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2節 願いたくば来たれよ

 地平線が見える程に広大な広さを持つ模擬戦場。天井は空のように高く白く、幾つもの照明が等間隔で並べられ、その下に荒野が広がっていた。その地に立つのは、両手に長い銃身下部に刃が付けられた剣を逆手に持った女性の天使像が取り付けられた、分厚い菱形の黒い棺の様な物体を背中に1基、そこから四方に伸びるアームで同型のものを4基装着した、黒いレオタード衣装に装甲で作られたブーツと手袋を付けた青い長髪のギアマリアが立っていた。


「こちらユーサー・スライブマンこと〝セヴィラマリア〟。所定位置に到着しました」

『こちらカーター・アレクサンドです。代羽秦こと“デュレルマリア〟も所定位置の配置を確認しました。これより模擬戦を開始します』


 カーターの開始の合図を聞いたセヴィラマリアは、背面と四方5基の棺の裏面にあるスラスターノズルから炎を吹き出し天高く飛び上がった。飛行機雲を生み出しながら高度を飛ぶセヴィラマリアは、周囲を回った。


(秦さんのデュレルマリアは地面を潜れる…………もう既に潜ってるだろうから、飛んでいれば真下から奇襲はない。だが、向こうもそれは承知の筈だ。既に別の場所から地表に出てて物陰に――)


 考えながら飛行していたその瞬間、突如真下から劈くような大音量の掘削音と共に巨大な何かが飛び出してセヴィラに襲い掛かった。


「っちぃ!?」


 セヴィラマリアは4基の飛行ユニットと体勢を翻して方向転換をして奇襲を回避すると、謎の物体は突如人型となってセヴィラマリアの左肩に蹴りを叩き込んだ。


「ぬぅおおォォオッッ!!?」


 セヴィラは咄嗟に左前ユニットの像が両手の剣でガードするも、打ち込まれた蹴りは重く、セヴィラマリアは大きく体勢を崩して失墜する。更に人型はすかさずセヴィラマリア目掛けて加速して追撃。純白の聖女はまたも左前ユニットの天使像でガードするも、相手の放った唸る円錐状の武器によって天使像の2つの剣は像諸共砕かれ、そのままマリアは地面へと叩き落された。


 盛大に土煙と衝撃波を撒き散らしながら墜ちたセヴィラマリアは、地面を撥ねながら転がって行きながらも即座に立ち上がり、長い銃身の下に刃を付けた銃剣を両手に武装して相手を視界に収めると、謎の存在は地面へと着地した。


(クソッ!! 警戒してた真下からの奇襲(せんぽう)だったのにやられた!! 地面を掘り進んでいて何という速度!! そしてこちらの装備を破壊するパワー!! デタラメだ!!! これが前任者……嘗て、全てのギアマリアを率いる特権を許され、数多くの敵を、組織を粉砕して来た頂点!!!)

「その上インテリって……チートじゃないかい、先代さん?」

「先代? それだけじゃないさ。これは、今、私を突き動かすこの気持ちが、君を圧倒している。…………見せて上げよう、子を思い、護る為に全力を尽くす親の力と言うものを……!!」


 全身土だらけになり、頭や口から血を流すセヴィラマリアの目の前に立つ、四肢の前方に円柱の側面に螺旋の溝が入ったドリルのような物体を取り付けたオレンジ色のボディスーツ姿の10代前半の短い黒髪と円錐の髪飾りを付けた少女が立っていた。


「代羽秦の……デュレルマリアの力、目にもの見せてやろう」

「模擬戦なんですけど…………」


 セヴィラマリアの呟きを捻じ伏せるかの様な、鋭い眼光を放つデュレルマリアの威圧にセヴィラは戦慄して冷や汗をかく。デュレルマリアは円錐から展開される装甲が顔を覆いマスクを形作る。渦巻を半分にした目に眼光が灯ると、背面のブースターから強烈な炎の噴流を放って飛び出し、強襲を仕掛けた。大地を踏み締めると同時に地面を踏み砕き、土を蹴り飛ばし、瞬く間にセヴィラに肉薄。回転する前腕ドリルを唸るような金切り声を上げながら振り被る。


