大博打(イサベル視点)
私はイサベル・デ・トラスタマラ。
国王フアン2世の娘。
物心つく頃には父は既になく、母は鬱になったりヒステリックになったりの繰り返しだった。
私はそんな母と弟アルフォンソの3人で身を寄せ合って過ごしたの。
10歳まではね。
10歳の時、突然セゴビアの兄から迎えの使者が来たの。
私とアルフォンソを母から引き離して此方で引き取って育てると言ってね。
母は狂わんばかりだったけど、事実上幽閉の身で王命に逆らう事は出来なかったわ。
でもその時覚悟を決めたわ。
このセゴビアの宮廷で何としてでも生き残ると、そしてアルフォンソを守って国王にすると。
昔は母が座っていたであろう王妃の座には、兄の2番目の王妃フアナが座っていたわ。
皮肉よね。母とこの義姉は同じポルトガル王家出身なのよ。
いつの間にか父様の決めた婚姻を無効にしていたのねこの兄は。
程なく姪が生まれたわ。
でも貴族たちは兄の娘ではなく義姉の不倫相手ベルトランの娘だと噂したわ。
まあベルトランは私を支持してるのだけど。
私とアルフォンソは普段兄とは別の宮殿に住んでいるけど、洗礼の時に呼び出されて代父母になったの。
赤ん坊の姪の手に接吻させられた時の屈辱を忘れないわ。
義姉と同じ名前を付けられた姪の出生に対する貴族達の疑惑は、アルフォンソを次期国王アルフォンソ12世に擁立する動きに変わったわ。若くて血気盛んなアルフォンソもその流れに乗じて、何度諌めても聞き入れてくれなかった。
「そんな軽はずみな行動は止めなさい。ここはまだお兄様の宮廷なのですよ。」
「僕には支持する貴族が大勢付いているのですよ。黙ってやり過ごすわけにはいきません!」
そんな中、兄は私の縁談を用意して、その相手を紹介する宴会を開いたわ。
当然私とアルフォンソも参加しての宴会でその縁談の相手を紹介されたの。
彼は義姉の弟でポルトガル国王アフォンソ5世。
兄がポルトガルとの繋がりを強めたがっているのが分かったわ。それに私の母はポルトガル王家出身だし。彼からはいろいろ言われたけどその時は何とかやり過ごしたわ。
宴会が終わった後、急にアルフォンソが倒れてしまったの。そして呆気なく亡くなってしまったわ。私のたった1人の弟が。
弟と私を支持する貴族達は、今度は私を次期女王に擁立しようとしたわ。でも私は女王にはなっても、弟の二の舞にはなりたくなかった。
だから「兄が生きている間は他の王を戴くべきではない」と言って取り敢えず落ち着かせておいたの。
私には後ろ盾が必要だったわ。
結婚相手は外国の国王ではなくて同じトラスタマラ家の男がいい。
私は早速密かにアラゴンへ書状を送ったけど兄にバレて今は幽閉の身。
何とかフェルナンドをここに呼び出して、支持者の多い所へ抜け出さなければ!