大博打(フェルナンド視点)
俺はフェルナンド・デ・アラゴン。
アラゴンの王太子だ。
先日、父のアラゴン国王フアン2世からシチリア王位が譲られたからシチリア国王でもある。昨年亡くなった母は2番目の王妃フアナ・エンリケスだ。
母は知的で美しかったが、周囲によると野心的な面もあったようだ。
父は先妻ナバラ女王ブランカ1世亡き後、無権利のまま統治を続け、本来王位を継承する筈だった兄ビアナ公カルロスとの争いに至った。この間に父が再婚して俺が生まれた事で争いは激化して、ナバラは内紛に陥った。
だが兄はナバラ国王カルロス4世として貴族達に擁立されてはいたが、統治する事なく亡くなってしまった。次いでその妹で、俺の姉に当たるレオン=カスティーリャ王妃ブランカがブランカ2世として擁立されたが、夫エンリケ4世と婚姻無効になってナバラに帰国した直後に亡くなった。父に毒殺されたとも言われている。当に泣き面に蜂だな。
次いでその妹のフォワ伯妃レオノールが擁立されるが、この姉は賢かった。
父と直接戦うのではなく、まず既に俺を産んでいた母と交渉してアラゴン王位継承権放棄と引き替えにナバラ王位の安定を保証させたのだ。
だが、母は父に続いて俺をナバラ国王にしたいという野心を捨てきれず、その後両親と姉夫婦の攻防が父国王の崩御まで続く事になった。
まあその話はさておき、俺は今父上に呼び出されている。玉座の父は遠縁のレオン=カスティーリャ王女から送られた密書を手に取っている。俺とその王女の結婚の申し入れだ。
婚約前の契約には、結婚後は俺がカスティリャに住み、イサベルに政治的に従うことなどが明記されていて、トラスタマラ家本家であるレオン=カスティーリャが優位だ。その他にも異教徒に対する政策に関する条項があって、グラナダ王国の制圧も約束されていた。
元々俺のいるトラスタマラ家はレオン=カスティーリャ王国だけを支配していたが、エンリケ3世の王妃レオノール・デ・アラゴンの実家であるアラゴン王家が途絶えたから、アラゴン王国がエンリケ3世の第2王子フェルナンドをアラゴン国王フェルナンド1世として迎え入れた経緯がある。
その後俺の祖父に当たるフェルナンド1世、伯父アルフォンソ5世、元シチリア王妃でナバラ女王ブランカ1世と婚姻した父フアン2世によって領土が拡大されて今に至る。
この縁談はアラゴン=シチリア王国からすればレオン=カスティーリャ王国を吸収できるまたとない好機であるのと同時に、レオン=カスティーリャの内紛に巻き込まれるリスクもある。
結局父は了承し、俺は又従姉イサベル王女とカスティーリャのバリャドリードで落ち合う事となった。その兄(俺の腹違いの姉の元夫でもある)エンリケ4世を中心とする反対者もいるため、貧乏な農民の格好でこっそり来いとの事だ。
たいそう長旅になりそうだ。
前夜、俺は愛人アルドンサと床を共にした。
「アルドンサ、俺は明日カスティーリャへ向かう。すまないが、これから長く会う事が出来なくなる。」
「分かっているわ。私が王妃の座に座れないのは前々から分かっていたし、今後公然と愛し合う事も出来なくなるのも分かってる。アラゴンに帰って来た時にまたいらして」
カスティーリャはアラゴンより大きく人口も多いが、肥沃で豊かになりつつあるアラゴンとは違って乾燥し荒涼とした大地が広がっているらしい。
後ろ髪を引かれつつ俺は長旅に出た。