1節 征く為に言葉は贈られる6
数日後、今日もトレーニングに励もうとすると、代行者は礼儀正しい動作で出迎えた。
『おはようございます、聖様。今日も元気に身体を鍛えましょう』
「喋ッッッッッ!!?」
ゆったりとした大人の女性の棒読み声を発する代行者に、思わず聖は奇声を発して驚いた。それを傍目に、アナは得意気に平らな胸を張る。
「ふふん! 声が無いからとギャーギャー文句を言うのだからな、吾輩が地下室にある道具を使って改修し、発声機能を追加したのだ!!」
(ついでに何か仕込まれてないかチェックもした。何も無かったがな……――巧妙に隠してる恐れもある。複数回のチェックは必須だな)
「マジかよ……何で棒読みなんだ?」
「抑揚までは流石には無理だった。発声の仕方で雲や蜘蛛と意味が変わる事があろう? パターンを覚え込ませないといけないのだ。時間が掛かる」
「そうか……――ところでこの声って、誰の声なんだ」
「インターネットで無料配布されてる読み上げソフトの音声を採用した」
「そうなのか……」
『べ、別に、聖様の為ではないんですからね!』
「この言動もお前がしたの?」
「最初からこういう性格だったみたいだ。据え置きだ」
「北米支部ぅ……!」
◇
部屋の中心でスパーリングをする聖と代行者。しかし、聖は事前のトレーニングによる疲労と、前日からの筋肉痛で動きが鈍かった。僅かに反応が出遅れたその刹那、代行者の正拳突きが聖の腹にめり込んだ。
「ぐぁあッッッ!!!!」
一撃によって浮かぶ身体と痛々しい声。聖の身体は、そのまま床へと無様に落ちて転がる。
「ゔっぐ……ゔお゛……ぐお゛お゛お゛お゛お゛……お゛え゛え゛え゛え゛」
聖は激痛の余り、腹を抱えて蹲り、醜く汚らしい呻き声を挙げて苦しむ。しかし、代行者は両手の指を前後して聖を挑発する。
『聖様、お気持ちは察しますが、実戦では苦しむ余裕はございません。今この瞬間にも、毎コンマ秒事に殺されております。今すぐ立って下さい』
「くう……ぐふ」
どなたか存じませぬが、誤字報告ニキありがとうございます。