 空気を伝って鼓膜をズタズタに引き裂くような音を放ちながら超高速で回転して迫るドリルに、セヴィラマリアは肩部ユニットのスラスターを起動して咄嗟にバックして距離を取るも、依然として鳴り止まないドリルの唸り声に恐怖を抱いたセヴィラマリアは、歯を噛み締めて敵に意識を集中して、手に持った銃剣の銃口を向けて引き金を引く。


 銃から重い発砲音と共に連続で弾丸が撃ち出されると、デュレルマリアは左前腕を掲げてドリルを回し、迫る弾丸の雨を弾き飛ばす。弾丸が弾かれる甲高い音は、ドリルの耳障りな回転音で搔き消され、その音を引き連れて少女は白聖女を追い掛けた。


 眼前へと差し迫ってセヴィラマリアは武器を前に出したその瞬間、デュレルマリアは後ろへ上げた右脚の円柱状のドリルを変形させて円錐状に伸ばし、そのまま足元の地面をドリルで抉りながらセヴィラ目掛けて蹴って土砂を巻き上がる。


「クッ!」


 突如、物凄い勢いで巻き上げられた大量の土砂をぶちまけられたセヴィラマリアは、咄嗟に腕で顔を覆って後退り。セヴィラマリアも髪の間から細長い無数の装甲版を出すと顔を覆いマスクを装着。猛獣の如き鋭く大きな目は光を放つ。立ち上る土煙の煙幕で視界が埋め尽くされると、その幕を突き破ってドリルがセヴィラマリアに襲い掛かる。セヴィラは剣で回るドリルを逸らし続けるも、勢いよく回るドリルとデュレルマリアの膂力によって、鍔迫り合いとなった右腕ドリルの薙ぎ払いによって弾き飛ばされた。


「チェェェエエエアストォォォオオオオッッッ!!!」


 デュレルマリアは剣を握るセヴィラマリアの両腕をドリルで弾き返して隙を生み出すと、雄叫びと共にドリルを鳩尾目掛けて叩き込んだ。


 その瞬間、セヴィラマリアの右前ユニットの1つのアームが伸び、棺の側面が口のように開くと、内部の複数に並ぶチェーンソー状の歯を奔らせ、龍の首のようにしてデュレルマリアのドリルに噛り付く。更にユニット表面に取り付けられた像が起き上がって剣を構え、身を乗り出してデュレルマリアへと追撃を仕掛けた。


 デュレルマリアは、像の剣撃を空いた腕のドリルで刃を弾くも、像の腕はそのままデュレルマリアの肩へと組み付く。それと同時に、唸り走るドリルの回転とチェーンソーの旋刃により、空気を叩き割るかのような金属音が鳴り響き、2人を埋め尽くす程の火花が線香花火の噴水の如くとめどなく溢れ出る。


 寸での所でドリルによる刺突攻撃を防いだセヴィラマリアは、視界を火花の閃光で埋め尽くされて目を細めながらも、捉えたドリルを決して離さず、ユニットを通して伝わる感触でその場にいるのを確信するセヴィラは、全身に火の粉を浴びながらも、ひるまずにユニットのアームを動かして怒声と共にデュレルマリアを遠くへ天高く放り投げた。


 身を翻した先に火花の濃霧が晴れると、セヴィラマリアはすかさず4つのユニットを前方に広げてX字に配置。棺状のユニットの中心部、女性像の真上の部分の箇所の装甲が開き、内部から穴が開いた短い円筒が2段式に伸びて一斉に回転。数珠状の光輪が回転しながら展開されると、4つの円筒の先端から強烈な輝きを放つ火球が現れ、直線状に一斉に放射されると同時に光輪で収束されて巨大な熱線へと変貌してデュレルマリア目掛けて突き進む。


「“破砕熱線砲ブラストインパルスキャノン〟!!」


 空を切り裂きながら解き放たれた極太の熱線に、宙を漂うデュレルマリアは、胸部にあるドリル先端を解放し、回転するエネルギーを熱線目掛けて解放した。


「“デュレルノン・ブラスター〟ァァァアアア!!!」


 怒声と共に解き放たれた極太い光線は、空間を一直線に切り裂きながら直進してセヴィラマリアの熱線と衝突。ぶつかり合う光と光。せめぎ合う光は強烈な閃光と共に衝撃波と爆音を解き放ち、大爆発が起きて爆風が訓練場全域を埋め尽くす。


