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7節 聖女に相応しい善悪の衣

 聖教守護者団バチカン国際本部。――の、大小様々で多種多様な武器が置かれた部屋。その一角で幾つかの武器を選んで纏めて置き、再度確認する聖とアナ。彼等が選んだ武器についてカーターが指差しで説明し始めた。


「じゃぁ、ピックアップした武器の説明ー。まずは4砲身2連装ガトリング砲が4丁、弾薬は4万発、フォース()アナテマ()ナイジング()処理済み長剣と短剣がそれぞれ4本ずつ、FAN処理済み複合装甲シールドが大小それぞれで5枚、拳銃2丁、予備弾薬200発、アサルトライフル2丁、予備弾薬1000発、対物ライフル2丁、弾薬200発、スリリングボム30個、手榴弾30個、ロケットランチャー2丁、弾薬が50、連射式クロスボウ2丁、弾薬2000発、電磁誘導式多目的破砕パイルバンカー2機、超硬質アンカーロープ300m、100m、50m、10mが4本ずつ、ブースター付きFAN処理済みハンマー4本、使い捨てロケットエンジンブースター4基。そこにご注文のFAN処理済み鉄骨2.5mを500本。総重量9.23t。軽車両9台分だね大体。普通は1tいければ良いが良い方なんだが。――……入るの全部?」

「為せば成るだろう」

「気を付けなよ、限界以上の重さを注ぎ込んだら、フィールドが崩壊して武器全部が一気に頭上から降り注ぐか、前後左右から雪崩みたいに出てくる。常人なら即死確定」

「吾輩と聖なら大丈夫だ」

「「HAHAHAHAHA」」

「ふざけないでくれ2人」


 おふざけ交じりで非常識な事を平然と話すカーターとアナにツッコむ聖。そして横目に、選んだ武器の山を見詰めた。武器のその全ては、アナがギアマリアが現状で必要と判断したものだ。パワーと防御力、変身持続時間が他よりも劣る分、短期決戦とそれに見合うだけの持続力、弾幕の展開力を求めた。剣や盾、そして自らが身を以て知ったガトリング砲は兎も角、他の武器が一体どういうものか、何の違いなのかは聖には理知らない。ただ1つ分かる事は、一部を除いて、これらの武器は全て〝人を傷付け、生命を奪う〟事を目的に製造・運用される代物なのだと。


――聖はユーサーから入団テストの参加を申し出た後、そのまま国際本部に連れて行かれた。アナを抱き抱えて両目を閉じて痛みに耐える様言い渡されてその姿勢を取ると、ユーサーがおもむろに「クロスアップ」と言う声がした瞬間には強烈な負荷が身体に襲い掛かった。ユーサーがギアマリアになった姿を確認する暇も無く意識は遠退き、僅かながらに虚ろになってすぐに思考がハッキリしていた頃にはバチカンに到着していた。


それからはトントン拍子で物事は進んでいる。自衛用として多種多様な武器が大量に用意され、アナの要望という事で鉄骨までもが用意された。因みに鉄骨を要望した理由は、初めてのギアマリア戦で鉄骨を使った際に気に入ったの事だった。


(ある作戦に参加する……一般人だからと言って大量に用意された武器……俺は……戦うんだな……)

「聖……」

「ん? 何、アナ?」

「無理はするなよ」

「……ああ、そうだな。安心しろ。あのクルセイド(デカブツ)の性で皆苦労してる。人助けだ、頑張るさ」

「…………――さてと、後はクロスアップしてヘブンズラックを出して収納で終わり。掃除機かける要領で良いよ」

「はい」


 言われた通りにクロスアップしてギアマリアになった聖は、右手を出してフィールドを展開。幾つもの十字が数珠状に連なった帯を纏った黒い穴に次々と武器が吸い込まれていく。全ての兵装を格納し終えたギアマリアは、再度ヘブンズラックの口を開いて武器を出した。出したのはアサルトライフル。腕と同じ長さと幅の黒光りする金属の塊は、思いの他軽かった。銃の側面には、聖教守護者団の物を表す、銀色の十字架のエンブレムが付けられている。神妙な顔をする聖に、カーターが話し掛けた。


