8節 透き通す程に暗がりへ1
水色のフリフリの水着を来たアナははしゃいでいた。
「夏だ! 水着だ! 海だあああああああああああああのにいいいいいいいいいい!!!!」
女になった聖の爆乳が、アナの凶脚に蹴り上げられる。
「痛っっってぇえなぁオイ!!!」
ブカブカのYシャツと半ズボンとサンダル。アナとは別の意味でラフな格好の聖は痛みに悶えてしゃがみ込む。対してアナは小さな背丈から聖を見下す様に怒鳴りつける。
「吾輩達は何故山にいる!! カリブ海のど真ん中の前人未到の未開の孤島!!! すぐそばにさか――砂浜と海があるのに!!」
「仕方ないじゃない……島の地下に聖杯があるかもしれないんだから。お前は海で魚食べたいだけじゃないか、本心漏れてたぞ」
「ふざけるな! ふざけるな!! ふざけるな!!! 馬鹿ヤロ――――!!!! うわあああああああああああああああああああ!!!!!!」
見た目の年相応に駄々を捏ねる金属製幼女。しかし彼女も無暗に泣きじゃくった訳ではない。目の前で明確な理由を以て泣く事で注意を惹き、尚且つ解決策も自ずと提示する事で解決出来る様に誘導する、所謂〝泣き落とし〟――。
「――ん? 胸が蒸れるの気になってたわ」
「だ――――――――ん!!!!」
痴話喧嘩同然の漫才を繰り広げるセイマリアコンビを尻目に、2人の男達は険しい顔で立っていた。
「……呑気だな。子供らしい」
「そう言わないであげましょうよ」
呆れる白人男性と宥める女装の男。エヴァラインとマイルズだった。
「……――本当なのか? ここにある聖杯が最後のモノだと」
「データから導き出された結果ね。此方とイザベル達のそれぞれの保有数。そして過去の記録からあったと思わしき場所の見当たらなさ。まあ、いずれは来る未来が、今立ち会った感じかしらね」
「我々の今後を考える必要があるな」
「組織である以上、それは聖教守護者団のすべき事じゃないかしら? 真相は、神のみぞ知るってね」
マイルズの言葉にエヴァラインは顔をしかめる。不満そうな顔に、マイルズも思わずかしこまる。
「不服そうね。神を信じる組織にいるのなら、それが常ではなくて?」
「普通の組織ならばな。聖教守護者団は違う様に感じる」
「アラ? どうして?」
「この組織は、建前上は神仏を信仰してるが、実際は信じてはいない。今迄信じてた奇跡も祝福も、実際は得体の知れない金属が起こすテクノロジーの恩恵。原住民に文明の恩恵を見せ付けられてるのと変わりない。古い物を、最も古い組織が取り扱った結果、古い組織のコンセプトを否定する事になった。神がまさしくいるなら、ギアマリアは天罰も同然だ。信心深い者にとっては、サンタの正体が親と知った子供に等しいだろう」
エヴァラインの考えとその例えに、マイルズは堪らず吹き出す。美しくも荘厳な顔立ちの麗傑には意外の、愛らしい笑顔だった。
「可愛らしい例えね♡ 信じてたの?」
「信じてたな。親がいない孤児育ちには、サンタだけは施しを与えてくれると願ったのに、それが親だと知って、親がいない事を呪ったな」
「……――でで、でも、宗教的神はいなくても、概念的神はいるんじゃないかしら?!」
根深い話題にマイルズは話を逸らす。見透かされたエヴァラインは苦笑した。
「尚更信じる訳にはいかんな。哲学や概念の神は〝分からないが何かある〟〝上には上がいる〟といった〝格別〟を現す表現だ。宗教的神の〝下に付けば救ってくれる存在〟ではない。寧ろ救ってくれない前提だ……そっちは信じてるのか? 確証は?」
「ええ。勿論。〝信じる者は救われる〟のよ。確証もね」
「……――私も信じて救われたのなら、信じ――」
突如、一帯が爆発して吹き飛んだ。