 強烈な閃光と爆音が周囲一帯を包み込み、数秒間の無音が2人を包み中、両腕で視界を庇う人影に、閃光の中を突っ切って黒い影が飛び掛かる。振り下ろされる一撃。もう片方の影は、それを捌いて攻撃を回避すると、バックステップと同時に方向転換して影への反撃に出る。対して影も、それに対処をしつつカンター。


 眩いばかりの閃光と爆音で埋め尽くされて、逆に純白で静寂に世界に包まれた訓練場。不変となった領域で目にも止まらぬ速さで死闘を繰り広げる影の戦士達。やがて閃光で塗りつぶされ、爆音で埋め尽くされたことで無音となった空間は、光が弱まって色彩が取り戻され、爆音が弱まると共に他の音が顔を出し始めると、漆黒の影の戦士達のその姿は表されていった。


 腕のドリルと剣の鍔迫り合い。凄まじい勢いで回転するデュレルマリアのドリルに、相対するセヴィラマリアの剣の刃は細かく砕かれる。


「ちぃいッ!!」


 剣の刀身が完全に無くなるその直前、セヴィラマリアは寸での所で剣を手放してデュレルマリアから距離を取った。退避の最中、セヴィラマリアはスラスターによって、退避距離は一瞬で十数mも広がる。

開いた距離から追撃するは不可能と判断したデュレルマリアは、その場で構え直して相手を睨みつけていると、一方のその相手は壊された銃剣の断面を見て顔を歪ませる。


「ああ……剣がグチャグチャだ。試作武器の試験運用をついでに頼まれてたというのに……これじゃあ技術部の人がカンカンだ」

「なら止めるかい? 君の戦意喪失判定でね」

「そうなったら、聖君へにお願いが無しになるじゃないですか」

「まだそれを言うか……」


 デュレルマリアになる秦の心を、逆撫でするかのように嫌味たらしく喋るセヴィラマリアことアーサー。依然として、青年が自身の行いを分かっていない態度で向かい合うことに痺れを切らした秦は、苛立ちから舌打ちと共に地面を踏み砕いて叫ぶ。


「何度も言っている筈だ。戦えるからと言って、素人の民間人を徴兵するような真似をするのは止めろ!!」

「素人? イドールを複数機破壊したのみならず、ギアマリア、ヘルティガンディを退けた。極め付けは、聖地都市で見せた虐殺寸前な不殺の一騎当千! アナちゃんのサポートによる功績があったとしても、彼の即戦力としての活用は勿論、育成すれば今後の活躍には期待出来ますね」


 高らかに喋るセヴィラマリアの姿に、遂にデュレルマリアの怒りの限界が突き抜けた、踏み締める足は、更らなる力を込めて地面に叩き込み、ヒビ割れる大地は秦の感情を表すように大きく隆起した。


「期待だと!!? 聖地でのあの戦いは暴走だッッッ!!! ただの一般人が出しゃばっていると、聖に対して良くない噂も聞こえた。面倒を見ている日本支部の中にだっているそうだ、そんな状態で聖が受け入れられると思っているのか!?」


 怒声の反論に、アーサーの、セヴィラマリアの飄々とした佇まいは一向に変わらない。


「その為の配置ですよ? さっきは熱くなってるのでお流れになりましたけども、今は戦闘(リフレッシュ)出来ましたから、もう1度、説明しますね。再度言いますが、彼が今後携わるのは人同士の戦いではなく、永久エネルギー機関(プランター)の探索です。ヘルティガンディ相手でこちらは人員不足ですからね。そちらを基本に人員を割くので、実質、聖君の単独行動になります。超高速飛行ポッドで自宅から瞬時に、プランターがあると思われる場所に送り届ける予定です。まあ場合よっては、ヘルティガンディも相手にして貰う必要がありますけどもね」


 セヴィラマリアは悠然と説明をし終える。が、デュレルマリアの怒りの熱は、依然として心を昂らせるままだった。 デュレルマリア――秦へ。セヴィラマリアは聖の予定する活動内容を悠然と説明をし終える。が、デュレルマリアの怒りの熱は、依然として心を昂らせるままだった。


