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十三悪:修羅場とカジキとマゾヒスト

(随分と仲良さそうにしてるな、あの二人…)


美香と亜美の様子は俺に筒抜けになっていた。

会話自体は聞こえないが、別に盗み聞きをする必要は無い。

さて、意識を葵さんとの会話に戻そう。

葵から聞いた事実に対して俺は、事態の複雑さに瞑目する。


「という事は、葵さん達は行方不明の妹を探すために、この街に来た…と?」


「はい、概ね間違いありません。能力に目覚めたあの子がこの街に来るという事は、飽くまでも推測の域を出ませんでしたが…」


そこまで言って、葵は目を伏せる。

葵の言う推測とは恐らく、美香がヒーロー学園の生徒となる事だろう。


(そりゃ、自分の妹が、自ら進んで敵になる道を選んだわけだからな…)


事前に予想していたこととはいえ、葵には辛い事実だろう。

自分の妹が正義のヒーローになるなんて…


(あれ?なんで正義のヒーローになることが悪いみたいになってるんだ?)


心の中で思わず首を傾げるが、今は置いておこう。


「やはり、美香さんがヒーロー学園の生徒になったのは…家から追い出された事を恨んでいるからでしょうか?」


美香が誰かに復讐心を抱いているようには見えないが、単に隠しているだけかもしれない。

第一、ヒーロー学園に入る理由なんて、ヒーローになるため以外には考えられないだろう。

しかし、葵は首を横に振った。


「それは無いと思います。あの子は優しい子だから、きっと何か理由があって学園に入ったのでしょう」


葵はきっぱりと言い切った。


「…断言できる理由は?」

「家族だからです」


即答された。

どうやらこの姉妹の家族間の信頼関係というのは俺の予想を遥かに超えているらしい。


「なあ、下の連中も呼んで今すぐ探しに行かへんか?」


カジキの言葉に葵も頷く。


「そうですね、急ぎましょう。でも、その前に…」


その瞬間、葵はカジキを抜刀して俺に突きつけた。

カジキの、剣の様に鋭く尖ったふんが、俺の首元を貫かんとばかりに鈍く光る。


「…あ、葵さん?」


冷や汗を垂らしながら、葵にこの行動の真意を尋ねようとするが、葵は警戒心を浮かべた表情で、こう言うのだった。


「私は妹の名前が『美香』だなんて、一言も言っていませんよ?」



やっとのことで壁から脱出を果たした明は憤慨していた。


「いやー、おかげで助かりましたよ。全く、あのカジキは何様ですか?突然人を壁にめり込ませるなんて、鬼畜の所業ですよ!」


「カジキは葵のお気に入りの武器だ。まあ、アイツに関しては美鈴みすずの方が詳しいんじゃないか?あいつを怪人に改造したのは美鈴だしな」


「…ん」


爆田が篠川に話題を振るが、篠川は頷くばかりで何も話さない。

篠川がカジキをカジキに改造したというのは驚きの事実だが、今更この組織の変人ぶりに突っ込むのは止めておこうと、明は本題に入ろうとする。


「…まあ、カジキに関してはもういいですよ。挨拶をしなかった僕も悪かったですし。ところで…」


そう言って、明は全身タイツの上から鎖で亀甲縛り・・・・に天井から吊るされたまま、自分に銃口を向ける・・・・・・爆田たちに言った。


「せめて、もう少しマシな縛り方にしてくれませんかねぇ!?」


取り敢えず、そこに突っ込む明であった。


「やれやれ、口ではそんな事を言っても、本当は興奮しているんだろう?体は正直だぞ?」


「してねえよ!?銃口向けられて興奮するとか、どんな変態だよ!?」


嘲笑気味に肩をすくめる爆田に、明は咄嗟に突っ込む。


「分かった分かった。要求にお答えして、別の縛り方にしてやる」


ニヤリと口角を歪め、爆田が懐からベルト状に括りつけられたダイナマイトを取り出し、明の体に巻き付けていく。

明はあっという間にダイナマイト簀巻きになった。


「なんで悪化した!?」


「ククク…人間爆弾を作ることが俺の小さい頃からの夢だったんだ!」


「物騒な夢持つんじゃねえよ!」


必死にツッコミを入れても爆田は知らん顔で、布山は壊れかけの壁にベニヤ板を打ち付けている。篠川に至っては今か今かとワクワクした表情で銃を握っていた。

天井からブラブラと揺れ動きながら、明は今の状況をなんとかしようと考えを巡らす。


「爆田さん!確かに僕はヒーローではありますが、あなた方に危害を加えるつもりは無いんです!」


爆田はフンッ鼻を鳴らし明に歩み寄って、耳元で囁く。


「ならば何故この組織に入ったぁ?言ってみろ、全身タイツを舐め回したくてこの組織に入りました…とな」


「どんな理由だよ!?そこまで言った覚え無いぞ!?」


先程までの丁寧な口調もすっかり忘れて、明は面接の時の自分を思い切り殴りたい衝動に駆られる。

そして、その怒りの矛先は最終的にはカジキに向けられる。

そもそも、こんな事になったのも、カジキが明を壁にめり込ませたことが原因なのだ。


「まさか、体の頑丈さでヒーローだとバレるとは…」


「普通の人間ならコンクリートに頭をめり込ませて無事なワケが無いだろう?一般人のフリをするなら徹底的にやる事だな」


髪を掻き揚げながら、爆田はニヤリと笑みを浮かべる。


「私が言うまで気がつかなかったクセに、爆田偉そう」


篠川が頬を膨らませながらそう言うが、爆田はサッと視線を逸らして無視する。

この状況を改善する方法が思いつかず、明は嘆息する。


「爆田さん、取引…しませんか?」


もちろん作戦など無く、ダメ元での提案である。


「取引だと?面白い事を言うな。取引とは対等な関係にあって始めて成立するものだ。だが気になるから言ってみろ」


「ああどうも…『ヒーロー学園生徒抹殺計画』に関する情報をくれませんかね?」


もちろん直球である。


「…ほう?なるほど、そういう事か」


爆田は興味深そうに頷くと、


「面白い事になりそうだ。良いだろう、教えてやる。その計画の真実をなぁ!」



「姉さん!どうしてあんな依頼を受けたんだ!?」


「仕方がないだろう!親の権威に頼らない以上、客を選べるほど、私たちは偉くないんだ!」



「…回想終わり」と、篠川が言う。


「短いよ!?そして計画に関する説明が全くなかったよ!」


「俺も詳しくは知らん。葵にでも聞いたらどうだ?何か知ってるんじゃないか?」


「結局、知らねえのかよ!」


危機的状況にあるというのに、明からは全く緊張感は感じない。

明のそんな態度に、爆田はやや不満そうな表情を浮かべ、少し威嚇しようと、こう言うのだった。


「では、情報を与えた代わりに、貴様から頂こうか…」


そう言って明に人差し指を突きつけると、


「…お前の命を」


明がゴクリと喉を鳴らしたその時、天井が轟音と共に砕け散り、上からタケシが飛び降りてきた。そして、明の方へと向き直り、泣きそうな顔で叫ぶのだった。


「助けて!殺される!」

「それは俺のセリフだ!」

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