即位と戦いの始まり
イサベルの兄で国王エンリケ4世はイサベルがバティコの監視を掻い潜って極秘に結婚した事に憤慨していた。
更に追い討ちを掛けるようにイサベル懐妊の知らせが届き、エンリケ4世の不安を駆り立てた。
細やかなお祝いの後、イサベルとフェルナンドはそのままバリャドリッドで新婚生活を始めた。
そして翌年には元気な女児を出産した。
極秘の結婚に憤慨し、男児誕生を危惧していたカスティーリャ国内のエンリケ4世派は女児の誕生に安堵した。(というよりは鼻で笑った)
一方男性優位なアラゴンでは男児誕生を期待していたフアン2世を大いにガッカリさせる事になった。
母親や母方祖母と同じイサベルという名を付けられた王女は両親の愛情を一身に受けていた。
誕生した子が女児であった事でほんの少し警戒心を緩めたエンリケは度々イサベルの許を訪れる事になった。
しかしそれはある種の牽制を意味している事ぐらいイサベルには分かっていたし、フェルナンドの存在によって何とかアラゴンを後ろ盾に対抗できる状態だったのだ。
結婚の前に結んだ契約の1つにフェルナンドがイサベルとカスティーリャに滞在し続ける事を明記した所以だ。
だが、これは屢々破られる事になる。
当時アラゴンではカタルーニャなどの一部の都市で内乱が多発していた。
こういった都市は自治権を獲得する為、他国(この時はフランス)の援助を受けていた。
内乱の黒幕はフランスとも言える。
フェルナンドは王太子として年老いた国王の代わりにこういった内乱を鎮めなければならなかった。アラゴンの王位継承権がかかっていたのだ。
その為に屢々カスティーリャを留守にしたのだ。
(フェルナンドがイサベルにカスティーリャ出国の許可を要請する)
「カタルーニャの内紛を鎮めないといけないんだよ」
「そんなの困るわ!エンリケがしょっちゅうこっちに来るから貴方には此処にいて欲しいのよ!」
「悪いけどそれは出来ない。アラゴンの王位がかかっているんだ」
「頼むからそんな顔をしてくれるな。君には似合わないよ」
(イサベルの部屋を去ったフェルナンドとその側近)
「私が居ない間、お前が私の代わりにカスティーリャの事を考えておいてくれ」
「奥様の事を信頼されていないのですか?」
「今は私に何も質問してくるな。何も言わずに言った事に従ってくれ」
フェルナンドがアラゴンに帰国した時、既に愛人アルドンサとの間に庶子アロンソが生まれていた。そしてフェルナンドがアラゴンに滞在している間に庶子アナが生まれた。
庶子として生まれたアロンソはフェルナンドの嫡子イサベルと同い年であった。
フアン2世はフェルナンドの跡目をアロンソに継がせるのはどうかと考えたが、フェルナンドはこれを拒否。現時点では嫡子イサベルこそがフェルナンドの跡目を継ぐべきだと主張した。
アロンソは後に即位した父フェルナンド(2世)の摂政としてアラゴンを実質的に支配する事となる。
フェルナンドがカタルーニャの内乱を鎮めている間にカスティーリャでは国王エンリケ4世が寂しく崩御した。父国王フアン2世が崩御した時とほぼ変わらない歳であった。この時、既に王妃フアナは不倫を理由に離婚されてポルトガルに帰されていた。
そしてエンリケ4世の喪が明けた後、イサベル王女は女王イサベル1世として即位する事を宣言し、王配(共治王)となるはずの夫フェルナンドの帰還を待たずして、議会があるセゴビアで戴冠式を挙行した。
「私は兄とは違って強い国王になる。神だけが私とこの国を引き離せるのだ!」
内乱を鎮めて帰国したフェルナンドは、顔にこそ出さなかったものの内心戸惑った。アラゴンでは男性優位である為、女王が即位する場合、夫も共同で戴冠するのが慣例になっていたからだ。
こうして戴冠式を挙行したセゴビアで政を始めたイサベルとフェルナンドは手始めに王位継承問題にぶち当たる。
国王エンリケ4世の遺児フアナ王女だ。
フアナ王女は叔父に当たるポルトガル国王アフォンソ5世と結婚してポルトガルにいた。ポルトガルはフランスと同盟してカスティーリャを侵略し、フアナ王女をカスティーリャ女王に擁立してカスティーリャを吸収して連合王国樹立を画策していたのだ。
ポルトガルにいたエンリケ4世を支持していた貴族達はレオン(レオン=カスティーリャ王国の北側)を拠点として侵略し、イサベルとフェルナンドは思わぬ事態と軍の規模の大きさに戸惑っていた。
イサベルが死産したのはその矢先の事であった。臨月に入っていたイサベルはフェルナンドの女性関係を側近の1人に調べさせていた。やはり愛人と庶子2人がアラゴンにいる事が発覚して1人で泣いていたその瞬間、腹部に激痛が走った。
医師の診断の甲斐なく、出てきたお腹の子は既に亡くなっていた。
亡くなった子は男児であった。
イサベルが死産した悲しみから立ち直れないでいる間、フェルナンドは自陣営の軍を思うように動かせない事に苦しんでいた。フェルナンドはカスティーリャ側の信頼を完全に得られているわけではなかったのだ。そして戦況があまり良くないままひとまず退却する事にしたのだ。
フェルナンドはその途上でイサベルが死産したという知らせを聞いたのだが、その時項垂れようといったら無かった。
傷心のイサベルの許にフェルナンドが帰還する日が近づいた。
(要塞からフェルナンド一行を見下ろすチャコンとゴンサロ)「陛下、あれが貴女の為に戦った男たちの軍勢ですよ」
(虚ろな眼をしたイサベル)「勝ってもないのにオメオメと逃げ帰った臆病な男共であることよ」
(出迎えせずに玉座に座るイサベルに激オコぷんぷん丸なフェルナンドが乗り込む)
「此処の女王は帰って来た軍勢に激励どころか出迎える事もしないのか(怒)」
(叫ぶフェルナンドに対してイサベルも怒鳴って応戦する)
「勝ってもないのにオメオメと逃げ帰った臆病な男共が何を言うか(怒)」
(血圧が上がったイサベルはその場にいた者達に退室するように命令する)
「下がれ!私達だけにしてちょうだい!」
(なおも応酬が続く)
「陛下は死んで帰ってくる事をお望みなのか!」
ワナワナワナ ガクッ…
(怒りに震えたイサベルが立ち上がりざまに倒れかかったのをフェルナンドが支えようとするが、、、)
「近づくな!」
「私はこの戦いに勝たなければカスティーリャの王位が無いけど、あなたは内乱を鎮めさえすればアラゴンの王位が保証されてる」
「私には世継ぎになる男の子が居ないけどあなたには庶子でも男の子がいる」
「生きて産まれてこなかったあの子は男の子だった。私達の後継ぎになる子だったのよ!貴方はアラゴンに息子も娘もいる!」
(イサベル泣く→フェルナンド、泣いているイサベルを抱きしめる)
イサベルは自分でも辻褄を合わせて話せていない事を自覚しながら溜まっていた鬱憤を晴らす事になった。
イサベルとフェルナンドは再び手を取り合ってポルトガルと対抗する事にした。
この後もイサベルは幾度となくフェルナンド相手に自らのストレスを発散する事になるがこれはまだまだ先の話である。