三題噺 (お題:卒業式、ペンギン、消しゴム)
こんにちは、葵枝燕です。
三題噺に、挑戦してみました。
初となる今回のお題は、卒業式、ペンギン、消しゴム、です。
一応、笑えるような話にした……つもりなのですが、自信はありません。なにせ、今までの私の作品は暗めなのが多いので、笑える作品に仕上がったのかがわかりません。
どうか、少しでも笑えるポイントがあれば笑ってやってください。
なお、あとがきにて簡単に内容をまとめておりますが、完全なるネタバレですので、本編を読んでから読むことをおすすめします。
「生徒諸君! これより、君らの卒業式を執り行う!」
そんな言葉が響き渡る。生徒達は一斉に押し黙って、そんな発言をした校長先生の顔を凝視していた。雪を含んだ凄まじい冷風が、生徒達を勢いよく襲った。束の間の静寂が、彼らを包む。
「ええ~っ!?」
生徒達はそう喚いた。全員が嫌そうな顔をしている。
「オレ、ハワイでやりたい」
「あたしはジャングルがいいなぁ」
「寒いの嫌い。暖かい場所がいい」
「……ええい! 黙れ黙れ!!」
好き勝手に不満を垂れまくる生徒達に、校長先生は顔を赤くして怒鳴った。小さな黒い翼をパタパタとさせながら、生徒達をぐるりと見回す。
「諸君らはそれでもペンギンなのか!? ハワイだの、ジャングルだの、暖かい場所だの、ペンギンらしくないことを言うんじゃない!!」
「でも、校長」
一羽のペンギンが口を挟んだ。この極寒の地での卒業式への参加は初めてだという、まだ若い教師である。ちなみに、この学校には校長先生と彼女以外に教職員はいない。
「暖かい土地に住むペンギンもおりますよ。そんな話を聞いたことがありますもの」
「そんなこと知っておるわ! しかしな、我が校はここで卒業式をするのが伝統なのですぞ」
「伝統とは言いましても――」
教師が言葉を濁す。しかし、意を決したように嘴を開いた。
「今年度での廃校は、既に決定事項ですよね?」
「他の学校が真似をしていくのだ! そうすれば、我が校の卒業式は伝統として受け継がれていくのだ!!」
この校長先生が長年校長を務めてきたこの学校は、年々生徒数が減り続けている。そのため、今回卒業する十羽余りの生徒達がいなくなれば、それと同時に在校生もいなくなるのだ。そしてそれは、今年度での廃校を決定づけるには充分であった。つまり今回の卒業式は、本当に最後の卒業式なのである。
「では、諸君! 早速、卒業証書授与に移るぞ!」
「ええ~? 本当にこんな寒いとこでやんの~?」
「勘弁してくれよ」
校長先生の言葉に、再び生徒達からブーイングが起こる。それでも、校長先生は無理矢理にでも卒業式をしたかったのだ。なんといっても、彼にとって最後の卒業式なのだから。
そして、今まさに卒業証書の授与が始まろうとしていた。
「あれ?」
校長先生がそう呟いたのを、教師は聞き逃さなかった。
「どうされました、校長先生」
何だか校長先生の様子がおかしい。顔色も悪いように見える。心配そうに、教師は校長先生の傍らに寄った。
「無い……」
「無いって……何が無いんです?」
「証書だよ、先生」
その言葉に、教師が大きく目を見開く。
「証書ってまさか――卒業証書ですか!? 無いって、どういうことです!?」
若い女教師は思わず叫んでしまった。その声を聞き、生徒達は一層騒がしくなった。
「聞いたか?」
「卒業証書が無い、だって?」
「どうすんだよ、この日のためにわざわざ親を説得したんだけど」
「アタシもよ。パパがなかなか許可してくれなくて、大変だったんだから」
「オレもオレも。祖母ちゃんも、母ちゃんも、姉ちゃんも、揃って心配性なんだ。参ったよ」
「こんなの、バカらしくてやってらんねえよ」
「ねえ、帰りましょうよ。夜にはものすごい吹雪になるって言ってたし、帰るなら今しかないわ」
