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十六正義:無感動の再会

あけましておめでとうございます。

 綺麗に食べ終えたカレーの皿に向かって恵美は合掌。


 ご馳走様。


  心なしか、彼女は満足げな表情を浮かべている様にも見え、明はホッと安堵の吐息を漏らす。

 恵美の機嫌が良いことに越したことはないからだ。


「先程、本題に入ると言っておきながら、こんな事を言うのもなんだけれど。取り敢えず、美香さんを呼びましょうか。話はそれからにしましょう」


「そうですね、美香を紫さんたちに会わせれば、残る問題は抹殺計画のみになりますから。まあ、美香の父親とのいざこざは有りますが、それは後日ゆっくり解決していけば良いでしょうし……ってええええええええええ!?」


「驚く前に一通り言い終えたわね」


 恵美のツッコミはさておき、明は耳を疑った。

 なので、耳を活性化。

 これで完璧に音を拾えるはずだと、明は恵美に向き直る。


「聴力活性!! 安藤先輩、もう一度言ってくれませんか?」


「美香さんを呼びましょうか」


 次に恵美の神経を疑った。

 恵美の額に手を当てて活性化。

 今の恵美は天才物理学者レベルの思考力を持っている事になる。実に面白い。

 先程から恵美が冷たい視線を投げかけてくるが、明は無視する。


「神経活性!! もう一度言ってくれませんか?」


「美香さんを呼びましょうか」


 夢ではないかと疑った。


「安藤先輩! ちょっと俺の頬をつねって……ブフォア!?」


「いい加減にしなさい。殴るわよ」


 殴られてから言われた。すごく痛い。


 ※


「何よ明くん。貴方あなた、この人たちと美香さんを再会させようとか思わないのかしら?」


 そう言って恵美が指差すのは紫と葵、ついでにカジキ。

 美香に会えると聞いた紫と葵は、期待に瞳を輝かせており、懇願するように明を見つめている。

 しかし、明は二人のことなどお構いなしに、話を続ける。


「いや、思いますけど。こういう『生き別れの家族! 感動の再開!』みたいな場面って、もっと……」


「ドラマティック?」


「そう! その通りです! 数多の敵を打ち倒し、幾万の苦難を乗り越え、ボロ雑巾のように打ちひしがれながらも、彼女たちは愛する妹のために戦い続けるのです!」


「バカじゃないの?」


 バカとは何だ。バカとは。こんな感動的なシチュエーションを、あっさりと終わらせてなるものか。

 と、明は思った。

 そんな明の意見に、恵美は頬杖を突いて、しばらく考え込んだ後、一つ質問をした。


「じゃあ、明くんの望む再会の場面って何?」


「……え?」


 言われてみれば、なかなか思いつかない。

 一体、どういう再会をすれば、感動的だと言えるのだろうか?

 首をひねる明を尻目に見ながら。


「思い付かないなら、こっちで勝手にやらせてもらうわよ。葵さん、そこの紙ナプキン取ってくれるかしら?」


 恵美は鞄から油性ペンを取り出し、葵から受け取った紙ナプキンに文字を書いていく。


『タケシくん。今すぐ美香さんを連れてきなさい』


 ※


 五分後。

 流れるような金髪を乱して、ぜえぜえと息を切らしながら、美香を抱えたタケシが、入店してきた。


 タケシがどのように、恵美のメッセージを受け取ったのか。言うまでもなく、タケシが能力『視力サイト』を使って、先程からずっと、明たちを見ていたからだ。

 ちなみに、なぜ携帯電話を使わなかったのかというと。授業中は携帯の使用が禁止されているので、タケシにメッセージを伝える事が出来ない可能性があったためだ。


 恵美のメッセージを見たタケシは、授業中にも関わらず、美香を攫い、追っ手(教師)を振り切ってここまで来たと言うわけだ。

 タケシにそこまでさせる程、恵美の命令の強制力は強い。


 そして、突然クラスメイトに攫われるのだ。

 もちろん、美香は抵抗するので、タケシのとった行動は――。


「まさか……げほっ……クラスメイトを……ごほっ……気絶させて……連れ去る日が来るとは……ヴェッホヴェホッゴホッゴホッ」


 本気で走り回ったために、むせるタケシ。

 おぼつかない足取りで、明たちのテーブルへと近付いて、紫の隣に、そっと美香を下ろした。


「美香!」


 気絶させたとは言ったが、見たところ外傷は無く、眠っているようにも見えて、紫はホッと一安心。

 紫からすれば、少しばかり手荒な真似をされても、美香が無事に戻って来た事が、何よりも嬉しいのだ。

 紫とタケシは初対面なので、何となく互いに気を遣っている様にも見える。

 しかし、やはり葵は黙っていなかった。


「美香に手を出すなってぇ……ワタシ言わなかったっけぇ?」


 そう言ってカジキに手を掛ける葵を見て、タケシはみるみる青ざめる。

 しかし、不敵な笑みを浮かべると――。


「ふ、ふふふ……俺を殺す気か? 俺に手を出したら、恵美ちゃんが黙ってないぜ!」


 自信満々に、そう言い放つタケシに、恵美は――。


「そうね。きっと、思わず葵さんに声援を送るでしょう」


「…………あるぇ?」


 天使のような微笑を浮かべる恵美。

 普段は不機嫌か、無表情であるが故に、その笑顔の破壊力は絶大だ。

 タケシの心のよりどころを粉々に破壊するほどに。


「ワタシの妹に乱暴した罪は重いぞゴラァ!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 カジキの切れ味は、それはそれは鋭かったという。


