6節 堪える意思は、従い、否み、望みを掴む力
依然として豪雨の如く襲い掛かる攻撃に見上げるギアマリア。目に映るのは太陽を背にした影が1つ。その影から放たれ動くのは煙を噴きながら黒点が迫って来ていた。
『ロケット弾だ。因みにロザリオフィールドの演算は終わっていない為に使用不可能だ』
「分かっているッ!」
ギアマリアは右手に持った鉄骨を垂直に掲げた。しかし身体を逸らした事で、腹部の傷口から痛みが走る。痛みがギアマリアの動きを止めた。口の中には腹に穴が空いた影響か、血の味で満たされる。
「アナ、腹の傷を……」
『そうしたいのは山々だがすまない。右手接続の影響で治癒には時間が掛かる』
クソッ――右手を切られた事実に度し難い怒りを覚えながらも、ギアマリアは鉄骨をロケット弾へ向けて投げ放った。しかし垂直と厳しい体勢だからか、鉄骨は黒点の横を素通りしてしまう。
『外すな』
「野球とかした事ないんだぞ!?」
反論する傍ら、左手に輝くロザリオ状の帯――ロザリオフィールド――ヘブンズラックの入り口を開いた。光の帯の中心、手の平にゴルフボール大の黒点が浮かぶとその中心から鉄骨が飛び出て来た。それをまた宙へと掲げた。
『何をしている、早く避けろ。今更当てた所で爆風が襲って来て無事ではない』
「早く言ってくれ!!」
考えなしに出した鉄骨を一旦下ろしたギアマリアは、その場を回れ右して離れた。ロケットは降下を続けるも、角度を変えて未だ白聖女へと向かって行く。
「追って来た!?」
『誘導弾の様だな、落とすしかないだろう』
「また外しても知らないからな!」
『こちらから補正する。タイミングを合わせろ』
アナの声が頭の中に響いた後、ギアマリアは身体を反転させてロケット弾と向き合った。その次の瞬間、視界に赤い十字に丸を合わせたマーク――〝サイト〟が現れた。ギアマリアは手に持った鉄骨を掲げた。するとサイトの右下に縦に走る線が表示された。それは鉄骨を表すアイコンで、鉄骨の先端の向きに連動して動いた。ギアマリアはサイト内の十字の中心、そこに線の先端が重なる様に鉄骨を持つ右手の手首を捻る。
ロケット弾とサイトとアイコンが直線上に並んだその瞬間、十字の周りの円が半分程の大きさに縮小すると、視界外から外側に角が向いたL字の表示が4つ、サイトの四方を取り囲み、丸いサイトから正方形のサイトへと変化した。
『ロック完了、投げろ』
「りいいぃィィ、やッッ!!」
肩と腕と腰に力を溜めて、咆哮の様な声を引き鉄の如く挙げて鉄骨を投げ放つ。腰を回し、肩を回し、曲げた肘を伸ばして、全体重と力を鉄骨に乗せて放たれた鉄骨は砲弾の如く空を突き進んでロケットに直撃した。衝突したロケット弾は爆発。爆風が一帯の空気を押し退け、灼熱の熱風が包み込んだ。しかしギアマリアの身体を極薄で包むアナテマが熱風を遮断しその身を守った。しかしそれでも爆発が放つ強烈な衝撃波がギアマリアの身体を吹き飛ばし、爆音は耳を貫き、瞬間的な閃光が視界を白く染め上げた。
「……ぅ、クッ!」
『視覚は咄嗟に目を瞑った事で目眩で済んだが聴覚が麻痺した。約18秒の難聴だ――10時方向から敵接近』
「んんッ……あぁ!?」
強烈な衝撃で思考が鈍る聖は、何とかアナの言葉の意味を理解して前を向いた。光の影響で視界は霞んで良くは見えないが、その中で動く黒い影は捉えていた。――が。影は色彩と形を――黒聖女の姿となって眼前に突如現れたのだ。
「なっ!?」
