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悪の組織の正義の味方

タイトルコール!

そしてシリアス回!

極めつけは展開マッハ!

さらにお気に入り登録件数が少し減った!ショックだ!

更新しても増えるどころか減るんだ!かなりショックだ!

そのせいで作者のテンションが右肩下がりで今ヤバイ!

だから言わせてくれ!

皆!オラに評価を分けてくれ!1:1で良いから!

 美香を連れ戻した紫たちは、結、爆田、布山、篠川と合流し、悪屋へ戻っていた。

 気絶中の美香を無理やり起こすのは可哀想だと、取り敢えず悪屋の三階。寝室で寝かせておくことに決めたのだった。


 ※


「美香……アタシの可愛い妹」


 眠っている美香の顔を、紫は慈愛の眼差しでそっと撫でる。

 妹がヒーローとなり、家を追い出されてから数ヶ月。

 たった数ヶ月と言い切るには、紫には余りにも永い時間だった。

 それでも、一生会えない可能性も有ったのだ。

 想像しただけでゾッとする。


「本当に……会えてよかった」


 タイツフェチの戦闘員と、カレー好きのドS少女、美香を連れてきてくれた金髪の少女。あの子たちには、どれだけ感謝してもしきれない。


「今更ですけど、私達だけで美香を連れ戻すことは難しかったと思います」


 明たちがファミレスから出た後、あちこちに正義のヒーローを見かけた。

 タケシと美香を探していたのだ。

 ヒーロー学園の生徒が行方不明になる事の重大さを、紫は少し甘く見ていた。

 せいぜいが、警察が動く程度だと思っていたのだ。


「あの時はもうダメかと思いましたよ」


 それでも、無事に悪屋に帰りつけたのは、一重に恵美のお陰だ。

 なんと恵美は、学園の風紀委員を使って、紫たちの逃げ道を確保していたのだ。

 ヒーローにヒーローから守ってもらうというのは、非常に複雑な気分だったが、ありがたかった。

 悪の組織に加担する様なマネをして、大丈夫なのか?と、紫が尋ねたところ、風紀委員の学生(イケメン)は気持ちの良い笑みを浮かべながら言った。


「いざって時は、明に全ての罪を擦り付けても良いと、恵美様からお達しなので大丈夫です」


 それに、恵美様に逆らう方が怖いので。と、遠い目をしながら呟いているのが印象的だった。

 ちなみに、恵美が直々に犯人タケシを捕え、警察に突き出した事で、事件は終わりを迎えた。

 そのタケシは、『明くんに乱暴されて……恥ずかしい写真をばらまかれたくなかったら、言う事を聞けと脅されて……うわーん!』と、悲劇のヒロインを演じる事で、明に泥を被せていた。

