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1節 隠し通せたが、力と秘密が出来た

 月明かりに照らされる修道院。その厨房内に置かれた椅子に、少年代羽聖(しろばひじり)と幼女アナは腰掛け、作業台の上にカレーライスを置いて食事をしていた。


「〝ギアマリア〟ねぇ……」


 聖はカレーを咀嚼しながら復唱するよう呟くも、その声は聞かせるべき相手には届いていない。相手のアナは、使い捨て容器に入ったカレーライスを何度も口に運んではリスのように頬を膨らませて咀嚼する。その顔は恍惚に浸り、完全に自身の世界へと入っていた。その姿は年相応の子供で、とても人外の存在とは思えない。


「――……んぅ、うん。正確には、〝ギアマリア・システム〟だがな。吾輩が知っている事は先程話した通りだ」


 訂正――聞こえていたようだ。話が一区切りを迎えて、聖はカレーライスにスプーンを突き刺し、掬い上げて口の中に運んだ。疲れた身体を癒すように染み渡るスパイスの風味と刺激。



 アナがカレーライスを食べ終えるまでの間、少女の説明について復習する様に再確認し始めた。


 アナの話によると、昼間の謎の機械の化け物を倒す為にアナが聖に与えた力の正式名称は“ギアマリアシステム〟。有機金属加工物を媒体として作られた〝アナテマ〟と呼ばれるナノマシンにより、クロスアップの掛け声に反応して、男なら女体化させる代わりに超人にまで強化するものだという。


 女体化した理由はナノマシンに耐える(・・・)為らしい。アナテマは、変身時に増殖して体外を覆う鎧にもなり、体内に残って肉体強化、エネルギーの生成・増幅を行う。しかし、それらをこなすナノマシンの量は視認出来る程に膨大で、使用すると身体はナノマシンによって拒絶反応を示し、最悪ショック死する恐れがある。


 そして、女性は男性よりも免疫力が高く、異なる遺伝子を半分持つ胎児を胎内に宿して共生する、妊娠という身体機能により、異物であるアナテマによる拒絶反応を抑えつつ利用する事を可能にした。


 ――これが、先程までにアナが話したギアマリアについてだった。


 整理し終えた所で、聖は気になった点について考える。まずはナノマシンの名前であるアナテマ。アナテマとは西洋宗教用語の1つで、〝奉納〟〝呪う〟〝殺す〟と訳されるギリシア語の言葉。


 元来は〝神への供物として異民族を殲滅(・・)する〟という言葉であり、紀元前イスラエルでは〝強い呪い〟という意味で用いられ、そこから転じて教会では〝破門〟を表す。


 それからギアマリアの〝マリア〟西洋宗教では女性の聖人、聖書に登場する神の子の関係者にマリアという名前の者が多い。


(宗教関連の用語付ける辺りは神父らしいけど……武装蜂起して新教派でも叩くつもりか?)


 西洋宗教には幾つかの派閥がある。まずは東方教会と西方教会。更に西方教会は、旧教派と新教派に分かれる。聖達は旧教派だ。16世紀、拡大した西方西洋宗教は信者からの多額の給金、所持すれば罪が許される〝免罪符〟の販売等で、莫大な金を得て私腹を肥やし堕落していた。


 これに反感を持った一部の聖職者達によって宗教改革が起こり、西方教会は二分。改革を起こした者達で構成された宗派が新教派である。因みに聖達の修道院は旧教派に所属している。


 旧教派と新教派は、両派共に唯一神とその息子を信仰するも、その体制は旧教派は法皇を頂点とした組織であり、法皇を支持。対して新教派は独自の派閥があり、それぞれが独立して聖書を信仰、手本としている。異なる教えを広める新教派を目の敵にする過激派の旧教派もいる。ギアマリアという圧倒的な力が、その暴力的な過激派の臭いを醸し出していた。


