番外編:ばれんたいんちょこはしのかおり(前編)
他の作家さんがバレンタインの話書いてるのを見て、
『あ、ヤッベ! 今日はバレンタインじゃねえか!?』
と、素で思ってね。うん。急きょ書き始めたわけなんですよ。
急いで書いてたせいで、推敲とか全くしてないんだよね。
だから、あんまり面白くないかもしれません。ネタとか少ないし。
でも、一日で4000文字も書いたのは今日が初めてかもしれない。嘘だけど。
面白くなくてもオーケーな方。作者に罵詈雑言を浴びせたい方のみ、お読みください。
「これっ! 受け取ってください!」
そう言って卓郎に差し出されたのは、ハート型のチョコレート。
手作り感溢れるそれは、誰がどう見ても本命だとわかる。
そう、亜美の本命チョコだ。
照れと恥じらいの混じった笑みを浮かべる亜美に対して、卓郎の顔色は悪い。
「……フ、フハッ! フハハハハハハハ! そうか、貴様が今年の地獄からの使者か! 良いだろう、その勝負、受けて立ってやろう!」
その瞬間、卓郎の胸を、マッハ43の速度で飛来した超合金キューピットの矢が貫いた。
※
時は少し遡って3日前。2月11日。
明、タケシ、卓郎、美香、亜美、モブ子の6人は、昼休みに仲良く弁当を食べていた。
「いよいよバレンタインデッドか……」
「バレンタインデッド?」
明の呟きに、美香が小首をかしげる。
バレンタインデーではないのか、と尋ねようとしたところで、タケシから説明が入る。
「今回は番外編だから、時系列とか抹殺計画とか関係無しにバレンタインデーが始まったという認識でお願いします」
「メタ発言に突っ込むべきなのか?」
「それより、バレンタインデッドって?」
「バレンタインデッドってのは、ヒーロー学園におけるバレンタインデーの呼び名だよ」
「へえ、そうなんだ」
「うん。それでは、『バレンタインデッド』について、不肖わたくし、田中タケシめが、簡単に説明しましょう」
『バレンタインデッド』
別名:ルール無用バレンタインデー
ヒーロー学園特有のイベントの中でも、最も致死率が高いとされる行事。故に名前の最後にデッドが……
「致死率ってなに!? 不穏すぎるんだけど!?」
「美香ちゃん。恋ってのは命懸けなんだぜ?」
「説明になってないわよ!」
「まあ、最後まで聞いてくれよ」
この行事は、
『女子が男子に本命チョコを渡す事に成功すれば、その二人はカップルになる』
というルールに基いている。
その際の注意点を説明しよう。
・女子はイベント当日、必ず一人一つ『手作りチョコ』を持参しなければならない。
・女子には『任意の男子』にチョコを『渡す』権限が与えられている。これを『本命チョコ』という。ただし、渡す男子がイベントに参加していなければならない。
男子に『本命チョコ』を渡した場合、相手の男子とカップル成立となる。
『本命チョコ』によるカップル成立の場合には、副賞として、『チョコレート一年分』が進呈される。
・男子には『任意の女子』からチョコを『奪う』権限が与えられている。これを『強奪チョコ』という。ただし、奪う女子がイベントに参加していなければならない。
女子から『強奪チョコ』を手に入れた場合、相手の女子とカップル成立となる。
・同性の相手にチョコを渡した場合、『義理チョコ』と判定され、カップル成立とは認めらない。
・全てのチョコの譲渡が終了した時点で、バレンタインデッドは終了となる。
「流れとしてはこんな感じかな?まあ、どんな手段でもいいから、男子にチョコを渡すことが出来れば、カップルになれる。男子にチョコを奪われるとカップルにさせられる、って認識でいいよ」
「無茶苦茶じゃない……恋人っていうのは、互いに想い合う気持ちが有ってこそ、成り立つものでしょ?」
