4節 滅ぼすは神の如き光
「〝衝嶽勁〟ッッッ!!!」
超至近距離から繰り出された攻撃により、セヴィラマリアは弾丸の如く撃ち出される。重力に従って身体は弧を描きながら地面へと激突し、そのままバウンドしながら飛び石のように撥ねながら遥か彼方へと飛んでいく。
僅かに勢いが衰え始めた頃になって、セヴィラマリアは両手の大剣を地面に突き刺してブレーキを掛ける。脳を揺さぶるような重い轟音ど響かせながら、大きく深い電車道が地面へと刻み付けられながらも一向に勢いが死なない高速に動く身体に、セヴィラマリアは吐血と腹部の傷から血を吹き出す。
表情を痛みで歪めながらもより一層、剣と脚を地面へと深く、強く、押し付けて、更にはユニットのスラスターを最大出力で稼働させて減速を試み続ける。身体に掛かる慣性が弱くなったその瞬間、セヴィラマリアは慣性の呪縛を振り切って、天高く跳躍した。
「――っさあ!! 〝徹甲飛翔誘導爆弾〟斉射ぁあ!!」
嬉々とした表情を露わにして叫ぶセヴィラマリアのユニット上方から放たれたのは、勢い良く飛び出して飛行機雲を描いて飛ぶ、超高速で飛び交、棘のような小型ミサイルの軍勢。軍勢は一心不乱にデュレルマリア目掛けて降り注ぐ。
デュレルマリアは咄嗟に下がって距離を取ると、両腕のドリルの一部が開いて銃口が顔を出す。
「〝ドリルショットマシンガン!〟」
ミサイル目掛け、雨の如く連射される円錐形の弾丸。弾丸達はミサイルと激突するも、ミサイルは弾丸を弾き返し、爆発するどころか怯まず止まらずに飛行し続ける。
「ッ!? ちぃい!!」
予想を裏切るミサイルの強靭さに舌打ちをする秦は、引き続き弾丸を当て続ける。執拗に迫る弾丸の猛攻に、ミサイルの幾つかは爆発四散して風船のように黒煙を浮かばせるも、依然として相当数のミサイルが襲い掛かる。
デュレルマリアは後ろを向けて走り出すと、ミサイル達もその後を追い掛け始める。駆けるミサイルが一直線上に並んだその直後、デュレルマリアは踵を返して向かい合い、腰を据えて右腕をドリルに変形させて引き構えると、ドリルは凄まじい勢いで回転し始めた。
「〝ドリルブーストパンチ〟ィイイッッ!!!」
怒声と共に突き出された右ドリルは、腕から外れ、轟々とけたたましい爆音を響かせながら撃ち出される。強烈な音を響かせながら空気を切り裂き進む巨大なドリルは、弾丸を弾くミサイル達を一瞬で纏めて粉砕。爆炎に揉まれるもものともせず、そのまま突き進んで着地していたセヴィラマリア目掛けて突き進む。
「くっ! ハウリングショックカノン!!」
強固なミサイル複数を一気に粉砕しながら飛来し迫る大型のドリルに狼狽えるセヴィラマリアは、右手に持った無傷の大剣を両手で持って構えると、上段から振り下ろし、眼前に迫るドリル正面へと振り下ろす。
凄まじい金属音と火花が一瞬で発生して周囲を包み込む。閃光の領域を突き破って現れたのは、2つに分断されたドリルを背に、根本から捩じ切れた剣を構えるセヴィラマリアだった。セヴィラマリアは折れた剣を銃形態へと切り替えると、デュレルマリア目掛けて飛び出し、弾丸を乱射する。
狙いが付けられず無数に放たれた弾丸を、デュレルマリアは腕のドリルで弾き捌き、ドリルマシンガンでセヴィラを牽制。側面へと回り込む。一方のセヴィラマリアは、肩部前方に取り付けられた2つのユニットを身体の前で合わせて盾にし、デュレルマリアの攻撃から身を守りつつ肉薄する。
