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十四正義:悪の味方とツンデレ先輩

とある方に、『主人公にもうちょっといい待遇を』と言われましたので。

これはもう、主人公をこれ以上いじめてやるのは可哀そうかな?と思いまして、主人公が全身串刺しになるシーンをカットして、主人公が活躍する回になりました。

主人公が痛い目に合うのを楽しみにしている読者の方々には、少々物足りないかもしれませんが、楽しんでいただけると幸いです。

 翌日の朝。

 ヒーロー学園校門付近の物陰に、二つ人影と、一つの魚影があった。紫と葵、そしてカジキだ。

 何故こんな所に彼女たちが居るのかと言うと、もちろん美香の奪還のためである。

 ちなみに、結や爆田たちは、念の為に裏門を見張っている。

 美香を発見次第、連れ去る予定なのだ。


「ねえ、葵姉さん。美香を連れ戻すにしても、作戦とか立てておいた方が良いんじゃないの?」


「何言ってるのよ紫。美香が来たら、そのまま捕獲して逃走する。立派な作戦じゃない」


「『作戦』の定義が広すぎると思うんやけど?」


 紫の提案に、葵が反論し、カジキが突っ込む。

 一見、軽口を叩き合っている二人と一匹だが、その表情は真剣味を帯びており、彼女らの意気込みの強さが窺える。


「げっ」


 しかしその時、後ろから驚きの声が上がる。

 紫が何事かと振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。


「………何してんすか、こんなトコで」


 ひどく気まずそうに、少年ーー赤松明が、問いかけたのだった。


「……」


「……」


 一瞬の静寂が流れる。

 紫は洗練された動作でナイフを取り出し、明に投げつけた。


「迷うことなく!?」


 明は反射的にそれを躱し、咄嗟に叫ぶ。

 一瞬でも反応が遅れれば、死んでいたに違いない。


「アンタは確か……一昨日のヒーロー!何故こんな所に!」


「それはこっちのセリフだし登校しに来たに決まってるだろ!相変わらず物騒過ぎるわ!っていうかホントに何で紫さん達がここに?美香を連れ戻すとかですか?」


 前半は焦った様子で、後半は呆れた様子で、明は紫にそう言った。


「……あれ?どうして私の名前を?それに、美香のことまで?」


 紫は瞳に困惑の色を浮かべ、ナイフを取り出しながら、問いかける。

 もちろん、葵は既にカジキを抜刀して、臨戦態勢に入っていた。

 そんな二人の反応を、明は苦笑しながら眺めるのみで、戦う意思は感じられない。


「勘弁してくれよ。アンタらの『ヒーローは見つけ次第殺す』って風潮、俺はあまり好きじゃないな。平和を愛する日本人の精神を守ろうぜ?ここは一つ、穏便にだな……」


「いいから話せ。なぜアタシ達の名前を知ってる?」


 答えなきゃ殺す。

 と、言われているような気がして、明は「どうしたものか」と頭を悩ませる。


 実は昨晩、明は帰宅の後、タケシを家に招き、情報の擦り合わせを行っていた。

 紫たちの目的も、美香の事情も、明はタケシから聞いていた。

 故に、「彼女たちに協力したい」という想いを、少なからず抱いていた。

 しかし、それと同時に、どのようにして、その意思を伝えようか、という事が明を悩ませていた。

 取り敢えず、自分の正体が『戦闘員A』だと説明しようと、明が口を開いた瞬間――


「貴方達、何をしているのかしら?」


 明の後方から、そんなセリフが聞こえ、明は凍りついた。

 恐る恐る振り返ってみれば、そこに立っていたのは一人の少女。

 制服を着ている事から、ヒーロー学園の生徒だとわかり、紫たちはより一層、警戒を強める。

 しかし、明のとった行動を見て、呆然とすることになる。


「あ……お、おはようございます。安藤先輩」


