6節 黒く白く交われば9
「うう……」
寝そべるセイマリアは、呻き声を上げながら目を覚ます。その下で黒マリアが下敷きになっていた。
「――っく! 降りろ!! 重いぞ、邪魔だ!!!」
セイマリアの顔は虚ろだった。黒マリアの声は届いていない。セイマリアはゆっくりと起き上がると、身体に掛かっていた瓦礫、砂利が零れ落ちる。何故か黒マリアを抱き掴んだままで。
「なっ!? 離せ!! は、な、せ!! 持ち上げるな!!! 離せ、脂身が! この馬鹿力め!!」
黒マリアの悲痛な叫びは届かない。暗所に声は虚しく広がり、木霊す事ない。グレイスモードの影響で力が出ないのか、横に抱えられても振り解けずにジタバタ暴れるだけで精一杯だった。セイマリアは歩く。誘蛾灯の様に、向こうで輝く光に向かって。
「プランターか……! ――――っく!!」
黒マリアは目前になって振り解く。両者床に倒れ込むと、正気に戻ったセイマリアはハッと飛び上がる。
「何しやがる!!」
「目的の物をはいそうですかと、むざむざ渡すつもりはない!」
「ええ!? え……あぁ…………――――そうだな……じゃどうするよ? ジャンケンで決めるか?」
「それでお前が負けても納得するならな。僕は認めないぞ」
「じゃあどうするよ……――え、戦うの?」
「それが普通だろ。ジャンケンでそうなら、話し合いでも納得するのが目に見えている筈だ。寝惚けてるなら目を覚ませ」
セイマリアは狼狽える。周囲を見渡して状況を把握しようとするその顔は、さながら寂しさに苛まれる幼子そのものだった。頼れるものは何もない。己しかない。その己の意見は否定された。そして提示された解決策は、己でしか対処出来ない。
――右手にナイフを出したセイマリアの顔は、怪訝そうな顔だった。
「……え~~?」
「それでいい……――そんなものだ。お前の顔の様に不満も不可解さを。誰もが溢せど、割り切って行動するしかない。人の行動は〝納得〟が殆どだ。合理的か、最適か、最善か。それで納得出来るか。そして誰かの納得は、誰かの不本意だ。納得とは、自分の我儘だ。誰も彼もが、自分が納得する形を押し通したいものだから」
説得するかの様に。或いは自身を言い聞かせるかの様に。言葉は暗闇にさっと消えた。何事も無かったかの様に向かい合う両者は握り締める。セイマリアは右手のナイフを、黒マリアは左拳を。
両者一斉に踏み出す。それぞれ込めた一撃を放つとすれ違い、身を乗り出してそのまま頭突き。鈍い音が響いて弾かれ合う。
2人のギアマリアよろめくも、足を踏み出して立て直して再度攻撃。空いた手を振り被り、渾身のクロスカウンターが炸裂する。
◇
全身傷だらけ、血だらけの黒いギアマリア。息も絶え絶えな状態で見下ろしてたのは、地に伏して動かないセイマリアだった。
「ハッ! ハッ! ハッハッハッ――……クソ!! 火事場の馬鹿力めが!! 土壇場で化てくれる……!!」
脳裏に過ぎる戦闘の追憶。
破片、砂塵を巻き上げての目眩し。
無駄に揺れる大きな胸。
フェイントを駆使した騙し討ち。
フェイントと同じ位に揺れて気になる大きな胸。
挙句に、不慣れさ全開の下手な挑発。
それに連動して揺れて主張する大きな胸。
「……前より大きくしてまあ……」
見下ろしながら呟いた黒マリアは踵を変えてプランターに歩み寄る。
超巨大建築物内部の異常空間を生成し、強固な隔壁、強大な警備を徘徊させる程の力を生成するオーパーツ。設置された台座で煌々と太陽の如く輝くそれに手を伸ばした。
「――話と違うんだが?」
伸ばした手を止める。溜め息を吐き、黒いギアマリアは踵を返して相対した。