判断が遅れならも、後ろに下がると同時に右手甲からダガーナイフを出して持って振り上げた。直後にナイフは相手の剣と交差した。腕に重たい衝撃が奔って手が痺れ、同時に生じた痛みと鈍い音が、迫り来る敵を識別、反応出来ず停滞する思考を呼び起こす。しかし意識がはっきりした所で、その継続時間が長いのは黒聖女、ましてやギアマリアは敵との斬撃の交差で怯んでいた。敵ギアマリアは剣をギアマリアの左肩から右脇へ――袈裟切りを放つ。対してギアマリアは鉄骨をヘブンズラックから取り出して剣にぶつけて防ぐ――が。交差した鉄骨は、豆腐の様に真っ二つに切り分けられた。切られた鉄骨の片方が宙に舞って地に落ちた。
「げっ!?」
慌ててバックステップして距離を取るも、黒聖女は振り返って剣を構えながら追撃を仕掛ける。ギアマリアは鉄骨を出して投げ放つ。迫る鉄骨。だが敵マリアは怯まず避けず対面、そのまま直進。鉄骨に刃を当て、振り下ろし、切り裂きながら前進した。鉄骨は縦から真っ二つに切り裂かれる。と同時に振り下ろした剣を構え、右脇目掛けて振り上げた。
『聖、鉄骨を前方斜め下に向けて出せ』
アナの助言に反応して、自身の脚と脚の間目掛けて斜めに鉄骨を出し放つ。すると鉄骨は地面に刺さり、ヘブンズラックから出て切っていない鉄骨が、ギアマリアの身体を押し出して敵との距離を離した。振り上げた剣は鉄骨を切り裂き両断する。だが黒聖女は攻撃を外しても止まらない。身体を地面と繋げる鉄骨が切られた事で支えを失ったギアマリアは地面へと着地。よろめきながら迫る、黒聖女の頭上から振り下ろされた斬撃をナイフで受け止めた。受け止めた衝撃によってギアマリアの身体は沈み、その足元に亀裂が走り、一帯の瓦礫が吹き飛んだ。
『演算終了。フィールド使用可能だ』
しかしアナの言葉に聖は返事を返す事が出来なかった。沈むからだと腕に掛かる負荷を耐え凌ごうと歯を食い縛って耐えるので精一杯だったのだ。やがて両手で握るナイフを手放すと同時に相手の剣を左側に逸らしてその場を離れようとした。しかし敵マリアは力を逸らされよろめきながらも体勢を立て直して切り返す。その直後にギアマリアはロザリオフィールドを展開。数珠状に並んだ光る幾つもの小さな十字架が敵の剣を弾き飛ばした。
しかし相手はそれでもフィールドとのギリギリまで肉薄し、光が消えたその瞬間に拳を打――下方からアッパーカットを打ち放つ。ギアマリアはバックステップで回避しようと下がる。間一髪で腹部に攻撃を食らう事は回避した。――しかし腹への寸前で未だ上へと上がるアッパーはギアマリアの山脈の様に連なるその胸を叩き上げた。
「痛ったァ!?」
腹の肉をを力の限り握られてから引っ張られた様な痛みが胸に伝わった。生まれて初めて味わった痛みに堪らず声を上げた少女は胸の痛みを消そうと、左腕でその大きな胸にを上から抑えて圧迫した。しかし敵マリアは依然として接近して来る。
ギアマリアは右手にヘブンズラックを開くと同時に腕を振り払う。すると何本もの鉄骨が現れて、両者を隔てる壁の様に互いの視界を遮った。だが黒衣の女は右手を振り被って鉄骨を薙ぎ払う。くの字に曲がる鉄骨の群れの中、ギアマリアは肉薄して来ていた。黒いマリアは鉄骨の薙ぎ払いと同時迫る白いマリアに反応が遅れて防御も回避も出来ずにただ立ち尽くす。ギアマリアが放つ右拳が胸元に迫る――が。
スカッ。
「――あり?」
ギアマリアの間の抜けた声。ギアマリアの正拳は敵ギアマリアの胸に届かず当たらなかった。攻撃を当てられなかったギアマリアはすぐさま距離を取り、反撃に備えた。しかし――。
(……?)