 明はその少女の姿を見るや否や、ぎこちない笑みを浮かべながら、その場に膝をついて、土下座。

 そう、土下座したのだ。

 DO☆GE☆ZAしたのだ。


 突然の明の奇行に驚く紫たち。

 しかし少女は、明を一瞥するのみで、直ぐに紫に向き直る。


「ナイフなんか振り回して、物騒じゃないの。学園の風紀委員長としては、見過ごすわけにはいかないわ。直ちに武器を捨て……なさい?」


 この少女こそ、ヒーロー学園の三年生にして、風紀委員長。安藤恵美あんどうめぐみである。

 ちなみに、最後が疑問形なのは、葵が持つカジキを見たからだ。


「魚介類は…まあ、武器じゃないから、よしとするわ」


「やべぇ、すごく突っ込みたい」


 妥協したように頷く恵美に、土下座したまま歯噛みする明。

 しかし、紫がナイフを捨てる訳もなく、敵対心は露わにしたままだ。

 そんな紫の態度に、恵美は嘆息して、右手を紫に向ける。

 恵美の周囲に、複数のサッカーボールほどの大きさの白いキューブが出現し、主の命令を待つかのようにその場で回転しながら、浮遊したまま動かない。

 このキューブこそ、恵美の能力だ。


「そう、抵抗しないなら見逃そうと思っていなかったけど、仕方ないわね。なら、実力行使で……」


「ちょ、待って下さい安藤先輩!!」


 明が慌てたように、土下座の状態から素早く跳躍。地面から跳ねるように飛び上がると、恵美と紫の間に割り込む。


「この人たちは俺のバイト先の人たちで……ゴフゥ!?」


 明が割り込んだことを確認した恵美は、キューブを射出し、それを使って明を殴り飛ばした。

 明の体は宙を舞い――そのまま地面に墜落して、動かなくなった。

 もちろん、恵美は明の事なんて、意にも介さない。


「バイト先……ああ、そう言えばタケシ君が『明が悪の組織でバイトを始めた』という旨を私に伝えていたような覚えがあるわ。つまり、貴方たちは悪の組織の人間という事ね?」


 恵美の問いかけに、紫は答えない。

 否、答える余裕が無かったのだ。

 先ほどの明のセリフ、『バイト先』という言葉に、紫は察したのだ。

 明が、『戦闘員A』の正体だという事に。


「まさかアンタが……戦闘員A……なの?」


 震える声で明にそう問いかける。

 しかし、明は気絶しているのか、ピクリとも動かない。

 代わりに、恵美が答えた。


「その『戦闘員A』というのが、貴方たちの組織にバイトに来た男を指すなら、それで間違いないと思うわ。それより、本題に入りましょうか」


 恵美は明の頭を爪先で軽く小突いて、安否を確認しながらそう言った。

 大事は無さそうだと、恵美は軽く舌打ち。紫に向き直る。


「貴方たちがここで何をしていようと、何をするつもりでいようと、私はここに転がっているゴミ……明くんほどにも興味が無いのだけれど。それでもこの学園で……つまりこの学園周辺で、貴方たちに好き勝手されると、ヒーローが……ひいては私が舐められている気がしてイラつくの。だから言わせて貰うのだけれど、もしここで何らかの問題を起こす……平たく言えば暴れるようなら、私は貴方たちを処分する事を厭わないわ。だから、十秒以内に私の視界から消えなさい。十秒経過してもこの場にいるようなら、敵対の意思があると見て、攻撃行動を取らせて貰うわ」


 そう言って、恵美は腕時計に視線を落とすと、無情にもカウントダウンを始めた。


 きゅう……はち……


 完全に、この場は恵美のペースに支配されていた。

 無機質な目でじっと見つめてくる恵美に、葵は返答する。


「私たちは、妹を連れ戻しに来ただけで――」


「誰が口答えしてもいいと言ったのかしら?私が折角、『後輩のバイト先の知り合い』なんていう、他人同然な相手に厚意を…言い換えれば、慈悲を恵んであげているのだから、それを甘んじて受け取るのが、貴方たちの取るべき選択ではないのかしら?」


