十悪:考える全身タイツ
ちょっと描写に力を入れた。全然上手くいかなくて凹んだ。
だから愚痴ってみた。あとで愚痴った事を後悔して余計凹んだ。
「あのカジキ野郎!絶対に許さねえ!」
明は憤慨しながらも、必死に壁から抜け出ようと体をうごめかしていていた。黒いマスクに覆われた顏からは、表情を読み取ることは出来ない。だが、今の明が怒りに燃えていることは、誰が見ても一目瞭然だ。ただでさえ、寝不足で苛立っていたというのに、突然の理不尽な仕打ちである。これで怒るなと言う方が無理な話なのだが…
「あれ?でも待てよ…?」
一つ疑問が浮かび上がり、明の怒りはあっさりと霧散する。そのまま思考に没頭し、壁から抜け出ようと体を動かす事すら止めた。
「あのカジキが七人目…つまり、最後の悪の組織のメンバーだってんなら、美香の立ち位置はどうなってやがる?」
面接の時に葵が言っていた台詞。この組織の社員は七名だけだと言っていた筈だ。
明は、美香もこの組織の社員だと思い込んでいた、いや、今もそう思い込んでいる。情報を売買する組織なのだから、諜報員となる人物が居てもおかしくないだろう…と。
「美香はバイトなのか?それなら納得するが、でも…」
悪屋のメンバーが美香の存在を秘匿しているならば、それで説明は付く。社員は七名だけだと嘯き、秘密裏に情報を貰うつもりなのかもしれない。しかし今の所、美香が情報を流す素振りは見せていない筈だ。タケシが監視している以上、秘密もプライベートも何もあったものではない。
「タケシが完全にストーカーと化している気が…」
少なくとも、卓郎の能力については知っている筈だ。体育の授業中にあれだけ見せびらかしていたのだから。ヒーロー学園は一見、普通の学校に見えるが、警備は厳重、情報のセキュリティも尋常ではない。故に、悪の組織が生徒の能力について知っている事は殆ど無いと言ってもいいだろう。計画を進める中で、学園の生徒の能力に関する情報は、喉から手が出るほどに欲しいに違いない。わざわざスパイとして学園に入学したのだ。そんな大事な情報を、少ないながらも手に入れていながら、何も知らせていないというのは違和感を感じる。
何か見落としている気がするのだが、明にはそれが何なのか解らない。更に思考を掘り下げようとしたその時、
「…あれ?」
両足に違和感を感じる。足首を誰かに掴まれているらしく、壁の向こう側からこんな会話が聞こえてきた。
『よし!では三つ数えて、せーの!で引っ張るぞ?いいな?三つ数えて思いっきり引っ張れよ?こいつの体を真っ二つに引きちぎる勢いでな!』
『『あ~いあ~いさ~』』
妙に間延びした、やる気の無さそうな掛け声と共に、明の足を握る力が強くなる。
「え?ちょっと?」
この時、明は知る由もないが、カジキの攻撃を食らって吹っ飛んだ時に、明の体はそれはもう見事に壁に突き刺さり。簡単に抜けなくなっていた。言い方は変だが、壁にしっかりフィットしているのだ。そんな状態で、無理に引き抜こうとすればどうなるか…
『さぁーん!にぃーい!…いーちっ!』
「ちょ…待って…」
明の懇願じみた声も、相手に届く事は無く、無慈悲にも死刑宣告の号令がかかる。
『せーのっ!』
明は静かに目を閉じて、生まれ変わったら鳥になりたいな…と願った。
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二階の事務室で、タケシと葵はソファーに向かい合うようにして座っていた。
紫と結は三階に運ばれたらしく、部屋にいるのはタケシと葵だけだ。
机の上にはトレイに乗せられたティーカップが三つ――おそらく明の分も含まれているのだろう――が重ねるように置かれており、その隣ではティーポットが自分の存在を主張するかのように注ぎ口から白い湯気を立ち昇らせていた。
「じゃあ、早速この戦闘スーツを着てもらいましょう」
そう言って葵が取り出したのは全身タイツ。
上から下まで黒で染め上げられた、戦闘員が着ることを義務付けられた装備である。
マスクにはどういう訳か、額の位置に赤色で大きく『B』と書かれており、これが『戦闘員B』の装備であると無言で主張していた。よくよく見れば赤いラインが走っており、明の着ているモノとはデザインが少し違う事に気付く。だが相変わらずダサい。
「布山さん作、『戦闘員専用防護服一式改』。略して戦闘スーツです」
『改』が付いても結局、略称は変わらないのだな。と、心の中で力無く呟く。
「葵さん、その前に質問していいですか?」
「え?ええ、いいですよ」
全身タイツを着たくない思いから出た咄嗟の話題転換…ではない。タケシも明と同様に、美香が悪の組織のメンバーでない事に違和感を感じていた。
(全く話が見えねえな…美香の立ち位置だけでも明確にしておきたい)
諜報員の存在を尋ねようかとする。だが、遠回しな質問をして見当違いの答えが返ってくる事は避けたかった。再度、自分の欲しい情報を得るのに適した質問を考え、
「葵さん達って、三姉妹ではなく、四姉妹だったりします?」
その質問をした瞬間、葵の表情が凍りついたのを見て、これは失敗したな、と内心で呟いた。
ここらで美香の過去を入れるか入れまいか…よし、阿弥陀クジで決めよう!