相手はその場から動かなかった。それどころかそれどころか黒聖女は、自身の胸に手を当てて何か考え込むかの様にその場に立っていた。
(どうしたら……)
無反応の相手にギアマリアは思わずその場に立ち尽くして様子を見る。
『――聖。痛みや組織の完全回復とはいかないが、止血と傷口を塞ぐ程度に腹部の傷は治癒した。今の内に攻撃しろ』
「え、でも……」
相手は依然としてそこに立ち、自身の胸を見ては顔を上げてギアマリアを見てと繰り返す。その行動に聖は困惑していた。突然攻撃を止めて、何もして来ない相手。突然の状況で、どう対応すれば良いのか分からなかった。攻撃するべきか――しかし何か罠があるかもしれない。そんな自身で勝手に思い描いた恐怖がギアマリアに楔を打ち込んでいたのだ。沈黙がその場を満たし、支配する。――ガトリングがそれを破壊した。
「――ちぃ!」
寸前、ガトリングを出す際の手の平の発光に反応したギアマリアは瞬時に右に避けて回避した。すかさずガトリングを収納して今度は両手からロケットランチャーを2丁出して担ぎ、ロケット弾を連射した。幾つものロケット弾の推進部から吐き出された白煙は空を埋め尽くし、ロケットは隕石の如き勢いで急降下して来た。
「ちょっ待てよ!! さっきよりも何でこんなバンバン撃ち込んで来るんだよ!? 怒ってるのか!?」
『だろうな。あちらのギアマリアの先程の一連の行動をインターネットで検索してみた。すると〝胸囲の格差社会〟というものが該当した。何でも女性のステータスを決めるものとして胸の大きさが関係するらしい。そして先程、敵マリアが自身の胸に手を当て、何度も頭を動かして其方と自分の胸を見比べていた。
あちらは身長158cm。スリーサイズは上から順にバスト80、ウエスト54、ヒップ84でAカップで所謂スレンダー体型と言われるものだ。対して其方は伸長162cm、体重は70kg。BMI値では明らかに肥満だ。そしてバスト96、ウエスト72、ヒップ90でMカップ。俗に言うふくよかな体型だ。安産型とも呼ばれる。そんな身体に嫉妬した故にこの様な猛攻に出たのだろう』
「完璧に八つ当たりじゃねーか!?」
『しかも面白い事に胸が大きい相手に対して小さい者は皆、共通した台詞を言うのだが――』
アナが丁重に説明するも、悠長に説明を聞いていられる状況ではなかった。ロケットの流星群がギアマリアの周囲に降り注ぎ、一帯には爆炎の大輪の華が咲き乱れて爆風の嵐が巻き起こる。衝撃波が一帯の建物と瓦礫を吹き飛ばす。しかしギアマリアその直後にロザリオフィールドを展開。
輪転する、連なる十字の帯が産み出す薄光のバリアが爆風からギアマリアの身を守る。――が。爆風により生じた煙が聖女周辺の視界を遮断する。しかしロザリオフィールドは長時間出来ない。隔絶する光の守護はすぐに塵の様に消えていく。その直後に煙の中から影が現れ、煙を突き破ってギアマリアの胸を潰す様に鷲掴みして来た。
「痛っつ!?」
突き破って来たのは左手。黒い装甲を纏う左手。そして続けて姿を現したのは黒衣の女。着けた仮面の目の部分と思われる十字のバイザーは赤く光っていた。その右手には剣が1振り握り閉められている
『重くて邪魔だろう? ――……切り落としてあげるよ』
『そうだそうだ。まさに今の様な言葉を言うんだ』
「知るか、んなこたぁあっ!!」