 聖が考え終える頃、一足先にアナがカレーを食べ切ると、空になった紙皿に残ったカレールーを舌で舐め取り始める。


「こら、汚い真似しないっ」

「ああっ!」


 聖はアナから空皿を取り上げると、傍にあるティッシュで幼女のカレーが付いた口周りを拭く。使ったティッシュを丸めて近くのゴミ箱に投げ入れると、聖は改めて食事を再開する。スプーンで7割程残ったカレーを掬って口に運ぼうとすると、強い視線を感じた。


「…………」


 視線を感じた聖は、目だけを視線のする方向へ動かすと、目の前でアナが目を輝かせながら涎を垂らしていた。お構いなしにスプーンを口に近づけると『ああぅっ』と、喘ぎ声にも似た声を放つ。


  「……ほら」


 カレー1人前を食べておきながら、更にカレーを求める貪欲なアナに聖は堪らずスプーンを皿に置いて、カレーライスを滑らすようにしてアナへと差し出した。すると、アナはすぐさま紙皿を取ると、そのままがっつくようにカレーを食べ出す。聖の空腹は、未だに満たされなかった。


(腹減った……――やばい、さっきまで食欲あったのに、今は極限過ぎて食欲無いし、空腹じゃなくなってきた……)


 空腹すら感じなくなった聖は、腹をさすりながらアナに問い掛けた。


「お前……身体、機械なんだっけ?」

「ああ。ナノマシン(アナテマ)で出来ている」

「防水は?」

「平気だ」

「じゃあ風呂連れてくから身体洗え。庭から落ちて汚れてる筈だろ」


 修道院には自家発電装置とろ過装置と貯水設備が備えられている。最初からある訳ではない、聖の父の奉が宝くじで当てた金で購入したものだ。人々の為にという事で設置したもので最初は半信半疑だったが、まさか大規模な断水と停電で本当に役に立つとは思いもよらなかった。タオルを用意し2人が向かったのは、修道院の母屋にある大人数用の浴室。避難民の受け入れの合間に掃除を済ませ湯を張っており、今現在は避難した人々の為に開放されている。時間制にして男女の入れ替えをしており、今は女湯になっていた。


(――ん? なんか人、多過ぎないか?)


 受け入れた避難民の数とは合わない程に、浴室近辺には多くの女性がごった返しになっていた。理由を考えていると、背後から聖の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「あ、聖君」

「ん? 果楠?」


 振り返ってみると、植物を編み込んで作ったカゴバッグを左手に提げ、青いパーカーにデニムのホットパンツを着た茶髪の眼鏡の少女がいた。聖の幼馴染の留華果楠(とめばなかなん)だった。


「果楠、どうしてここに?」

「電気はつくんですけど、水道が流れてなくて。お邪魔しています」


 だから人がいるのか――聖は原因が分かり、頭を抱えた。まさか知らぬ間に、修道院の浴室が無料開放された銭湯になっていたのだ。大方、避難者が無料で開放されていると携帯電話なりして広めたのだろう。しかし、下手に言えば自分達だけで独占している事になる為に強くは言えない。聖は黙認か、今更ながら快く了承するしかなかった。


「まあいっか……――そうだ。果楠、アナと一緒に風呂入ってくれないか? こんなに人いるから、面倒見て欲しいんだけど」


 自身の前にアナを立たせてその肩に手を置くその姿はまさに保護者そのもの。果楠は笑顔で返した。


「ええ、私で良ければ良いですよ。着替えはあるんですか?」

「――無いです」

「だと思いました。お古を幾つか引っ張り出して来ましたよ」

「ホント、果楠様様です」

「じゃあアナちゃん、一緒に入りましょう」

「うむ、頼むぞ」


 聖からタオルを受け取ったアナは、果楠と共に浴室へ向かった。一瞬の安堵に包まれた聖に、金髪の少女は踵を返して少年の下に駆け寄る。


「――聖」

「ん、何だ?」

「今、インターネットに接続して調べたんだが……」

「え? ケータイあるの?」

「いや。今さっき、アナテマの能力のちょっとした応用で直に接続した。ケータイいらずでネットが見れるようになったぞ」

「え、そんな事出来るの?」

「ああ。それでだ、このような状況ではこう言うらしいな。……覗・く・な・よ?」

「覗かねーし、構造的に出来ねーよ。シッシ」


 聖は手を払ってアナを浴室へと促すと、自身はその場を後にした。少女達と別れた聖が向かったのは厨房だった。カレーをアナにあげてしまったせいで依然として残る空腹。疲れもあってか、入浴をも済まさずにそのまま寝てしまっても良かった程だった。


