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7節 憎むか裁くか。更なる絶望に手を伸ばす

《相手は行動の法則性――それは必ず鉄骨を破壊している事だ》

《確かに殆ど切られてるけど……》

《恐らく再利用不可能にして丸腰にさせるか、または脅威にならないと判断するも障害と判断して突破しているのだろう。その判断に付け込む。大量に鉄骨をばら撒けばそれを取り除こうと行動に出る。その時に切られた鉄骨は周辺にばら撒かれる。それに紛れて背後を取って隙を突く》




 切り分けられた鉄骨と共に宙に浮かぶギアマリアは、ダガーナイフを構え、振り向きざまに剣を構える敵マリアへ向かって鉄骨を蹴って飛び出した。すれ違い様、放たれた剣の刺突はギアマリアの左こめかみを切って髪留めを砕き、ギアマリアのナイフは、敵マリアの左肩から右脇下へと袈裟懸けに切り裂いた。飛び出したギアマリアは地面の上を無様に転がり着地するも、敵ギアマリアは深手を負い、傷口から噴水の如く鮮血が噴出した。


『ぐあああぁぁッ!!』

「んっつ……やったか……!?」


 よろめきながら身体を起こす白聖女と、よろめきながらその場に崩れ落ちまいと立つ黒聖女。黒聖女は震えながらも、腕を十字に組んだ。


『不味い……聖、早く止めを刺せ。〝テオシスライド〟だ』

「ん、何だって――」


 立ち上がろうと力を入れるも、全身には力が入らず、立ち上がるだけで精一杯のギアマリアに対し、敵ギアマリアは、十字に組んだ腕振りぬいて、胸の前で両拳を打ち付けると、ロザリオの光の帯と光の柱が解き放たれ。戦場に突如、光柱が立ち昇る。天高く、遥か彼方まで、空を穿つかの様に光の柱は空へと伸びていく。その中から、扉を抉じ開けるの様に突き出た手が、光のカーテンを開いた。


「ぇええええああああ!?」


 呆然と抜てけた声から困惑の驚きへと声を変えて叫ぶギアマリア。現れたのは黒聖女――だったもの(・・)。硬質的で黒光りする肌――装甲、装甲の塊。ビルの如き巨躯。陸に上がった鯨。見上げなければその全貌を確認出来ない程巨大な巨人がすぐ目の前に現れた。


「んだよ……これ……」

『〝ベイバビロン〟……テオシスライドによって限界以上のエネルギー出力を以て過剰増殖したアナテマによって形造られたロボット兵器だ』


 ロボット兵器――その言葉の意味を聖は出来なかった。今目の前にあるのは、聖が知っている様なロボットは明らかに違う。ビルの様に見上げなければならない程に巨大で、人型のロボットという兵器(・・)


 腕程の長さの(それ)引き金を引く(ゆびいっぽんうごかす)だけで倍以上ある身長・体重、鋭い牙と爪と強大な力を持つ猛獣を遠くから殺す事が出来る兵器もあれば、都市丸ごと飲み込む程の爆発と放射線を生み出す人間大の核弾頭(それ)は、地球の反対側でも的確に狙えるミサイル(いどうしゅだん)を持つ事でより一層世界を脅かす兵器もある。それ等の兵器の特徴は、遠く離れた安全(ばしょ)から簡単に相手を殺傷する事である。今目の前にある兵器はそれとは別、戦車や戦闘機に近しいもの。だが戦車の様に重い機体を安定して動かす為のキャタピラや、戦闘機が速く空を駆ける為の翼の様な結果論の形態ではない。


 半世紀前の大戦での主砲を積んだ戦艦の思想、〝大艦巨砲主義〟に類似した、安直で原始的な思想――つまり、巨大=力。全てを圧倒し、蹂躙する上で、相手を威圧し、物体を破壊する為に最も最適な形態。それは、対象よりも巨大である事。その圧倒巨体は全てを威圧し制圧し、金属によって作られた強固な装甲と合わさる事で歩く城砦と化していた。


 巨人は膝を曲げて身体を屈める。倒壊するビルの様にギアマリアに近付いた。軋む様な鈍い重低音が相手を機械で出来た事を表す。迫るベイバビロンの頭は山羊を模しており、両側に2つ、額に3つの計7つの目が赤く光っていた。