迫る巨壁に、デュレルマリアはドリルを構えて突撃。2体の女像目掛けて、逆巻くドリルを叩き込むが、像は両手の剣で捌き、スラスターで加速する自身をデュレルマリアに叩き付けて弾き飛ばした。押し出されて怯み、吹き飛ばされるて地面へと転がったデュレルマリアは、すぐさま立ち上がって左腕を引き構える。
「〝ドリリング・ボルト〟ォオッッッ!!!」
叫びながら解き放たれた左腕ドリルは、先端から複数に分裂、更に枝分かれして放射線状に広がると、セヴィラマリアを覆い尽くす程の大量の螺旋の槍が襲い掛かる。ドリルの群れによってユニットを蜂の巣して動きを止めたデュレルマリアだったが、額から流れる血で視界が効かない左側から気配を察する。
「ッ!?」
「遅い!!」
ドリルを切り離して回避しようとした次の瞬間、左腕の肘から先の感覚が途切れる。デュレルマリアはステップを踏んでその場から飛び退くと、視界に映ったのは、先程いた場所の左側に回り込んでいたセヴィラマリアが大剣を振り下ろしていた姿だった。しかもその女の背中には、棺桶状の4つのユニットは無く、本人のその横に、ユニットが自立して立っていた。
「切り離せるだとッ!?」
「まだ!!」
間一髪、相手の追撃を防ぐデュレルマリアだが、失った左腕によりバランスは崩れて僅かに隙が生まれる。セヴィラマリアはそれを見逃さず、再度、剣を薙いで追撃する。セヴィラマリアはデュレルマリアの死角となった左側を常に陣取って剣を流れるように連続で振り払う。デュレルマリアは回避しようとするも、よろめいた瞬間に襲い掛かる斬撃に後れを取られ、全身に無数の深い切り傷を刻まれる。
表情を歪ませながらも、斬撃を耐え切ったデュレルマリアは大地を踏み込んで前進。距離を詰めると同時に切断された左腕を振り上げ、血の滴る断面から血液をセヴィラの目へと飛ばし付けた。飛沫となった鮮血は、セヴィラマリアの宝石のような眼に入って瞼で隠させると、デュレルマリアは右拳をセヴィラマリアの水月目掛けて叩き込む。
捻じ込まれるアッパーによって、胃液と唾液が混ざった液体を吐きながら浮き上がる女体。そのまま地面へと打ち付けようとした瞬間、セヴィラはデュレルの後頭部に大剣の柄頭を叩き付ける。凹む頭と一瞬止まる挙動。しかしデュレルマリアは再度動き出し、セヴィラマリアを地面へと投げ付ける。
土煙を上げながら転がったセヴィラマリアは、すぐさま目を腕で擦って血を拭い取り、霞む視界でぼやけるデュレルマリアを視認すると、大剣の切っ先を突き放ちながら飛び出す。一方のデュレルマリアも、右腕をドリルに変え、踏み出しながら唸る突きを打ち込む。
ドリルと刀身。交差する2つの刃はすれ違い、双方の肩を切り裂く。渾身の攻撃が逸れて密着する程に向かい合った2人は、そのまま離れずに至近距離からの膝蹴りの応酬を繰り広げる。
両者一向に離れようとせず、それどころか身体を使って押し倒そうと言わんばかりに密着し、一心不乱に膝蹴りで脇腹を蹴り合う。獣の争いのよりも苛烈しぶつかる泥仕合へともつれ込む中、互いにあばら骨が折れた腹目掛けて蹴り上げた膝の一撃により、苦しみ悶えて攻撃が止まる。
直立すらままならない程の激痛が内臓を揺さぶり、苦悶の表情を浮かべた2人のギアマリアはよろめいて後退。だが、すぐさま顔を上げて、腕を振り被り、双方共に一撃をぶつけ合う。凄まじい火花と共に砕け散るは大剣とドリル。衝撃によって双方の距離は更に開くと、デュレルマリアは右腕を左側に向けた。
「終われない! 仕留めるッッ!! 〝シーケンス、グレイスモード〟!!」
