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2節 知り、知らされ、知らしめる

 高速道路を走る白い大きな高級車。6席のシートがある車内、運転席には老年男性の運転手が。中央の席には聖教守護者団のエヴァライン。後部の座席には聖とアナが向かい合う様に座っていた。初めて乗る高級車に聖は慣れず、アナにいたっては好奇心から窓から臨む変わり続ける景色に釘付けになって眺めていた。


「……緊張しているのかい?」

「は、はいッ。こういうのには、初めてで」

「アナ君は、車自体が初めての様だね」

「景色が変化すると分かっていても、いざ体験して実感するのでは訳が違うからな。常に変化し続ける景色は、その変化の先も知らず、瞬時に映り変わるからには目が離せないのだ」

「子供みたいな事してるのに言ってる事が子供じゃないぞ」

「すまん黙っていてくれ集中出来ない」

「ぬう……」

「じゃあ私達は私達で話をしよう」

「はい……」


 諦め交じりながらも気持ちを切り替え、聖は返事をしてエヴァラインと向き合った。


「じゃあ、まずは私達の組織の扱うギアマリアについてだ。ギアマリア――もといアークは、世界各地の遺跡等のから発掘されたものだ」

「発掘? 創ったんじゃなくて?」

「ええ。その存在を文献等から確認出来た中で最古なのは約2千年程前。アークは所謂オーパーツと呼ばれる物なんだ。私達はそれを修復して運用しているに過ぎない」

  「オーパーツ……――水晶ドクロ?」

  「まあ、そんなものだね。ギアマリアの正体については工学・考古学的観点から研究されているが未だにその殆どが解明されていない。分かっているのはギアマリアの力は強力だという事……ギアマリアの力は、君自身は実感しているよね?」

「ええ。まあ」

「聖書もとい、歴史、神話、宗教上の奇跡や偉人達の功績には、ギアマリアの力が関わっているものもある。その力によって世界規模での戦争勃発といった混乱を恐れた創始者を始めとする有志によって聖教守護者団は設立されたんだ」

「それが何故、宗教組織に?」

「2つある。1つ目は宗教団体の多くがアークを持っていた事。世界で最も古く続く組織は宗教団体だ。古く続けば、古い物――即ちアークもあったという事だ。2つ目は組織の理念が必要だった。組織の活動方針はざっくり言えば〝ギアマリアの力による戦争阻止〟だ。それ程までにギアマリアの性能は国の軍事力の中核を成し、宗教的観点からすればその絶大な力から〝神の力〟として崇拝対象にする事も出来る。

   力は可能性を広げる。しかし人間はそういうもの(・・・・・・)に弱い。力を持て余し、行使する理由が後から生み出しこじつけて行動に出るものだ。それを未然に防ぐ為には世界規模で共通――いや、通用(・・)する理念が必要なんだ。その最たるものとして宗教だった」

「そんな……利用したって事ですか。宗教を、人の信じる心を」


 聖は絶望する。今迄自分を始めとした多くの人々が信じて来た神の偉業。それらにはカラクリがあったというのだ。しかも、得体の知れない不気味な機械仕掛けでのカラクリで。神の偉業にもインチキなものや、ただの自然現象等もある。だがそれでも、信ずる神の奇跡を信じたい気持ちは心の何処かにはあった。それらにすらも理由があると突き付けられ教えられるのは、裏切られた気分だった。


 そんな聖の心情を感情から読み取った青年は、話を続ける。


「言う分にはな。だが、正確にいえば組織は自然と宗教団体に成ったと言える。アークを発掘以外での入手手段として、他には譲渡というのがある。博物館の資料・展示品、先祖から代々受け継いだ、古い家に元々置いてあった、古物商等から入手したとある。その時は歴史的・宗教的研究資料という名目でそれなりの金額を払って手に入れてる。その殆どが機能停止をしたガラクタ同然だけどね。しかし譲らない持ち主がいた。その殆どが宗教信者だという事なんだ」

「宗教信者……」

「彼らはその強大な力を崇拝した。それと同時に責任と自負を持っていた。『代々受け継ぐこの力の行く末を見届ける責任がある』といったものだ。良い意味でも悪い意味でも、その力が手元から離れるのを恐れた。だから傘下に入ついていった。そして組織は成長して行くと同時に出資者や有力者、技術者達も増えて巨大化していった。その一方で、ギアマリアの力の有効活用、研究・応用して技術発展等に生かそうと試みる者達も現れた。そういったより良くしていくという考えが他教という壁を超えるきっかけにもなったんだ。何はともあれ上手く行っている……さあ、着いたぞ」


 エヴァラインの一言に反応して聖は窓の向こうを見た。景色を見るアナの頭で良くは見えないものの、僅かな隙間から見えた景色には、先程見た、幾つも立ち並ぶ建物の群れでなく、遥か彼方まで地平線が広がる場所で、唯一視認出来たその巨大な建物から自身がいる現在地を把握した。


