2節 真に聖なるものは孤独である1
お
ま
た
せ
住宅街。白を基調とした若葉色のワンピース姿に大きめのハンドバッグを持った留華果楠は住宅街の道路を壁沿いに歩いていた。燦々と輝く太陽に対して、その顔は重い表情を浮かべていた。
(間違いない……――聖君は変わったわ)
心の中で果楠は考える。最初に気付いたのは、聖が何時も以上に背筋を伸ばしていた事だった。一時的なものかと思った果楠だったが、2日、3日と連続で同じ様に姿勢を伸ばし、動きにも疲労が見て取れた。試しに質問すると、聖は『健康を気にして運動を始め、それによる筋肉痛』だと返した。
説得力がある言葉ではあったが、それ故に突然過ぎた正当な事が逆に疑惑を募らせた。それから首や腕、手といった服に隠れていない部分は、日に日に隆々とした形を取り始める。特に注目すべきは首と手。素人が身体を鍛えるのならば、二の腕や腹筋といった目立つ場所を選ぶだろう。
そして最近になって、鍛えられた聖の姿に果楠は既視感を覚える。それは、SNSで見掛けた写真――屈強な軍人達の姿だったのだ。
戦う者に類似する姿は、即ち戦う姿である事。聖は、見ぬ間に戦士の様に変貌していた。その事実に果楠は恐怖を覚える。自分の理解を超える出来事が起こっている、得体の知れない恐怖。聖が――自身の下から離れていなくなる様な不安が脳内を満たす。
故に果楠は、事態の全貌を把握する為に、自分の不安が思い過ごしであるのだと決定する為に、聖の家に――修道院に向かっていた。玄関前に辿り着いた果楠は深呼吸をし、計画の再確認をする。
「すぅ~~……はぁ~~」
(コーラの大きいペットボトルとハンバーガーにポテトフライ。そして私お気に入りのアクション映画〝黙示〟シリーズのDVD全11作の完全版セット。初回限定版だから特典でメイキング映像集とNGシーン集も同梱済み。これで聖君と一緒に見て、隙を見て私の知らない近況を聞き出せれば…………――そして…………あわよくば……)
(聖君、困った時は私も手伝いますからね♪)
(果楠、心配を掛けさせてごめんね。俺には果楠しかいないよ)
(聖君……)
(果楠……)
「えへ、えへ、えへへへへへへ……ハッ! いけないいけない!! 話を聞いて聖君に何か困った事があったら助けるのが本題なのに! でも……ワンチャンあったらいいなぁ……あ! 聖君がいるならアナちゃんもいるんだ! ジャンクフード足りるかな……アナちゃん見た目以上に食べるからなぁ……でも、何とかなるかな……」
不安混じりに果楠はインターホンを押して呼び出し音が鳴り響いて数秒――何も起こらなかった。
「…………あり?」
不思議に思った果楠は再度インターホンを押す。またも音は鳴り響くも変化は起こらない。
「留守なのかな……まあ、来るのはサプライズのつもりで連絡してなかったからなぁ~。裏目に出ちゃった……聖君もアナちゃんも外に出てるのかな? 買い物かな?」
気になった果楠は携帯電話を取り出し、連絡帳から聖の携帯番号を選んで着信を掛ける。
『――おかけになった電話は、電波の届かない場所にある――』
果楠は一気に青ざめた。
「えっと……デパートか通路で地下にいるか、電池切れになってるのかな……そうだよね……そうだよ……きっと……」
電波が届かない理由を探し出しては自分に言い聞かせる。考え過ぎなのだと分かっていても、その感覚を拭えなかった。
「聖君……何だか、日本にいないような、何処か遠く、凄くずっと遠くに行ってしまった感じがする……」