「うん。美香ちゃんの言う通り。このイベントに乗り気じゃない女子が多いから、基本的には女子同士のチョコの交換になっちゃうんだよねー」
「まあ、面白がってチョコを渡しに来る女子も居るんだけどな」
「男子からすれば溜まったもんじゃないよ」
うんうんと頷くタケシと明に、美香は首を傾げた。
「どう言う意味? チョコを貰ったら普通、男子は喜ぶものじゃないの?」
「普通は、ね」
「……?」
どういう意味かと、美香が問おうとした丁度その時、チャイムが鳴り、授業が始まった。
結局、タケシの発言に対する疑問は解けぬまま、美香は悶々とその日を過ごした。
※
バレンタイン前日。
美香と亜美は学校が終わると、一緒に手作りチョコを作っていた。
美香はチョコ作りなど初めてだったのだが、亜美は手慣れた様子でチョコを作っていく。
毎年、バレンタインデーになると、女子の友達に配り回っているらしい。
成程と納得しながら、美香は自分のチョコ作りに集中する。
「そういえば、美香さんは男子にもチョコをあげるんですか?」
亜美の何気ない質問に、どきんと肩が跳ねる。
「えっと……ま、まあね?」
素直にそう答えると、案の定、亜美は食いついてきた。
「えっ!? だ、誰ですか!? 誰に渡す気なんですか!?」
「そ……それは……」
言いよどむ美香。
美香としても、こういうイベントは初めてだ。
しかし、バレンタインデーがどんなイベントかは知っている。
曰く、好きな男の子に、女の子がチョコレートをプレゼントするという行事。
美香としては、そういう認識だ。
だから、男子にチョコレートを渡すというのは、それだけで告白同然の行いになるというワケだ。
自分の好きな相手。
流石に、友人であっても教えるのはどうなのだろう?
延々と悩んだ末、美香は亜美に打ち明ける事にした。
「じ、じつは……」
「え……ええええええええええええ!?」
※
バレンタイン当日。
校舎のあちらこちらで、女子同士が仲良く『義理チョコ』の交換が行われていた。
今のところ、『本命チョコ』と『強奪チョコ』は渡されていない。
『男女間のチョコの受け渡しは放課後限定』という暗黙のルールがあるのだ。
そして、放課後直前。
体育館裏にて、男子たちによる作戦会議が行われていた。
今日一日中、学園を見張っていたタケシが、話し始める。
「ほとんどの女子は既に『義理チョコ』を渡し終えている。他の学年の女子も含めて、残ってるのはあと数人。俺たちのクラスでは一人だ」
「一人? 誰がまだチョコを渡してないんだよ?」
「美香ちゃんだよ」
「っ!!」
タケシの答えに、男子たちの間にどよめきが走る。
「ちょっと待てよ! 美香ちゃんは、この学園において容姿、スタイル、性格全てにおいて1、2を争う美少女だぞ!? そんな美香ちゃんが、まだチョコを渡していないってのかよ!? ヤバイじゃん!」
一人の男子の言葉に、全員が頷く。
美香が未だにチョコを渡していない。
それはつまり、美香には気になる男子が居るという事だ。
そして――――。
「美香ちゃんと……付き合えるかもしれない……だ……と……?」
美香のチョコを奪いさえすれば、美香と付き合うことが出来るという事でもある。
「お、俺! 美香ちゃんのチョコを、何としても奪って見せる!」
「んなもん、俺だって!」
「俺も俺も!」
次々といきり立つ男子たち。
それを静かに見守りながら、明は不安げに呟いた。
「これは……美香のチョコをめぐって戦争が起きるな」
※
「ねえ美香ちゃん。まだチョコを渡してないようだけど? 放課後になると、こわーいケダモノになった男子たちが襲ってくるよ?」
ニヤニヤと笑いながら、モブ子が尋ねた。