「空港……?」

「ああ。ここで音速輸送機に乗り換えて教皇庁へ行く」

「教皇庁って外国じゃあ……」

「聖教守護者団はその存在を一般には公開していないが、国家上層部や航空機関等では認知されている。その為、パスポート等の手続きが無くても外国への入国が可能だ。早い話特権という奴だ」


 車は滑走路内で停止すると、エヴァンスと付き人の男は車を降りた。聖とアナもそれに続いて外へ出た。見渡す限り地平線が広がる滑走路にあったのは、全長30m以上はある、見慣れた旅客機とは違って翼が横に伸びているのではなく、機体側面に板をくっ付けた様な飛行機だった。


「見た事ない飛行機だ」


 茫然とその姿を見て言った聖の言葉に対してアナが答えた。


「形状から類似する飛行機を見付けた。超音速旅客機〝コンコルド〟。イギリスとフランスが共同開発した世界最速の旅客機だ。アフターバーナー付き軸流式圧縮式ターボジェットエンジンを4基搭載しており、巡航速度はマッハ2.04、最高航続距離は7.229km、客席座席数は100席だ。しかし、通常よりも長い滑走路が必要であり、音速飛行故に発生するソニックブームと騒音によって発着陸出来る空港が限られ、目玉の超音速飛行は海上限定で行われるが、航続距離が短い為に途中給油しなければ太平洋は超えられないという燃費の悪さ、定員100人という少なさに対して運賃はファーストクラスの2割増し、その上機体そのものが高価で350機で採算が取れると言われたが製造販売されたのが量産機と原型機20機しか造られなかったと高コストばかりで運用30年足らずで退役した飛行機だ。だがコンコルドは全長61.66m。この機体はその半分しかないな」

「うん、何言ってるか全然分からない」

「つまり聖みたいに料理(ちょうしょ)はあるがうるさい等(たんしょ)ばかりな旅客機があって、それに似てるという事だ」

「もう飯作らないぞ」

「それは困るが事実だ。自覚出来るのならば直して損はないし寧ろ得だ」

「だったら俺も事実を述べてやる。お前は一言多い。可愛げ持て。俺みたく友達恵まれねぇからな。直しておけよ、お互いにな」

「了解した」

「罵倒し合い中すまないが良いかな?」

「あ、すみません……」


 謝る聖に、青年は飛行機の出入り口に設置されたタラップへと誘導した。


「確かにこれは、見た目こそコンコルドを小さくしたものだが、その中身はギアマリアの技術を解析して応用したものだ。人間の有機物からの高効率エネルギー変換機構で燃費を7割減し、変身時に身体を覆う集合ナノマシンのナノ流体運動で超音速でもソニックブームと騒音を抑え、発生する風の流れを機体後方へ向ける事で推力に上乗せして加速する事も出来る。その結果最高速度はマッハ3.2での飛行を可能にした。教皇庁までは2時間半で到着する。まあ加速するのと減速に少し時間がいるから国外という超長距離での行き来でしか使えないがね」


 淡々とハッキリとした口調でエヴァンスは説明した。機内へと入ると、そこは電車程よりも一回り狭い空間に左右両側にそれぞれ2席ずつシートが奥まで並べられていた。


「好きな所に座るといい。一眠りした頃には到着する」


 青年2人は入口近くに座り、聖も少し歩いて、機体中間まで来ると、通路側のシートに座った。それに続いてアナは聖の横の窓側のシートに座って、素早くシートベルトをして窓から外の景色を眺めた。


「エヴァライン、少し小腹が空いた。何か食べ物はないか?」

「飛ぶ立ってから用意しよう」

「分かった。聖もいるか?」

「いや、少し寝るよ……」


 聖は深呼吸すると同時に瞼を閉じた。




 ◇



「……お兄さん、お兄さん」


 暗い空間で、背後から声が聞こえた。振り返ればそこには年端もいかない少年がいた。少年は目を輝かせながら言った。


「宗教って何なの?」


 しゃがんで目線を合わせて答えた。


「宗教っていうのは、神様を尊敬して、神様の教えを大切にする集まりみたいなものだね」

「じゃあ、何で色々な宗教があるの?」

「宗教が生まれたのはすっごい昔なんだ。その頃は外国でのやり取りとかがまだされてないから、各地で地域毎に宗教が沢山生まれていったんだ。また、大元の宗教から分かれたもの?宗派?というのもあって、それが大きくなって別の宗派になったんだ。俺が持ってる西洋宗教も、近東宗教の人が別の考え方もあるんじゃないかと別れたのが始まりなんだって言われてる」

「じゃあ色々な宗教の違いって何なの?」

「基本は神の教えに従えば救われるという共通点を持ってる。西洋宗教は神様を主と呼んでいて、〝父神(ちちがみ)〟と、その息子の〝子神(こがみ)〟。人類皆を手助けする〝聖霊(せいれい)〟の3人を合わせた三聖一体(さんせいいったい)を崇めていて、考え方は〝神様を信じて敬い、正しく生きれば死んだ後救われる〟。

 |近東宗教は〝唯一神(ゆいいつしん)〟と呼ばれる神様を信じていて、考え方は〝教徒として立派な生き方をしましょう〟ってものなんだ。勉強とかお祈りとかも熱心で、所謂誇りみたいなものだね。

   中東宗教は〝絶対神(ぜったいしん)〟と、神様の教えを皆に伝える〝予言者〟を信じている〝六信行〟と呼ばれる6つ信じる事と行う事があって、考え方は〝神様に感謝し、皆で助け合って生きる〟って感じかな?