「さて。この後すぐにでも君にはある作戦に参加して貰う。まあ度胸試しみたいなものだよ、ユーサーもそう言ってる事だし」

「分かりました」




 ◇




 ――雲海の上を飛ぶ大型輸送機。機内には、以前戦った黒聖女と同じ格好、もしくはそれに似たドレスの様な服装をした女性達――ギアマリア達が椅子に座っていた。その中に混じる、1人の少年と金髪の幼女、聖とアナ。2人は従来のギアマリアと比べて変身時間が短い故の配慮だ。前方の壁に取り付けられたディスプレイの前に、白と黒を基調とした左半身の衣服の袖と裾が長く、右の衣服が対照的に短い金髪の女性が立った。


「諸君、おはよう。ギアマリア本部部隊隊長のエヴァランス・バレンカーだ。作戦内容を知らない者もいるので、それを教えると同時に、事前に通達されている隊員達には再確認という趣旨で行う。

 まずは我々が今現在向かっているのは中東のイスラエル最大の都市、聖地都市だ。理由は先月から話題になっている、西洋宗教の過激派による聖地都市襲撃だ。過激派は世界中から総勢12万7000人の一般人の信者を集めた後、現地国の半反政府組織と手を組んで武器を入手後、聖地を襲撃した。聖地には同じく聖地として信奉し巡礼する中東宗教信者と他国の西洋宗教信者に近東宗教信者、地域に住む民間人、無関係だが観光目的で訪れていた外国人観光客を目標として襲っている。確認されている範囲で死傷者は20万人を超えている」

「――え? イドールやギアマリアが相手じゃ……」


 聖は、自分の考えと方向が違う話に違和感を覚えるも、エヴァラインは続けていく。


「現地の軍は、宗教上・歴史上価値のある建物への被害を気にして大規模な武力展開を出来ていない。そこで事実上、白兵戦において地上最強と言っても過言でもない我々に白羽の矢が立てられた。

我々の任務内容は、聖地都市(さくせんちいき)に到着後、同門で好且つ信ずる宗教(もの)の名に泥を塗った愚か者共を責任を持って速やかに〝殲滅(・・)〟する事だ」

「――!!?」

「作戦内容について、何か質問のある者は?」


 エヴァラインの言葉に反応して、聖はゆっくりと、それでいて真っ直ぐ腕を挙げた。


「聖君、何が分からないのかい?」

「殲滅って、どういう意味ですか…………?」

「言葉通りだ。異端者共を皆殺しにするんだ」


 迷いなく言い放つエヴァライン。聖はその場から勢い良く立ち上がった


「相手はただの人間――……ッ!」


 言葉を発しようとしたその瞬間、全身を刺し貫かる様な感覚に襲われた。鳥肌が立ち、身体が硬直して悪寒に包まれる。恐る恐る目線を逸らすと、他の守護者団団員達が聖を鋭い眼光で睨み付けていた。戦いについて全くの素人である聖でも分かる程の敵意が、四方八方から当てられたのだ。


 聖は無意識の内に額に冷や汗をかいた。貫かれる様に放たれた明確な敵意と、圧倒的な威圧で身体が硬直し、穴が空いた様に力が入らない。思考すら出来なくなる感覚に襲われる――――。


「――聖」


 鈴の様な高い声が、固まった身体を解き解した。


「アナ…………」

「疑問に思ったのだから質問しようとしたのだろう? 解決せずにそのままにしては作戦に支障が出る。恐れるな、吾輩が付いている」


 少女アナはそう言って聖の指先を握った。指先に走る圧迫感と僅かな痛みと人肌が、手から全身へと行き渡り、止まった思考と意識もハッキリとして来た。聖は全身に力を込めて身体を引き締め穴を塞ぎ、口に意識を集中し、思いを乗せて吐き出した。


「――相手は、ギアマリアでもない、ただの人間ですか?」

「そうだ」

「……人間を殺すんですか!?」

「そうだ」


 淡々と表情1つ変えずに平然と殺人の肯定・指示を出していた事に、聖は腹の底から怒りが込み上げて来た。奥歯を噛み締め激昂する。


「ふざけるなッ!! それが聖職者の台詞ですか!! あの十字軍紛いを止める為に、やってる事と同じ事をしようっていうんですかッ!?」


 自身を奮い立たせる様に対抗せんとばかりに聖は怒声を放った。しかし少年の正論に、依然としてエヴァラインも周囲の隊員達も表情を崩さない。


「――〝十字軍〟。それが何なのかは、知っているね?」

「……ヨーロッパの西洋宗教国が中東宗教徒から聖地奪還の為に向かわせた遠征軍。けれども、道中や目的地の土地では中東の人間相手に、異教徒相手だからと強盗紛いな事をした、大義名分を傘にした侵略行為……です」

