表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

バグ

「……これで行こう。もしもーし……」

「ぁ~っ! ふにゃぁ……やっと決まったかにゃ……?」


 ハルは買う物を決めて既に微睡の中に落ちていた猫を起こし、135ポイント中110ポイントを使って買い物を行った。持って来た物を見て三毛猫は顔を洗いながら笑う。


「にゃっにゃっにゃっ……みゃ~それが無難ぶにゃんだにゃ。初心者セットで100ポイント、それと猫お呼び2つで10ポイント。合計110にゃ?」

「どうやって払えば……」

「手を出すにゃ。毎度アリにゃ~」


 至極適当なノリで手を振られ、次の瞬間には外に放り出されていたハル。周囲には既に三毛猫の姿も見当たらなかった。



 直後、脳内で非常ベルのような音が鳴り響いた。


「っ~!」


 ―――バグのお知らせ―――


 今回、初回猫屋ご利用に当たって時間制限なしというサービスを行っていたため、周囲の時の流れと差異が生まれてしまいました。


 問題:ゲーム開始日より既に7日目まで進んでしまっていること。


 ゲーム参加者の皆様方にはご迷惑をおかけしますが、再発のないよう尽力いたしますので何卒死なないように足掻いてください。尚、天地巻き戻し(ロールバック)は行いませんので残り一日、感染が拡大したこの地域で頑張ってください。



「は、はは……」


 脳内に送られたメッセージを聞いてハルは乾いた笑顔を浮かべる。そしてそれはすぐに歓喜へと変わった。


「あと、1日だ……! フフフ……アハハハハ! 何だ、簡単じゃないか……もう家から出なければすぐに終わる……しかもポイントまで貰えるとか……」


 お詫びとして100ポイントが贈呈されているのを感じ、笑いが止まらない。しかし、その直後に背後から物音がし、すぐさま緊張状態に戻ったハルは黙って急ぎ足で家の中に戻って行った。


 そして、目を赤くし明らかに生きてはいないだろう蛇が鎮座しているのを目撃する。元は青大将だろうか、3メートル近い体にハルの手首程の太さをした明らかな異常種だ。


「ぅあぁっ!」


 思わず飛びずさるハル。その物音を感じたわけではないだろうが、蛇はハルの方へと鎌首をもたげ、そして移動を開始し始めた。それを見てハルは生唾を飲み込む。


(だ、大丈夫だ……頭を潰せば死ぬはず……冷静に、飛び込んできたところを避けて攻撃が当たらずに隙だらけになったところで頭を……このナイフで……!)


 ハルは猫屋で買った恐ろしい程の切れ味を誇るらしい刃渡り15センチほどのサバイバルナイフを手に持ち、蛇を注視する。買った時の説明書によればこのナイフは刃の方向であればどう切っても刃筋が立つ。しっかり見てさえいれば殺せるはずだ。


 息を殺して見合う両者。両者の距離が残り2メートルとなったところで急に蛇はその動きを止め、体を寄せ始める。


(な、何だ? 急に……)


 ハルが今か今かと待っていた次の瞬間。蛇は体をばねのようにして飛び掛かって来た!


「うわっ!」


 大きく飛び退くハルだが、蛇はその巨体を鞭のようにしならせて着地と同時に尾をハルに絡みつかせ、体の角度を変えた。


「な、何だこいつ!? こんな動きするのか!?」


 焦りつつナイフを振るい、蛇の体に突き立て、斬り捨てるハル。しかし、使い方が悪く体の半分までしか切断できなかった。

 だが、その切れ味にハルは暗い笑みを湛え、全能感に陶酔し、頭の状態が変に変わる。蛇は再び攻撃を仕掛けてきたが、ハルは特にそれを恐怖に感じることもなく適当にナイフを振るい、頭とはいかないが長い体を短く切断することに成功する。


「アハハッ! それじゃもう飛べないな! ざまぁみろ!」


 のた打ち回る蛇に今度こそ止めを差し、ハルは大きく息をついてナイフの血を拭い、それを掲げる。


「すっげぇ……滅茶苦茶切れる! これで初心者セットとか……いや、これはもう銃を越えてるね。まぁ微妙に怖いけど……」


 飛来物を抜刀術や居合のように斬り捨てることが出来る程の切れ味にハルは興奮する。初心者セットの1つがこれほどまでに使えるのならば、他の物も使えるはずとばかりに別段急ぐ必要もないのに急いで初心者セットから小さな薄い本を取り出してそれを読み始めた。


 タイトルは「サルクァツァ-β」の概要とパニック時のサバイバル方法について。非常に簡素にまとめられた箇条書きの本だ。


「スゲェスゲェ……これは、もう最高だわ。選んで正解……銃とか要らないわ。」


 興奮しながらハルは本を読み進めていく。そんなあるページの中に蛇の食べ方について書いてあった。


「……これ、喰えるのか……?」


 ページの最初の方にサルクァツァ-βは熱により死ぬこともあるとあった。そして目の前にある蛇。頭部付近はまだのた打ち回っているが、身体はもう動いていない。


 本によれば独特の味ながら、強いて言うなら鶏に近く、繊維のしっかりとした肉質らしい。生臭さも殆どなく蛇だと言われなければ何の肉か分からないような味で、美味しいと告げられている。


「……本によれば首刎ねても体もまだ動いてるはずらしいけど。まぁ楽だしいいや。何々? 最初は内臓を掻き出し、切断面付近から少しずつ皮を剥いで……一気に剥ぎ取る。」


 やってみた。内臓を出すために体を縦に裂き、皮を剥ぐ。思いの外剥ぎ易かった。この個体はおそらくアオダイショウなので変な匂いが出るため、内臓を出した後は一度手を洗って匂いが肉に付かないようにしてから続けて調理を行う。


「……癖がないから少し物足りなく感じるかもしれないと……まぁここで初心者セットの出番だな。ガーリックパウダーとかハーブソルトで……」


 自分の置かれた状況を一時忘れて楽しくなり始めるハル。出来上がった料理は美味しく。誰もいないのにハイテンションで静かに過ごすと言う器用な真似をして半日過ごし、昼寝に入った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