 他にも南陸宗教は宇宙を関係する3人の神様信じたり、大陸宗教は神様を信じるというよりも、色々な事をしてお勉強して人生を考えたり、日本宗教は身近の自然に感謝したり、色々ある」


 言った事に対して、少年は茫然と立っていた。


「良く分からない……」

「まあ難しいか。お兄さんも良く分からないけど、つまりどんな宗教も立派な人間になりなさいって事なんだ」

「そうなんだ~~……――じゃあ最後に聞いて良い?」

「ああ。お兄さんが答えられる分にはね」

「んっとね。宗教を信じる人って、神様を信じてるって事だよね?」

「ああ」

「尊敬してるんだよね」

「まあな」

「だからお兄さんは子供の時に沢山人を殺したの?」

「え?」


 子供の一言に抜けた声で反応すると、少年の後方から破裂音が鳴り響いた。少年は力なく寄り掛かり、受け止めた。少年の背中に触れた右手に滑った何かが纏わり付いた。目を向ければ、掌一杯に生暖かい真っ赤な血液えきたいで染まっていた。

 顔を見上げると、目の前には黒髪の少年が立っていた。ボロボロの衣服に汚れた身体。ボサボサの髪の毛。その手には先端から煙を上げる銃が抱えられていた。


「――神……神、神……。神の為、神の為。神の為に戦い、救済し、神の為に死ぬ。神の大いなる教えと意思を以て神罰を、神罰をッ。殺せ、殺せっ、殺せッッ」



   ◇




「聖」


 鈴の様に澄んで、力強いあやふや意識が覚醒し、光が広がった。その先で映ったのは視界一杯に映り込む少女の顔だった。


「アナ……」

「大丈夫か? 脳波が乱れていたぞ」


 聖は意識をアナの顔から自身の身体へと向けた。背中には僅かに寒気があり、手汗が滲み出て、腋汗が身体を冷やし、全身に脱力感を感じた。


「ああ、大丈夫だ」


 弱々しくもハッキリと言った返事を聞いたアナは聖の身体から降りると、少年は立ち上がって少女へと手を伸ばす。アナはその手を取って一緒に歩いて飛行機を降り、空港のターミナルビルへと向かった。建物の構造は、聖が中学での修学旅行で国内線で飛行機に乗る時に見た日本の空港と変わりは無い。しかし要所要所を見ると、文字はアルファベットで、行き交う人々も白人が多かった。組織の青年2人の後を追い、大型のエレベーターに乗った。数分足らず下降して重厚な扉が開かれると、目の前には奥へと続く暗闇へと延びる4本の地下鉄があった。しかし聖が注目したのは、その地下鉄に乗り降りする多種多様な祭服を着た色んな人種の人々だった。上から黒いマントを羽織ってはいるが、西洋、近東、中東の祭服から、南陸、大陸の僧衣、日本の神事服まで。博覧会とでも言わんばかりに世界各国の聖職者達がそこにいたのだ。


「――異様だろうな、こっちだ」


 エヴァライン達に続いて聖達も車両に乗り込んだ。中には駅同様に様々な格好に人種の老若男女が、英語で会話をしていた。電車は数分間動き続けて停止した。降りる人々に続いてエヴァラインも降りて続くと、そこは劇場の様に見上げてしまう程に広大で煌びやかな装飾が施されたエントランスへと到着した。


「ようこそ、聖教守護者団国際本部へ」

本作品の名前変えただけの宗教の特徴と違い。


・西洋宗教

父神とその息子の子神、人類皆を手助けする聖霊の3人を合わせた三聖一体を信仰している。

信仰については?神様を信じて敬い、正しく生きれば死んだ後救われる?。


・近東宗教

唯一神(ゆいいつしん)〟と呼ばれる神を信仰している。

神を祈るよりも、祈る行為等の行動そのものを重視している。


・中東宗教

絶対神(ぜったいしん)〟と、神様の教えを皆に伝える?予言者?を信仰している。

〝六信行〟と呼ばれる6つの信じる事と行う事を教義として、神と予言者に服従の下、平等を掲げている。


・南陸宗教

最上級に宇宙を関係する3人の神の下に複数の神を信仰、御牛崇拝、菜食主義等を掲げている。


・大陸宗教

他の宗教とは違い、入教した僧侶達が修行して生きる事について研究している。


・日本宗教

土着信仰等が入り、自然現象や存在に畏怖、感謝し、死者の魂や霊に神を見出す宗教。夏の心霊やホラー等はこの分類に入る。

上記3つの宗教の神は絶対的存在であるのに対し、日本宗教の神はあらゆる万物に宿り、生活に密接に関わる身近な存在である。

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