「その通りだ。そしてその十字軍は、〝聖地奪還〟以外にも〝異教徒の排除〟と〝信用の回復〟に〝領地の拡大〟も目的にしている。まあ、この話を論議すると1日費やしてもおかしくないから今日はしない。今重要なのは、人殺しの正否だ」

「神から授けられた石板〝十戒〟には、人を殺すなかれとあります」

「そうだな。――単刀直入に言おう。人殺しは論理的には〝NO〟だ。しかし現実的に言えば〝YES〟だ」

「現実的……?」

「人類の歴史は戦いの歴史といっても過言ではない。数多ある戦争は、自身の〝利益〟を追求した結果と、〝大義名分〟にして正当化したものと2つに分類出来る。十字軍だってそうだ。では何故追及・正当化すれば殺人が許せか。理由はそうしなければ(・・・・・・・)解決出来ない(・・・・・・)からだ。料理をする君ならば分かるだろう? 命は奪わなければ保てないと」


 エヴァラインの正論に聖は言い返せなかった。生命を奪って生物を食す事に関しては否定はしない。そのおかげで今後を生きる事が出来るのだから。だが人間は違う。食べようと思えば出来ても食用ではないし、殺してもそのままで価値は無い。


殺さなければ自分が殺されるとは分かっても、素直にそれを認める事は出来る訳がなかった。ましてや今回はしなくてもいい殺人をしろと言う、生きる為とは無縁な思惑からの殺害。ますます賛成出来ない。


「それは食い物の話です。人は食べ物じゃない」

「君は十戒に殺人の否定があると言っていた。では書かれていなければしていいのか?」

「それは…………」

「ルールを守るのは良い事だ。だか、何時の世もルールを守らない者もいれば、それを利用する者もいる。嘗ては『目には目を歯には歯を』と報復論の言葉があった。それを嫌った主の子は『右の頬を打たれたら、左の頬をも差し出しなさい』と言った。それは相手を許す事の大切さ、反戦主義の言葉といえる素晴らしい言葉だ。――だがこの世はその言葉を理解し尊ぶ事をしない愚か者で溢れ返っている。

 報復論は事前に恐怖を与える事で抑止力となる事で殺人は起こさせない。しかし反戦主義に順次すれば、やがて裁いてくれる主が裁きを与えるまでの間に、限りなく殺人が行われる。

 報復と称して1人の被害者と加害者の命。反戦を唱えて1人の加害者と10人の被害者の命。どれが1番優先すべき事だろうか」

「…………」


 善と称して10を見殺す。悪と称して9の命を未然に救う。一言で片付けられない正論に、聖は何も言い返せない。


『間もなく作戦地域に到着する。各員は戦闘準備に移行せよ。繰り返す――』


 機内のアナウンスに従い、隊員達は席から立ち上がって移動し始めた。対してその場から動かない聖とアナ。向かいにいるエヴァンスは、もう一度言葉を発した。


「――聖君。次に何故、殲滅を私達(・・)がしなければいけない理由についてだ。

 1つは利益を優先した国軍に痺れを切らせた私達が、国軍(むこう)の考えと合致したから。

 そしてこの世は――…………――そうだな、昼は肌を焼く日差しが満遍なく降り注ぎ、夜には全てが凍て付く砂漠だ。昼を過ごす為には誰かが日除けになり、夜には誰かが外側を取り囲んで風を遮らなければならない。誰かがしなければ、人々は誰かに犠牲(それ)を強いらせる程に残酷になる。それが2つ目だ…………――私達がしなければ(・・・・・)誰がする?」


 決して避けられない大義名分殺人(よごれやく)を決意した聖職者は、同じく決意した隊員達で成す集団の後を追う。覚悟した者の世界の真実とも言える言葉に、その場に取り残された聖は自身の無力さと無知さに取り巻かれ、項垂れるしかなかった。

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