 だが、何かしら食べておかないといけないと思い込んだ聖は、キッチンの中を探り始めた。冷蔵、冷凍、保存してあった食材はありったけ出し尽くした。そのせいで、探せど探せど、食べられそうな物は一向に見付からない。


 ようやく見つけ出したのは、カレー作りの際に出したまま部屋の隅に放置されてたバゲットと卵と小さなバター、冷蔵庫の隅に置かれた消費期限が今日までの名前の書かれた小さな牛乳パックだった。


「牛乳のは……名前は修道女(ねえさん)のか、忘れてったのか。今日までだし、使って良いよな」


 そう自分を納得させた聖は、重たく固まった身体を解して調理に入った。手と調理器具を洗うと、バゲットを切って卵と牛乳を合わせた卵液に漬け込んで液体を吸わせた後、熱したフライパンにバターと油を入れて焼く。こんがり焼けたら、皿に移してシナモンとグラニュー糖、メイプルシロップをかける。フレンチトーストの完成だ。



 料理が出来上がるとテーブルに置き、ナイフとフォークを用意して席に着くと手を合わせて食事を始めた。トーストを切ると、表面はサックリと、中はトロトロと柔らかい。口に運ぶと、しっとりとした歯触りのパンが舌を包み込んだ。噛み締めれば乳と卵の濃厚さが溢れ出て口の中で溶けて無くなり、シナモンとメイプルシロップのほんのりとした甘さと香りが疲れた全身へと染み渡る。


アナ(アイツ)は上手くやってるかね……」


 料理を味わいながらも、アナの事が気掛かりな聖だった。


 一方で湯気が立ち込める広い女性浴室。壁の周りには幾つものシャワーと鏡が取り付けられ、その目の前で老若問わず髪や身体を洗っており、皆が現状に悲観せずに世間話や愚痴を溢して笑い合い、互いに励ましていた。


 手拭いを持った全裸のアナと果楠はその中へと足を踏み入れた。


「――で、何をする?」

「まずは身体を洗いましょう」


 そう言って果楠はアナを連れて浴槽の近くへ行くと、傍に置かれた片手桶で浴槽のお湯を汲み取ると、自身とアナの身体にかけた。全身に満遍なくお湯をかけて汚れを簡単に洗い落とすと、2人は浴槽の中へと入った。


「はぁぁっ……気持ちぃぃー」

「…………」


 果楠は身体から疲れがお湯へ溶け出すような感覚から声が漏れる。対してアナは身体が温まるのを感じる以外、何も思わなかった。


  「ママー」


 後ろから少女の声が聞こえた。そこには母親と思わしき女性に髪を洗われている少女がいた。外見との年齢差はない。同い年位だろう。


「果楠」

「何、アナちゃん?」

「親はいるか?」

「いますよ~。でも、今日は2人共外出していて、今日の事故で帰って来れないんです」

「どんな人物だ?」

「優しいです~。アナちゃんのお父さんとお母さんはどんな方ですか?」

「吾輩は……」


 両親はいない――しかしそう言う事が出来なかった。聖がアナは海外へ出かけた教徒夫婦から預かった子供という立場だが、実際はナノマシンが人の形をしたもの。人間ですらない。どう返答すれば良いのか考えた――。