デュレルマリアは右腕で逆十字を切って手を合わせると、その身体は青い光のオーラに包まれ、各部から白い光点が点々と輝く。
「〝シフト・サクラメント〟!!」
デュレルマリアを包む光が一瞬だけ強烈に輝くと、そこには自身の数倍以上ある巨大なドリルの槍を手にしたマリアが立っていた。デュレルマリアが槍を振り被ると、螺旋に渦巻く衝撃波が走り、セヴィラマリアを浮かび上げて空中に固定した。
「〝貫き通したいものがある。徹し砕きたいそれがある。深淵ですら収まり切れぬ我が闘志。今こそ唸り捻りて駆け昇り、頂きを屠らん。――断恨〟!!」
ドリルの矛先をセヴィラマリアに向けて、詠唱を唱えて追加演算入力と最終リミッターを解除し、エネルギーを貯めて決着を付けようとするデュレルマリアに対し、絶体絶命のセヴィラマリアは、狂ったような高笑いをして右腕を左側に向けた。
「まだ終われないですねぇ……良いでしょう、相手しますよ!! シーケンス、グレイスモード!!」
デュレルマリア同様、セヴィラマリアも逆十字を切って全身から黒いオーラに金色の光点を放つと、シフト・サクラメントへ移行。黒い閃光に包まれた後、金色に輝く7つ頭と6枚3対の翼を持った巨大な異形の機械竜に腰掛けた姿で現れた。
「“空を曇天覆いしも、日輪の光は遮れぬ。万端は輝きを崇め平伏するも、それは戴天する我等が顎で燻る星の煌めき也。有象無象よ、我等の前に跪いては頭を垂れよ。――臨哭」
同じく詠唱し追加演算とリミッターを解除、竜は唸り声を上げながら首を引くと、半開きになった口内が強烈な光に埋め尽くされ始める。光を溜め始めるセヴィラマリアよりも先にエネルギーが溜まったデュレルマリアは、背面ブースターから最大出力の炎を放って飛び上がる。
「“底より剋りて天を穿つ螺旋槍〟ァァぁあああ!!!」
大地より天を切り裂かん程の勢いで飛翔するデュレルマリアの突撃。回転するドリルは、眩い光を放ちながら一条の軌跡を空間に刻み付けながら金色の竜へと向かっていくが、天高い場所で鎮座するセヴィラマリアはほくそ笑む。
「全力競べ!! 〝天魔頭竜の極煌葬覇崩界滅光咆〟ッッッ!!!」
デュレルマリアのドリルが目前へと差し掛かる前に、機械竜は、口内で太陽のように煌々と輝く程に溜めたエネルギーを、セヴィラマリア目掛けて一斉に解き放った。巨大な光の奔流はドリルへと降り注ぐと、その光は拡散して訓練場を包み込む。
闇も、音も、時間すらも掻き消して、遂に訓練場を吹き飛ばした。光が晴れた始めると、訓練場の天井は崩れ落ち、大量の水が焼け焦げる室内に滝のように流れ込む。
宙に浮かぶセヴィラマリアは、その右半身を竜ごと貫かれて消失し、その背後の上で飛んでいたデュレルマリアも、左半身とドリルの大部分が無くなっていた。互いに苦しみの表情を浮かべて満身創痍である中、セヴィラマリアことユーサーはまたも笑い出す。
「フハハハハッ!!! 良いですねぇえ!! 全力を出し切るって!! でもまだだ! まだ尽きる訳にはいけない!! そうでしょう! そうでしょう!? ねぇえ! 秦さん!!」
セヴィラマリアは左腕を、デュレルマリアは槍を手放して右腕を。両者はそれぞれ残った腕を斜めに構えると、回して自身の胸へと打ち付けた。
「「〝テオシスライド〟!!」」
水が訓練場を埋め尽くす前に、2人を包んだ巨大な光柱が水を押し退け天高く昇って行く。両者の依然として折れぬ、止まらぬ闘志と信念を表すかのように――。