 キューブに腰かけながら、恵美は小首を傾げる。

 そして、再び腕時計に視線を戻すと、さも残念そうに、抑揚の無い声で呟いた。


「あら、十秒経ってしまったわ。先ほどの言葉通り、攻撃行動に移らせてもらうから、覚悟しなさい」


 恵美が指を鳴らすと、周囲に浮かんでいたキューブが、ピタリと動きを止めたかと思うと、『ランス』へと形を変える。

 そして、一斉に紫達に向かって、射出された。


「くっ!」


 猫のように俊敏な動きで、槍の雨を紙一重で躱す紫と、カジキを盾代わりにして身を守る葵。

 一見、恵美の攻撃を凌げているようにも見えるが、これは恵美が手加減しているからであって、彼女が本気になれば、紫たちは一瞬で串刺しになっている事だろう。


「最終通告。今なら逃げても追いかけないわよ?」


 そう言いながらも、新たに槍を生み出しながら射出し続ける恵美。

 これが、彼女なりの優しさだという事は、ヒーロー学園の生徒では無い紫たちには分からない。


「ふざけるな!誰が逃げるか!」


 気丈に振る舞う紫だが、その瞳には焦りと不安が見える。明や卓郎と、僅かながらも交戦経験のある彼女だが、戦闘系の能力者との戦いはこれが初めてなのだ。

 もちろん、戦闘系の能力者は、一人や二人でどうにかなる相手でもない事は、紫にもよく分かっている事だった。

 それでも、『美香に会いたい』という気持ちが、紫に勇気を与えていた。

 この時、紫は知る由もないが、恵美はヒーロー学園三番目の実力者であり、ちょっとした軍隊に匹敵する程の戦闘力の持ち主だったりする。

 そんな彼女だからこそ、能力を使うときにはいつも慎重になり、『一般人には決して能力を使わない』と、固く決心しているのだ。


「でも、悪の組織は別なのよね。本当に、残念だわ」


 恵美は悲しげにそう呟くと、右手を上げながら紫たちの全方位に槍を生成。

 紫たちの周りは、槍で埋め尽くされ、逃げ場は無くなる。


「さよなら」


 そして腕を振り下ろすと、紫たちに向かって槍が撃ち出された。


 もうだめだ。

 紫たちはそう確信して、強く目を瞑り、死が訪れるのを待った。


「待てって言ってんだろうがぁぁぁぁぁぁ!?」


 そんな叫びが聞こえた。

 槍が飛んで来ていない事に気付いた紫は、恐る恐る、瞳を開く。


 紫の眼前に一人の少年が立っていた。

 明だ。


「安藤先輩!悪ふざけもいい加減にして下さい!無駄に能力使わせないでください!自分の身体能力を大幅に活性化するのって、すっっっごくエネルギーを消耗するんですからね!?というか、どうせ『明くんが止めに入らなくても、寸止めするつもりだったわよ』とか、『あら、明くん。居たの?』とか、『死ねばいいのに』とか言うつもりでしょ!?そういうの本気で傷つくから止めてください!!」


 苛立たしげに地面を蹴り付ける明。

 周囲には数十本の槍が無造作に散らばっており、それぞれが半ばからへし折られた様に、無残な姿となっていた。


「何を言っているの?私がそんな、他人を貶めるような事を言うような女の子に見えるの?酷いわ明くん。信じてたのに」


 ヨヨヨ…と、泣き崩れる(フリをする)恵美。泣きまねをしながら、嫌がらせに明の死角から六本の槍を射出。

 しかし、明の体を刺し貫く寸前、槍は爆発したように弾け、へし折れ、地面に転がった。

 実際には、明がそれを素早く察知して、手刀で弾き飛ばしただけなのだが、少なくとも、紫にはそう見えた。


「アンタの信じてるって何だよ!?嫌がらせで殺そうとするんじゃねえよ!?」


「あー、聞こえない聞こえない。何にも聞こえないわ」


 両手で耳を塞いで、聞こえないフリをする恵美。

 明の心からの叫びは、恵美の心には届く事は無かった。

キャラ紹介なう(これらの設定は、本編に殆ど関係ありません)


安藤恵美あんどうめぐみ

年齢:十八歳

誕生日:四月一日

好きな物:甘口のカレー・おしゃれ・女子

嫌いな物:男子(スカートめくりが原因)

性格:甘口とは言い難い


ヒーロー学園の三年生。

風紀委員長という立場ゆえか、校則違反者には容赦がない。(明の悪の組織でのバイトは校則違反では無かったため、特に言及はしていない)

男子生徒に対しては厳しく接しがち。

その反面、女子には優しく、女子生徒からの人気は高い。


能力『物質』(ここから先の設定は適当に考えたものです)

自らの周囲に『物質』を生成、操作する能力。

作り出す物質の性質は、恵美の思い通りに変える事が可能。(硬度・可燃性・磁性・比重・電気伝導率・透明度…etc)

ただし、反物質を作り出すことは不可能だったりする。


※今回の恵美はメラゾーマではない…メラだ。

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