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2節 真に聖なるものは孤独である2

白銀の雪と、漆黒の岩肌が露出する山脈。そこを見渡す限りは、上に青空と、下に雪原と岩――だけ。その世界に音は無く、時が止まったかの様な領域に、異物の音――。異様な形状をした影は劈く様な音をけたたましく鳴らして数瞬で空を横断し、雪山の表面に小さな何かを落した。


「げふぁ!!」


 落された物体は白く、雪と同化してたが、雪を押し退けて起き上がる。それは、アナと代羽聖(しろばひじり)合体(クロスアップ)した超人ギアマリアことセイマリアだった。


「あぁ……ぺっぺ……っぺッ! 冷た、あ~、何かが口ん中入った。胸の谷間にもかよクソ……う~寒っ!?」


 金髪のサイドテールをなびかせる白装の美少女は、口に入った雪を吐き出しながら悪態も吐き捨てながら肌を突き刺す冷気に身を震わせる。見渡す限りは白、白、白。吐く息も白い。だが上を見上げれば空は澄んだ青色だけども雲はあってそれも白い。頂きで輝く太陽も白い。が、聖に気付く余裕は無い。


『さて、聖。まずは聖教守護者団が、事前に武装等の荷物を入れたコンテナを投下しているらしい。場所は……ここから真東に40mだな』

「分かった……上着とかあるかな」

『期待しておくのだな』


 儚げな望みを胸にセイマリアは雪原を歩き出す。柔らかな雪を踏み締めれば、それは小麦粉の様に柔らかくを脚を深くまで沈める。静寂にザクザクと音が虚しく籠る。セイマリアはふらつきながら歩く中、少女の整った美しい顔は険しくなる。


「クソ……――雪で歩き辛い……」

『セイマリアは靴はヒールだからな。こんな傾斜のある雪山を歩くなら、靴裏に滑り止めのスパイクはびっしり生えた、グローブの様なガッチリしたブーツを履いて来るのが常識だ。ギアマリアの身体能力なら強引に進められるが……セイマリアは他と比べてスペックは落ちるからな』

「さっさと荷物を――アレか?」


 悪態付きながら進んだ先、雪景色にそぐわない長方形の物体が鎮座していた。沈む脚を速めながら上げて前に進んで近付いて全体を見渡す。セイマリアの倍近くある巨大な金属製のコンテナの表面には、特徴的な十字のエンブレムが描かれていた。


「どうやって開けるんだ……」


 呟きながらコンテナ全体を見渡すと、中心部より下にスイッチの様な窪みを発見。金属で覆われた指先を窪みに引っ掛けようと伸ばすと、聖は右手への違和感に気付く。


「アレ? セイマリア(おれ)の指ってこうなってたか?」

『お、気付いたか。まあ気付かなかったら後で吾輩から言おうと思ってたんだがな。聖の今迄の戦闘データを元に、システムのプログラムを調整してセイマリアの姿をアップデートした。具体的には装甲の配置を変更した。前腕を覆ってたアナテマ装甲の内側部で掌部を覆い、余ったアナテマは急所に回した。総合的には変わらず、個別で言えば防御力は落ちてる箇所があるのは否めないが、それでも結果的な防御力は以前の物より上がり、生存率も上がる。言うなれば、セイマリア Ver2.0と言った所か』

「へぇー。ありがとな」

『礼なら、帰ったらモンブランを1ダース作るんだな』

「モンブラン作った事は無いぞ……」


 愚痴を溢しながら窪みに再度鋭い金属質な指を掛けて引くと、コンテナは音を上げながらゆっくりと花の様に開く。中には棚にギッシリと物が積み込まれているが、中心部に紙が貼り付けられていた。


「何だ?」


 気になったセイマリアは紙を掴んで剥ぎ取り確認すると、そこにはびっしりと文字が書き込まれていた。どうやら荷物の詳細が書かれている。


「いっぱいあるな……マシンガンに弾に盾……ワイヤー、ライト……うん? 爆弾?」

『ほう。新武器だな。トレーニングでは使ってないが、用途は色々あるだろう。爆弾は起爆時間を設定出来るらしい』

「うーん……――コートはあるかな……お?」


 聖が気付いたのは、コンテナの隅に置かれたグレーの布の塊。それを引き抜き広げると、ファーの付いたロングコートだった。それと開いたの同時に、小さな紙が雪の上に落ちた。聖は拾って確認すると〝薄着で寒そうだから念の為にコートも入れておいた〟と書かれたメモだった。


『心配されてるな。――聖、服や荷物を入念にチェックしてから仕舞うんだ。最終確認するんだぞ』

「分かったよ。さて、着よう着よう! ……ぅっ」


 コートを弄って異物や欠損が無い事を確認し、更に意気揚々にセイマリアはコートを着るも、少ししてその表情が曇る。アナは尋ねると、聖は胸から下が前に迫り出したコートの上から下腹部を抑えた。


「コートが胸で押し上げられて、腹周りと脚に空間が出来て寒い」

『……あぁ、本当だ。……ぶッ! ギャハハハハハハ!!! 巨乳を通り越した爆乳が祟ったか! 欲張った身体がアダになったか!! ハハハハハハ!!!』

「うるさい!! 頭の中で騒ぐな! なりたくてなった身体じゃないんだぞ!?」


 聖は武器や道具を全て確認しながらヘブンズラックに仕舞い込むと、ワイヤーで胸下を巻いてコートを自身の身体に押し付けて密着させた。


「さっさと終わらせて帰ろう」

『それもそうだな。――さて、まずは状況と目的の確認をしよう。吾輩達がいるのはネパールのマチャプチャレ。信仰の対象になっている山だ。とある地点に入口と思われる人工的な形状の穴を光学機器で発見した。プランターに関係した逸話や文献も確認されているので、存在は確かだろう。国家、世界規模でやり取りが行われた、途轍もな(グラン)いスケー(ドなオ)ルの頼み(ーダ―)だ。気合を入れて挑めよ』

「信仰対象の山って入っていいのか……?」

『本来は禁止されてるが、今回の件の為に特別にネパール政府から許可は取っている。気にせず行くんだ。気にするなら早く終わらすんだ』

「そうだな、寒いし終わらせよう」

『の、前に。聖が荷物を取り込んでる間に、靴裏の形状を変えておいた。これで雪原でも平地でも荒地でも動ける。セイマリア Ver2.1だな』

「お、ありがとう……じゃ、行くか!」

『という訳でモンブラン1ダース追加だな』

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