3節 青白く、恐怖はもたらされる3
『聖!』
「っっっぉぉぉおおおあああ!!!」
奥歯を噛み締めると同時に放つ豪咆。全身に力を込めると同時に首にロザリオフィールドを展開。致命の
一撃を打ち返した。
「きゃっ!?」
「っだぁああ!!」
フィールドと攻撃のぶつかり合いによる衝撃で吹き飛ぶ両者。ペイルライダーも堪らず女々しい声を漏らし、セイマリアは野太い悲鳴を上げる。ペイルライダーはバク転してから着地するとすぐさまダッシュ。床を無様に転がるセイマリア目掛けて鎌を振り抜くが、セイマリアも床を掴んで這う姿勢を取って飛び出す。
白聖女の接近に対し、青聖女はすぐさま鎌を振るもタイミングはズレて攻撃を真後ろを通り過ぎる。一方聖は前屈みながら長剣をヘブンズラックより出して振る構えるを取った。
(足腰に力を込めて踏ん張って、力み過ぎず遠心力と剣の重さで……!)
刹那に剣の扱いを思い返し、身体を起こすと同時に腕を振り上げて刃を叩き込む。暗闇に大輪の火花が迸り、劈く様な金属の衝突音が鳴り響く。
『手応えが……――浅いッ!』
『後ろに刃ッ!』
「ちィ!!」
聖は舌打ちをすると同時に盾を装備し、すかさず横に飛び退いた。間一髪攻撃を回避するも、先程繰り出した攻撃が効いてない事実が頭に残る。
「アナ! 攻撃当たったよな!?」
『戦闘ログの確認をした。軌道と速度、刃の向きに狂いは無いが。しかし脇腹への攻撃が残念ながら鎌の柄に当たった。そして刃が垂直に入らなかったので逸れて滑ってる』
「剣難いなぁぁあ!!」
悪態を付きつつも剣を握り直し、盾を構えて姿勢を整える。鎌による変則的な攻撃、兎にも角にも切っ先の対処をしなければいけない。
(というか、本当なら真正面から一騎打ちなんてしたくねぇのに!! 下手に逃げて隙見せたらデカい鎌叩き込まれて殺される!! 気が付けば出口より結構押し返されたし……果楠に逢いたい帰りたいのに!!)
果楠への想いが一層募り、同時にそれを妨げるペイルライダーへの敵意が込み上がる。最早プランターを狙う事よりも、果楠との再会を邪魔する事が戦う動機にさえなっていた。苛立ちから歯ぎしりして睨み付ける中、聖と同化するアナはその感情を感じ取っていた。
『(聖……拗らせてるな……一部界隈に需要がある男になったな、立派になったな)』
アナが考え更ける中、ペイルライダーはセイマリアの構える盾に鎌を槍の突きの様に叩き付けると、横ステップと同時に鎌の刃を返して盾の縁に引っ掛けて剥ぎ取る。
すかさずペイルライダーは連撃を繰り出す。セイマリアは手と腕を切り裂かれながらもナイフで何とか捌き切るも、ペイルライダーは鎌を極端に短く持って体当たりし、鍔迫り合いを仕掛ける。依然として動きに慣れない中、耳障りな金属音に混じってペイルライダーが話し掛けて来た。
「あァ!? 英語!?」
『中国語訛りの英語だな。相手は中国人の様だ。訳すと『胸にしまったプランターを渡せば生命は助ける』との事だ』
「今更過ぎて嘘だろ……が!! 舐めやがって! 馬鹿にして!! お断りするッ!」
修道院育ち故の丁寧な意味ながらも強く発音して拒絶すると、短剣で受け流すと同時に瞬時にしゃがみ、空いた手からハンドアックスを取り出して腕を大きく後ろへ向けた。
(剣は無理だった、怯みもしない! 斧ならどうだ!?)
脳裏に再度過るエッちゃんの説明。斧やメイス等は先端が重いので破壊力が高く、当てるだけなので特別な技術は不要。しかし、勢いが出過ぎて隙を晒し易いのご注意を――そんな言葉を噛み砕くかの様に歯を噛み締め、力の限り斧を振って相手の脇腹に叩き込む。渾身の一撃で確実に入り、ペイルライダーは前屈みに後退りした。
『聖、爆弾を起爆準備して投げ付けろ、ありったけ。そして出口へダッシュダッシュ』
「った!!」
セイマリアはペイルライダー目掛けて斧を投げ付けると、ヘブンズラックより爆弾を出しては両手に持ってスイッチを押し込んで投げ込んだ。爆弾はペイルライダーの目前に迫ると炸裂、強烈な爆炎がペイルライダーを飲み込む。
「うわっぷ!!」
『怯むな! 出口へ行け!!』
「分かったよ!」
『ついでに聖杯を渡せないお詫びに置き土産を1つ……いや奮発2つ』
「んッ!?」
爆風に怯む中で叱咤された聖は出口へと駆け出すと、出入り口直前で鉄骨とロープを取り出すと結んでそれを投げ捨てて階段を駆け登った。
爆炎が晴れる中で顔を手で覆っていたペイルライダーは、セイマリアがいない事に気付くと、鼻に力を込めて冷えた空気を強く吸い込み、匂いが出入り口に続いている事に気付くとすぐさま脱兎の如く走り出す。転がる鉄骨を跨いで着地したその時、出入口が大爆発。岩壁が崩れて穴を塞ぐと同時に、背後の鉄骨が突如動いて背後からペイルライダーの踵に激突した。
「っ!?」
後ろ向きに大きく転んで浮かび上がった身体を、脚を勢いよく振って一回転させて着地した。暗闇でペイルライダーは立ち尽くすが、首に巻いた毛皮から数枚の鉄板が飛び出すと顔を覆い、獣の鋭い口を象った燐光を放った。