「話を逸らすな、本題はそこじゃない! 私が懸念しているのは、プランター探索で鉢合わせするであろう“イザベル〟の存在だ! 4人組の正体不明のギアマリア…………私もデータだけでしか見ていないが、1人でも聖教守護者団の大隊長クラスに匹敵する実力者で、既に何十人も奴等に殺されている。相当な実力者だ。それをアナちゃんがいたとしても、聖1人で勝てる道理がない!」


 最愛の息子の生死を分ける事柄を、軽々と話すセヴィラマリアの言動に、デュレルマリアの声に怒気がより一層圧し掛かる。息子が役に立つからと言えど、嬉々として危険に晒されることを看過出来る訳がない。


「息子さんを、そんなに過小評価する必要はないと思いますよ? アナちゃんから交戦記録は貰って拝見してますけども、個人的には今後に期待は持てるとは思いますよ? それに、真っ向からイザベルと戦わせようだなんて思っていません。目的はあくまでも目標物体の確保(プランター)。基本逃げて貰う方針ですよ」

「…………――逃げ切れる保証はないだろうに。逃げるどころか、気付くまもなく殺されることだってあり得るんだぞ」

「だから、息子さんを過小評価のし過ぎですよ。誰も、彼をそのまま戦わせはしません。腕の良いトレーナーに短期集中的に鍛え上げさせます。モノになるか分かりませんが、それに付いて来れないようなら彼を採用するのは見送ろうかと思います。なんせ、世界の命運を左右する物品を手に入れる、命掛けの仕事ですからね…………――ああぁ、これさっきも言いましたか」


 付け足しが施されながらも繰り返された会話。再度、秦は思考する。人手が足りないのは事実である。故に、人手を増やす為にも、早急にアークの修復をする必要がある。本来ならば、このような殺意を込めた模擬戦をしている暇すらない。


 しかも、アナというアドバンテージを得ていたとしても、戦闘のプロであるギアマリアを何十人も葬り去った4人組に、付け焼刃で鍛え上げた素人が単独で挑める筈もない。戦闘を回避しようとしても、追撃の一瞬で殺される可能性は濃厚だった。何故聖に拘る――数度の戦闘から、世界のパワーバランスを崩す程の代物を取りに行かせる理由として秦は納得出来なかった。


「本当にそれだけか? 何を企んでいる?」

「何も企んでませんし、それだけなんですが……寧ろ、その理由で納得して貰えないからこそ、この一騎打ちで決めようって話なのに…………」

「勝つのは私だ。そして負けたからと言って、大人しく引き下がるとは思えない。私の知らない裏で聖を殺されて堪るものか」


 聖君が黙っていれば、そもそもこうならなかったのに――デュレルマリアに睨みつけられながら、アーサーは心の内で呟いた。すると、何かを思い付いたのか、不敵な笑みを浮かべながら喋り出した。


「――……ああ。戦闘データを取る為ですよ。聖君は、適正が無いのにギアマリアになった稀有な存在です。彼の身体を調べれば、ギアマリアになれない人間をギアマリアに出来るかもしれません。よくよく考えれば、秦さんがアークを直しては人を探してなんて、二度手間ですからね。それが減らせるのなら効果的だと思いますよ。単独なら危険に晒される分、まだ見ぬ可能性を聖君は見せてくれるかもしれませんしね。アークとの接続を解除したのに、日本で一人でに女体化した前例もありますし」

「聖をモルモットにする気か!?」


 先程よりも、更に殺意を載せた声をデュレルマリアは放つ。威嚇する肉食動物のように犬歯を見せる程の怒りの表情を出すと、嬉々とした笑みを浮かべ、楽しそうにはしゃいだ口調で話し続ける。


「世界の平和の為ですもの! 人一人で数千万、数億の人間の未来守れるなら、安いどころかお釣りが来そうですけどね!!? 他には聖君にご褒美でもあげましょうか! 思春期ですからね、可愛い女の子でも送りましょうか! 夜伽の相手でも――」

「息子を穢すなクソ野郎ッッッ!!!」


 最愛の息子を食い潰し、あまつさえ侮辱する言葉の連続に、遂に秦は我慢の限界を迎えた。

頂きものご紹介。


Twitter、よじろっく@yoji_rock こと兄上さんより、本作の主人公機ことベイバビロン聖機のイラストを頂きました。

挿絵(By みてみん)


この場をお借りして、改めてお礼申し上げます。

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