十一正義:でえとの待ち合わせ
学校が終わり、放課後。
時間は午後四時半になっており、そろそろ悪屋に向かわないと間に合わない。
ところが
俺は街の時計台の下で待ち合わせをしていた。
周囲には同じく誰かを待っているらしい男衆。
この場所はデートの待ち合せ場所として人気があるようだ。
「まあ、俺には関係ないけどさ…」
どうせ自分に彼女なんてできるわけが無いと、少しばかりの諦めと哀愁の混じった溜息を吐き、相手を待つ。
俺のしている事は、デートの待ち合わせなどという華やかなものではない。
相手が自分の事を想っているわけが無いし、自分が相手の事を想うわけもない。
そんなことは万に一つもありえない。
それに、今回は情報収集のための作戦。
相手を利用して情報を得ようとする自分の浅ましさに僅かながら自己嫌悪するが、これもヒーロー学園生徒を守るためだと割り切ることにする。
それでもまさか、相手が自分の誘いに乗ってくるとは思わなかった。
わざわざ危険を犯してまで自分の誘いに乗るほど、相手の警戒心は薄れているのだろうか?
それとも、もともと相手は警戒すらしていない、楽天家なのだろうか?
もしくは、どんな事があろうと、自分ならばどうにでも出来るという自信の現れなのだろうか?
その時ふと、昼休みの時の美香との握手の事を思い出す。
少し強く握れば折れてしまいそうなほど華奢な腕
しかし、そこから弱々しさは全く感じなかった
柔らかい肌から伝わってきた不思議な温もりに
明はどういう感想を抱けば良いのか解らない。
ただ一つ、言えるとするならば
女の子らしい手だった。
何かを確かめるように、静かに手の平を見る。
未だにその感触は手のひらに残っていた。
『仲直りの握手。いえ、仲良しの握手ね』
そう言った時の美香の笑顔、どうしてもその笑顔を忘れることができなかった。
純粋な微笑み
あの子がどんな気持ちで、あの様な笑顔を浮かべたのか明は知らない。
しかし、それが俺を迷わせた。
自分はあの子を疑うべきなのか?と
俺にはどうしても、美香が何かを企んでいるとは思えなかった。
あの子を信じたいと言う気持ちが心の奥底で芽生えてしまったのだ。
自分はあの子を…
「お待たせー!」
その瞬間、思考が現実に引き戻され、反射的に声のした方向を見る。
街を歩いていた人々はその美貌に見とれ、思わずその人物の後ろ姿を視線で追っている。
待ち合わせに遅れたことで、少し急いでいるらしく、珍しく小走りでこちらへ駆け寄ってきた。
制服姿でも充分感じられた女の子らしさは、私服姿になる事でより一層、磨きがかけられており、百人の男に聞いてみても、全員が「可愛い」と答えるだろう。
だが、俺にとっては相手の容姿なんてどうでも良かった。
「…よく来る気になったな、危険かもしれないのに」
そう尋ねると、相手はクスッと笑い、笑顔でこう告げた。
「大丈夫だよ、危険なんてこの先幾らでも覚悟しているから」
それよりも、と付け加えて、相手は俺に尋ねる
「悪屋の人って美人?レオタードとか着用してる?」
タケシは相変わらずだった。
・
・
・
なぜ俺がタケシと待ち合わせをしていたのか?説明すれば長くなる。
具体的に十八文字くらいになる。
タケシも悪屋でバイトする事になった。
美香の監視はどうしたのかというと、それも全く問題は無い。
では、ここでついにタケシの能力について説明しよう。
部分強化系能力、『視力』
名前からある程度察せるだろうが、この能力は単に目が良くなるだけでは無い。
自分の半径十キロメートル以内の、「密封されていない空間」であれば、どこでも見渡せる能力だ。
夜目も利く上、静止視力・動体視力・深視力・瞬間視力も強化される。
動体視力で撃ち出された弾丸の動きを見ることも可能だし、
瞬間視力で一度見た風景は完全に記憶できる。
つまり、とにかくスゴイという事だ。
これによって、タケシには美香の監視を頼むことにした。
では、なぜタケシもバイトをするのかというと、その能力で抹殺計画に関する情報を、効率よく探すためだ。
大量の書類から、抹殺計画に関することを探し出すのにタケシの能力はうってつけだ。
美香の監視を行いながら、情報収集も行う。
タケシには苦労を掛けてばかりだ。
困ったときには直ぐに他人の力を借りようなどと、全く持って自分の浅ましい根性に自己嫌悪する。
「ホントにいいのか?お前まで悪の組織に加担したと知られれば、タダじゃ済まないぞ?」
「おいおい、俺を脅す気か?パンチラでもしろってか?」
タケシはスカートの端をつまみながら、おどけてみせる。
「お前のパンチラとか誰得だよ?」
・
・
・
…などと言っているうちに、悪屋に着いた。
ちなみに、今の俺は全身タイツにマスクを被った戦闘員の服装になっている。
「ところで、美香は今どうしてる?」
「学校の近くのマンションにいる。どうやら、そこに住んでるみたいだな。今の所、誰かと連絡している様子は無い」
「そうか、分かった」
悪屋では、美香と悪屋の人たちの関係性を確認して、抹殺計画の情報を集めて、ついでにその証拠も手に入れないと…
「やること多いな…面倒くさい」
「しっかりしろ、さっさと行くぞ」
そう言ってタケシは悪屋へと続く階段を上っていった。
叙述トリック…ってのをやってみたかっただけ。