 泣きたいのは明の方だという事は、言うまでもない。

 問題は美香の行方だが、タケシは知らないふり。明も知らないふり。

 パッと見、泣きじゃくる金髪美少女なタケシ。

 パッと見、顔面真っ青の男子高校生な明。

 結果、明だけが警察署に留置された。

 その知らせを聞いた明の妹、亜美は、明の事よりも、美香が行方不明と言う事にショックを受けたらしく、明を問い詰めていた。

 警察の前で事情を説明するわけにもいかず、明は終始、泣き続けていたという。

 もちろん紫も葵も、そんなことを知る由も無い。


「なあ。紫、葵」


 声をかけられ、顔を上げる二人。

 ドアの方へ視線を向けると、結が立っていた。


「何よ、結姉さん」


 美香の顔を眺め続けていたい葵は、不満げに尋ねる。

 久しぶりに妹と会えたのだ。

 少しくらいゆっくりしていても良いではないか。

 そんな葵の考えは、次の結のセリフであっさり霧散した。


「父さんから電話が来た。二階に来てくれ」


 ※


 悪屋二階に設置されている固定電話の前に、紫、葵、結は集まっていた。

 電話の保留ボタンのランプが点灯したままだ。葵は迷わず受話器を取った。


「何の用ですか?」


 怒りを込めた声音で、葵は電話に応じる。

 葵にとって……否、美香も含めた皆にとって、全ての元凶はこの男なのだから。


『葵か、久しぶりだね。元気だったかい?』


 葵の激情を知っていてなお、父親は気安く話しかけてくる。

 葵には、それが我慢ならなかった。

 娘を家から追い出しても、娘に家から逃げ出されても、この男は何も感じていないのか、と。


「ええ、元気ですよ。父さんが電話を掛けて来なければ、もっと元気だったかもしれません」


『つれないね。まだ怒っているのかい? 美香の事』


「当たり前です。自分の娘を家から追い出しておいて――」


『でも、連れ戻せたんだろう?』


「……何でもお見通しなんですね」


 何故知ってる。

 葵は、思わず出かかった言葉を飲み込んだ。

 驚く事ではない。相手は裏社会のトップなのだ。その情報網は計り知れない。

 今この瞬間も、父親の手配したスパイが、自分達を見張っていないとも限らないのだ。


『ああ、散歩中に見かけてね』


「……」


 冗談だろうか。

 それとも、本当にこの街に来ているのだろうか。


「それで? 娘と世間話したくて電話したワケじゃないんでしょう?」


『ああ、実は伝えたいことがあってね』


「伝えたい事?」


『美香が危ない』


「ッ!?」


 思わず三階を見上げる。

 葵の動揺を察したのか、父親は落ち着くようにと宥めた。


『昨日、ヒーローの少年……赤松明くんと言ったかな。その子の言ったことが気がかりで、ヒーロー学園生徒抹殺計画について、調べてみたんだ』


「赤松……明……?」


 なぜここで戦闘員の名前が出るのだろうか。

 彼と自分の父親に、何の関係が有るというのだろう。

 次々と疑問が浮かぶが、今はそんな事に思考を裂く暇は無かった。


「美香を連れ戻した以上、抹殺計画と美香には何の関係もありません」


『ところが、関係大ありなんだよ。その抹殺計画の目的は、美香本人だったんだ』


「それは一体、どういう――」


『今から説明する。いいか、決して美香をあの学園に近付けるな』


 有無を言わさない口調でそう言われ、葵はただ頷くしかなかった。


 ※


「まさか……そんな……」


 葵は、思わず呟いていた。

 父親から告げられた真実に、驚きを隠せなかったのだ。

 信じ難い話だったが、それでも、嘘だと断定するには、余りにも信憑性が高かった。


『本当だ。抹殺計画の真の目的は美香の誘拐。生徒の抹殺自体は、デコイでしかない』


「でも……どうして……?どうして美香が狙われるんですか!?」


 葵の問いかけに、父親の返答は曖昧なものだった。


『美香が、裏社会の人間でありながら、ヒーローになったからだ』


「だから!それはどういう――――!?」


 再び問いつめようとする葵だったが、すぐに父親の声に遮られた。


『説明する時間が惜しい。兎に角、美香を連れて指定の場所へ来てくれ。迎えを寄こす』


「何を……言って……?」


『状況が変わったんだ。美香を裏社会から遠ざけても、無意味だとわかった。こうなったら、全力で美香を保護するしかない』


「美香を保護ですって?父さんは、美香がヒーローになったから、家から追い出したのでは――」


『葵。自分の娘がヒーローになった程度で、家から追い出すような親がいると思うかい?』


「え?」


『以前は話す暇もなく、君たちが家出したから言えなかったが、美香を追い出したのには理由があるんだ』


 ※


「うぅ……ん……」


 悪屋三階の寝室。

 美香は暖かい布団の中で、ゆっくりと瞼を開けた。


「ここ……どこぉ?」


 体を起こし、辺りを見回す。

 暗くてよく分からないが、どうやらどこかの家の寝室らしい。

 はっきりとしない意識の中で、美香は冷静に今の状況を把握しようと務めていた。


「わたし……たしか、学校で授業を受けてて、それから……うぅん、おもいだせない」


 ゆっくりと記憶を掘り起こすが、しかし何の情報も得られなかった。

 一体、何が起きたというのだろう? ここはどこだ?