『ブオオオオオオォォォォォォッッ!!!』


 汽笛の様な強大な咆哮と共に暴風の吐息が、山羊の奈落の如き口から吐き出された。吹き荒れる音と風が、ギアマリアと周辺の瓦礫を吹き飛ばす。飛ばされたギアマリアは宙を飛び、地面に落ちて無様に転がる。


「無理だろ、あんなの……」


 圧倒的巨体。対してこちらは変身すら持続困難な満身創痍の状態。恐らく攻撃ですらない威嚇に咆哮によって、今まで恐怖を抑え込んでいた気力の蓋は吹き飛ばされた。今、ギアマリアの、聖の思考を満たしていたのは絶望だった。


『まだ可能性はある。こちらもテオシスライドが可能だ。持続時間は2分だ』

「無理だろ。2分であれに勝てって……」

『(脳波の乱れ……――戦意喪失というものか――)』



 テオシスライド――機械仕掛けの巨人へと変身する手段。つまり敵ギアマリアと渡り合える力を持っていた。だが出来なかった。2分――120秒。たったそれだけの時間で敵を倒さなければいけない。勝てる見込みも自信もなかった。――果楠の姿が脳裏に過るまでは。


「ッ!! 違うッッッ!!!」

『――ガンマ波に異常な値!? 聖!? 何があった!!?』


「テオシスライドッ! 勝てないなら勝ちに行くまでだ!! 果楠に手ェ出して泣かせる奴ァ許せるかよ!!!」


 鈍く唸る足裏がギアマリアに落とされるその瞬間、光柱が解き放たれて足を退けた。バランスを崩した黒い異形の巨人はよろめきながらも、足元の住宅を踏み潰しては体勢を立て直し、拳を構える。光のカーテンを大きな手が押し退けて、その姿を露わにした。


 純白の巨人。額と頬の4ヶ所に十字架の装飾。胸部は女性の胸の様な突起。細い上腕から肘の下は太い前腕に大きな手。上半身は男性の様な肩幅のある身体付きとは対照的に、その腰付きとハイヒールに尖ったつま先、角ばってはいるがそれでもしなやか輪郭を描く下半身は女性だった。


 ロボットと言うには余りにもアンバランスで貧弱で非合理的。偶像と呼ぶには魅力的とも言い難い。頭部こそ山羊ではあるものの、全体的に太さもバランスも整った黒い巨人と比べれば一目瞭然だった。そんなロボットは脚を開き、腕を組んだ仁王立ちで黒い巨人を見据えていた。組んだ腕を解くと同時に白い巨人は前屈みになって駆け出した。その一踏みで道路は抉れ、瓦礫と土は舞い散った。


 白ベイバビロンは左腕を引く。黒ベイバビロンも駆け出した。白い巨人は走りながら拳を構える。走りながらパンチを放つ体勢。それはある種のタックルに近いも。


『俺が……お前が……(ここ)にいるからぁあッッ! 果なああああああぁぁぁぁぁあああああん!!!』


 憎悪故か、怒り故か。その怒声には先程の絶望からの無気力さは微塵も無かった。


 迫る拳と巨体。白ベイバビロンがパンチを繰り出す。すると黒ベイバビロンは咄嗟に身体を下げると、拳は頭上を過ぎて空振りに終わり、黒い巨人は逆に白い巨人の胸に一撃を叩き込む。体勢が崩れて足が浮かび上がった。だが白ベイバビロンは、浮いた足を地面に打ち付け身体を固定、攻撃を耐えきった。


 そして胸を傾けて拳を受け流すと。黒べイビバビロンの懐に潜り込んで組み合って、そのまま抱えて一気に跳躍する。更に臀部に取り付けられたT字の物体の表面が稼働。下方に向けられた箇所の装甲が開かれると同時に炎と轟音が吐き出し上昇した。


 ロケットの如く、天高く飛ぶ2機のベイバビロン。建物の姿は砂利よりも小さく見える高さまで飛ぶと、白ベイバビロンは黒ベイバビロンを投げ飛ばした。黒ベイバビロンは背中から地面へと急降下する。その先にあったのは、先程いた町の隣町にある大きな池だった。黒ベイバビロンは背部にある横にした十字の装置と脹脛の装甲が稼働。炎が噴き出て落下エネルギーの相殺を図る。


