表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/143

2節 彼岸界淵2

 光届かぬ海の奥深く――暗黒の深海。全てを満たす海水を切り裂く様、巨大な舟が底へと突き進む。


「アナ。今はどの位の場所にいるかな?」

『さぁ?』


 諦めの声を漏らす幼女。ギアマリアになった聖ことセイマリアは、溜息を零す。


「はぁ。お前……拗ねるなよ。元気だせよ。行く時にあんなにテンション高いのに……。モチベーションは大事なんだろ?」

『過去の話だ。吾輩の辞書(データファイル)にそんな言葉は無い』

「……――魚なら、帰った後で買って来るよ……」

『足りん』

「え?」

『足、り、ん、の、だー!! ……――おかしくないか!? 大海原に来ているのだぞ!? だのに! だのに!! 魚獲っちゃ駄目!!? あんまりじゃぁあないか!! この母なる海には美味、珍味の御馳走が秘められてるだろうに!? 駄目!? はぁあぁあ!!? そりゃあ無いではないか!!!』


 脳内で急に響く声に聖は堪らず顔をしかめる。


「魚獲っちゃ駄目というか……獲ってる暇が無いって感じじゃないか? 今回は急ぎだし……それに、今はもう深海だろ? 魚はそんなに見掛けないぞ?」

『まあ数は少ないのは仕方――聖! 鮫だ!! 殴れ!!!』

「え? え!?」

『斜め右上の所を横切――ああ、行ってしまった……』

「魚が食べたいのは分かったから正気になってくれ……帰ったら守護者団で食事をしよう」

『向こうに吾輩の食事量が把握されてるから。気が済むまで食べられん……』

「出禁じゃないだけマシじゃないか……――。まあ、細かい事は終わってからで。んで、今はどの辺りなんだ? 確か、〝ネモ〟って場所に行くんだろ?」

『〝ポイント・ネモ〟。大洋到達不能極と呼ばれる、陸地から平均して、最も遠い海域。正しく海のど真ん中と言うべき場所だ。まあ、吾輩達がいるのは多少はズレているがな』


 視界内に地図が浮かび上がる。アナが聖の為に見せてるのだろう。場所はチリに近い海域を赤い丸で囲って表示された。


「音は世界中でも聞こえてるのに、そこなんだな」

『正確には、音源がポイント・ネモへ向かっていると言った方が正しい。大西洋側で初めて観測以来、そこからどんどん、吾輩達が向かう先へ泳いでいる様子だ』

「まるで逃げてる(・・・・)みたいだな……」

『……現在の状況を確認する。まず、吾輩達はアナテマ絡みの謎の音を追い掛けている訳だ。その中で重要なのは、〝どういう理屈でアナテマが謎の音を発しながら移動出来るのか?〟だ』


 ――ミイラが持った植木鉢が、脳裏に浮かんだ。


「……聖杯(プランター)を動力源にしている?」

『ザッツライト。何十年も、様々な場所でかなり大きな低周波を発している。地殻変動や氷山が崩れる音と揶揄される程の、かなりの物だ。そんなアナテマを支えるんだ、膨大なエネルギーが無ければ成立しない』

「プランターを載せて動く、アナテマの塊が何十年も海の中を……」

『そう言うと、寂しく感じられ――ん?』

「どうした?」

『――声だ。いや、通信か? だが従来のそれじゃない……何だ?』


 アナの言動に緊張が走る。息を呑み、暗闇の深海に神経を集中させる。視覚識別が出来る様、疑似的に表現された深海が視界に映し出される。薄暗い海中には、僅かな小魚と粉雪の如く舞うプランクトンしか存在しない。


『――――成程。先程の通信は、人間が使う物ではなく、認識そのもので知覚するものか』

「どういう意味?」

『水と説明する際、言葉だと水やウォーター、H2O、DHMO、ジヒドロゲンモノオキシド、ダイハイドロジェン・モノクサイドと言うが、言葉が通じない者には分からない。だが、水そのものや、その写真を見せれば水とは理解出来る感じだ。或いは直接脳内に話し掛けられてる感じだ』

「は、はあ? ――んで、何て?」

『〝また来るか。今すぐ去れ〟と』

また(・・)? 初対面だぞ」

『吾輩も分からぬから問い掛けようとしたんだが――』

「だが?」

『尋ねる前に〝我等と共に沈め〟って言われた。てへぺろ♪』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