 ※


「さて、貴女達の妹は連れ戻せたことだし、いよいよ本題に入りましょうか」


「こんな……こんな再会の仕方って……ありえない」


 面倒臭そうに会話を切り出す恵美と、感動の再会が滅茶苦茶にされて、テーブルに突っ伏す明。

 ちなみに、タケシは涙目になりながらも、ちゃっかりパフェを注文していた。

 葵はすっかり落ち着いており、気絶中の美香を大事そうに抱きしめている。

 恵美から見れば、十分に感動的な光景だが、明の気には召さなかったらしい。


「と、言われましても、計画に関する有力な情報を明日までになんて……いくら私達の父親でも、不可能です。時間が足りません」


 葵は申し訳なさそうに目を伏せて、そう呟く。


「行動を起こす前から無理と断言されても、私達が納得するのは難しいわ。ねえ明くん? あなたもそう思うでしょ?」


 同意を求めてくる恵美に、明は一瞬、逡巡した。

 恵美が美香をこの場に招いた(実際には無理矢理連れてきたというのが正しいが)のは、葵と紫に貸しを作るためだろう。

 タケシが行ったように、美香を――このような表現をするのは些か不本意ではあるが――人質として扱うようでは、相手の協力は得られないと考えた。

 だから、恵美は別の方法、つまり恩を売る事で、悪の組織を協力させようと考えていたのだろう。


「……葵さん。出来るだけの事は、してくれませんか?」


 そして、明も恵美の狙いに乗るしかなかった。

 恩着せがましいとは、まさにこういう事を指すに違いない。

 明の胸中は、罪悪感と自己嫌悪で一杯になる。

 だが、今更ここで引き下がる訳にはいかないのだ。


「…………」


 明の頼みに、葵はどう答えようか迷った。

 ここまで来て、未だに協力を渋る理由。それは――。


「アタシたちは、父親の連絡先を知らない」


「……は?」


 紫が放った予想外の発言に、明は目が点になった。


「連絡先を知らない? 父親の? 信じ難いわね」


 疑惑の視線を投げかける恵美に、しかし紫は今の発言を取り消しはしなかった。


「美香が家から追い出されてから、直ぐにアタシたちも家出して、この街に来たから……父親は、既に連絡先を変えてる。その……美香が連絡を取れないように」


 そこまでして、実の娘を家から追い出す理由とは何なのだろうか?

 いくら自分の娘がヒーローになったからと言って、ここまでするものだろうか?

 どうにも引っ掛かりを感じる明だったが、恵美が席を立った事に気付き、思考を中断した。


「安藤先輩? どこへ……?」


「情報が得られないなら、もうこの人達に用は無いわ」


 美香を一瞥すると、恵美はつかつかと出口に向かって歩いて行き――。


「…………」


 出口の手前で暫し立ち止まると、方向転換。

 再び戻ってきたかと思えば。


「明くん、タケシくん。あなた達も来るのよ」


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! ハゲる!」


「美髪が! 俺のゴールデン美髪が!」


 二人の髪をむんずと掴み、引きずるようにしてファミレスを後にした。


 ※


 明とタケシを引きずりながら、恵美は街道を悠然と歩いていた。

 すれ違う人々は皆、一様に振り返り、驚きに目を見開いている。

 とてもシュールな光景だからだ。


「全く。空気を読みなさい、明くん。あれは自らの意思で立ち去るように見せかけてるけど実は妹との再会に気を遣っていたから立ち去ったという高度なテクニックなのよ?」


 そんなこともわからないの? とでも言いたげな表情で、恵美は自分勝手な事を言い始めた。


「『ヒーロー学園生徒抹殺計画』。略して抹殺計画。明くんの妄想じゃない事は分かったけど、それ以外は何も分からないままね。これからどうしましょうか? 何か作戦でも考えなさいよ、明くん」


「作戦って……無茶な」


 もはや手詰まりだ。

 明の思いつく限り、打てる手はもう無いのだから。

 タケシが思いついたように、ポンと手を打つ。


五十嵐いがらし生徒会長かモブ子に、街ごと消し飛ばしてもらうとか?」


「……バカじゃないの?」


 今、一瞬迷いましたよね? なんて野暮なことは聞きませんことよ。

 ちなみに、生徒会長は学園最強のヒーロー。

 モブ子は、学園ナンバー2の実力者のあだ名だ。

 なぜモブ子なのかは知らん。

 と、明は心の中で説明口調に呟いた。

 そしてタケシが冗談混じりに。


「後は……精神操作系の能力者に、町中の人々をマインドコントロールしてもらって――」


「バカ」


 恵美はピシャリと言い放った。

 ちなみに先ほどの案は、推奨しがたいだけで、出来なくはない。


「……あ」


 驚いたような声を上げて、突然、恵美が立ち止まる。

 何事かと恵美を見上げる明に、恵美は苦々しげな表情で――。


「明くんに奢らせるつもりだったのに……」


 紫さん、葵さん。

 本当に、申し訳ない。

 ごちそうさまです。


 明は心の中で、ひとりごちた。

作者の反省

今回、ラストに直行するためにストーリー展開マッハでした。

読者の皆様方も、違和感を感じたのではないでしょうか。

もしそうならコメンナサイ。

作者の力不足ですね。

美香と紫たちの再会とか、もっとやり方があったのでしょうが、こういう形の再会にさせて頂きました。


でも、

「紫お姉ちゃん、葵お姉ちゃん。やっと……やっと会えたね!」

って感じで再会したら、結お姉ちゃんだけ取り残されちゃうよね。

仲間ハズレっていけないと思うんだ。

だから勘弁してください

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