 しかし勢いは完全には殺し切れず、池にそのまま墜落。巨大な水柱が爆音と共に立ち上った。白ベイバビロンも池に着地すると、水柱が迸った。ベイバビロンの胸部――その内部。周りは周囲の景色を映し出すベイバビロンのコックピット。その中でギアマリアは宙に浮かぶ様にそこに佇み、四肢には十字の板が漂い、背後には十字架があった。


『聖。何でやる気が出たのかはこの際聞かない。もう残り時間は100秒だ。敵を倒す確実な手段があるが、その為には相手の推進機構を破壊しなければいけない。両脹脛の外側が盛り上がってる部分があるだろ。そこが姿勢制御バーニアスラスターで背後の十字架がメインスラスターだ。それを残り――……60秒、1分以内に壊せ。出来るならマウントでも取って胸を貫け。それで終わる』

「分かったッ!!」


 ギアマリアは拳を握って構える。それに合わせて白ベイバビロンも同じポーズを取り、一気に駆け出した。横たわる黒ベイバビロンは身体を起こす。白ベイバビロンは跳んで飛び掛かる。だが敵ベイバビロンもスラスターを展開、青い炎の噴流と爆音を放ってタックルをかました。


 大きく揺らぐ白ベイバビロン。だが脹脛のバーニアと臀部のスラスターから噴流を放ち、体勢を崩しながらも推進力でその場で停止飛行ホバリングして立て直す。白ベイバビロンは右拳を放って再度攻撃。狙いは頭部、動きを封じに出た。しかし黒ベイバビロンは屈んで回避。左脇腹目掛けてブローを打ち込む。拳は脇腹にめり込んで、装甲を砕いて破片をぶちまけた。だが白ベイバビロンは怯まず、右足を上げて敵の左脹脛を側面を踏み砕いた。


『1つ目。残り88秒』


 だが黒ベイバビロンはすかさず白ベイバビロンの首元を左手で掴み、右拳を開いて脇を掴んで一気に持ち上げた。勢い余って脚が上がり、頭が下を向いて逆さになった。天地反転、そのまま頭から白ベイバビロンを水面目掛けて叩き込む。沈む上半身、脚は後ろへだらりと曲がる。


 黒ベイバビロンの太腿の装甲が開き、そこにある棒状の物体引き抜いて展開。物体は伸びて剣となった。右足を引き、沈む上半身目掛けて剣で突く。だが白ベイバビロンはスラスターを水面と並行になる様に展開。沈みながら敵の足に向かってタックルした。


 前に転ぶ黒い巨人。白い巨人は腕を上げて逆立ちになって身体を起こす。そのまま四つ這いになり、池の淵まで来るとクラウチングスタートの体勢になって一気に距離を詰めに走り出す。距離を縮め、右腕を引くと同時に力を溜めて黒い巨人目掛けて打ち放つ。


 黒い巨人はこれを背部と脹脛のスラスターで飛行すると同時に後ろ向きで左に避けて回避する。よろめいて身体が左向きになる白ベイバビロンは、メインスラスターを右側に向けて稼働。噴出口から青白い噴流を吹き出して、機体に掛かる慣性を強引に反対方向へと切り替えして黒ベイバビロンへと迫った。大きく弓なりにしなる機体を無理矢理起こして殴り掛かる。


 予期せぬ反転に黒ベイバビロンは回避が遅れ、左頬を殴られた。頬の一部は砕けて飛び散り、大きく敵はよろめいた。続けて追撃。白ベイバビロンは振り被って左拳を叩き込もうと腕を引く。――と同時に黒ベイバビロンの一撃が白ベイバビロンを襲った。剣を持った右拳が白ベイバビロンの顔面を打ち抜いたのだ。更にそのまま腕を振って胸を袈裟懸けに切り裂く。


 機械仕掛けの巨人は怯んでだらり両腕を伸ばした。その左腕を掴んでそのまま一本背負い。水面へと叩き込む。そして白い巨人の腕と自身の右脚を絡ませて関節を極める。そのまま力を加えて腕の破壊に出る。それに対して、コックピット内で1人左腕を上げて蹲るギアマリア。


