られ、全ての自信を失って現在に至るということらしい。





「……そうなんですか。何か俺の所為で……」

「いや、ウチのお頭は害意とか敵意がない相手にはそこまで酷いことはできない。来た瞬間に喧嘩を売らなければ情報だけ採って元の場所に返すはずだったと思うよ。喧嘩売ったのがお終いだったね。」

「あはははは……まぁ、いいけど……ね……はぁ……あー死にたい……」


 最強のヒロインが援軍としてやってきたと思った瞬間死にたがっているという状態に陥っているので困るハルだが、グロムギリーは自己紹介は後でしてくれと言って次のフェイズの説明を開始した。


「さて、次は人が多かった場所での10日間のサバイバルだ。ゲームクリアの条件は君が生き残ること。そこの彼女はゾンビには食べられないから安心しろ。ただ、捕まったら何故か犯されるらしいが……」

「えっ!? な、何でですか?」

「あー……私の能力を奪った奴が悪い……能力があればこんな世界消し炭にしてやれるのに……」


 呪詛の念を吐きつづる彼女のことはさておいてハルの質問にグロムギリーは答えた。


「サルクァツァは進化するからな……今はβとγの間くらいだ。γになると宿主の知性が少しだけ使えるようになる。サルクァツァの原種がウチのお頭の魔力を忌避するから能力を封じられる際に魔力を捻じ込まれた嬢ちゃんにいかなる種類のサルクァツァも入って来ないが宿主の知性を使える段階になると一部のゾンビに社会性が生まれて家畜代わりに犯して増やそうとするらしい……詳しいことは知らん。お頭に訊いてくれ。」

「嫌だね! 訊きに行くぐらいなら自殺してやる!」


 ユーナの強い拒絶にハルは逆らわずに同情の念を込めた視線を向けて頷いておく。それを見てグロムギリーは続ける。


「じゃ、これからも頑張れ……あ、言い忘れたがそこの嬢ちゃんの能力はポイントで分割したり一括だったりして買い戻せるからな。今度こそしばらくのお別れだ。」


 そう言い残してグロムギリーは消え、二人は見知らぬ民家に飛ばされた。


「えぇと……俺はハル。ユーナさん、これからよろしく……」

「……能力を買い戻してくれたら役に立てると思うけど、それまでは目の保養位に思っていて。ユーナよ。これからよろしく。」


 そう言って二人は手を取るとこの世界を生きるために再び足掻き始めるのだった。




 1部完結です。しばらく更新はないデス。もしかすればこのまま完結扱いになるかもしれないです……ごめんなさい。


 2016年10月1日追記。


 紛らわしいので一応完結扱いにします。ポンコツ系ヒロインとのやり取りや他の能力者たちとの絡みなどは……いつか、出来ればいいなぁくらいのやる気です。

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