6節 黒く白く交われば6
「うう……んん……?」
呻き声を上げながらセイマリアこと聖は目を覚ました。視界にまず入ったのは、知らない焦げた足だった。
逆向きの床に立つ足だが。
「ふぁ!?」
『おはよう』
知っている声。セイマリアは見上げる様に見下ろすと、己の胸が視界を覆う様に入って見えない。
「ぬお!?」
腹筋に力を入れて状態を起こす。身を乗り出す様にして捉えたのは、先程戦った、所々が程よく焦げた敵ギアマリアだった。
「お前……! ――ッ!?」
ようやく自身に状況の異常性に気付く。周囲を見渡して振り返ると、逆さで柱に縛り付けられていたのだ。縄は思った以上に硬い。頭に血が昇って気が強まる。
「よくも! クソ!!」
『それはこちらの台詞だ。よくも床が抜ける程に爆破してくれたな。上を見ろ。厄介な所だぞ、ここは』
「ああ!?」
相手が上を指差す。促されるまま、身体を起こしながら見下ろすと、天井が果てしなく遠くに見えた。
『空間がロザリオフィールドで歪んでいる。そのせいで、空間的距離がほぼ無限にある。接近しても届かなくなっているんだ、ここは』
「どういう意味だよ……」
『つまり出れなくなったんだ。閉じ込められた』
「はぁ!?」
『そこでだ。一時休戦だ。』
「あ゛あ゛ッ゛!?」
『ここの異常さを維持する様には、莫大なエネルギーが必要だ。そんなエネルギー源……』
「……〝聖杯〟!?」
『そうだ。それを取れば確実に脱出出来る。しかし、歪んだ区間。建材も異質。構造も分からない。1人で抜ける自身はない。お互いに、な』
呆れ顔で言われた。頭に血が昇った聖は、逆上交じりに反対してしまう。
「誰がテメェみたいな奴に――」
『いやココは協力しとけ』
「アナァァアア!?」
『聖が眠ってる間に周囲を探ってみたが、ココは本当に意味が分からん。外側以上の広さが広がってる。協力しないと本気で帰れんぞ』
「嫌だぞ俺は!! 飯抜きにするぞ!!」
『ここから出られないと飯抜きも出来ん。寧ろ、今の吾輩達が飯抜きになる。4時間だろうが55日もここで過ごす事になるぞ』
「ぐぬぬぬ…………――――分かったよ!! 手伝えば良いんでしょーうーがー!!!」
「悶えるな。胸が揺れて淫らだ」
敵マリアはセイマリアの背後に回って縄を引き千切ると、拘束力を失ってセイマリアは床に逆さまに落ちた。
「ぐべッ」
「よし、行こうか」
◇
「苺の仇ぃぃぃいいい――――!!!!」
時変わって現在。生身に戻った聖は、記憶も戻って思わず叫ぶ。余りにも大きな声で、向かい合う敵マリアは耳を塞ぐ。傍らでアナは依然として何かを食べ続ける。
「苺の仇だが、聖が寝ている間に見張りをしていてくれてたのだ。吾輩が食べてるコレをくれた腹の恩人でもあるぞ。ほれ、聖の分だ。再変身の為にも食べておけ。拒否権は認めない」
「ぐぬぬぬぬ~!!! 分かったよ!!!」
聖は手渡された携帯食料のクッキーバーを貪った。




