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2節 真に聖なるものは孤独である4

「はっ、はっ……」

『ん? 聖、どうした? 足を止めて。脳波も変わった。具合が悪いか?』

「……果楠。果楠、果楠」


 心を追い詰めた果てに聖は果楠の面影を見出すと、急にうわ言の様に果楠の名を連呼し、踵を返して山を降り始めた。


『おい待て聖! 何をしている!!?』

「果楠果楠果楠果楠!! 帰る! 果楠に帰る!! 果楠ッッッ!!!」


 息を荒げてまだ言い放つ。足取りも急かしてギアマリアは脱兎の如く雪面を滑り走る。


「帰って果楠に会って、果楠が待ってる! 帰って果楠に!」

『帰るも何もプランターをまだ回収してないぞ!? プランターを取らなければまた敵が街に現れる! 果楠や街を守れないぞ!!』


 アナの必死の説得が脳に響いた聖は足を止めた。だが、それでも焦りは収まらない。


「そうだ、取らないと! ――ああ、でも今戻らないと果楠が襲われる! 聖教守護者団(あのひとたち)はすぐには来なかった! 来ないから!! でも取らないとまだ襲われて……ああ……あぁ……ぁぁ、ああ!! ――ッッッチッッックソォオッッッ!!!!」


 錯乱の果てに限界を迎えたセイマリアは、荒ぶった声を上げながら雪面目掛けて両拳を叩き込んで一帯を吹き飛ばした。


『……こんな形で過去最高の膂力を発揮するか……』

「はぁ……はぁ……――ああ、果楠……神様ぁぁ……」


 一気に熱を失ったセイマリアは、雪の上で蹲り、両拳を頭の上で組んで小鹿の様に震えてか細い声を漏らした。


「……アナ、お前、もしかして知ってたか? 聖杯探索(これ)が、聖教守護者団(まわりのみんな)がおかしいって事が」

『……周囲は確認した。無人機等の盗聴の類は見当たらなかったが、念の為だ、出来れば頭の中で話せ』

「盗聴って……――」


 聖は一旦深呼吸すると、アナに呼び掛ける様に念じる。


(……アナ、俺は今、皆が信じられない。聖教守護者の皆だ。皆の為に、皆の言う事を聞いてたのに、皆を……果楠を守れてる気がしないんだ。……帰りたい。果楠の傍にいたい。守れるし……信じられるから……はぁぁ……アナ、俺はどうすればいい……?)

『そうだな……――さっきも言った通りの事をしよう。さっさとプランターを確保して帰るんだ。そうすれは万時解決する。今から戻った所ですぐではないのだ、不服だろうが戻るまでの少しだけは聖教守護者団(ほかのものたち)が駆け足で来てくれる事を願うしかあるまい』

「分かった……」


 弱気な声で返事をしたセイマリアは、身体を起こして再び歩き出す。早く帰るからか、その足取りは先程よりも幾分速い。信じられるものが大きく減り、唯一信じられて寄る辺となる果楠は護るべき存在。向けはすれど委ねる事が出来ない。


 余裕、安堵。求めるたいものは今は求められない、少なくとも、目に見えて存在するものには。目に見えない――だからこそ、その可能性を見出せる存在があった。都合の良い、器の様な神様(そんざい)が。


 聖は信じる。自身の不安と恐怖を飲み込み抑える、負の感情を全て塵芥に変えてしまう兄弟な存在を。だが願わない、それは図々しい頼みだから。願ったのは、遙か彼方にいる焦がれた存在とその他の安否。だが、それでもまだ図々しい。出来るなら、素早く済ませて終わらせたい。


 聖の登るスピードが増した。力強く、息は鋭い。やがてアナの声が脳内に響いた。


『聖。ここが指定のポイントだ』

「ここ? 何も無いぞ?」

『すぐ目の前の雪で入口が塞がっているのだ。喜べ聖、つまりはまだイザベルが来ていない、1番乗りという事だ』

(だが、それで雪に穴が空けば目印にされるだろうな)

「よし、雪掻き出して速攻で取って帰るぞ! モンブランだ!!」

『汝に忠誠を誓おう!!!』

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