 《――すごいね。自分で考えて調整して最適化するなんて》

 《ええ。コレはきっと祝福されているのかもしれないわ。その内喋り出すかもしれないわね、この子》

 《だとしたら、君の事をママって言うかな?》

 《ふふ、それは良いわ》




 ――声が脳裏を過った。


「うむ。まぁ、明るい性格だな」

「楽しそうな2人なんですね」


 フフッ、と笑う果楠を、何が面白いのかと呆然と眺めるアナ。次第にその目線は顔から、歪んで透き通る水面越しの身体へと変わる。果楠の体はそれ程凹凸はなかった。掌で覆える大きさの膨らみがある胸、そこから緩やかにカーブする腰と程よく膨らみのある尻。一言で表すのなら柔らかそうだった。


「――? どうしました」

「いや、体格に違いがあるなと思ってな」

「そんな事ないですよ。私は胸はAだし、ウエストも70はあるし……アナちゃんはまだ子供なんですから。これから沢山ご飯食べて、沢山運動すればきっと綺麗になりますよ」

「彼奴のようにか?」


 アナが目線で指す方向へ振り返る。そこにいたのは入り口から入浴場へ入る1人の女性。年齢は20代前半だろうか顔立ちは整っており、その身体付きは誰もが目線を向けるであろう、しなやかで美しいものだった。そんな女性を2人は数秒程見惚れていた。


「――大丈夫、2人で頑張りましょう!」

「お、おう……」


 突如、手を握られて交わされた約束に、相槌を打つようにして答えた――。




 互いに青と白のチェックのパジャマを着て入浴場を出て来た少女2人。目の前には壁に寄り掛かり、白いワイシャツに黒い半ズボンを来た聖がいた。


「終わったかー?」

「はい、お待たせしました」

「聖。スッキリしたぞ」

「そうか、良かったな」

「じゃあ私は失礼します」

「ああ、お休み。気を付けてな」

「はい、お休みなさい。――そういえば、今日から学校は休校だそうです、1週間」

「まあこんな事態だからな。しゃあないさ」


 果楠に手を振って見送る聖とアナ。果楠の姿が見えなくなると、聖は視線を少女へと落とした。


「じゃあ俺等も寝るか。お前も休め、部屋貸すから」

「そうさせて貰う……――その前に聖、良い匂いがするな、微かに甘い香りが」

「作ってやるから明日にしてくれ……」


 アナを連れて宿舎に戻ると、適当に選んだシスターの部屋にアナを入れさせ、自分も2階にある自室へと戻り、そのままベッドへダイブするように飛び込んで眠りに堕ちていった。


(…………あ、風呂入るの忘れてた…………)




 ◇




「――うぅ……」


 澄み切った感覚が睡魔を払い、聖は眠りの底から意識を引き上げられた。暗黒を切り開いて目の前に映ったのは――白地のパンツと白く張りのある足の柔肌だった。


(白――?)

「聖、起きたか」

「アナ……何用……?」


 聖は布団に顔を埋めて、再び睡魔へ堕ちようとする。どうせ今日は休みなのだから――。すると突如、外から重い爆発音が鳴り響いて頭に叩き込まれた。


「ハッ!?」


 聖は脱力しきって固まった身体が一気に飛び上がった。


「目覚ましってレベルじゃねえぞ!? 何だってんだ!!?」

「敵襲だ」


 再度、轟音が鳴り響いた方角へ振り返る。全身の毛が逆立った。その方向は――。


「あっちは果楠の家の方だぞ!!!」

ハーレムその1


アナ


属性:人外・金髪・のじゃロリ・まな板


幼女の外見をしているが、その正体は肉体はナノマシン〝アナテマ〟で構成された、統制機器〝アーク〟のシステムそのものが自律したもの。


常識を始めとした人間らしさはなく、アナテマを使って無線LANでインターネットに接続して学習をしているが、俗な情報も集めている。

感情の起伏は無く、自身の活動エネルギーの補給である食事に至上の喜びを見出している。


人間ではないので身体能力は高く、関節等の制限もないが、本人は人間らしくないとの判断で不必要な事ではしたがらない。

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