3節 青白く、恐怖はもたらされる1
『聖! 背後上!!』
「何ッ!?」
アナの突然の警告に聖は振り返ってライトを向けると、光で煌く鋭い刃が遅い掛かって来た。咄嗟にセイマリアはライトを刃の切っ先にぶつけて攻撃を逸らす。刃はセイマリアの側頭部を横切り、ライトは砕け散った事で光源を失った周囲は暗黒に包まれた。
怯んだ聖は瞬時に立て直すと、その場から一気に離れ、鉄骨をヘブンズラックから大量に取り出すと、先程攻撃された場所目掛けて投げ付ける。投げ付けた傍から金属同士の激突音と裂ける様な金切り音が木霊した。
攻撃が当たったと考えたセイマリアは更に距離を取り、予備のライトを出して前方を照らした。
黒い短めの髪と額の左側に枝分かれした一本角を生やした青い装いの東洋人のギアマリア。頭と脹脛より下の脚の露出以外、全身を青い装甲で覆い、その上から青白い丈の短い肌着を着ている。特徴的なのは、首に頭の付いた狼の毛皮を巻き付けており、右手には刃がほぼ垂直に生えた両刃の大鎌を携えていた。
(出口側に立たれた……!)
「アレは……!」
『形状をデータと照合したが間違いない。アレは聖教守護者団に敵対し、聖杯を狙う者。吾輩達の敵。イザベルのギアマリアの1人。通称〝ペイルライダー〟だ』
必然の程に予期していたが、それでも最悪最凶の予想が的中した。今迄の戦いの中で、最も強いであろう敵。ライトを敵ギアマリアに向けて出方を伺うセイマリア。一手一足の挙動を意識して睨み付けていると、ペイルライダーは左手を前に出して顔を隠した。
「あ、ゴメッ」
『馬鹿! 聖ッ!!』
ペイルライダーが眩しがった様に見えた聖は、ついライトを下ろして謝ってしまう。すぐさまアナが怒鳴るが時既に遅し。暗闇によって目視不可なった瞬間にペイルライダーは床を踏み抜いてダッシュし、再度照らした時には目前まで迫ると大鎌を横に振り被っていた。
鋭い切っ先がこめかみ目掛けて迫る刹那、セイマリアは咄嗟にしゃがみ込んで攻撃を回避する。しかし、ペイルライダーは手首を返して振り切った鎌を反転させて切り返す。
(姿勢が悪い! すぐ後ろに下がれない! 出来る動き……)
「っちィ!」
迫る刃、屈んだセイマリアは重心を前方に向けて飛び出す。脳裏に過るのはアンドロイドとの訓練の記憶――。
『長物は、遠心力を乗せて先端をぶつける事で効果を発揮します。故に長物を扱う際はバランスを崩し易く、両手で持って安定させます。その為、手の可動が制限され、懐に隙が生じますので攻略の鍵となりえましょう。しかし、それは相手も承知です。距離を取る、反対方向である持ち手の先――柄頭でかち上げて反撃等の対抗手段も存在します。念頭に置き、過信せず注意して立ち回って下さい』
(勢いを乗せて押し倒す! 逃げられるのなら追い掛けるし、出来ないなら距離を取るか逃げるっ!!)
意を決して前へと出ると、敵マリアは右足を引いて身体を半身にしセイマリアのタックルを躱した。
(避け……!? ――いや、このまま逃げ――)
『聖、首!』
「な!?」
反射的に首にロザリオフィールドを展開するや否や、突然首の裏から途轍もない衝撃が襲い掛かり、セイマリアの身体を吹き飛ばした。
「痛ったぁあッッッ!!?」
『まだ来るぞ! 左真横!』
痛がる暇も無く来る青聖女の追撃。ライトを瞬時に向けて刃の位置を確認するとすぐさまバック、胸をスレスレに鎌の一撃が通り過ぎる。まだ来るぞ――アナの言葉のすぐに、ペイルライダーは前進と同時に振り被った鎌を腰で一周させて第2刃を放つ。距離を詰めた状態で流れる様に迫る攻撃はセイマリアの豊満な胸上部を切り裂く。脇から来るぞ――アナの注意通り、続け様に鎌の柄頭がセイマリアの胸側面に叩き込まれた。
「痛ったぁあああ!」
『気を抜くな!』
アナの警告をよそに堪らずまたも大声で痛がり、よろめく聖を尻目にペイルライダーは鎌を短く持ってまたも鎌を振り被る。セイマリアは咄嗟にライトをぶつけて攻撃を逸らすと、ライトは砕け散って装甲ごと手が切り裂かれる。それでもペイルライダーは攻撃の手を緩めず、鎌の背をセイマリアの脇腹に打ち込む。骨と装甲が砕ける音が木霊し、吹き飛んで石畳の上に転がった。
『聖、大丈夫か? ズタボロにされるも吾輩の指示のおかげで即死せずに済んではいるが、プランターを手放さないのは称賛ものだ。早く立て、殺されるぞ!』
「ライトにプランターにで両手が塞がる……暗い……!」
『それは対策出来た。レーダーを利用して形状把握を脳内で視覚情報の様に映像処理するシステムを構築して適用中だ。色彩識別は出来ないが、動きは追える筈だ』
その瞬間、暗黒の視界に迫り来る人型の白い輪郭線が浮かび上がる。
「見えた!」




