3節 青白く、恐怖はもたらされる5
暗黒に包まれた遺跡。静寂の中で木霊す小さな音達。
吐息、足音、破砕音――――獣の咆哮。
「バウバウバウ!!!」
「グゥルルルル!!」
「ワウオォォォオオオオオオオオオオンッ!!」
「ちぃぃぃいいい!!!」
『聖! 2時から2匹、9時から1匹、1時斜めから飛び掛かりが2匹!!!』
「だぁあああッッッ!!」
迫り来る獣の群れ。ショットガンを取り出して銃口を向けると、すかさず引き金を引いて容赦無く散弾を叩き込む。続け様に踵を返し、左右からも迫る敵にも発砲した。
「犬に鉛玉を叩き込む日が来るなんて……!!」
『レーダーからの形状把握から正確に言えば狼だな。後、アナテマの反応を検知した。これは狼の形をした自律ロボットだ。遠慮も容赦も慈悲も動物保護団体の文句も無く安心して粉砕しろ。犬コロを許すな』
「なら……!!」
一旦距離を取ったセイマリアは爆弾をヘブンズラックから取り出して前方に散布。爆弾はすぐさま大爆発を起こして狼達を吹き飛ばす。煙と粉塵が舞う中、煙幕を突き破った狼達が口を大きく開けて襲い掛かる。
「生き残りか!?」
『後方にいた後続の群れだ。爆発範囲外にたのだろう』
聖は直前まで違和感では感じていた。狼は大群となって襲い掛かって来るが、直接攻撃して来るのは数匹程。その数匹を回避すると、陰から別の数匹が飛び掛かって来る様は、まるで穴を埋めるかの如き振舞だった。
アナが『後方に群れがいる』という言葉で違和感の正体に気付く。狼の群れは1つの大群では無く、複数の小さな群れの集合体なのだ。前方の群れが此方と戦い、その取り溢しを他の群れがフォローする。場合いよっては1つの群れが陽動や壁となり、他の群れを助ける。爆発で取り溢しがいたのもその為だろう。
ちゃんと考えて動かないと、何も出来ずにやられる――聖は意識を改める。相手は隙を徹底的に潰し、着実に完膚なき迄に八つ裂きにしようとしている。避けてもその先に先回りし、攻撃しても妨害される。相手の動きを一手二手先――否、十手、二十手先も読まなければいけない。読む事を強いられる訳だが、果楠の元に帰る為、聖は薄い冷気を吸い込んで思考する。
アナが聖の脳内にレーダーマップを表示。一定範囲内に自身を中心に、前方に数十の光点が輝く姿は、星空を思わせた。その奥で流星の如く高速でセイマリアに接近する光点が1つ。
『聖! ペイルライダーだ!!』
「っく!!」
身構えたセイマリアの目前に現れたのは、狼の群れを飛び越えて頭上から鎌を振り下ろすペイルライダーだった。
(前と上から迫って来る! 片方を受け止めたらもう片方に襲われる! 避けるしかない!!)
咄嗟の判断でセイマリアはバックステップ、それと同時に元いた場所にペイルライダーの武器が床へと振り下ろされた。鋭く速く重い一閃は、床を叩き割ると同時に吹き飛ばし、衝撃と爆音が一帯に迸って瓦礫が爆散する。たった一振りが齎す兵器並の破壊力に、セイマリアは怯むと同時に萎縮してしまう。
「普通に振り下ろしての威力じゃ……――なっ!」
体勢を立て直す暇も無い敵の猛攻。大きく振り上げながら電光石火で迫る美女の殺意の一撃に思考。
(アナの手伝いで武器の長さは分かってる。避けるか!? でも攻撃が変則的だから下手な避け方をすれば二撃目で死角から殺される! 狼達は後ろ……出る!)
意を決した聖は、歯を噛み締めると同時に大地を踏み抜く。振り被られた鎌の一撃に、咄嗟に2振りのナイフを取り出して切っ先を受け流す。が、刃元にまで受け流したタイミングで力の向きが突如変化、横へと突き進んでいた刃はセイマリアを奥へと押し込む。
「っく!?」
「……――粘るねぇ、アンタ」
「な!?」
聖にとっては決死の攻防の最中、突如ペイルライダーが話し掛けて来た。相手の予想外の行動に思わず抜けた声で返事をしてしまう聖だったが、それがツボに入ったのかクスクスと嘲笑われる。
「見て分かるよぉ、アンタ弱いよ。手加減しても私の方が強いから、アンタはとっくの昔に死んでる筈なのにぃ、まだ死なない。もう本気でやってあげる!!」
殺意に満ちた声の直後、セイマリアの側面に狼が体当たりして吹き飛ばした。
(うっ! 話で注意が逸れていた!!)
『12時方向より5匹! 1時、9時より3匹ずつ!!』
セイマリアは迎撃行動に移るも、群狼達が迫るよりも先に青騎士が前に出て武器を振り下ろす。予想外の接近に聖女は下がって回避するが、鋭く長い攻撃はセイマリアの胸の布地を切り裂く。肌が露わになると同時に支えが無くなった事で両胸は弾ける様に広がり、谷間に閉まっていた聖杯が零れ落ちた。
「やっ――」
慌ててプランターに手を伸ばすも、狼達がセイマリアに飛び掛かり喰らい付いて阻止する。飛び付いた勢いと手足に食い込む牙爪によって聖女は血に伏せ埋もれ、転がる聖杯をペイルライダーは拾って颯爽とその場を後にした。
一方でセイマリアは狼型兵器達に埋め尽くされて貪られていたが、数秒の後に針山ならぬ狼山は爆発四散。衝撃が空間を揺るがし爆音が木霊す中、舞い上がる瓦礫と粉塵と狼の断片の雨の中からセイマリアは立ち上がる。尚も左脇腹に噛み付く1匹の狼を無理矢理剥がすと、両顎を両手で掴んで狼を真っ二つに引き裂いた。
「……っふゅッッ、ッッッっざけやがってクソあの野郎が!!! ぶっ倒す!! 果楠!!!」
肉と髪は焼け焦げ、煤け、抉れ、穴が空き、生傷からは絶えず血が流れるも、セイマリアは衰えない怒気を闘気と共に放った。遠い物を求めるのは、人の性なのだから。
今回の更新後で、一部手直しを加えます。書き過ぎてる描写を削って論文ぽさを消したり、キャラ付けを増したり。言うて箇所は少ないのでご安心を。
あとなろうらしく、というと変ですが、サブタイを付けました。以前のサブタイは個人的には語彙力不足な為のもので前々からミスマッチが否めなかったので、ようやくらしいサブタイ付けれた感じ。
以前のサブタイ抜きが好きな人は、申し訳ございません、右目を瞑って左目だけで見て下さい。
サブタイが見えませんので。