 自分の意思で来たわけでは無い以上、何者かによって連れて来られたことは間違いない。


「でも……窓のカギは開いてるよね」


 仮に自分を誘拐したならば、ロープで縛るなどして拘束。

 そこまでいかなくとも、この建物から出られないようにするのが普通だ。

 だが、この部屋はどう見ても出入り自由だ。

 おまけに自分はふかふか布団でぐっすりお休み。

 いつの間にかパジャマに着替えさせられ。

 エアコンのお蔭で気温は適温。

 どれだけ親切な誘拐犯だ。


「このまま逃げるのも手だけど……」


 美香は、窓から身を乗り出して、下を見る。

 大した高さではない。飛び降りても大丈夫だろう。


「でもその前に……」


 自分を誘拐した相手を、叩きのめしてからでも遅くはないだろう。


「裏社会の王女とすら呼ばれた私を誘拐するなんて、どんな子悪党かしら」


 興味本位で二階への階段をゆっくりと降り始める。

 二階の一室から明かりか漏れていて、人の話し声が聴こえた。

 そっとドアを開け、中の様子を窺う。

 視界に飛び込んで来た光景に、美香は思わず呟いていた。


「おねえ……ちゃん?」


 ※


『……これが事件の真相だ。わかったら、この街から立ち去るよ。いいね?』


「……はい」


 葵は頷いた。

 頷かざるを得なかった。

 もしこれが本当なら、父親の行動に、理解も納得もできたからだ。

 今まで決して疑わなかった真実は偽物だと突き付けられ、足元から瓦解する。

 受話器を置いて、紫と結に向き直ると、葵は口を開いた。


「悪屋幹部、黒内葵は、悪屋首領、黒内結に、現在地、悪屋本部を放棄。この街から撤退する事を提案します」


 口調こそ穏やかだが、葵の瞳には焦りの色が浮かんでおり、葵の発言の理由を尋ねるのは躊躇われた。

 しかし、突然こんなことを言われても納得する事は難しい。

 紫は手を挙げた。


「理由は?」

「おいおい話します」

「美香は?」

「もちろん連れていきます」

「じゃあ、最後に一つだけ」


 紫は、大きく息を吸い込んで、尋ねた。


「ヒーロー学園の生徒はどうなる?」


 ※


「――――見捨てます。どのみち、私達にはどうする事も出来ませんから」


 葵の口から放たれた言葉は、聞き耳を立てていた美香を混乱の渦に突き落とすには十分すぎる内容だった。


(一体……何がどうなってるの?)


 今すぐ部屋へと飛び込んで、再会を祝いたい。姉を抱きしめて、家族のぬくもりを感じたい。そんな衝動をぐっと堪え、事の成り行きを見守る。


「それに、ヒーローが抹殺されたからと言って、私たちに不利益な事はありません。私たちには、関係ない話です」


 そう言いながらも、葵の表情は暗い。

 沈痛な面持ちで俯いたまま、言葉を続ける。


「そう。私たちにも……美香にも関係のない話です」


 美香は、そこから先を聞くのを止めた。

 身を翻して三階へと駆け上がると、ヒーロー学園の制服を掴んで、そのまま窓から飛び出した。

 屋根から屋根へと跳躍し、自分の住んでいるマンションへと向かう。

 春とはいえ、すっかり夜も更けており、少し肌寒い。

 それでも、美香は夜の街へと飛び込んだ。

 家族の温もりから、自分の意志で離れたのだ。


「紫お姉ちゃん」


 姉の名を呼ぶ。

 体が震え、声が揺れる。


「葵お姉ちゃん」


 姉の名を呼ぶ。

 締め付けられたように、息が苦しくなる。


「結お姉ちゃん」


 姉の名を呼ぶ。

 涙が溢れて、視界が滲む。


「お父さん。お母さん」


 両親を呼ぶ。

 堪えきれなくなって、その場に座り込む。


「ヒーローになって。家族と離れ離れになって。独りぼっちになって。辛かった。苦しかった。いっそ死んでしまおうかとも思った」


 それほど大事な存在だから。


「もう一度、皆に会うために、正義のヒーローになる事を決意した。自分の正体がバレたらどうしようって、不安に押しつぶされそうだった」


 自分は悪の組織の人間だから。


「私たちにとってヒーローは敵だから、入学する前は凄く怖かった。地獄のような場所なんじゃないかと、不安で不安で仕方なかった」


 正義の味方になんて、なれるわけないから。


「でも実際は皆、結構普通……とは言えないけど、良い人ばかりで。友だちもできて……」


 初めて出来た友だちで。


「亜美って言う子なんだけど、その子の両親は行方不明で、お兄さんが悪の組織でバイトしてて……おかしいよね。悪の組織の正義の味方なんてさ」


 矛盾している。


「でも、それを聞いて安心できたんだ。私以外にも、そんな人がいるって聞いて。私は……私は!」


 大きく息を吸い込む。


「言われたような気がしたんだ。お前は独りじゃないって!救われた気がしたんだ。一緒にいてくれるって!」


 家族は大事だ。

 何よりも大切で、掛け替えのない存在だ。


「だから、その子に友だちになって欲しかったんだ。一緒にいてほしいって」


 孤独の埋め合わせになってくれって。


「その子は笑ってさ、友だちになってくれて……私の家で一緒に過ごして……それでね」


 楽しかった。


「気づいたら、その子も私にとって掛け替えのない存在になってたんだ。だって、友だちだから」


 無くしたくないから。


「家族を失うのは凄く辛いけど、苦しいけど。友だちを失うのも、凄く嫌だから。悲しいから!」


 失いたくないから。


「私は、ヒーロー学園の皆を守りたいの。歪でも、矛盾でも、そんなのは関係ない。私は戦うよ、悪の組織の正義の味方として」


 悪の組織は私の帰る場所。

 正義の味方は私の居場所。

 どっちも私で、どっちも大切。


「私の『ただいま』は、まだ言うべき時じゃないから」


 ※


 翌日の朝、何事も無かったように美香が学園に登校。

 美香本人が、今回の事件に明が関与している事を否定。

 自分の意志で学園を早退したのだと主張した。

 結果、明は証拠不十分で釈放。

 タケシの証言と食い違っている点を指摘されたものの、全て揉み消された。

 何の事は無い。全て恵美の陰謀だったりする。

たった三日でヒーローに対する好感度上がりすぎだろこの姉妹!

まじでチョロインだよ!

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