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籠城

「……あんまり美味しくなさそうだし、量的にも心許ないな……」


 ハルが老婆を倒してから少しだけ落ち着いて、台所を探した。ハルが見つけた時、台所は勝手口のガラス戸の一部が罅割れ、小さく欠けていたり様々な物が散乱して異臭を放つ最悪の環境だった。


 それでもハルは探索した。結果的に簡易的に食べられる物は全て食い荒らされており、缶詰や瓶詰の物、もしくは透明でない袋で個包装されているお菓子や飴などが少しくらい残されているということが分かった。


 開けっ放しの冷蔵庫、冷凍庫からは水が滴っており、台所の水も出っ放しだ。ハルはこんな時ながら水道代と電気代が大変だろうなと場違いなことを思いつつ缶詰の乾パンと水道から水を汲んで持って来て食べ始める。


「……ごめんなさい、いただきます。」


 盗品であることに負い目を感じながら食べたソレはハルにとって久しぶりの味のある食事だ。水気がなく、給食などで出た時にはマズイから牛乳と一緒に食べないと食べられた物ではないと思っていた乾パンは味わって食べるとバターの味とほんのりとした塩味、そして微かな甘みを伴っており美味しかった。


 乾パンなどを食べ終わって人心地ついたハルは溜息をつく。2階から騒音がして一瞬身が強張るがそれは無視だ。まずはここに戻って来た目的、これからの計画について考える必要がある。


「……どっちにしろ、食料は必要だよな……」


 ハルはこれまでの傾向からゾンビの仮説を立てる。


「知能は、馬鹿な犬くらい。透明な袋で食べ物が見えてたら破って食べてるみたいだけど、飴は放置……舐るってことが出来ないなら人間としての行動はとれないのかな。1動作は出来るが複合動作は無理と思われる……」


 単なる予測だ。仮説を立てるだけなら只なので過信しないように考えられる生態を独りぼっちの空間で告げて行く。


「刺激には反応するけど、慣れもある。光刺激の反応は分からないけど音にはおそらく反応してる。でも反応しない場合もあることを踏まえるとこのゾンビたちは基本的に同じ動作をしているだけ……?」


 試しに2階の騒音について計測してみよう。そう思って時計を探し始めてようやくハルは通信器具を使おうとしていたことを思い出した。


「とにかく、日付……俺が縛り付けられて飲まず食わずでも生きてられたんだから1週間以内のはず……今日は何日だ……?」


 ハルには永遠にも感じられたが、水なしで生きていることができたので精々3日程度か。そんなことを考えつつ電波時計を見ると案の定そのくらいだった。


「……まだそんなに時間が経ってない……なら生き残ってる人たちは居るはず。連絡だけ取って情報提供を呼びかけるべきか……いや、生き残るために人がいるのは邪魔か……」


 浮かんでは消えて行くアイディアたちを整理してハルは溜息をつく。


「何でこうなったんだろうなぁ……」


 こんなことを考えて板も役に立たないことは分かっているがそれでも言わざるを得なかった。一先ず、その考えは放り投げて一階にある他に役に立ちそうな物を探して行く。


「ケータイ……ガラケーかよ……電源も入んねぇし……」


 タンスの中に充電器と携帯電話が入っていた。ハルは充電しながら携帯を起動しようとしてみるが動かないのですぐに充電を止める。


「通帳……結構入ってるけど使えないよな……おっ、懐中電灯……これは使えそうだ。ライターも……」


 がちゃがちゃがちゃ! バンバンバンバン!


「っとぉ……びっくりした……そう言えば2階……」


 そこでハルは考えた。


(……動きが拘束されてる内に、殺してポイントを手に入れるか……?)


 2階に居られるのも不安の種だ。それに、この音に慣れていない外部のゾンビが来た場合に引き寄せられても困る。


(様子だけでも見るか……)


 臭いものに蓋をして放置しておこうという弱気を押し殺してハルは2階に上がることを決意して玄関口付近の階段を上がる。マップの赤い点はまだランダムに動いているようだ。


 こちらに気付いた様子は、ない。


 ハルはフォークを握りしめ、鉈がしっかりと装備されていることを確かめてハルは足音を殺しながら廊下を進む。


(……っ! 酷い匂いだ……)


 そこは腐乱臭や糞尿の匂いが酷かった。おそらく、このゾンビ……山本の御老人がまだ感染していながらも自我があった頃に鎖を付けられながらも下に居た老婆が食事を持って来ていたのだろう。それが、腐ったのだとハルは推定した。


(あんまり長居したい場所じゃない……早く殺さないと……)


 2度目の殺人。相手は死体であることは明白だが、前回のパニック状態での殺害とは異なり、ある程度冷静に、明確な意思を持って行うそれはハルに躊躇いを持たせる。

 逆側の壁に取り付けられた窓が3センチ程度だけ開いており、そこから風がこちらに入って来る。息もしたくない場所だが、ハルは落ち着かせるために無理矢理呼吸を大きく行う。


 相手が気付いた。


 走り寄って来るが、首輪から大黒柱に繋いである腐りの長さが足りない。つんのめってバランスを崩したところにハルのフォークが突き刺さり、山本ゾンビはその場に転倒。残飯だったと思わしき腐った生ゴミが床にぶちまけられる。

 それも気にせずゾンビが再び起き上がって攻めて来るのを何度かフォークで突き刺し、ハルは確信した。


(胴体じゃ、効かないみたいだ……やっぱり頭か。)


 風穴だらけでも元気に襲い掛かってくるゾンビを見てハルは頭部目掛けて思いきりフォークを突き出した。頭蓋骨とぶつかって手が痺れる。

 しかし、加護を得て少しだけ強化されたハルの腕力はそのフォークで相手の頭を貫くことに成功する。


 ―――10ポイントを獲得しました―――


 無機質な音がそう告げるが、ハルは目の前の存在を倒したことで視界が開いて部屋の奥にある物に気付く。


「……! ノートパソコンだ。」


 おそらく、生前の山本さんが暇をしないで済むようにここに運んでいたのだろう。仮に感染しなければ二人で籠城する予定を立てていたのかもしれない。

 だが、死体に物は必要ない。情報もだ。ハルはパソコンのマウスを動かしてみた。電源は入っているようだ。


(匂いが酷いし、下に行ってから見るか……)


 ハルはルーターを引っこ抜いてノートパソコンを持ち、1階へ移動する。その前に一応2階に役立ちそうなものはないか確認した。


「……特にないな。」


 ハルは今度こそパソコンと周辺器具を持って1階へと戻って行った。




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