このイベントに乗り気では無かった美香のことだから、さっさと亜美辺りに『義理チョコ』を渡しているものだと思っていたのだ。
しかし、美香は未だにチョコを持っている。
「フッフッフッ、美香ちゃんったら、誰に渡す気? 私にだけ教えて! ね?」
「べ、別に、そういうのじゃなくて……そう、副賞よ! 『本命チョコ』によるカップル成立の際には、副賞として『チョコレート一年分』が貰えるんでしょ? それが欲しいだけよ!」
頬に朱を差しながら、美香がやけに早口で答える。
そんな美香の態度に、モブ子は益々にやけ顔。
「へえー、まあ、そういう事にしておいてあげる。で? 誰に渡すの? ちゃんと教えてもらわないと~」
頑なに口を噤み、美香は頬を膨らませる。
そんな美香の頬を突っつきながら、モブ子が茶目っ気を見せながら尋問していると。
「私、知ってますよ!」
窓から亜美が乗り込んできた。
「え、ホント!? 誰なの!?」
特に突っ込みを入れずに、モブ子が亜美に詰め寄る。
「チョコを作ってるときに聞きました! 美香さんの狙いは……」
「ちょ、ちょっと! 亜美ちゃん!」
美香の静止の言葉も聞かず、亜美は大々的に言い放った。
「美香さんは、お兄ちゃんにチョコを渡す気です!」
亜美の口から放たれた言葉に、美香は顔を真っ赤にしながら耐えきれずに俯く。
「い、言わないでよぉ……」
男子は全員、体育館裏に集まっているため、明には聞かれなかった。
しかし、もちろんモブ子にはしっかり聞こえている。
モブ子はさっと真顔になると、神妙な面持ちになる。
「まさか美香さんが、明くんの事を殺したがっていたなんて……」
「え、いや、あの……え!? 殺す!?」
「憎しみに塗れた美香さんのチョコレートを食べて死ねるんです。お兄ちゃんはきっと本望でしょう」
「ちょ、ちょっと待って! 憎むとか殺すとか、どういう意味なのっ!?」
亜美が首を傾げ。
「ああっ!」
ポンと手を打つと、人差し指を立てて、話し始める。
「そう言えば、バレンタインデッドのルール説明が途中でしたね!」
「と、途中?」
「そう、男子が女子から『本命チョコ』を貰った場合、特別に『本命ルール』が適用されるんです」
「本命ルール?」
「本命チョコを受け取った男子には、『恋のキューピット』から『キューピットの矢』を射たれるんです。それを受け止めてやっと、カップル成立が認められるんですよ」
「キューピットの矢って……天使が射るヤツ?」
「ええ。もちろん本物の天使が居るわけじゃなくて、『恋のキューピット』という役割の人が居るんですよ。その人の放った矢を受け止めるのが、『本命ルール』です」
「……まさか、本物の矢を使うとか?」
「いえいえ、『キューピットの矢』が普通の本物の矢なら、お兄ちゃんも死にはしないでしょうね」
そう言いながら、亜美が指を指す。
亜美が指し示した先に視線を向ける。
「えへへー容赦しないよー?」
嬉しそうに笑っていたのは、『天使・殲滅形態』に変身し、『流星ノ弓矢』を携えたモブ子だった。
※
モブ子。
ヒーロー学園において三番目の実力者。
その能力は『変身・天使型』。
純白の天使に変身するという、魔法少女な能力だ。
能力についての説明は割愛するとして、モブ子の持つ弓矢の説明をしておこう。
『流星ノ弓矢』
射程距離:どこまでも届く
速度:マッハは軽く超える
威力:もはや弓じゃない
備考:追尾性能あり
『本命チョコ』を受け取る男子には、命の危険が付きまとう。
それが、ヒーロー学園の『死のバレンタインデー』である。
実は、まだ続きます。
続きの投稿はいつになるか分かりません。
多分、来週ぐらいじゃないでしょうか?
というか、 なんで急にラブコメ始まったん?