 ベイバビロンの操縦方法は、コックピット内のパイロットの動きがベイバビロンにも反映されるというもの。ベイバビロンは、左腕を上げて、上がる左腕の横を掴む動作をする。それに合わせてベイバビロンも腕を上げる。掴んだのは敵ベイバビロンの左脹脛のバーニアスラスター。軋み、悲鳴を上げる左腕と、ひび割れていく手の平大のスラスター。両機互いに敵の能力を奪い合い。そして白は腕を折られ、、黒はスラスターを握り潰された。


『2つ目。残り53秒』

「はあああああああああッ!!!」


 折れた左腕、スラスターを握り潰した右手で黒い脚を抱き締めて、ベイバビロンはそのまま起き上がる。白ベイバビロンは立ち上がり、黒い巨躯が持ち上げられた。だが黒ベイバビロンは背部の十字のメインスラスターの噴出口ノズルを上方に向けて起動。流星の如く青い光が尾を引いて、黒い巨人は白い巨人を膝蹴りの様にして水面に叩き付けた。脚を掴む力が無くなると、黒ベイバビロンは白ベイバビロンから離れて首を掴んで持ち上げた。


 剣を構えて再度胸を刺突。しかし白ベイバビロンは右手で剣を逸らす。剣は胸部ではなく腹部を刺した。そのまま白ベイバビロンは黒ベイバビロンと抱き合い、背部スラスターを右手で掴んだ。と同時に臀部スラスターを起動。一気に急上昇した。推力の影響で上昇する一方、機体はガタガタと軋んで揺れる。雲が座す高さまで飛び続けるも、未だ黒い巨人の剣は白い巨人の腹部に突き刺さり、そのまま上に上げて胸部を切り裂こうとしていた。しかし白ベイバビロンは掴んだスラスターを頼りに、背部に回り込もうとする。左側に回り込むと、黒い臀部を蹴り抜くと同時に、スラスターを引き千切って離れて宙を舞った。


『残り23秒。〝マキシマムシーケンス〟に移行する。――叫んで決めてみせろ、それが承認合図だ』


 大空を舞う巨人。手足を振って体勢を変え、右足を突き出し、足と直線状になる様にスラスターを稼働する。


「〝クロスレイドォオッ! キィィィィィッッックッ〟!!!!」


 ギアマリアの叫びに応じて、ベイバビロンの右足を十字の光の帯が巻き付き、渦巻いた。同時にスラスターから放たれた噴流によって加速。飛び蹴りは流星の如く空を切り裂いて、スラスターを失って動けない相手に向かって突き進む。それに対して敵機は腕を組んで蹴りを受け止めた。ドリルの様に回る帯と蹴りが腕をひん曲げる。だが決定打となってはいない。


『腹部の破損個所が拡大。このままでは機体が真っ二つに引き裂かれる恐れあり。更に脚部に展開したロザリオフィールドによって稼働限界時間短縮。残り7秒。6、5――』


 アナが残り時間の秒読みを始めた。脚の関節と腹部が軋んで悲鳴を上げる。聖は意識と力を集中する。


「――うぃぃぃぃいしゃああああああアアアアアア、果ッッなああああああぁぁぁぁぁぁああああああああああああんんん!!!!」


 黒い機体から離れる影。


「ッ!?」


 蹴りは腕ごと機体を貫いた。黒ベイバビロンは十字の光に包まれて爆発、四散した。その光の中から、ベイバビロンは右脚が砕け、胸と腰が分かれてそのまま海へと落ちて行った。残骸によって海水が巻き上げられ、少しして海から光の粒が空へとの立ち昇ると同時に虹が浮かび上がった。海面を光の粒が漂う一方で、少年は海面から顔を出した。


「――ぷぁっ!! ――はぁ、はぁ……」


 聖が浮上して後、その横に金髪の少女、アナも浮き上がった。


「……倒したんだな……」


 聖は空を見上げながらアナに問い掛けた。聖の視線の先にあったのは、空に刻み付けられたかの様に輝く巨大な十字の光だった。


「ああ。倒した」

「――なぁ、俺が敵機(アイツ)を倒した時に……」

「ああ。直前で敵マリアは脱出した。だが追撃はないだろう。敵も損耗している筈だ」

「そうか……」


 少年は思考した。果たして自分は勝ったのか。戦ったが犠牲者を生み出し、敵も結局は取り逃がした。勝敗の判別がつかない結果を、疲労で虚ろな聖は喜びもしなければ落ち込む様子を表には出さず、追求もしなかった。ただやり過ごした――それがこの状況を表す一言だった。

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