女の嫉妬を乗せた言葉に背筋が凍る。敵マリアが右手に持った剣を振り下ろすその直前、ギアマリアは右手を相手の腹に潜り込ませてヘブンズラックを展開。鉄骨が弾丸の様に射出されて黒聖女をくの字に折り曲げ打ち飛ばした。手はギアマリアの胸から引き剥がされるが、振るった剣は鉄骨を切っていた為に力は完全には伝わらず、少し距離を取る程度にしか離せなかった。
「くっそ、んにゃろ……ぅん?」
立ち上がる黒聖女。よく見れば左手には何かを握り締めていた。白地の布の様なだった――。
『危なかったな。胸の布は持って行かれて防御力は下がったのが手痛いな』
「布……?」
ギアマリアはふと、視線を下ろした。目に映ったのは、薄橙色の山。更にそのその山頂。ギアマリアは顔を赤くし、自身の晒された右胸を右腕を当てて隠した。
「あいつ……!」
『そのまま腕を離すな。前腕部の装甲を布地にする』
するとギアマリアは、胸と腕が当たる箇所から、何かが肌の上を移動する感覚――巻いた袖をゆっくりと戻して布地と肌が掠れる感覚を感じた。しかし相手は服を直す時間など与えるつもりはない。剣を構えて迫って来る。
「アナ、まだか!?」
『まだだ。装甲と接触している乳頭周辺と胸下方は終わってはいるが……』
「隠すだけでいい!」
『――仕方ない。ならそのまま腕を離せば終わりだ』
「ああ!」
ギアマリアは自身の腕を胸から離すと、服は上方に布が無い為に谷間が露わになったが、胸の下を覆って、何とか服としての機能を取り戻していた。そのまま右手甲からダガーナイフを出して、攻撃を何とか受け凌ぐ。すかさず左手からヘブンズラックを開いて幾つもの鉄骨をばら撒いて視界を遮った。
『聖。そろそろ其方のカロリーが無くなる。そうなってしまっては変身は継続不可能になるぞ。そろそろ決着を付けろ』
「つったって簡単に言うなよ!!」
『――そこでだ。相手の行動に法則性がある。そこを付け込めば正気を得られるだろう』
「何だそれは!?」
『話しながらしよう。――来るぞ』
意識をアナから敵マリアへ向ける。敵ギアマリアは鉄骨を薙ぎ払って既に眼前にまで迫っていた。ギアマリアは先程同様、また距離を取る。対して敵マリアは左手の甲の装甲がL字状に変形して着脱、拳銃となり、それを装備してギアマリアに銃口を向けて弾丸を撃ち放つ。
「ちぃ!」
ギアマリアは鉄骨を出して構えて防御するも、放たれた弾丸は鉄骨ごとギアマリアの身体を穿っていく。
「拳銃すら防げないかッ!!」
盾にならない鉄骨を黒聖女に投げ付けると、黒聖女は剣で鉄骨それを切り払う。続けてギアマリアは更に10本の鉄骨をばら撒いた。大量の鉄骨に対して黒聖女は、左手の拳銃を捨てて剣を両手に持ち、鉄骨の群れを纏めて切り伏せた。舞い散る鉄骨の残骸。切り開かれた鉄骨のカーテンの向こうに――白聖女はいなかった。
『……――ッ!?』
ギアマリアには索敵機能が存在する、それは敵マリアも同じだった。目の前にギアマリアはいない――しかし視界の隅に映るレーダーウィンドウに、ギアマリアの反応はあった――背後に。振り返る黒聖女。見上げたそこにいたのは、切り飛んだ鉄骨に張り付いていたギアマリアだった。
ハーレムその2
留華果楠とめばなかなん
属性:幼馴染・若干オタク・地味・眼鏡←これ大事
特徴。
地味で引っ込み思案。失敗するとネガティブ思考に陥る。ちょい天然。
聖の幼馴染で好意を抱いてる。故に聖と自分とのお花畑の妄想に浸って喜ぶ癖がある恋する乙女。
スタイルは普通。