一羽が「帰ろう」と発言したことで、ほぼ全ての生徒達が帰り支度を始めた。中にはオロオロと周囲をうかがう者もいたが、彼らもそろそろと鞄に手を伸ばしていく。そうして、生徒達は揃って極寒の海へ向かって歩いていく。それに気付いた校長先生は、慌てて叫んだ。
「こら、待て待て、帰るんじゃない!」
その声に振り向いた生徒達だが、その目は一様に「帰りたいんですけど」と言っている。
「でも、卒業証書のない卒業式なんて……ねえ?」
「生クリームが入ってないロールケーキみたいだわ」
「意味わかんねえよ、その例え」
また生徒達は好き勝手なことを言い出す。校長先生は、顔を真っ赤にしながら黒い小さな翼を振った。そして、若い女教師を見やってこう訊ねた。
「先生、あんたが持っているんじゃないのかね?」
「私ですか? いいえ、持っておりませんわ。校長先生が、持ってくるとおっしゃっていたではありませんか」
確かに、この卒業式が決まってから校長先生は何度も、卒業証書は自分が管理し卒業式に持って行くと、この教師に何度も伝えていた。
「校長室の机の引き出しに仕舞っておいたはずなのだが、もしや忘れてきてしまったのだろうか。いや、ここに来るとき、引き出しの中は確かめた。だからきっと、忘れてなんていないはず……」
ぼそぼそと呟きながら、校長先生はその場でくるくると回った。もしかしたら思い出せるかもしれないと、思ったためである。
校長先生が回り始めて、一時間ほど過ぎただろうか。生徒達は、それまでに増して不機嫌そうな顔になっていた。なかには、「先生、帰ってもいいですか?」と教師に訊く者もいた。そんな空気の中、校長先生は回り続けていた。
「ああ、思い出した!」
くるくる回っていた校長先生は、その動きを止めて元気よく叫んだ。女教師が、安心しきった顔で校長先生を見つめる。
「それで、校長先生。卒業証書はどこに?」
「うむ。もうあげていたようだ」
その言葉に、その場にいたペンギン達は一斉に声を失った。ぽかんとした間抜けな表情で、校長先生を見つめる。しばらくして、皆を代表するかのように、女教師が言った。
「もうあげていたとは、どういう意味でしょう?」
「運動会のときだよ。頑張ったご褒美に、生徒達に消しゴムを渡しただろう?」
女教師は思い出す。極寒の地にしては珍しく晴れたあの日、確かに生徒達一羽一羽に、男の子には青色の、女の子には桃色の、小さな消しゴムを手渡したのだ。
「あの消しゴムと卒業証書に、どんな関係が?」
「あれが、卒業証書だったのだよ。皆頑張っていたから、ついご褒美をあげたくなって、校長室から取ってきたのだったな。ああ、すっかり忘れていた。年を取ると忘れっぽくなっていけない。気を付けなければ」
そう言って校長先生は、大笑いした。逆に生徒達は、冷たさの増した目で校長先生を見ていた。
「あれが、卒業証書?」
「氷の額縁に入った物じゃないの? お兄ちゃんのときは、そんな感じだったのに」
「おれ、姉貴にあげちまったんだけど」
大笑いする校長先生と、極寒の地よりも凍てついた空気を纏う生徒達。その中間点に立って、若い女教師はただただ苦笑いを浮かべていた。
「三題噺に挑戦!」という目標のもと、書いてみました。
初となる今回のお題は、卒業式、ペンギン、消しゴム、です。簡単にまとめれば、「ペンギンの卒業式で卒業証書が行方不明になり、実はそれはずっと前にあげていた小さな消しゴムだった」というものでしょうか。なんともしょうもない話です。
個人的な設定ですが、女教師ペンギンさんは美人(人ではなく鳥なので、美鳥とした方がいいのでしょうか)です。あまり活躍機会がありませんでしたが。
読者の皆様が楽しんでいただけたなら、嬉しいです。
お題三つ考えるのが、なかなかに大変なのですが、案は二個ほどできておりますので、気が向いたときに投稿します。
それでは、読んでいただきありがとうございました!!