3節 赤恥を忌み嫌い、腹黒く、白々しくあれ6
腕と聖杯を取り戻し、元気100倍と言わんばかりにセイマリアのやる気は最好調に達する。
『背後から熱源! 炎来る!』
「ちィ!!」
背後を確かめると同時にすかさず飛び退く。一直線に走るは炎の一閃にして激流。赤炎が周囲一帯を苛烈に照らす中、黒い影が過ぎる。
『上から来るぞ! 気を付けろ!!』
「っっっ!!」
声に従い、見上げるは巨大な影。
(真上から飛び掛かる! 多分振り落として来る!! 横に逃げるか!? いや、最初の斬り上げみたいに妙なフェイントが混じるか!? 下手に釣られて無防備を晒せば確実に両断される!!! 振り下ろし!? フェイント!? どっちだ!?!?)
走馬灯の如き一瞬の思考が回避を迷わせる。どう足掻こうと、回避する選択肢しか存在しないのに、回避の仕方に意識を奪われる。体感ゆっくりと迫る大刃と、そこから放たれる熱気が、肌と髪と服と装甲を瞬時に燻す。
(熱い! 料理してる時の直火がぬるく感じる!! さっきの鉄骨が溶けたんだ、刃の横から武器をぶつけて逸らすのは無理がある! 良くて少しだけ、どうする――)
「アナ! 向こうの手の位置何処だ!?」
『え!? ――視界に出す!!』
瞬時に映し出される手のアイコン。セイマリアは上に向けて手を伸ばす様、鉄骨を放った。
「持ち手までは熱くないだろ!?」
出された鉄骨は勢い良く飛び出して、赤騎士の手首にぶつかり斬撃を未然に防ぐ。
「なっ!?」
「どっっっっっっ――せい!!!」
鉄骨を伝って両手に加わる超重量。堪らず腰が沈んで曇った声が漏れる。が、歯を噛み締めて踏ん張り、下から救う様に彼方へと投げ飛ばす。更にオマケに爆弾をありったけ取り出して投げ付ける。
「しぃぃぃいいい!!」
それに対してレッドライダーは、悪態を付きつつ背部から炎を噴射。瞬時に爆弾の弾幕を突破し、セイマリアの目前まで迫って剣で薙ぐ。聖は斬撃をロザリオフィールドを展開して炎を斬撃をいなす。
物理攻撃を未然に防ぐも、残る残熱が肌も焼く。
「ッ――――!!!! 舐めるな! 熱いのは慣れてるんだ!!?」
ガスコンロの熱気と比較して己を鼓舞し強行突破。拳を振り抜き、赤騎士の顔面に叩き込む。が、喰らった赤騎士は怯まず睨み付け、右手に身体を掴まれる。
「――だったら! 何℃まで平気か試してあげるわよ!!」
(日本語!?)
『バイリンガールだったか!』
掴んだ手から火焔が放たれ、聖女の装甲と身体を直焼いた。




